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飲食業の残業代請求対応

2017-12-27 | 日記

飲食業の残業代請求対応

なぜ飲食業は残業代請求を受けるリスクが高いのか

 飲食業で残業代請求を受けるリスクが特に高い一番の理由は,飲食業では会社経営者が残業代を支払わなければならないという意識が低いことにあると考えています。飲食業の経営者に残業代を支払わない理由を聞いてみると,
 「飲食業だから。」
 「昔からそういうやり方でやってきて,問題になったことはない。」
 「飲食業で残業代なんて支払ったら,店がつぶれてしまう。」
 「それが嫌なら,転職した方がいい。」
といった程度の理由しかないことが多く,当然ですが,訴訟や労働審判になれば,残業代請求が認められることになります。上記のような認識を持っている飲食業の会社経営者は,これもまた自然なことですが,残業代請求を受けると被害者意識を強く持つ傾向があり,そばにいて大変残念でいたたまれない気持ちにさせられます。
 2番目の理由としては,労働時間が長いため,残業代の金額が高額になりがちな点が挙げられると思います。1日あたりの店舗の営業時間は8時間を超えるのが通常であり,仕込み作業が必要なこともあるため,少なくとも正社員については1日8時間を超えて労働させるケースが多くなっています。また,店舗物件の有効利用の観点から,店舗の休日が全くなかったり,週1日だけしかなかったりすることが多く,完全週休二日制で休日出勤無しのケースはむしろ珍しい部類に入ります。その結果,週40時間(特例措置対象事業場では週44時間)を超えて労働させることが多く,1日8時間超の残業代(時間外割増賃金)のみならず,週40時間(特例措置対象事業場では週44時間)超の残業代(時間外割増賃金)を支払わなければならなくなることは珍しくありません。
 定額(固定)残業代制度を採るなどして,一応の残業代請求対策が採られている会社もありますが,定額(固定)残業代制度に対して裁判所の厳しい判断が相次いでいる現状に対する認識が甘く,制度設計や運用が雑で敗訴リスクが懸念されるケースが数多く見られます。

飲食業の手待時間

 飲食店において,接客担当のスタッフに対し,お客さんがいなかったり自分の担当業務が終わったりしたら休憩していて構わないが,お客さんが入店してきたら自分の担当業務に従事するよう指示している場合は,実際に仕事をしていない時間も使用者から就労の要求があれば直ちに就労しうる態勢で待機している時間(手待時間)であり,労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間とはいえませんので,「休憩時間」(労基法34条)として扱うことはできず,実際に担当業務に従事している時間だけでなく手待時間を含めた時間全体が,労基法に基づく残業代計算の基礎となる労働時間となります。
 休憩時間と手待時間との関係については,「労基法34条所定の休憩時間とは,労働から離れることを保障されている時間をいうものであるところ,原告らと被告との間の雇用契約における右休憩時間の約定は,客が途切れた時などに適宜休憩してもよいというものにすぎず,現に客が来店した際には即時その業務に従事しなければならなかったことからすると,完全に労働から離れることを保障する旨の休憩時間について約定したものということができず,単に手待時間ともいうべき時間があることを休憩時間との名のもとに合意したにすぎないものというべきである。」としたすし処「杉」事件大阪地裁昭和56年3月24日判決が参考になります。

店長等の管理監督者性

 行政解釈は,「店舗の店長等が管理監督者に該当するか否かについては,昭和22年9月13日基発17号,昭和63年3月14日基発150号に基づき,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって,労働時間,休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し,現実の勤務態様も,労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを,職務内容,責任と権限,勤務態様及び賃金等の待遇を踏まえ,総合的に判断することとなる」としています(平成20年9月9日基発第0909001号『多店舗展開する小売業,飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』)。

 平成20年9月9日基発第0909001号『多店舗展開する小売業,飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』は,店舗の店長等の管理監督者性の判断に当たっての特徴的な要素について,以下のとおり述べています。

(1) 職務内容,責任と権限
 店舗に所属する労働者に係る採用,解雇,人事考課及び労働時間の管理は,店舗における労務管理に関する重要な職務であることから,これらの「職務内容,責任と権限」については,次のように判断されるものであること。
① 採用
 店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限が実質的にない場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。
② 解雇
 店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず,実質的にもこれに関与しない場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。
③ 人事考課
 人事考課(昇給,昇格,賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力,業務成績等を評価することをいう。以下同じ。)の制度がある企業において,その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず,実質的にもこれに関与しない場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。
④ 労働時間の管理
 店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。

(2) 勤務態様
 管理監督者は「現実の勤務態様も,労働時間の規制になじまないような立場にある者」であることから,「勤務態様」については,遅刻,早退等に関する取扱い,労働時間に関する裁量及び部下の勤務態様との相違により,次のように判断されるものであること。
① 遅刻,早退等に関する取扱い
 遅刻,早退等により減給の制裁,人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。
 ただし,管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから,これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。
② 労働時間に関する裁量
 営業時間中は店舗に常駐しなければならない,あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように,実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には,管理監督者性を否定する補強要素となる。
③ 部下の勤務態様との相違
 管理監督者としての職務も行うが,会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には,管理監督者性を否定する補強要素となる。

(3) 賃金等の待遇
 管理監督者の判断に当たっては「一般労働者に比し優遇措置が講じられている」などの賃金等の待遇面に留意すべきものであるが,「賃金等の待遇」については,基本給,役職手当等の優遇措置,支払われた賃金の総額及び時間単価により,次のように判断されるものであること。
① 基本給,役職手当等の優遇措置
 基本給,役職手当等の優遇措置が,実際の労働時間数を勘案した場合に,割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく,当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは,管理監督者性を否定する補強要素となる。
② 支払われた賃金の総額
 一年間に支払われた賃金の総額が,勤続年数,業績,専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず,他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には,管理監督者性を否定する補強要素となる。
③ 時間単価
 実態として長時間労働を余儀なくされた結果,時間単価に換算した賃金額において,店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には,管理監督者性を否定する重要な要素となる。
 特に,当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は,管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。

 なお,上記の平成20年9月9日基発第0909001号『多店舗展開する小売業,飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について』は,店舗の店長等の管理監督者性を否定する要素について整理しているものに過ぎず,同通達の否定要素がなければ店舗の店長等の管理監督者性が肯定されるというわけではないことに留意する必要があります。

 

