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労働時間管理の是正

2018-01-15 | 日記

労働時間管理の是正

必要のない残業をさせずに退勤させる

 残業の必要性をよく調べてみたところ,従来の残業時間ほど残業させる必要性はないことが判明することは珍しくありません。残業の必要性をよく調査し,残業させる必要性が低いことが判明したら,残業させずに退勤させるようにして下さい。
 残業させる必要性が低い場合は,早く帰るよう声がけするだけでなく,「現実に」退勤させることがポイントです。必要のない残業をさせることが問題となる事例の多くは,「早く帰れよ。」などと声がけするだけで,現実には早く帰らないのを放置している事例です。
 「早く帰れよ。」と声がけすることは抵抗なくできても,残業している社員を現実に帰すよう説得することは,気まずいせいか,なかなかできない上司が多いというのが実情のようです。しかし,必要のない残業をさせずに退勤させることも上司の仕事の一部です。現実に残業をやめさせて退勤させようとしたら,部下の反発を買うのではないか,気まずくて言い出せない,どうしても気が乗らない,などとと感じる気持ちは分かりますが,そういった心理的抵抗を乗り越えられるよう努力して下さい。

「早く帰るように言っているのに,なかなか帰ってもらえない。」という悩みにはどう対処すべきか

  「早く帰るように言っているのに,なかなか帰ってもらえない。」といった相談を受けることが多いですが,この言い回しは,誤解に基づいた日本語表現です。なぜなら,残業させずに退勤させるか,残業させるのかを決めるのは雇用主であって,働いている社員ではないからです。この言葉は,「社員には残業せずに早く帰って欲しいのだが,どうすれば早く帰ってもらえるのか,自分には対処法が分からない。」といった程度の意味しか持ち得ません。
 社員に残業せずに早く帰って欲しいのであれば,自分がどのように行動すれば,部下が残業せずに早く退勤してくれるのかよく考え,行動に移しましょう。部下に残業させずに退勤させるかどうかを決めるのは上司の仕事であって,部下が残業するかどうかを決めるのではないのです。

「定額残業代(固定残業代)を導入すれば,残業代を稼ぐために残業する社員が減るから,無駄な残業を抑制することができる。」という考えの問題点

 「定額残業代(固定残業代)を導入すれば,残業代を稼ぐために残業する社員が減るから,無駄な残業を抑制することができる。」と考える会社経営者は珍しくありません,この考えの根底には,残業するかどうかを決めるのは社員であるとの誤解や,社員が無駄な残業をするのは残業代目当てという発想があります。
 残業させるかどうかを決めるのは雇い主の仕事であって,残業している社員が決めることではないのですから,社員が残業した場合に残業代を稼げることは,雇い主が社員に残業させた結果に過ぎず,社員が選択して獲得した結果ではありません。社員に対し一定の時間断りなく残業する裁量を与えることはあり得ますが,残業の裁量を与えたこと自体が雇用主の判断ですし,雇用主に労働時間を把握する義務があることに変わりありません。
 また,労基法37条が時間外労働等した場合に使用者に割増賃金(残業代)の支払を義務付けている趣旨は,使用者に割増賃金(残業代)を支払わせることによって,①時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,②労働者への補償を行おうとする趣旨によるものです(医療法人社団康心会事件最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決)。「残業すれば残業代がもらえるから無駄な残業が増えるのだ。残業してもしなくてももらえる残業代が変わらなければ,無駄な残業を抑制することができる。」という発想は,最高裁判決が判示している労基法37条の趣旨に反する発想と言わざるを得ません。この発想が成り立つのは,労働時間管理が適切になされておらず,残業する社員が残業するかどうかを決めている実態の会社くらいなのではないかと思います。
 雇い主に残業させるかどうかを決める権限があるのであって,労働者に残業するかどうかを決める権限があるわけではないのですから,本来であれば,「定額残業代(固定残業代)を導入すれば,残業代を稼ぐために残業する社員が減るから,無駄な残業を抑制することができる。」といった結果にはならないはずです。
 労働時間管理が適切になされておらず,残業する社員が残業するかどうかを決めている実態の会社では,定額残業代(固定残業代)を導入することにより結果として残業が減ることもあります。しかし,残業するかどうかを個々の社員に決めさせている実態こそが長時間労働の温床となりやすいですので,残業時間に一定の上限を設け,(個々の社員ではなく)雇用主の責任で現実に遵守させる等の配慮が必要となります。
 
 【医療法人社団康心会事件最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決】
 「労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される」

必要のない残業をしていないかを確認する

  残業する必要性が低いのに,ダラダラと労働密度の低い残業らしきものをした社員から,タイムカードや日報等に基づいた労働時間を前提とした残業代請求を受けて多額の残業代の支払を余儀なくされることがあります。
 このような事案の多くは,タイムカード,ICカード,日報等をその都度確認すれば,必要性の低い残業をしていることが容易に分かるにもかかわらず,十分な確認や対応をせずに残業を放置していた事案です。
 タイムカード,ICカード,日報等を基礎として労働時間を把握し,残業する必要がないと思われるのに残業していることがタイムカード等から読み取れる場合は,残業が必要な理由の説明を求めた上で,説明内容を考慮して残業させるのか残業させないのかを判断して下さい。

仕事をしていない在社時間を抑制する

 在社時間と労働時間は異なる概念であり,在社していたからといってそれが直ちに労働時間と評価されるものではありません。しかし,労働者が社内の仕事をするスペースにいる場合,仕事をしている可能性が高いと事実上推定されることがあります。仕事をしていることが事実上推定されてしまうと,使用者側が有効な反証ができない限り,在社時間が労働時間と評価されてしまいます。仕事をしていない在社時間は,極力抑制するようにすべきでしょう。
 では,具体的にどのように対処すればいいのでしょうか。基本的には,始業時刻前・終業時刻後は,その時間に仕事をする必要がある場合を除き,社内の仕事をするスペースにいることを禁止することで対処します。もちろん,単に仕事をしていない時間の在社を禁止する旨伝えるだけでは足りません。仕事をする必要がないのに在社している社員に対しては,必要以上に早く出社することを禁止したり,就業時刻後はオフィスを出るよう指導して,現実にオフィス内にいないようにしていくことになります。

電車の本数が少ないため早く会社に着いてしまう社員や私用の待ち合わせ時間まで社内に残っていたい社員の対応

 地域によっては,電車の本数が少なく,1本電車を遅らせると遅刻してしまうので,どうしても早く会社についてしまうといった事案が存在します。また,友人らとの約束の時間まで,社内に残ってから待ち合わせ場所に出向きたいと要望があることもあります。その場合は,どのように対処すればいいのでしょうか?
 最も望ましい対応は,それでもやはり,仕事をしていない在社を認めないことです。職場は仕事をする場所です。仕事をする必要がない在社を認めるべきではないというのが,基本的な考え方であることは間違いありません。仕事をするスペースにいることを認めると,仕事をしていたと後から言われるリスクが生じることは,どうしても避けられません。
 タイムカードの打刻を始業時刻の直前にさせたり,タイムカードを打刻させてから私用での在社を認めるような場合は,ある程度はリスクが軽減されますが,それでも万全とはいえません。労働審判,団体交渉,労働訴訟等において,「タイムカードを打刻する前にも仕事をさせられていた。」「上司の指示で,タイムカードを打刻させられ,その後サービス残業させられた。」といった主張がなされることは,よくあることです。
 会社の方針として,どうしても,仕事をしていない私用での在社を認めたいのであれば,最小限にとどめ,私用での在社理由を説明する文書を提出させたいところです。それすら現実的でない場合は,労働審判,団体交渉,労働訴訟等になれば私用での在社時間が労働時間であると主張されて争点となり,場合によっては労働時間と認定されるリスクを負っていることを覚悟する必要があります。

残業命令に基づかない残業であることを理由として残業代の支払義務を免れられるか

 労基法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間をいいます(三菱重工長崎造船所事件最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決)。そして,残業命令に基づかずに仕事をしたとしても,その仕事に要する時間は労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間とはいえませんので,労基法の労働時間ではありません。となると,残業を命じていない場合に残業したとしても,その残業時間は労基法上の労働時間ではないのですから,労基法37条に定める残業代は支払う必要はないようにも思えます。
 しかし,ここでいう「残業命令」は,明示のもののみならず,黙示のものも含まれます。上司が部下が残業していることを知りながら放置していた場合は,黙示の残業命令があったと評価されるのが通常ですので,残業命令に基づかない残業であることを理由として残業代の支払義務を免れることはできません。当該残業に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものである限り,労基法上の労働時間に該当することになります。
 (労働審判,団体交渉,労働訴訟等における主張はともかく)事前対応としては,基本的には現実に退勤させることで対応すべきであって,残業命令に基づかない残業であることを理由として残業代の支払義務を免れることを期待した制度設計をすべきではありません。

残業の事前許可制

 残業する場合には,上司に申告してその決裁を受けなければならない旨就業規則等に定め,実際に,残業の事前許可なく残業することを許さない運用がなされているのであれば,残業の事前許可制は不必要な残業時間の抑制になります。
 しかし,就業規則に残業の事前許可制を定めて周知させたとしても,実際には事前許可なく残業しているのを上司が知りつつ放置しているような職場の場合は,黙示の残業命令により残業させたと認定され,当該残業に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものである限り,労基法上の労働時間に該当することになります。残業の事前許可制を採用した場合,事前許可なく残業している従業員を見つけたら,現実に残業を止めさせて帰らせるか,許可申請させて残業を許可するかを判断しなければなりません。
 残業の事前許可制を採用した場合における典型的な失敗事例は,残業の事前許可なく残業しているのを見かけたものの,事前許可がない残業だから残業代を支払わなくてもいいと思い込んで残業を放置していたところ,残業代請求を受けるケースです。事前許可なく残業していることを上司が知りながら放置しているような場合は,黙示の残業命令があったと認定され,当該残業に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものである限り,労基法上の労働時間に該当すると評価される可能性が高くなります。

残業禁止命令

 残業をしないよう強く注意指導しても指示に従わない場合は,書面で残業禁止命令を出さなければならないこともあります。
 書面で残業禁止命令を出し,実際に残業禁止を徹底していれば,命令に反して仕事をした時間があったとしても,残業代支払の対象となる労働時間として認められることはほとんどありません。

【神代学園ミューズ音楽院事件東京高裁平成17年3月30日判決[確定]】
 「賃金(割増賃金を含む。以下同じ。)は労働の対償であるから(法11条),賃金が労働した時間によって算定される場合に,その算定の対象となる労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下にある時間又は使用者の明示又は黙示の指示により業務に従事する時間であると解すべきものである。したがって,使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して,労働者が時間外又は深夜にわたり業務を行ったとしても,これを賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない。」
 「前記認定のとおり,被告Mは,教務部の従業員に対し,平成13年12月10日以降,朝礼等の機会及び原告G,同F及びO主任を通じる等して,繰り返し36協定が締結されるまで残業を禁止する旨の業務命令を発し,残務がある場合には役職者に引き継ぐことを命じ,この命令を徹底していたものであるから,上記の日以降に原告らが時間外又は深夜にわたり業務を行ったとしても,その時間外又は深夜にわたる残業時間を使用者の指揮命令下にある労働時間と評価することはできない。」

事業場外労働のみなし労働時間制のみなし労働時間を「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とする

 営業社員等の事業場外労働のみなし労働時間制のみなし労働時間を所定労働時間とし,適用対象者に対しては「営業手当」等の手当を支払ってはいるものの,残業代を支払っていないか,「営業手当」を定額残業代(固定残業代)として残業代を支払ったことにしている会社が数多く存在します。
 しかし,事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合であっても,所定労働時間働いたものとみなされるのは,通常は所定労働時間内(所定労働時間が8時間の場合は,8時間以内)で当該業務が終わる場合に限定されます。通常は所定労働時間を超えて(例えば,10時間)労働することが必要となる場合については,所定労働時間ではなく,当該業務の遂行に通常必要とされる時間(10時間)労働したものとみなされますので,例えば,通常は1日10時間かかる事業場外労働に従事させている社員のみなし労働時間を所定労働時間とした場合,1日あたり2時間の残業代(時間外割増賃金)が未払となってしまいます。
 このようなことにならないようにするためには,当該業務の遂行に通常必要とされる時間が1日何時間なのかを調査し,実態に合ったみなし労働時間を設定する必要があります。労働審判,団体交渉,労働訴訟等において,当該業務の遂行に通常必要とされる時間が1日何時間なのかについて,会社の認識と異なる時間が認定されないようにするためには,過半数労働組合や過半数代表者との間で,みなし労働時間に関する労使協定を締結し,労基署に届け出ておくとよいでしょう。
 実態に合ったみなし労働時間を設定し,みなし労働時間に応じた残業代(時間外割増賃金)を支払っている場合,仮に,「労働時間を算定し難いとき」という要件を満たさない等の理由から事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定されたとしても,発生した時間外割増賃金のほとんどをカバーすることができ,残業代の追加支払のリスクを相当程度抑制することができるという副次的なメリットもあります。「労働時間を算定し難いとき」という要件が厳格に判断される傾向にある現状からすれば,実態に合ったみなし労働時間を設定することの重要性はますます高まっているといえるでしょう。
 なお, 営業手当を定額残業代(固定残業代)とすることにより残業代の追加支払のリスクに備えている会社も数多く存在しますが,定額残業代(固定残業代)の制度設計がずさんな事例が多く,「営業手当」名目の定額残業代(固定残業代)の支払が残業代の支払として認められなかった裁判例が数多く存在します。定額残業代(固定残業代)については,項目を改めて説明します。

【阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件東京地裁平成22年7月2日判決】
 「本件添乗業務は,『労働時間を算定し難いとき』に該当する。」
 「本条1項ただし書きの『業務の遂行に通常必要とされる時間』も,2項,3項と同様に解釈され,一定の時間を意味すると解すべきである。」
 「そして,本条が『通常』必要とされる時間と規定していることから,各日の状況や従事する労働者等により実際に必要とされる時間には差異があっても,平均的にみて当該業務の遂行に必要とされる時間を意味すると解される。」
 「以上に照らせば,本件各コースにおいて,『業務の遂行上通常必要とされる時間』は,11時間と認められる。」

【阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第3)事件東京地裁平成22年9月29日判決】
 「原告らによる添乗業務については,社会通念上『労働時間を算定し難いとき』に該当し,本件みなし制度が適用されるというべきである。」
 「労働基準法38条の2第1項但書は,『通常必要とされる時間』という文言を用いており,国会における審議内容にかんがみても,同法は個別具体的な事情を捨象した上でみなし労働時間を判定することを予定しているものと解される。そうすると,労働者の個性や業務遂行の現実的経過に起因して,実際の労働時間に差異が生じ得るとしても,(実労働時間の把握が困難である以上,)基本的には,個別具体的な事情は捨象し,いわば平均的な業務内容及び労働者を前提として,その遂行に通常必要とされる時間を算定し,これをみなし労働時間とすることを予定しているものと解される。」
 「ただし,前述したとおり,労働基準法は,事業場外労働の性質にかんがみて,本件みなし制度によって,使用者が労働時間を把握・算定する義務を一部免除したものにすぎないのであるから,同法は,本件みなし制度の適用結果(みなし労働時間)が,現実の労働時間と大きく乖離しないことを予定(想定)しているものと解される。すなわち,労働時間を把握することが困難であるとして,本件みなし制度が適用される以上,現実の労働時間との差異自体を問題とすることは相当でないが,他方において,本件みなし制度は,当該業務から通常想定される労働時間が,現実の労働時間に近似するという前提に立った上で便宜上の算定方法を許容したものであるから,みなし労働時間の判定に当たっては,現実の労働時間と大きく乖離しないように留意する必要があるというべきである。」
 「以上の事情を総合考慮し,当裁判所は,原告らの添乗業務における『みなし労働時間』について,原告らの従事した添乗業務(ツアー)ごとに判定するという方法を採用することとした。具体的には,前述したとおり,添乗日報は,旅程の消化状況を概ね反映しているものと解されることから,原則として,添乗日報の記載を基準として,始業時刻と終業時刻を判定し,適宜休憩時間を控除することとし,添乗日報がない場合において,行程表や最終日程表を補助的に用いるという方法を採用した。」

 

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弾力的な労働時間制・適用除外者等

2018-01-11 | 日記

弾力的な労働時間制・適用除外者等

変形労働時間制

 労基法32条の法定労働時間よりも労働時間が多い週・日もあれば,少ない週・日もある場合には,変形労働時間制を採用することは,時間外割増賃金請求に対する抗弁となり得ます。もっとも,恒常的に法定労働時間を超える残業がある場合には,変形労働時間制を採用しても時間外労働時間数を抑制することはできません。法定休日に労働させれば休日割増賃金の支払が,深夜に労働させれば深夜割増賃金の支払が必要となることに変わりありません。
 変形労働時間制を採用する場合には,労使協定の締結・届出等や,各日の所定労働時間の特定が必要となります。所定の手続を怠った場合は,変形労働時間制は無効となり,原則どおり労基法32条の法定労働時間が適用されることになります。労基法上の適法要件となっている手続を取らずに法定労働時間を超える所定労働時間のシフト制を採用している事例,労働者代表の選任手続が適切になされていないため労使協定が無効になりその結果として変形労働時間制も無効となっている事例,各日の所定労働時間の特定がなされていないため変形労働時間制が無効となっている事例,変形労働時間制を採用すれば週40時間を超えて労働させなければ1日何時間労働させても時間外労働にはならないと誤解されている事例等が散見されます。無効な変形労働時間制を採用しても,時間外割増賃金請求に対する抗弁にはなりませんので,変形労働時間制を採用とする場合は,弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談下さい。

フレックスタイム制

 フレックスタイム制は,労使協定の定める1か月などの単位期間について,一定の時間数労働することを条件に,始業・終業時刻を個々の労働者が自ら決定する労働時間制です。
 フレックスタイム制では,始業・終業時刻を自由に選択できる時間帯(フレキシブルタイム)と,必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)を定めるのが一般的です。
 フレックスタイム制で時間外労働となるのは,清算期間内における実労働時間が清算期間における法定労働時間の総枠を超えた場合です。

事業場外労働のみなし労働時間制

 事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合,通常は所定労働時間内(所定労働時間が8時間の場合は,8時間以内)で当該業務が終わる場合は,所定労働時間(8時間)労働したものとみなされます。通常は所定労働時間を超えて(例えば,10時間)労働することが必要となる場合については,所定労働時間ではなく,当該業務の遂行に通常必要とされる時間(10時間)労働したものとみなされます。法定休日に労働させれば休日割増賃金の支払が,深夜に労働させれば深夜割増賃金の支払が必要となることに変わりはありません。
 「労働時間を算定し難いとき」という要件を満たすかが議論されることが多いですが,事業場外労働のみなし労働時間制の適用要件を満たしたとしても,通常所定労働時間を超えて(例えば,10時間)労働することが必要となる場合には,当該業務の遂行に通常必要とされる時間(10時間)労働したものとみなされますので,議論の実益がある場面は,当該業務の遂行に通常必要とされる時間を超えて労働させたような事例に限定されます。
 他方,通常必要となる労働時間労働したものとみなして時間外割増賃金を支払ってさえいれば,「労働時間を算定し難いとき」という要件を満たさない等の理由から事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定されたとしても,発生した時間外割増賃金のほとんどをカバーすることができますので,残業代の追加支払のリスクを相当程度抑制することができます。

裁量労働制

 労基法上の裁量労働制には専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。いずれも労基法で定める要件を満たせば,実労働時間にかかわらず,みなし労働時間が1日の労働時間となるため,時間外割増賃金の請求に対し抗弁となり得ます。法定休日に労働させれば休日割増賃金の支払が,深夜に労働させれば深夜割増賃金の支払が必要となることに変わりはありません。いずれも適用対象業務が限定されており,労基法所定の要件を満たさなければ効力が生じません。
 裁量労働制のみなし労働時間は所定労働時間みなしとすることが多いですが,実態に合ったみなし労働時間とすることをお勧めします。これは単に労基署対応が楽になるというだけの話ではなく,追加で残業代を支払わなければならなくなるリスクを相当程度軽減することができるという民事上のメリットがあります。例えば,実態として一日平均10時間労働しているような場合に,裁量労働制が要件を欠き無効と判断された場合,所定労働時間みなしだと1日当たり2時間分の時間外割増賃金が未払となってしまいますが,1日10時間みなしであれば,発生した時間外割増賃金のほとんどをカバーすることができるというメリットがあります。

管理監督者

 労基法上の管理監督者に該当する場合は,労働時間規制の対象から除外されるため,時間外・休日に労働させても時間外・休日割増賃金を支払う義務はなく,深夜労働時間を把握して,深夜割増賃金を支払えば足ります。
 管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,労働条件の最低基準を定めた労基法の労働時間等についての規制の枠を超えて活動することが要請されざるをえない重要な職務と責任を有し,これらの規制になじまない立場にあるといえるかを,役付者の名称にとらわれずに,実態に即して判断されることになります。
 管理監督者性に関する裁判例としては,店長の管理監督者性を否定した日本マクドナルド事件東京地裁平成20年1月28日判決が著名ですが,『労働事件事実認定重要判決50選』146頁以下において,西村康一郎裁判官(東京地裁民事19部)は,「総店長」の管理監督者性を肯定した高裁レベルの判決であることぶき事件東京高裁平成20年11月11日判決を中心に検討しています。