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運送業の残業代請求対応

2017-12-27 | 日記

運送業の残業代請求対応

なぜ運送業は残業代請求を受けるリスクが高いのか

 運送業の運転手は,従来,自営業者意識が濃厚な傾向があり,運転手のそういった傾向にたいして,運送業の会社経営は,残業代を支払わなければならないという意識が希薄な傾向にありました。「1日現場に行って来たら1万○○○○円」といった形で給料を定めている会社が多く,このやり方で特に問題なくやってきたわけですから,多額の残業代請求を受けて大きな損失を被らない限り,なかなか制度を変更することはありませんでした。
 他方で,近年では,残業代請求に関するトラック運転手の意識が急速に変わってきています。おそらく,「○○さんは弁護士に依頼して○百万円も残業代を払ってもらったらしい」などと運転手同士で情報交換しているうちに,自分も残業代が欲しくなる運転手が増えてきたものと思われます。
 運送業では,長距離運転があったり,手待時間が長くなったり,労働時間管理が難しいこと等から,労働時間が長くなりがちで,残業代も多額になる傾向にあります。少額の残業代しか取れないのであれば,会社と争っても仕方がないと考え請求しない運転手もいると思いますが,何百万円といった多額の金銭を取得できるのであれば,会社経営者との関係が悪化したとしても残業代を取得できた方がいいと考える運転手が増えるのもやむを得ないところがあります。何しろ,労基法で認められた正当な権利を行使しているだけなのですから,「会社が悪い」と自分を納得させることができ,良心の呵責も大きくはありません。
 運送業で残業代の請求を受けるリスクが特に高い一番の理由は,運送業の会社経営者が残業代を支払わなければならないという意識が希薄な傾向にあるのに対し,運転手は残業代を請求すれば多額の残業代を取得できると知って残業代を請求する意欲が高まっているという,双方のギャップにあると考えます。実体と形式にギャップがある状態は,残業代請求の格好のターゲットとなります。
 運転手は個人事業主に近い実態があるにもかかわらず,形式的には労基法上の労働者に該当することが多いことから,そのギャップを突かれて多額の残業代の支払を余儀なくされているというのが実情に合致していると思います。

運送業を営む会社が残業代を支給する際の注意点

 運送業を営む会社が残業代を支給する場合,次の2点に注意する必要があります。
  ① 残業代の趣旨を有する手当であること
  ② 残業代とそれ以外の賃金とを明確に判別できるようにすること

 まず,①について,当該手当が残業代の趣旨を有していることが明確でない名目となっている場合,当該手当が残業代の支払として認められない可能性が高まります。一見,残業代には見えないような名目の手当を支給しながら,残業代請求を受けたとたんそれは残業代だと主張しても,なかなか認められません。
 「時間外勤務手当」,「休日勤務手当」,「深夜勤務手当」などといった一見して残業代だということが明らかな名目の手当を支給している場合には,それが残業代ではないといった主張がなされることはほとんどありません。問題となるのは,「業務手当」,「配送手当」,「長距離手当」,「特別手当」などといった,残業代とは読み取れない名目の手当を支給している場合です。労働条件通知書や賃金規程で全額が残業代の趣旨を有することを明記してあれば,労働審判等になってもそれなりに戦えますが,そうでない限り,苦しい戦いを余儀なくされることになります。
 「業務手当」,「配送手当」,「長距離手当」,「特別手当」などといった名称の手当を残業代の趣旨で支払う旨の規定があったとしても,裁判では,実質的には残業代の支払として認められないと判断されるリスクが残ることは否めません。「時間外勤務手当」,「休日勤務手当」,「深夜勤務手当」といった名目の手当であれば,実質的にも残業代の趣旨を有していると認めてもらいやすくなりますので,残業代の趣旨で支払う手当は,「時間外勤務手当」,「休日勤務手当」,「深夜勤務手当」などといった一見して残業代だということが明らかな名目で支給すべきと考えます。

 次に,②についてですが,通常の賃金と残業代に当たる賃金を判別できるようにしておかないと,残業代の支払があったとは認めてもらえません。例えば,単に,残業代込の賃金である旨合意しただけでは,残業代の支払があったとは認めてもらえません。「配送手当には40時間分の時間外手当を含む。」といった定めも,通常の賃金と残業代に当たる賃金を判別するためには方程式を使って計算する必要がありますので,残業代とは認められないリスクが高いと考えます。残業代の趣旨を有する手当は,基本給や何らかの手当てに含むという形で支給するのではなく,項目を明確に分けて金額を明示するとともに,給料日には給与明細書に金額を分けて明示して給与を支給すべきと考えます。

 運送業を営む会社が残業代を支給する場合,まずは,残業代に相当する金額が何円なのか,残業代の金額をはっきりさせる必要があります。その上で,当該手当が実質的にも残業代の趣旨を有する手当であることを明確にするために,その金額が何時間分の時間外割増賃金,深夜割増賃金,休日割増賃金なのかを追加で明記するのであれば,より望ましいと考えます。

業務手当,配送手当,長距離手当等は残業代と認められるのか

 運送業を営む会社においては,日当等の基本給のほかに,業務手当,配送手当,長距離手当等の手当が支払われていることがあります。これらの手当の支払は,その日本語の意味を考えた場合,直ちに残業代の趣旨を有していると評価することはできません。これらの手当が残業代の趣旨を有していると評価されるためには,最低限,賃金規程にその旨明記して周知させておくか,労働条件通知書等に明記して就職時に交付しておくなどの対応が必要となります。「口頭で説明した。」では勝負になりません。
 これらの手当が残業代の趣旨を有していることが客観的証拠からは読み取れない場合は,新たに同意書や確認書等を作成したり,賃金規程を変更したりして,これらの手当が残業代の趣旨を有していることを明確にする必要があります。
 もっとも,業務手当,配送手当,長距離手当といった名称の手当を残業代の趣旨で支払う旨の規定があったとしても,裁判では,実質的には残業代の支払として認められないと判断されるリスクが残ることは否めません。時間外勤務手当,休日勤務手当,深夜勤務手当といった名称であれば,実質的にも残業代の趣旨で支払われる手当と認めてもらいやすくなりますので,残業代の趣旨で支払う手当は,できる限り,時間外勤務手当,休日勤務手当,深夜勤務手当といった名称で支給すべきと考えます。