【『労働事件事実認定重要判決50選』158頁(西村康一郎裁判官(東京地裁民事19部)】
 「管理監督者性が認められた裁判例は少ないのが実情であるが,肯定例の内容をつぶさにみると,いずれもさほど特異な例とは思われないし,行政通達で具体化された内容をみても,同様の印象を抱く。使用者側としては,どうせ管理監督者性は認められないから,などと過度に萎縮する必要はないものと思われるし,仮に管理監督者性が認められないとしても,裁判所に対し,企業の中での当該管理職の立ち位置を具体的に示し,その待遇としても十分なものが与えられていることを示すことは,付加金支払義務の関係においても意味のあることと思われる。使用者側としては,その意味で,企業内での当該管理職の序列なども十分立証して,裁判所の説得を試みるべきであろう。」

【ことぶき事件東京高裁平成20年11月11日判決】
 「管理監督者とは,一般には労務管理について経営者と一体的な立場にある者を意味すると解されているが,管理監督者に該当する労働者については労基法の労働時間,休憩及び休日に関する規定は適用されないのであるから,役付者が管理監督者に該当するか否かについては,労働条件の最低基準を定めた労基法の上記労働時間等についての規制の枠を超えて活動することが要請されざるをえない重要な職務と責任を有し,これらの規制になじまない立場にあるといえるかを,役付者の名称にとらわれずに,実態に即して判断しなければならない。
 前記2に認定した事実によれば,第一審被告(昭和39年○月生)は,平成8年4月に第一審原告に入社し,平成13年ころには前任者のAに代わって第一審原告の総店長の地位に就いた者であって,総店長に就任後は,①第一審原告において代表取締役である甲野(大正9年○月生)に次ぐナンバー2の地位にあったものであり,高齢の甲野を補佐して第一審原告の経営する理美容業の各店舖(リプル店を含めて5店舗)と5名の店長を統括するという重要な立場にあり(第一審被告もその陳述書(〈証拠略〉)において,各店舖の売り上げを伸ばすにはどうすればよいかを考える立場にあり,各店舗の店長達と目標や改善策を協議した結果を甲野に報告していたことを自認している。),②第一審原告の人事等その経営に係る事項については最終的には甲野の判断で決定されていたとはいえ,第一審被告は甲野から各店舗の改善策や従業員の配置等といった重要な事項について実際に意見を聞かれていたのであり(平成17年4月のリプル店の開店に際しても,甲野はリプル店の開店計画について第一審被告の了解を得た上で初めてその計画を実行に移している。),③平成16年11月以降は毎月営業時間外に開かれる店長会議に甲野とともに出席しており,④その待遇面においても,店長手当として他の店長の3倍に当たる月額3万円の支給を受けており,基本給についても平成16年4月に従前の基本給から1割が減額されて39万0600円となったとはいえ,少なくとも上記の基本給の減額前においては他の店長の約1.5倍程度の給与の支給を受けていたのであるから,第一審原告において総店長として不十分とはいえない待遇を受けていたということができるのである。
 これらの実態に照らせば,第一審被告は,第一審原告の総店長として,名実ともに労務管理について経営者と一体的な立場にあった者ということができ,労基法に定められた規制の枠を超えて活動することが要請されざるをえない重要な職務と責任を有していて,これらの規制になじまない立場にあったものと認めることができるから,労基法41条2号の管理監督者に該当するものと認めるのが相当である。これに反する第一審被告の主張は採用できない。
 なお,第一審被告のリプル店における勤務の実際については,前記2に認定したとおり,通常は,リプル店の営業時間に合わせて,平日は午前10時,土曜日と日曜日は午前9時に出勤(出店)し,午後7時半に退社(退店)していたことから,第一審原告ヘの出退社時間についてリプル店の営業時間に拘束されていたようにも受け取れるが,このことは,第一審被告がリプル店においてその店長(B)や他の従業員と同様に顧客に対する理美容業務をも担当していたことからくる合理的な制約であるから,第一審被告が管理監督者に該当するとの上記の判断を左右するものではないというべきである。」

労基法上の労働者

 割増賃金の支払について定めた労基法37条が適用されるのは,労基法9条の「労働者」ですから,労基法上の労働者に該当しない個人事業主等は,労基法37条に基づき残業代を請求することはできません。他方,契約形式が請負や業務委託だったとしても,注文主等と「個人事業主」等との間に使用従属性が認められれば,「個人事業主」等は労基法上の労働者と評価され,労基法37条に基づき残業代を請求することができることになります。
  労基法上の労働者に該当するかどうかは,労基法上の労働者性に関する裁判例のほか,昭和60年12月19日付け労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」を参考に,仕事の依頼,業務の従事の指示等に対する諾否の自由の有無,業務遂行上の指揮監督の有無(業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無等),拘束性の有無,代替性の有無,報酬の労務対償性,事業者性の有無(機械,器具の負担関係,報酬の額等),専属性の程度等の要素を考慮して判断することが多いです。

 

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労働時間

2018-01-11 | 日記

労働時間

労基法上の労働時間

 労基法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。そして,労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めの如何により決定されるべきものではありません。
 労働者が,就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは,当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても,当該行為は,特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものである限り,労基法上の労働時間に該当します。
 労基法上の労働時間に該当するかが争われることが多いのは,仕事をしたかどうかに争いのある始業時刻前・休憩時間・終業時刻後の在社時間,手待時間,移動時間,教育訓練の時間等です。

【三菱重工長崎造船所事件最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決】
 「労働基準法…32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,右の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」
 「労働者が,就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは,当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても,当該行為は,特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものである限り,労働基準法上の労働時間に該当すると解される。」

労働時間の認定

 労働時間は,原則として,「一日の労働時間の開始時刻から終了時刻までの拘束時間-休憩時間」で,一日ごとに認定されます。
 タイムカード,ICカード等の客観的な記録がある場合は,原則としてタイムカード,ICカード等の客観的な記録を基礎として,一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間が認定されます。自己申告制を採用し,日報等が存在する場合も,原則として日報等を基礎として一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間が認定されます。
 ただし,タイムカード,ICカード等の客観的な記録や自己申告の内容が,実際の一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間と大きく乖離している場合には,これらを基礎として一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間を認定することはできません。必要に応じて実態調査を実施し,所要の労働時間を補正するなどして,適正に実際の一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間を管理しましょう。
 タイムカード,ICカード等の客観的な記録も自己申告された日報等も存在しない場合であっても,日記等により一応の労働時間の立証がなされたのに対し使用者が有効な反証ができないと,日記等の証明力の低い証拠だけで労働時間が認定されることがあります。

通勤時間の労働時間性

 通勤は,労働者が労働力を使用者のもとへ持参するための債務の履行の準備行為であって,使用者の指揮命令下に入っていない労務提供以前の段階に過ぎませんので,通勤時間は労働時間に該当しません。
 高栄建設事件東京地裁平成10年11月16日判決においても,労働者が会社の提供するバスに乗って寮と就業場所を往復していた時間について,「寮から各工事現場までの往復の時間はいわゆる通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものである以上,これについては原則として賃金を発生させる労働時間にあたらないものというべきである」と述べており,単に通勤方法について一定の拘束を受けていたというだけでは,使用者の指揮命令下におかれているとは認めていません。