運送業の労働時間管理のポイント

 運送業を営む会社の特徴は,運転手が事業場を離れて運転業務に従事することが多いため,出社時刻と退社時刻の確認を除けば,現認による勤務状況の確認が事実上不可能な点にあります。したがって,出社時刻と退社時刻を日報などに記録させるのは当然ですが,会社経営者の目の届かない取引先や路上での勤務状況,労働時間の把握が重要となってきます。
 特に問題となりやすいのが,休憩時間の把握です。一般的には,運転手本人に日報等に休憩時間を記載させて把握するのが現実的な対応と思われますが,運転手は出社時刻と退社時刻については日報等に記入してくれるものの,休憩時間については日報等への記入を怠る傾向にあります。おそらく,出社時刻と退社時刻さえ明らかにできれば,自分の勤怠,労働時間の始期と終期が分かることから,休憩時間をいちいち書き込むモチベーションが働かないからだと思われます。
 しかし,運転手に必要な休憩を与えることは,使用者の義務であり,所定の休憩を取得できていない場合には,休憩を取得することができるよう配慮しなければなりません。また,一般に,労働時間は,その日の出社時刻と退社時刻から休憩時間を差し引いて計算されますので,休憩時間を的確に把握できなければ労働時間を的確に把握することもできません。残業代請求訴訟においては,休憩時間を取っていたにもかかわらず,「休憩時間はほとんど取ることができなかった」と主張してくることも珍しくありません。会社経営者は,運転手本人が望んでいるかどうかに関わらず,休憩時間を日報等にしっかり記入させ,労働時間を管理していかなければなりません。

 具体的には,
① 日報等に何時から何時までどこで休憩時間を取得したのかを記入する欄を設けた上で,
② 休憩時間をしっかりと記入するよう粘り強く指導していく
ことになります。
 ①は簡単にできることですので,日報等に休憩時間の記載欄がない場合は,すぐにでも日報等のひな形を作り直しましょう。
 ②は,根気の勝負です。会社経営者が注意指導を億劫がっていたのでは,いつの間にか運転手が休憩時間を記入しなくなってしまうことになりかねません。

運転手が長時間働いてお金を稼ぎたいと言ってきた場合の対応

 運転手の中には,休まずにもっと働いてお金を稼ぎたい,働かせてくれなければ退職して他の会社に就職する,などと言って長時間労働を要求してくる運転手がいます。
 たくさん働きたいという意欲は素晴らしいのですが,使用者には,運転手の健康に配慮する義務がありますので,本人が働きたいといっているからといって,恒常的な長時間労働を容認するわけにはいきません。ある程度までであれば,多めに運転させても構いませんが,度を越して働きたいという希望を押し通そうとする運転手については,断固として長時間労働を拒絶する必要があります。長時間労働を拒絶した結果,転職してしまう運転手も出てくるかもしれませんが,やむを得ない選択と腹をくくるべきでしょう。
 時間外割増賃金は,1日8時間を超えて働かせたときだけでなく,週40時間を超えて働かせた場合にも支払う必要があります。つまり,週6日以上働かせた場合には,6日目は朝から時間外労働となり,時間外割増賃金の支払が必要となる可能性があります。また,休日を定めなかった場合であっても,7日続けて働かせた場合には,7日目の日は法定休日となりますので,休日割増賃金を支払う必要があります。残業代請求対策の観点からも,恒常的な長時間労働は制御する必要があります。

給料日まで生活費がもたないからお金を貸してほしいと言ってくる運転手の対応

 運送業を営む会社においては,給料日まで生活費がもたないからお金を貸してほしいと言ってくる運転手は珍しくありません。従来,このような運転手にお金を貸し付けて,給料から天引きして返してもらうということが多かったようですが,労働問題を主に扱っている会社経営者側の弁護士の目から見て,あまりお勧めできません。
 一般論として「友達にお金を貸してはいけない」,「お金の切れ目は縁の切れ目」とよく言われるのには,それなりの理由があるのです。お金を貸したら利害が対立してしまい,良い関係でいるのは難しくなり,残業代請求などの紛争を誘発します。
 そもそも,お金を貸してほしいと言ってくる時点で,お金にだらしなく,金銭面で信用できないことは明らかです。通常であれば,家族にお金の工面をしてもらったり,銀行からキャッシングするなどして対応することができるはずですし,信販会社や消費者金融からキャッシングすることもできるはずです。消費者金融ですらお金を貸さないような運転手に素人である会社がお金を貸したら,どのような結末になるのかは容易に予測することができます。
 お金を貸していた運転手が退職する際に,貸したお金を返してほしいと伝えたところ,借金を踏み倒す目的で残業代請求を受けたというケースは珍しくありません。これでは,残業代請求を誘発するためにお金を貸していたようなものです。
 法律的な話をすると,賃金の給料からの天引きは,賃金控除の労使協定を締結した上で,給料からの天引きによる返済を合意しておく必要があります。賃金控除の労使協定を締結せずに給料から天引きすることは労基法違反ですし,天引きした金額を支払えと請求された場合には,賃金と相殺することもできず,いったんは支払わなければなりません。いったん賃金を支払った後に,貸金を返してほしいと請求したとしても,無資力になっていれば回収することができません。多額の未払残業代の支払わされた場合には,会社からの支払を原資として貸金を返済してもらえることもありますが,このような結末を会社経営者が望んでいるはずはありません。
 やはり,運転手にお金を貸すのはできる限り避けるべきだと思います。お金を貸してくれないなら退職すると言って本当に転職してしまったとしても,お金にだらしない運転手がいなくなってかえって良かったと割り切るくらいの心構えが必要だと思います。
 もし,どうしてもお金がなくて困っているようだから何とかしてあげたいと思うのであれば,給料日前に給料の一部を前倒しで支給することも考えられます。お金を貸すのではなく,給料を前払いするわけです。もちろん上限は1か月分の給料までです。1か月分の給料では足りないと言ってきた場合は,給料の前払いも,お金を貸すことも断るくらいがちょうどいいと思います。

 

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定額残業代(固定残業代)

2017-12-27 | 日記

定額残業代(固定残業代)

最近の定額残業代(固定残業代)をめぐる状況

 最近の定額残業代(固定残業代)をめぐる状況として,形式的には通常の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とが判別できるように見える事案であっても,定額残業代が割増賃金としての実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有するとは認められない場合は,割増賃金の支払がなされているとは認めない裁判例が増えてきています。定額残業代を導入している会社は,単に判別可能性があればよしとするのではなく,定額残業代が割増賃金としての実質を有しているのか,もう一度よく確認しておく必要性が高まっているといえるでしょう。
 また,求人段階における定額残業代のトラブルも増えている印象です。「求人情報にはそれなりの金額の給料がもらえるかように記載されていたので応募して就職してみたら,残業代込みの給料であり,実際の給料は求人情報から読み取れるものよりもはるかに安いことが後から判明した。残業代込みの給料であることが事前に分かっていたら,ほかの企業に就職していたのに。だまされた。」といったトラブルが起きないよう十分に配慮しなければなりません。こうしたトラブルをなくすため,最近,どのような規制がなされているのかという点についても以下で解説していきます。