直行直帰の移動時間の労働時間性

 直行直帰とは,いったん会社に出勤してそこから使用者の業務命令により作業現場や得意先などの目的地に移動するのではなく,会社を経由することによる無駄を省くためなどの理由から直接自宅から目的地に移動し,目的地から直接自宅に移動することをいいます。
 通常の直行直帰の時間は,実際の労務提供は目的地で開始されるものであること,目的地までの移動は準備行為と考えることができること,移動時間中の過ごし方を自由に決めることができることなどから,使用者の指揮命令が及んでおらず,労基法上の労働時間には該当しないと評価することができます。
 もっとも,作業現場等への移動自体が業務といえるような場合には,労基法上の労働時間と評価されますので,安易に直行直帰を認めるべきではなく,恒常的に直行直帰を認めるのが適切かどうかについて個別の検討が必要となります。

手待時間の労働時間性

 使用者の指示があれば直ちに作業をしなければならず,使用者の指揮監督下に置かれている時間を「手待時間」といいます。手待時間は,現実には仕事をしていない時間ですが,使用者の指示があれば直ちに作業をしなければならない点で使用者の指揮命令下に置かれているため,労基法上の労働時間に該当します。使用者の指示があれば直ちに作業をしなければならない点で,使用者の指揮監督から離脱し,労働者が自由に利用できる時間である休憩時間とは異なります。
 労基法でも,作業時間と手待時間が交互に繰り返される断続的労働について,労働時間規制の例外としていますが,手待時間も労基法上の労働時間に含まれることを前提としていると考えられます。
 手待時間と休憩時間の区別については,場所的拘束の有無や程度,使用者の指揮命令の具体的内容,実作業の必要性から生じる頻度や実作業に要する時間等の判断要素を踏まえて,個別具体的に判断していくことになります。

緊急対応のための待機時間の労働時間性

 緊急対応のための待機時間についても,それが使用者の指揮命令下に置かれているか否かにより,労基法上の労働時間に該当するか否かを判断することになります。
 自宅での待機時間については,待機中も制服の着用を求めたり仮眠を禁止したりするなど,待機中の過ごし方を強く拘束されている場合や頻繁に緊急対応しなければならないような場合でなければ,労基法上の労働時間には該当しないものがほとんどと考えられます。

研修や勉強会の時間の労働時間性

 研修や勉強会の時間は, 純然たる自由参加で,社員が参加しなくても何の不利益も課されず,業務に具体的な支障が生じないようなものであれば,研修等に要した時間は労基法上の労働時間には該当しません。
 他方で,
 ① 使用者が研修への参加を義務付けている場合
 ② 使用者が参加を義務付けないとしても不参加の場合に賃金や人事考課等で不利益を受けたりする場合
 ③ 使用者の義務付けや不利益を受けることがなくても研修の内容が業務と密接な場合
 ④ 研修を受けないと業務に支障が生じる場合
等の場合には,使用者の指揮命令下に置かれているものとして,労基法上の労働時間と評価される可能性が高くなります。

一般健康診断の労働時間性

 一般健康診断に関し,「健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払については,労働者一般に対して行われるいわゆる一般健康診断は,一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり,業務遂行との関連において行われるものではないので,その受診のために要した時間については,当然には事業者の負担すべきものではなく,労使協議して定めるべきものであるが,労働者の健康の確保は,事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると,その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」とする通達が存在します。同通達は,一般健康診断に要する時間が労基法上の労働時間には該当しないという理解を前提としているものと考えられます。
 一般論としては,一般健康診断に要する時間は,労基法上の労働時間には該当しないことがあるとは思いますが,業務命令により一般健康診断の受診を命じたような場合は,労基法上の労働時間に該当するとも考えられ,一般健康診断に要する時間が労基法上の労働時間に該当するかどうかは,事案ごとに判断していくほかないものと思われます。
 なお,労働者が使用者が行う一般健康診断を受診せず,他の医師等の行う健康診断を受けた場合(安衛法66条5項参照)は,労働者は使用者の指揮監督下に置かれていないものとして,その受診時間は労基法上の労働時間には該当しないものと考えられます。

喫煙時間の労働時間性

 喫煙には業務性がないのが通常ですから,喫煙時間は労基法上の労働時間ではありません。もっとも,所定労働時間におけるトイレ休憩と同様,最小限の喫煙を黙認している職場もありますし,喫煙のため業務を離脱した時間の立証は困難がことが多いですので,仕事の合間に喫煙をしていたとしても,まとまった時間,仕事から離脱したような場合でない限り,所定の休憩時間を超えて労働時間から差し引いてもらうのは難しいのが実情です。
 喫煙の管理として,例えば,喫煙する際は必ずその旨及び行き先を明示することを労働者に義務付けたり,1日当たりの回数や時間の上限を定め,これに大きく逸脱した場合には,職務専念義務違反として注意指導や懲戒処分などのペナルティを課すなど,喫煙のルールを設定することが考えられます。

接待ゴルフの労働時間性

 日本では,ゴルフを通じた社交が企業文化として根付いているため,使用者が労働者のゴルフ代や旅費を負担し,参加を奨励することが多く行われています。
 接待ゴルフといっても主な目的はゴルフのプレーであることから,仮に,使用者から参加を義務付けられていたり,会社が費用を負担していたとしても,プレー中に労働者が使用者の指揮命令下に置かれているとはいえないのが通常です。ゴルフのプレー中に具体的な商談が予定されていて特定の労働者が必ず参加しなければいけないような場合でない限り,接待ゴルフの時間は労働時間に該当しないものと考えます。

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所
会社経営者のための残業代請求対応
会社経営者のための労働審判対応


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未払残業代(割増賃金)の計算

2018-01-09 | 日記

未払残業代(割増賃金)の計算


未払残業代の計算式
 未払残業代の計算式は,以下のとおりです。
  ①残業代額-②賃金支払日に支払った残業代額+③遅延損害金-④賃金支払日後に支払った残業代額

 

残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の計算式
 残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の計算式は,以下のとおりです。
  労基法施行規則19条1項各号に定める通常の賃金の時間単価×時間外・休日・深夜労働時間数×割増率
 ただし,実務上は,以下のとおり,時間外・休日・深夜割増賃金の時間単価を計算してから,これに時間外・休日・深夜労働時間数を乗して残業代を計算することが多くなっています。
  ① 労基法施行規則19条1項各号に定める通常の賃金の時間単価を計算(円未満四捨五入)
  ② 通常の賃金の時間単価に割増率を乗じて残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の時間単価を計算(円未満四捨五入)
  ③ 残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の時間単価に時間外・休日・深夜労働時間数を乗じて時間外・休日・深夜割増賃金を計算

【昭和63年3月14日基発150号】
 次の方法は,常に労働者の不利となるものではなく,事務簡便を目的としたものと認められるから,法第24条及び第37条違反としては取り扱わない。
 (一) (省略)
 (二) 1時間当たりの賃金額及び割増賃金額円未満の端数が生じた場合,50銭未満の端数を切り捨て,それ以上を1円に切り上げること。
 (三) 1か月における時間外労働,休日労働,深夜業の各々の割増賃金の総額1円未満の端数が生じた場合,(二)と同様に処理すること。

【きょうとソフト(判タ1436号17頁)】
 「賃金単価は小数点以下を四捨五入することとしている。」
 「割増賃金の計算については,賃金単価は整数値で入力し,各区分の割増賃金を計算する段階で小数点以下を四捨五入することとしている。」
 「歩合給の割増賃金の計算については,歩合給月額を総労働時間で除した賃金単価を計算する段階で小数点以下を四捨五入し,さらに各区分の割増賃金を計算する段階でも小数点以下を四捨五入することとしている。」

 

通常の賃金の時間単価
1 通常の賃金の時間単価の計算方法(労基法施行規則19条)
 通常の賃金の時間単価の計算方法は以下のとおりです。「固定給」「歩合給」といった大雑把な分類で考えるのではなく,それが「時間によって定められた賃金」なのか,「日によって定められた賃金」なのか,「月によって定められた賃金」なのか,「出来高払制その他の請負制によって定められた賃金」なのかを明確に区別して計算することが重要です。

(1) 時間によって定められた賃金
 時給が,通常の賃金の時間単価となります。
 時給1000円であれば,通常の賃金の時間単価は1000円/時となります。

(2) 日によって定められた賃金
 所定労働時間数が日によって異ならない場合,日給を一日の所定労働時間数で除した金額が,通常の賃金の時間単価となります。
 日給1万円で一日の所定労働時間数が8時間であれば,通常の賃金の時間単価は1万円÷8時間=1250円/時となります。

(3) 月によって定められた賃金
 月によって所定労働時間数が異なる場合,月給を一月平均所定労働時間数で除した金額が,通常の賃金の時間単価となります。
 月給が24万円で一月平均所定労働時間数が160時間であれば,通常の賃金の時間単価は24万円÷160時間=1500円/時となります。

(4) 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金
 その賃金計算期間における歩合給額を総労働時間で除した金額が,通常の賃金の時間単価となります。
 歩合給が10万円で総労働時間数が200時間の場合,通常の賃金の時間単価は10万円÷200時間=500円/時となります。

(5) 定め方が異なる賃金が複数ある場合
 それぞれ算定した金額の合計額が,通常の賃金の時間単価となります。
 日によって定められた賃金の時間単価が1250円/時で月によって定められた賃金の時間単価が250円/時であれば,通常の賃金の時間単価は1250円/時+250円/時=1500円/時となります。
 ただし,歩合給に関する時間外・休日割増賃金は,時給・日給・月給等の場合と異なり,割増部分(25%部分等)のみを支払うものであること等から,時給・日給・月給等とは別枠で通常の賃金を計算するのが一般的です。

2 除外賃金
 原則として全ての賃金が残業代(労基法37条の定める割増賃金)計算の基礎となりますが,以下の(1)除外賃金,(2)残業代は例外的に残業代計算の基礎から除外されます。

(1) 労基法37条5項・労基法施行規則21条で限定列挙されている家族手当,通勤手当,別居手当,子女教育手当,住宅手当,臨時に支払われた賃金,1か月を超える期間ごとに支払われる賃金等の労働の内容や量と無関係な労働者の個人的事情で変わってくる賃金手当(除外賃金)
 ①除外賃金に該当するかは,名目のみにとらわれず,その実質に着目して判断されます(昭和22年9月13日発基17号)。名称が「家族手当」「通勤手当」「住宅手当」といった名目で支給されていたとしても,除外賃金に当たるとは限りません。
 除外賃金としての性質を有する「家族手当」とは,「扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出する手当」のことをいい,たとえその名称が物価手当,生活手当等であっても「扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出する手当」であれば「家族手当」として取り扱われます。他方で,「家族手当」という名称であっても扶養家族数に関係なく一律に支給される手当や一家を扶養する者に対し基本給に応じて支払われる手当等は除外賃金としての性質を有する「家族手当」とは認められず,残業代(割増賃金)算定の基礎賃金に入れるべきこととなります。
 除外賃金としての性質を有する「通勤手当」とは,「労働者の通勤距離又は通勤に要する実際費用に応じて算定される手当」をいい,通勤に必要な実費に対応して支給される通勤手当であれば除外賃金に該当しますが,通勤距離や通勤に要する実費とは関係なく一律に支給される通勤手当等は,除外賃金には該当せず,残業代(割増賃金)の基礎となる賃金に算入することになります。
 除外賃金としての性質を有する「住宅手当」とは,住宅に要する費用に応じて算定される手当のことをいいます。したがって,全社員に一律に定額で支給することとされているようなものは,除外賃金としての性質を有する「住宅手当」には該当せず,残業代(割増賃金)計算の基礎賃金に入れるべきこととなります。
 労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分については無効となり,無効となった部分は労基法で定める基準によることになりますので(労基法13条),除外賃金に当たらない手当が存在するにもかかわらず,労働契約書で基本給のみを残業代(割増賃金)算定の基礎賃金とする旨定めて合意するなどしても当該合意は無効となり,基本給以外の除外賃金に当たらない手当についても残業代(割増賃金)算定の基礎賃金に加える必要があります。
 労基法違反の就業規則はその部分に関しては労働契約の内容とはならず(労契法13条)労基法が適用されますので,除外賃金に当たらない手当が存在するにもかかわらず,賃金規程で基本給のみを残業代(割増賃金)算定の基礎賃金とする旨定めて周知させるなどしても当該規定は労働契約の内容とはならず,基本給以外の除外賃金に当たらない手当についても残業代(割増賃金)算定の基礎賃金に加える必要があることになります。

【小里機材事件東京高裁昭和62年11月30日判決(上告棄却)】
 「右の割増賃金の目的は,労基法が規定する労働時間及び週休制の原則を定めた趣旨を維持し,同時に,過重な労働に対する労働者への補償を行わせようとするところにあるのであるから,右の6項目の除外賃金は制限的に列挙されているものと解するのが相当であり(もとより,実際に支払われる賃金がこれらに当たるか否かは,名目のみにとらわれず,その実質に着目して判断すべきである。)…記載の被告の主張は採用の限りではない。」

(2) 残業代
 残業代として基礎賃金から除外されるかについても,名目のみにとらわれず,その実質に着目して判断すべきと考えるのが素直であり,残業代として基礎賃金から除外されるためには,残業代としての実質を有している必要があります。残業代の名目で,あるいは賃金規程等で残業代の趣旨で支給する旨規定した上で賃金を支払ったとしても,残業代としての実質を有していなければ,残業代として基礎賃金から除外されませんが,このことは,残業代として基礎賃金から除外されるかどうかと残業代の名目が関係ないということを意味するわけではありません。「営業手当」等,その名目から残業代とは推認できないものについては,賃金規程に当該手当が残業代である旨明記して周知させたり労働契約書にその旨明示して合意したりしておかなければ残業代として基礎賃金から除外されないのが通常ですし,残業代の実質を有しないと判断されるリスクが高くなりやすいので,残業代の名目は「時間外勤務手当」等,名称自体から残業代であることを推認させる名目とすることが望ましいところです。
 労基法37条の定める割増賃金として残業代計算の基礎賃金から除外されるためには,通常の賃金に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要です。

【名古屋地裁平成28年3月30日判決】
 「(2) 基礎賃金から除外される賃金(以下「除外賃金」という。)は,労基法37条5項,労基則21条各号に限定列挙されており,除外賃金に該当するか否かは,名称にかかわらず,実質的に判断すべきところ,長距離手当は,上記限定された除外賃金に当たらない。
 しかし,上記(1)のとおり,労基法所定の計算方法による割増賃金に代えて,一定額の手当を支払ったり,労基法と異なる計算方法による手当を支払ったりすることも,同法所定の割増賃金を下回らない限りは適法であるから,長距離手当が,労基法で支払うべきと規定された割増賃金と同じ性質をもつといえれば,長距離手当は基礎賃金から除外された上,同手当の支払をもって割増賃金の弁済として有効となる(仮に,これを基礎賃金に算入すると,「割増の割増」を認めることとなり,相当でない。)。
 (3) そこで検討するに,長距離手当が,労基法で支払うべきと規定された割増賃金と同じ性質をもつといえるためには,① 当該手当(長距離手当)が割増賃金としての実質を有すること,② 当該手当(長距離手当)内に割増賃金としての実質を有する部分とそれ以外の部分(通常の労働時間の賃金に当たる部分)が混在する場合には,割増賃金としての実質を有する部分と,それ以外の部分とを判別でき,労働者において割増賃金として支払われる額が労基法所定の割増賃金の額を下回らないかを判断しうることという要件を満たす必要がある。」