定額残業代(固定残業代)の特徴

(1) 割増賃金の計算(原則)
 割増賃金の計算方法は労基法37条・労基則19条で定められており,「通常の賃金の時間単価×時間外・休日・深夜労働時間数×割増率」です。
 要約すると,各割増賃金の計算式は以下のとおりとなります。
  時間外割増賃金=時間外割増賃金の時間単価×時間外労働時間数
  休日割増賃金=休日割増賃金の時間単価×休日労働時間数
  深夜割増賃金=深夜割増賃金の時間単価×深夜労働時間数
 割増賃金の計算式からは,割増賃金額は,時間外・休日・深夜労働時間数と比例する関係にあることが分かります。

(2) 定額残業代を導入した場合の割増賃金の計算
 (1)で述べたとおり,時間外・休日・深夜割増賃金は,原則として,時間外・休日・深夜労働時間数に比例して支払われることが想定されています。定額残業代を導入した場合,定額残業代額に達するまでは,現実に支払われる割増賃金額と時間外・休日・深夜労働時間数との間の比例関係が切断され,支払われるべき割増賃金額が定額残業代額を超えた時点で比例関係が復活することになります。
 定額残業代は労基法37条5項,労基則21条各号に限定列挙された除外賃金には該当しませんが,残業代を基礎に残業代を計算しなければならないのはおかしいですから,割増賃金の実質を有する定額残業代は,割増賃金の算定基礎から除外されることになります。
 また,定額残業代が割増賃金と認められた場合,割増賃金の支払がなされたという弁済の効果も生じます。
 定額残業代の特徴としては,割増賃金算定の基礎賃金から除外されることや,割増賃金の弁済として認められることが強調されるのが一般的ですが,定額残業代が割増賃金の支払として認められるかの判断に当たっては,時間外・休日・深夜割増賃金は,原則として,時間外・休日・深夜労働時間数に比例して支払われることが想定されているのに対し,定額残業代を導入した場合,定額残業代額に達するまでは,現実に支払われる割増賃金額と時間外・休日・深夜労働時間数との間の比例関係が切断され,支払われるべき割増賃金額が定額残業代額を超えた時点で初めて比例関係が復活することになるという定額残業代の特徴の理解が重要となってきます。原則的な計算方法との乖離の程度,比例関係切断の程度が小さい定額残業代であれば割増賃金の支払として認められやすいですが,乖離の程度,比例関係切断の程度が大きければ大きいほど,割増賃金の支払とは認められにくくなります。

定額残業代(固定残業代)に関する最高裁判例

 高知県観光事件最高裁判決とテックジャパン事件最高裁判決の法廷意見の趣旨からは,以下のようにいえると考えています。
① 時間外・休日・深夜労働が行われたことのみを理由として賃金が増額された場合は,増額された賃金の増額部分については,労基法37条の割増賃金の支払として認められる可能性が高い。
② 時間外・休日・深夜労働がされた場合でも賃金が増額されることはなく,通常の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することもできない場合には,定額残業代の支払によって,労基法37条の割増賃金が支払われたとは認められない。

 

定額残業代(固定残業代)の支払が残業代(割増賃金)の支払と認められるための要件の検討

(1) 定額残業代(固定残業代)が割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有していること
 定額残業代が実質的にも割増賃金の性質を有することを要求する裁判例は以前から存在していました。その代表例は,以下の徳島南海タクシー(割増賃金)事件高松高裁平成11年7月19日判決(労判775号15頁)です。本高裁判決に対し,会社側は上告及び上告受理申立をしましたが,最高裁平成11年12月14日第三小法廷決定(労判775号14頁)は上告を棄却し,上告不受理としています。
 「そこで,右賃金体系における時間外・深夜割増賃金に係る合意の有無について検討するに,本件協定書においては,基本給8万5000円,乗務給1万3000円,皆精勤手当5000円及び超勤深夜手当(歩合割増含)5万0600円の合計15万3600円は,固定給である旨が記載され,定額の超勤深夜手当が固定給に含まれることとされている。」
 「そして,控訴人は,右超勤深夜手当は,労働基準法37条の時間外・深夜割増賃金であると主張するところ,文言上は,そのように解するのが自然であり,労使間で,時間外・深夜割増賃金を,定額として支給することに合意したものであれば,その合意は,定額である点で労働基準法37条の趣旨にそぐわないことは否定できないものの,直ちに無効と解すべきものではなく,通常の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分が明確に区別でき,通常の賃金部分から計算した時間外・深夜割増賃金との過不足額が計算できるのであれば,その不足分を使用者は支払えば足りると解する余地がある。」
 「しかしながら,被控訴人らは,本件協定等による賃金には,名目上は定額の超勤深夜手当を含むこととされているが,控訴人の賃金体系は,水揚額に対する歩合制であって,実質的に時間外・深夜割増賃金を含むものとはいえないと主張するところ,なるほど,名目的に定額の割増賃金を固定給に含ませる形の賃金体系がとられているにすぎない場合に,そのことのみをもって,前記のような時間外・深夜割増賃金の計算が可能であるとし,その部分について使用者が割増賃金の支払を免れるとすれば,労働基準法37条の趣旨を没却することとなる。したがって,右のような超勤深夜手当に係る定めは,実質的にも同条の時間外・深夜割増賃金を含める趣旨で合意されたことを要するというべきである。」
 最後の段落の判断内容は,よく認識しておく必要があると思います。判別可能性だけを考えて定額残業代の制度設計をすると,当該定額残業代は割増賃金としての実質を有しないと判断されかねません。
 北港観光バス(賃金減額)事件大阪地裁平成25年4月19日判決は,「ある手当が時間外労働に対する手当として基礎賃金から除外されるか否かは,名称の如何を問わず,実質的に判断されるべきであると解される。」とした上で,「無苦情・無事故手当及び職務手当は,実際に時間外業務を行ったか否かに関わらず支給されること,バス乗務を行った場合にのみ支給され,側乗業務,下車勤務を行った場合には支払われないことからすると,バス乗務という責任ある専門的な職務に従事することの対価として支給される手当であって,時間外労働の対価としての実質を有しないものと認めるのが相当である。」と結論付けています。バス乗務をした時だけ支給される手当であれば,実質的にはバス乗務の対価として払われる賃金であって,割増賃金の実質を有しないと認定されてしまいます。
 労基法37条5項,労基則21条各号に限定列挙された除外賃金に該当するかどうかは,名目ではなく実質で判断されることは周知の通りです。定額残業代は労基法37条5項,労基則21条各号に限定列挙された除外賃金には該当しませんが,割増賃金の実質を有する定額残業代は,割増賃金の算定基礎から除外されることになります。とすれば,定額残業代が割増賃金として認められるかどうかについても,実質的に判断すべきと考えるのが自然だと考えます。
 定額残業代の時間数の明示,清算合意(実態)等は定額残業代が除外賃金とされその支払が割増賃金の弁済として認められるために必須の「要件」ではなく,定額残業代が割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有しているかを判断する際に考慮する「要素」と考えるべきではないでしょうか。
 例えば,時間外割増賃金の時間単価が1500円の労働者の労働契約書に「定額時間外勤務手当として4万5000円支払う。」とだけ書いてあり,それが何時間の時間外労働の対価かは書かれておらず,差額支払の合意の記載もなかったとします。しかし,時間外割増賃金の時間単価が1500円の労働者であれば,4万5000円が30時間分の時間外割増賃金であり,30時間を超えて時間外労働を行えば追加で時間外割増賃金の支払を受けられることは明らかです。
 毎月,「時間外勤務手当」名目で4万5000円を払っていたとしても,何時間分の定額残業代かの明示がなく,差額清算の合意がなければ,時間外割増賃金の支払があったとは認められないのでしょうか。このような場合であっても,時間数を明示してもらわないと労働者が過不足を計算するのは大変だとか,不足が生じた場合は不足額を追加で支払う旨規定させないと事実上追加額の支払を受けられなくなりかねないといった懸念が生じ得ることは承知しています。しかし,「時間外勤務手当」のように時間外割増賃金の趣旨であることが明らかな名目で金額が明示されて支給され,客観的に割増賃金の過不足が計算できる定額残業代のすべてが定額残業代の支払として認められないという見解は取りにくいと考えます。
 もちろん,定額残業代が何時間分か,差額清算の合意や実態があるかといった事情を軽視しているわけではありません。これらは独立の「要件」ではなく,定額残業代が割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有しているかを判断するための重要な「要素」と考えているというに過ぎません。時間外割増賃金は,「時間外割増賃金の時間単価×時間外労働時間数」で計算されるのですから,想定される時間外労働時間数に対応した金額となっているか,想定される時間外労働時間数を超えたら差額が清算されているかは,当該定額残業代が時間外割増賃金としての実質を有するかを判断する上で重要な考慮要素だと考えます。
 定額残業代の時間数の明示,清算合意(実態)等を「要件」と考えるから,判断が硬直的になり,その法的根拠の説明に苦慮することになるのです。ちょうど,以前は整理解雇が認められるための「要件」(「整理解雇の四要件」)と考えられていたものが,解雇権濫用(労契法16条)の有無を判断する際に考慮する「要素」(「整理解雇の四要素」)と考えられるようになったのと同じように,定額残業代の時間数の明示,清算合意(実態)等を,定額残業代が割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有しているかを判断する際に考慮する「要素」と考えるべきだと思います。
 そして,原則的な計算方法との乖離の程度,比例関係切断の程度が小さい定額残業代であれば割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有していると認められやすく,乖離の程度,比例関係切断の程度が大きければ大きいほど,割増賃金の実質を有しているとは認められにくくなると考えています。