【国際自動車事件最高裁平成29年2月28日判決】
 「そして,使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには,労働契約における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁平成21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁参照),上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。」

 

残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の時間単価
1 時間外割増賃金
(1) 原則
 割増率は25%
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば,時間外割増賃金の時間単価は,次のとおりとなります。
  1500円/時×1.25=1875円/時
 ただし,歩合給については,割増部分のみが割増賃金の時間単価となるため,歩合給に関する通常の賃金の時間単価が500円/時であれば,歩合給に関する時間外割増賃金の時間単価は,次のとおりとなります。
  500円/時×0.25=125円/時
(2) 60時間を超える時間外労働時間
 割増率は50%(中小企業を除く。)
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば,時間外割増賃金の時間単価は,次のとおりとなります。
  1500円/時×1.5=2250円/時
 ただし,歩合給については,割増部分のみが割増賃金の時間単価となるため,歩合給に関する通常の賃金の時間単価が500円/時であれば,歩合給に関する時間外割増賃金の時間単価は,次のとおりとなります。
  500円/時×0.5=250円/時

2 休日割増賃金
 割増率は35%
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば,休日割増賃金の時間単価は,以下のとおりとなります。
  1500円/時×1.35=2025円/時
 ただし,歩合給については,割増部分のみが割増賃金の時間単価となるため,歩合給に関する通常の賃金の時間単価が500円/時であれば,歩合給に関する休日割増賃金の時間単価は,以下のとおりとなります。
  500円/時×0.35=175円/時

3 深夜割増賃金
 割増率は25%
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば,深夜割増賃金の時間単価は,以下のとおりとなります。
  1500円/時×0.25=375円/時

4 労基法を超える割増率
 労基法を超える割増率が就業規則等で定められている場合には,その割増率のとおり計算します。

 

残業時間数(時間外・休日・深夜労働・法内残業時間数)
1 時間外労働時間数
(1) 原則
 時間外労働時間とは,労基法32条の規制を超えて労働させた時間のことをいい,週40時間,1日8時間を超えて労働させた時間は,原則として時間外労働時間に該当します。
 1日8時間超の時間外労働時間としてカウントした時間については,週40時間超の時間外労働時間には重複してカウントしません。
 例えば,日曜日が法定休日の事業場において,月曜日~土曜日に9時間ずつ労働させた場合,月~木に9時間×4日=36時間労働させているから金曜日に4時間を超えて労働した時間から週40時間超の時間外労働になると考えるのではなく,月~金に1時間×5日=5時間の時間外労働のほか8時間×5日=40時間労働させているから土曜日の勤務を開始した時点から週40時間超の時間外労働となると考えることになります。
 日曜日 法定休日
 月曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間
 火曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 水曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 木曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 金曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 土曜日 9時間(時間外労働9時間)←週40時間超
(2) 特例措置対象事業場
 ① 物品の販売,配給,保管若しくは賃貸又は理容の事業
 ② 映画の映写,演劇その他興行の事業
 ③ 病者又は虚弱者の治療,看護その他保健衛生の事業
 ④ 旅館,料理店,飲食店,接客業又は娯楽場の事業
のうち,常時10人未満の労働者を使用するもの(特例措置対象事業場)については,1週間については44時間,1日については8時間まで労働させることができます。特例措置対象事業場についても1日8時間を超えて労働させた場合には時間外労働となりますが,1週間については44時間を超えて労働させて初めて時間外労働となります。
 例えば,日曜日を法定休日として月~土に1日9時間ずつ労働させた場合,土曜日に4時間を超えて労働し始めた時点から週44時間超の時間外労働時間となります。
 日曜日 法定休日
 月曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 火曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 水曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 木曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 金曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 土曜日 9時間(時間外労働5時間)←週44時間超

2 休日労働時間数
 休日労働時間とは,労基法35条の法定休日(原則として1週1休以上)に労働させた時間をいいます。
 日曜日が法定休日の場合,法定休日ではない土曜日や祝祭日に労働させても,ここでいう休日労働には該当しません(週40時間を超えて労働させれば,時間外労働に該当します。)。

3 深夜労働時間数
 深夜労働とは,深夜(22時~5時)に労働させた時間をいいます。

4 法内残業時間数
 所定労働時間を超えて労働させた時間のうち,時間外労働ではない労働時間をいいます。例えば,所定労働時間7時間の会社において,1日7時間を超えて8時間労働した場合の1時間がこれに当たります。
 法内残業時間は,労基法37条の規制対象外ですが,就業規則等に別段の定めがない場合,労働契約上,割増ししない通常の時間単価の賃金を支払う義務があると解釈されるのが通常です。

【大星ビル管理事件最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決】
 「労働契約は労働者の労務提供と使用者の賃金支払に基礎を置く有償双務契約であり,労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているというべきであるから,労働契約の合理的解釈としては,労基法上の労働時間に該当すれば,通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するのが相当である。」

 

消滅時効
 残業代の消滅時効期間は2年で,起算点は各賃金支払日の翌日です(『類型別 労働関係訴訟の実務』180頁参照)。
 賃金支払日から2年を経過している残業代については,消滅時効を援用します。内容証明郵便等で残業代の請求を受けた場合であっても,6か月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起等がなされない場合は,内容証明郵便等による請求は時効中断の効力を生じませんので,6か月経過の有無を確認します。
 賃金支払日から2年を経過して消滅時効にかかっている期間の残業代に関し,損害賠償請求を受けることがありますが,通常は認められません。

 

賃金支払日における残業代の支払
 各賃金支払日に支払われた残業代は既払金として控除され,不足額がある場合に,不足額部分が各賃金支払日の時点の未払残業代となります。
 残業代の支払があったかどうかは,名目のみにとらわれず,その実質に着目して判断すべきと考えられますので,残業代の支払と認めらるためには,残業代の支払としての実質を有している必要があります。残業代の名目で,あるいは賃金規程等で残業代の趣旨で支給する旨規定した上で賃金を支払ったとしても,残業代の支払としての実質を有していなければ,残業代の支払と認められませんが,このことは,残業代の支払と認められるかどうかと残業代の名目が関係ないということを意味するわけではありません。「営業手当」等,その名目から残業代とは推認できないものについては,賃金規程に当該手当が残業代である旨明記して周知させたり労働契約書にその旨明示して合意したりしておかなければ残業代の支払として認めてもらえないのが通常ですし,残業代の実質を有しないと判断されるリスクが高くなりやすいので,残業代の名目は「時間外勤務手当」等,名称自体から残業代であることを推認させる名目とすることが望ましいところです。
 労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるというためには,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができる必要があります。
 時給制のパート・アルバイト等に関しては,時間外・休日・深夜労働の対価として時給が支払われており,未払となっているのは割増部分のみであることは珍しくありません。残業代のうち時給部分は支払済みでないかの確認を失念しないようにして下さい。
 日給制のトラック運転手等に関しては,休日労働・週40時間超の時間外労働の対価(休日・時間外割増賃金)として日給が支払われていることが多いです。休日労働・週40時間超の時間外労働が行われた日の対価(休日・時間外割増賃金)として,日給が支払われていないかの確認を失念しないようにして下さい。