(2) 通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができること
 高知県観光事件最高裁判決やテックジャパン事件最高裁判決からすれば,通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることは,定額残業代が除外賃金とされ,割増賃金の支払として認められるための最低限の要件といえると思います。この要件を満たさないようでは,(1)で述べた割増賃金の実質を有するとはいえないと考えることもできるかもしれません。実務上問題となるのは,何をもって判別可能性があるといえるかということです。
 ファニメディック事件東京地裁平成25年7月23日判決のように,「基本給に時間外労働手当が含まれると認められるためには,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が判別出来ることが必要であるところ(最高裁平成6年6月13日第二小法廷判決,裁判集民事172号673頁参照),その趣旨は,時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が労基法所定の方法で計算した額を上回っているか否かについて,労働者が確認できるようにすることにあると解される。」と考えれば,割増賃金の過不足を「労働者」が確認できなければならないのですから,判別可能性が認められるためには厳格な要件を満たす必要があるという結論に傾きがちです。
 テックジャパン事件最高裁判決櫻井補足意見は,「このように,使用者が割増の残業手当を支払ったか否かは,罰則が適用されるか否かを判断する根拠となるものであるため,時間外労働の時間数及びそれに対して支払われた残業手当の額が明確に示されていることを法は要請しているといわなければならない。そのような法の規定を踏まえ,法廷意見が引用する最高裁平成6年6月13日判決は,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別し得ることが必要である旨を判示したものである。」「便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが,その場合は,その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないであろう。さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる。」と述べています。
 しかし,ファニメディック事件判決や櫻井補足意見のように判別可能性の要件を厳格に考えなければならない理由はないのではないでしょうか。何時間分の定額残業代なのかとか,清算合意(実態)があるのかといった実質的な事情は,(1)の定額残業代が割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有しているかを検討するに当たって考慮すれば足りると考えます。
 ことぶき事件最高裁平成21年12月18日第二小法廷判決(裁判集民232号825頁,裁判所ウェブサイト,労判1000号5頁)においても,「管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約,就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には,その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はない」とされており,深夜割増賃金の支払があったと認められるための「要件」として,深夜労働時間数の明示や差額清算の合意を要求していません。主戦場は「深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合」該当するかどうかであって,判別可能性との関係では,「一定額の」というだけで十分と考えているように思われます。
 判別可能性との関係では,労基法37条の趣旨を医療法人一心会事件大阪地裁平成27年1月29日判決のように「労基法37条の趣旨は,割増賃金等を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにある」と考え,「割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は,同法同条に違反するものとして,無効と解するのが相当である。」と結論付けたり,「通常の労働時間の賃金に当たる部分から当該手当の額が労基法所定の時間外割増賃金の額を下回らないかどうかが判断し得ることが必要であると解される。」(泉レストラン事件東京地裁平成26年8月26日判決)という扱いにすれば十分と考えます。

(3) その他の検討事項
 定額残業代の名目が「時間外勤務手当」等,割増賃金であることを推認させるものであればいいのですが,「営業手当」等,その名目から割増賃金あるとは推認できないものについては,賃金規程に当該手当が割増賃金である旨明記して周知させたり,労働契約書にその旨明示して合意したりしておかなければ,定額残業代が割増賃金であると認めてもらえないのが通常です。
 中小企業などでは,定額残業代について「口頭」で説明したというだけで十分な客観的証拠が存在しない事例が散見されます。また,定額残業代について定めた賃金規程を労働者が確認できるようになっていない(周知させていない)事案も珍しくありません。これらの場合は,上記(1)や(2)の要件を検討するまでもなく,会社側の主張は門前払いとなってしまいます。
 労働協約で定額残業代を定めている場合は,組合員についてはその内容が労働契約の内容になります。労働協約で定めていれば個別合意などと比べて定額残業代と認められやすいかという論点があります。労使自治で決めたことですから,裁判所にも労使合意の内容を尊重して欲しいところですが,労基法37条は強行法規ですから,労基法37条に違反するような内容であればその効力は否定されざるを得ないと思います。

定額残業代(固定残業代)の適切な運用の検討

(1) 定額残業代を導入する目的の検討
 定額残業代の導入する前に,まず,「何のために定額残業代を導入するのか」を検討する必要があります。
 一般的に,定額残業代を導入すればいちいち残業代を計算する事務処理の手間を省くことができるかのようなことが言われることがあります。しかし,定額残業代を導入したところで労働時間の把握はしっかりしなければなりませんし,定額残業代で支払うべき割増賃金が足りてるのかどうかを毎月計算して確認しなければなりません。定額残業代を支払うだけでその過不足を確認せずに放置して追及を受けたら不足額を追加で支払えばいいや,というのなら楽かもしれませんが,真面目に過不足の確認をした場合,残業代計算の手間を省くという目的を達成することはできません。定額残業代を導入する目的として,残業代を計算する事務処理の手間を省くことができることを期待できる場面は,限定的なのではないかと思います。
 「残業すれば残業代がもらえて給料が増える仕組みだから,労働者に対し残業するモチベーションを与えることになってしまっている。定額残業代を導入して,残業しても現実に支払われる残業代が増えない仕組みにすれば,残業を抑制することができる。」という考えが存在します。確かに,定額残業代の導入により無駄な残業をする労働者が減った職場もあるようですが,必ずしも良い結果につながるとはいえません。残業させるかどうかを決めるのは使用者の権限なのですから,残業時間を抑制したければ残業させずに帰せば足りるはずです。定額残業代を導入する目的として,残業抑制を強調することは適切でないと思います。
 残業時間の長さにかかわらず一定額の残業代を保証することにより労働者の賃金額を魅力あるものとし,労働者を惹きつけることで労働力を確保するという目的で定額残業代が導入されることがあります。「基本給20万円で,残業時間に応じて1分単位で残業代を支払う」という労働条件と「基本給20万円と定額残業代5万円の合計25万円は残業の有無・長さにかかわらず保証し,残業代の額が5万円を超えた場合は不足額を追加で支払う」という労働条件が提示された場合,労働者にとってどちらが魅力的でしょうか。残業の有無・長さにかかわらず5万円の定額残業代が保証される分,後者のほうが魅力的だと思います。後者の労働条件の労働者に関し定額残業代を廃止し,基本給20万円だけが保証されることとし,現実の残業時間に応じて1分単位で残業代を支給することにした場合,当該労働者にとっては労働条件の不利益変更となります。定額残業代をけしからんと言っている人でも,定額残業代を廃止するにあたり,単に定額残業代5万円をなくして基本給20万円を基礎賃金として実労働時間に応じて1分単位で残業代を支払えとは言ってきません。定額残業代相当額5万円を基本給20万円に加算して,基本給を25万に増額してくれと要求してくるケースがほとんどです。
 求人・採用に当たり,使用者が労働者に対して十分な説明を行い,納得した上で求人に応募した労働者が就職を決めたのであれば,一概に定額残業代が問題であるとはいえないと思います。しかし,求人情報の内容とその後合意された労働契約書等に記載された労働条件が相違する場合,原則として労働契約書等に記載された労働条件が労働契約の内容となることを悪用し,定額残業代込みで25万円なのに,基本給等の残業代以外の賃金が25万円と受け取られかねない求人情報を出して人を集める会社が出てきたら,どうなってしまうでしょうか。労働者が安心して就職活動ができなくなってしまうことは明らかです。
 こうしたトラブルを防止するため,厚労省は平成26年4月14日付けで「求人票における固定残業代等の適切な記入の徹底について」という文書を出し,求人票に定額残業代に関し不適切な記載がなされないよう注意を促しています。
 また,「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主,職業紹介事業者等その他の関係者が適切に対処するための指針」(平成二十七年厚生労働省告示第四百六号)においても,「募集に当たって遵守すべき事項」の一つとして,固定残業代に関し,「青少年が応募する可能性のある募集又は求人について,一定時間分の時間外労働,休日労働及び深夜労働に対する割増賃金を定額で支払うこととする労働契約を締結する仕組みを採用する場合は,名称のいかんにかかわらず,一定時間分の時間外労働,休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金(以下このヘにおいて「固定残業代」という。)に係る計算方法(固定残業代の算定の基礎として設定する労働時間数(以下このヘにおいて「固定残業時間」という。)及び金額を明らかにするものに限る。),固定残業代を除外した基本給の額,固定残業時間を超える時間外労働,休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うこと等を明示すること。」と規定しています。
 公益法人全国求人情報協会は,加盟している企業に対し,①固定残業代の額,②その金額に充当する労働時間数,③固定残業代を超える労働を行った場合は追加支給する旨の記載を要請しています。
 平成28年6月3日付けで「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会報告書」が公表され,厚生労働省のウェブサイトにアップされています。同報告書の「求人に際して明示される労働条件等の適正化」の項目において,「労働条件等明示等のルールについて,固定残業代の明示等指針の充実,虚偽の条件を職業紹介事業者等に対し呈示した求人者に係る罰則の整備など,必要な強化を図ることが適当である。」と述べられています。
 残業時間の長さにかかわらず一定額の残業代を保証することにより労働者の賃金額を魅力あるものとし,労働者を惹きつけることで労働力を確保するという目的で定額残業代をすることが問題というわけではないと考えます。ただ,現在,求人の場面における定額残業代に関するトラブル防止が重要な課題となっていますので,この点に対する十分な配慮が必要であることに留意する必要があります。

(2) 時間外・休日・深夜労働時間数の実態調査
 定額残業代を導入する目的を検討した結果,定額残業代の導入が決まった場合,時間外・休日・深夜労働時間数の実態調査を行います。時間外・休日・深夜労働時間数の実態と定額残業代の時間数のかい離が大きいと,定額残業代が割増賃金の実質を有するかという論点において,これを否定する方向に働く一要素となります。他方,実態調査を行い,その結果に基づいて定額残業代の時間数を設定した場合,時間外・休日・深夜労働時間数に応じて金額が定まるという割増賃金の性質に合致しますので,割増賃金の実質を有すると判断されやすい方向に作用します。