 

遅延損害金
 各賃金支払日の時点の未払残業代に関し,各賃金支払日の翌日から遅延損害金が発生します。利率は,株式会社,有限会社等の営利を目的とした法人は年6%,社会福祉法人,信用金庫等の営利を目的としない法人は年5%です。
 退職後の遅延損害金の利率は,年14.6%になる可能性があります。ただし,「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること。」等,賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条各号の事由に該当することを主張立証できた場合は,その事由の存する期間については,原則どおり年6%または年5%の利率が適用されます。
 退職後の遅延損害金の利率として年14.6%の割合による金員の請求を受けている場合で,未払残業代存在を争う合理的な理由があると考えられる場合等は,「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること。」等の主張立証を忘れないようにして下さい。

 

付加金
 裁判所は,労基法37条に定める割増賃金を支払わなかった使用者に対して,労働者の請求により,未払残業代に加え,これと同一額の付加金の支払を判決で命じることができます。
 未払割増賃金と同額の付加金の支払が命じられることが多いですが,付加金の支払を命じるかどうか,付加金を減額するかどうかは,裁判所の裁量に委ねられていますので,付加金の支払を命じるのが相当でない事情があるのであれば,その事情を主張立証しておくようにしましょう。
 付加金の請求は,違反のあったときから2年以内にしなければならないとされています。この期間は除斥期間であって消滅時効期間ではないため,内容証明郵便等で残業代の請求を受けても中断せず,除斥期間を遵守するためには,付加金を請求しようとする労働者は,労働審判を申し立てたり訴訟を提起したりする必要があります。
 労働審判委員会は裁判所ではありませんので,労働審判において付加金の支払が命じられる余地はありませんが,訴訟に移行した場合に備えて,除斥期間を遵守する目的で,労働審判手続申立書に付加金の支払を請求する旨記載されているのが通常です。
 訴訟において,事実審の口頭弁論終結時までに未払残業代全額を支払い,その旨の主張立証をした場合は,判決で付加金の支払を命じられることはありません(甲野堂薬局事件最高裁平成26年3月6日第一小法廷判決参照)。他方,事実審の口頭弁論終結後に未払残業代全額を支払ったというだけでは,判決で支払を命じられた付加金の支払義務を免れることはできません(損保ジャパン日本興亜(付加金支払請求異議)事件東京地裁平成28年10月14日判決参照)。
 第一審判決で付加金の支払を命じられた場合であっても,控訴して判決で支払を命じられた未払残業代全額を確定的に支払い,控訴審の口頭弁論終結時(多くの場合,第1回口頭弁論期日終結時)までにその旨主張立証すれば,控訴審判決が第一審判決より増額された未払残業代を認定しない限り,付加金の支払を回避することができます(控訴審判決が第一審判決より増額された未払残業代を認定した場合は,増額部分について付加金の支払を命じられる可能性はあります。)。

 

賃金支払日後における残業代の支払
 係争中であっても,存在する蓋然性が高い未払残業代の額を給与振込先口座に振り込むなどして支払うことがあります。未払残業代の額が減少した限度で,以後の遅延損害金の発生を防止し,判決で支払を命じられる付加金の額を減らすことができます。
 特に,第一審判決で付加金の支払を命じられた場合は,付加金の支払を余儀なくされるリスクが高まっていると言わざるを得ませんので,付加金の支払義務を免れるため,控訴して判決で支払を命じられた未払残業代全額を確定的に支払い,控訴審の口頭弁論終結時(多くの場合,第1回口頭弁論期日終結時)までにその旨主張立証することを検討すべきでしょう。

 

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残業代請求に対する基本的対応

2018-01-09 | 日記

残業代請求に対する基本的対応


残業代の支払に関し何らかの不満が表明された場合
 残業代の支払に関し,社員から何らかの不満が表明された場合,それを放置されたままにしてはいけません。残業代の支払に関し不満があるようでは,仕事に打ち込むモチベーションが低くなりがちですし,仮に,未払残業代があるのであれば,いつ残業代の請求を受けるか分からない危険な状況に置かれていることになるからです。未払残業代があるかどうかを正確に計算して確認しなければなりません。また,今後も未払残業代が生じ得る状況にあるのであれば,労働時間管理,賃金制度を改善して未払残業代が発生しないようにしなければなりません。
 残業代の支払に関し,社員から何らかの不満が表明された場合に行わなければならないのは,主に以下の2点です。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

 

未払残業代の支払を要求する内容証明郵便等の通知書が届いた場合
 未払残業代の支払を要求する内容証明郵便等の通知書が届いた場合,その請求の対応が必要となりますが,未払残業代の有無,金額が分からなければ,的確な対応をすることはできません。また,未払残業代が発生し続けているような労働時間管理,賃金制度のまま,個別の紛争を解決しても,絶えず追加請求のリスクにさらされ続けることになりますので,個別請求の対応以上に,それ以上未払残業代が発生しない労働時間管理,賃金制度とすることが重要となります。
 したがって,未払残業代の支払を要求する内容証明郵便等の通知書が届いた場合についても,以下の2点の対応が必要となります。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

 

労基署から労基法37条違反の残業代不払があるとして是正勧告が出された場合
 労基署から労基法37条違反の残業代不払があるとして是正勧告が出された場合,本当に労基法37条に定める残業代の不払があるかどうか,あるとすればその額を確認し,不払がある場合は不払額を支払って労基法37条違反の状態を是正しなければなりません。また,残業代不払の原因として,労働時間管理や賃金制度に問題がある場合は,その是正も必要となります。
 したがって,労基署から労基法37条違反の残業代不払があるとして是正勧告が出された場合も,以下の2点の対応が必要となり,労基法37条違反の状態が是正され次第,労基署に報告する必要があります。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

 

社員が合同労組に加入し合同労組から団体交渉の議題として未払残業代の支払を要求された場合
 社員が合同労組に加入し合同労組から団体交渉の議題として未払残業代の支払を要求された場合,団体交渉特有の注意事項はあるものの,基本的には以下の2点を行う必要があることに変わりありません。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

 

労働審判手続が申し立てられて労働審判申立書が裁判所から届いた場合
 労働審判手続が申し立てられて労働審判申立書が裁判所から届いた場合,速やかに弁護士に依頼して充実した答弁書を作成し,第1回労働審判期日に備えなければなりません。労働審判手続特有の注意点はありますが,以下の2点を行う必要があることに変わりありません。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

 

残業代を請求する訴訟を提起され訴状等が裁判所から届いた場合
 残業代を請求する訴訟を提起され訴状等が裁判所から届いた場合,訴訟手続特有の注意点はありますが,以下の2点を行う必要があることに変わりありません。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

 

残業代請求がなされた場合に共通する基本的対応
 残業代請求がなされた場合,以下の2点については,共通して行う必要があります。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること
 ポイントは,②を速やかに行うことです。②を放置したまま①の対応を行った場合,第2,第3の未払残業代請求を受けるリスクがそれまで以上に高くなります。

 

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