(3) 定額残業代として支払う時間外・休日・深夜労働時間数の決定
 実態調査が終わったら,調査結果に基いて定額残業代として支払う時間外・休日・深夜労働時間数を決定します。
 定額残業代の時間数の設定に関し,「何時間分の定額残業代までなら安全ですか。」という質問を受けることがあります。裁判例の中には限度基準を参照して,1か月45時間を基準にしているかのようなものも見受けられますが,理論的には何時間分の定額残業代までなら安全といえる基準は存在しません。
 時間外・休日・深夜割増賃金は,原則として,時間外・休日・深夜労働時間数に比例して支払われることが想定されているのに対し,定額残業代を導入した場合,定額残業代額に達するまでは,現実に支払われる割増賃金額と時間外・休日・深夜労働時間数との間の比例関係が切断され,支払われるべき割増賃金額が定額残業代額を超えた時点で比例関係が復活することになります。定額残業代が割増賃金の実質を有するかは,原則的な計算方法との乖離の程度,比例関係切断の程度が大きく影響してきます。原則的な計算方法との乖離の程度,比例関係切断の程度が小さい定額残業代であれば割増賃金の支払として認められやすいですが,乖離の程度,比例関係切断の程度が大きければ大きいほど,割増賃金の支払とは認められにくくなります。定額残業代の時間数が長時間になればなるほど,原則的な計算方法との乖離の程度,比例関係切断の程度が大きくなりますので,割増賃金の実質を有しないと判断されるリスクが次第に高まっていくことになります。

(4) 定額残業代として支払う金額の計算
 定額残業代として支払う時間外・休日・深夜労働時間数を決定したら,定額残業代として支払う金額を計算します。
 仮に,時間外割増賃金の時間単価が1937円の労働者に関し,30時間分の時間外割増賃金を定額残業代とするのであれば,1937円×30時間=5万8110円を「時間外勤務手当」等の名目で定額残業代として支給します。
 上記事例では,定額残業代の金額に端数が生じていますが,敢えて,端数を残したままの定額残業代とすることが多いです。なぜなら,労基法・労基法施行規則に基づいて計算した時間外割増賃金の時間単価に,実態調査を踏まえて決定した時間外労働時間数を乗じて計算した金額に1円単位まで一致している「時間外勤務手当」であれば,時間外割増賃金の実質を有していると推認できるからです。計算式を示すなどすれば,端数処理して切りのいい金額にしたら直ちにダメというわけではないのですが,端数を残したままの定額残業代の方が時間外割増賃金の実質を有していることの立証がしやすいことは明らかです。
 このような定額残業代の設定方法とは逆に,まずは定額残業代の金額を決めてから,何時間分の割増賃金に相当するのかを後から計算して,時間数を明示するやり方がよく見られます。例えば,時間外割増賃金の時間単価が1937円の労働者に関し,定額残業代の金額を6万円に決めてから時間単価の1937円で除し,6万円が約30.98時間分の時間外割増賃金相当額であることを確認します。そして,6万円の定額残業代を「労働者に有利に」30時間分の定額残業代である旨,明記するわけです。このやり方は,直ちに労基法37条に違反するとはいえないかもしれませんが,いかにも「残業代請求対策」を行っているように見えがちです。また,定額残業代の金額が,時間外割増賃金の時間単価に想定される時間外労働時間を乗じた金額と一致しませんから,時間外割増賃金の実質を有しないと認められやすくなる方向に作用することになります。このように,定額残業代を切りの良い金額とする場合は,最低限,計算式を明示する等して,あくまでも時間外割増賃金の時間単価に想定される時間外労働時間を乗じて計算したものの端数を調整したに過ぎないことが客観的証拠から分かるようにしておくことをお勧めします。

(5) 就業規則(賃金規程)の整備
 実施しようとする定額残業代の内容が確定したら,定額残業代導入の経緯や決定した事項を反映する就業規則(賃金規程)を整備します。定額残業代で不足がある場合に不足額を追加で支払うのは当然のことですから,定額残業代が割増賃金の実質を有することを明らかにするためにも,就業 規則にもその旨,明記するようにして下さい。
 就業規則変更の際の労働者代表の選出方法に瑕疵があったり,就業規則の周知がなされていなかったりする事例が散見されます。特に,就業規則の周知を欠いている場合は,就業規則の規定を根拠として定額残業代の支払により割増賃金の支払がなされたとは認められなくなることには注意が必要です。

(6) 求人情報,労働条件通知書,給与明細書における定額残業代の明示
 求人情報,労働条件通知書には,定額残業代の金額,時間数,不足額がある場合には不足額を追加で支払うことなどを可能な範囲で記載します。
 給与明細書には,「時間外勤務手当」等,名称自体から時間外・休日・深夜割増賃金の支払であることが推認できる名称で,定額残業代の金額が明確に分かる形で定額残業代を記載します。時間外・休日・深夜労働時間数も明記し,定額残業代で不足額がある場合には不足額についても金額を明示して記載します。

(7) 不足額の清算
 定額残業代で不足額がある場合には,定額残業代が割増賃金の実質を有することを明らかにするためにも,不足額について忘れずに支給して下さい。

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所
会社経営者のための残業代請求対応
会社経営者のための労働審判対応

 


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賃金制度の是正

2017-12-27 | 日記

賃金制度の是正

残業代の適切な支払

 タイムカード等を基礎として労働時間を適正に把握し,労基法37条・労基法施行規則(就業規則等で上乗せ条件が定められている場合はその定め)に基づき適切に計算した残業代を支払うようにしましょう。
 (見直し後の)残業時間がそれほど長くないなどの理由から,通常の賃金に残業代を加算した賃金額が過大でない場合は,賃金制度の是正としては,残業代を適切に支払えば足ります。

賃金減額

 残業時間が長い職場で残業代込みのつもりで賃金を支払っていたところ,残業代は従来の賃金とは別に支払わなければならないと判断されたため,賃金制度を是正せざるを得なくなったような場合は,当該賃金に上乗せして残業代を支払ったのでは賃金額が過大となることがあります。そのような職場で,手取額を従来と同程度になるように調整しつつ,残業代を1分単位で計算して支払おうとした場合,通常の賃金を減額して対処せざるを得なくなります。
 「元々,残業代込みの賃金だったものを,残業代を1分単位で支払う運用に変更したに過ぎないし,手取額はほとんど変わらない(従来と比べて増えることすらある)のだから,基本給等が減額されているように見えたとしてもこれは賃金減額(労働条件の不利益変更)ではない,仮に賃金減額(労働条件の不利益変更)と評価されることがあったとしても労働者の不利益の程度は低い。」といった主張は,なかなか認めてもらえません。
 賃金減額に対する労働者の同意があったというためには,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるだけでは足りず,労働者の自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する必要があります。労働者の同意がない場合に,就業規則の変更で賃金を減額しようとした場合,就業規則の不利益変更が有効となるためには,作成又は変更された就業規則の条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである必要があります。
 有効に賃金減額を行うことはハードルが高いと言わざるを得えませんが,実務対応としては,労働者に十分な情報提供・説明を行い,経過措置や代償措置を講じるなどして納得してもらった上で同意書を取得するようにすれば,訴訟リスクを相当程度下げることができるものと思われます。

【山梨県民信用組合事件最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決】
 「労働契約の内容である労働条件は,労働者と使用者との個別の合意によって変更することができるものであり,このことは,就業規則に定められている労働条件を労働者の不利益に変更する場合であっても,その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き,異なるものではないと解される(労働契約法8条,9条本文参照)。もっとも,使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても,労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており,自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば,当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく,当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである。そうすると,就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきものと解するのが相当である」

【大曲市農協事件最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決】
 「当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによつて労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとつて重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。」

定額(固定)残業代の導入

 賃金の内訳を変更するにあたり,定額(固定)残業代を導入して手取額が減らない(増える)ようにすれば,書面での同意を取得しやすく,事実上,紛争が起きにくくなります。
 従 来:基本給30万円(残業代込みのつもりだが判別可能性なし)
     ↓
 変更後:基本給25万円,定額時間外勤務手当5万781円(時間外労働26時間分)
     合計30万781円
 ただし,この事例では,通常の賃金である基本給が30万円から25万円に減額されており,労働条件の不利益変更であることは明らかです。従来の基本給30万円のまま26時間分の時間外割増賃金を支払おうとすれば,合計36万円を超える賃金を支払わなければならなかった可能性が高いです。
 訴訟等で賃金内訳変更の効力が争われた場合,「(2) 賃金減額」で検討した問題がここでも問題となります。近年,定額(固定)残業代の効力が労働条件の不利益変更の問題として争われる事例が増加しています。

【ジャパンレンタカー事件名古屋高裁平成29年5月18日判決】
「(3) 基礎時給の額及び固定残業代の有無
ア 前記(1)ア(ア)のとおり,平成22年ころから平成24年ころまでの控訴人と被控訴人間の雇用契約書では,就業時間は午後20時より午前8時までとされ,休憩時間については記載がなかったこと,賃金は日給1万2000円とされていたことが認められる。
 上記雇用契約書の記載によれば,割増賃金算定における基礎時給の認定においては,休憩時間は0時間と扱うほかなく,1日8時間を超える合意は無効であるから,所定労働時間は8時間として計算することになる。また,控訴人の就業規則等に上記日給1万2000円の中に時間外割増賃金分及び深夜早朝割増賃金分(以下「固定残業代」という。)が含まれていることはうかがえないから,その全額が基礎賃金となる。
 なお,上記雇用契約書には,週末手当1000円の記載があるが,支給要件が明確でないので,割増賃金算定における基礎賃金の対象とはしない。
 したがって,割増賃金算定における基礎時給は1500円(1万2000円÷8時間)となる。
イ 前記(1)ア(イ)のとおり,平成25年4月21日以降の控訴人と被控訴人間の雇用契約書では,就業時間は20時から翌5時まで(うち休憩時間1時間)とされ,賃金については,所定労働時間分の賃金が6400円(800円×8時間),深夜割増賃金として1200円(800円×0.25×6時間)が,時間外割増賃金として3000円(800円×125×3時間)が支給される旨の記載があることが認められる。
 上記雇用契約書によれば,1万2000円の中に固定残業代が含まれていることになり,また,割増賃金算定における基礎時給は800円ということになる。したがって,前記アの雇用条件と比較すると被控訴人の賃金に係る労働条件の切り下げに当り,被控訴人に不利益となる変更である。
 しかし,前記1(2)認定の更新期間・更新手続等によれば,平成24年当時の段階では,控訴人と被控訴人間の有期労働契約は,期間の定めのない労働契約とほぼ同視できるものであったと認められる。そうすると,前記アの労働条件を上記のとおり不利益に変更するためには,被控訴人の承諾があることを要する(労働契約法9条)。
 上記変更後の労働条件の内容に照らせば,上記変更は,基本給を減じ,その減額分を労働基準法及び同法施行規則の除外賃金とし,又は割増賃金とすることによって,残業代計算の基礎となる賃金の額を減ずることに主たる目的があったものと認めるのが相当であるところ,前記(1)ア(ウ)のとおり,控訴人がアルバイト従業員に対しそのような目的自体の合理性や必要性について詳細な説明をしていないことからすると,形式的に被控訴人が同意した旨の雇用契約書が作成されているとしても,その同意が被控訴人の自由な意思に基づくものであると認めることはできない。
 したがって,上記変更はその効力を認めることができないから,平成25年4月21日以降も被控訴人の割増賃金算定における基礎時給は1500円というべきである。また,上記変更後に割増賃金とされた部分については,上記説示によればこれを有効な割増賃金の支払とみることはできない。
 控訴人は,当審において,上記変更は有効であるとして縷々主張するが,採用することができない。」

【東京地裁平成29年5月31日判決】
「イ 就業規則の不利益変更
 上記(2)のとおり,サービス手当及びLD手当の全額が割増賃金の対価としての性格を有すると認められないことからすると,平成27年10月までの原告の賃金総額と同年11月以降の原告の賃金総額は,いずれも26万8900円と同一の金額であるものの,同年11月以降の賃金には,42時間の時間外労働に対する割増賃金の対価も含まれている点で,原告の賃金は不利益に変更されたことになる。使用者が就業規則(賃金規定)の変更によって,労働契約の内容を労働者の不利益に変更するためには,労働者の同意を得るか(労契法9条),就業規則の変更が,「労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものである」(労契法10条)ことが必要である。
 しかしながら,原告が,新賃金規定に賃金規定を変更する方法により,労働条件を不利益に変更することに合意したものと認めることができないのは上記アで判示したとおりである。また,被告Y1社は,旧賃金規定を新賃金規定に改定した理由について,サービス手当やLD手当が時間外労働に対する割増賃金の対価である趣旨を明確にするためであると主張するが,旧賃金規定におけるサービス手当やLD手当が時間外労働に対する割増賃金の対価であると認めることができないのは上記(2)のとおりである。そして,新賃金規定によって,42時間分の時間外労働の対価が従前の賃金総額に含まれることになることは,労働者にとって不利益の程度が大きいというべきである。しかるに,被告Y1社は,新賃金規定の導入に当たり,経過措置や代償措置を何ら講じておらず,工場長が本件改定を十分理解していないなど労働者に対する説明手続も不十分であったことが認められる(証人D・27頁及び28頁)。他に,新賃金規定が合理的なものであると認めるに足りる的確な主張立証はない。
 したがって,新賃金規定は,原告との間では,就業規則の不利益変更として無効であると言わざるを得ないから,上記固定残業代が42時間分の時間外労働の対価であると認めることはできない。」

 

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労働時間管理の是正

2017-12-27 | 日記

労働時間管理の是正

必要のない残業をやめさせて帰らせる

 残業の必要性をよく調べてみたところ,従来の残業時間ほど残業させる必要性はないことが判明することは珍しくありません。
 使用者に残業させるかどうかを決める権限があるのであって,労働者に残業するかどうかを決める権限があるわけではありません。残業を指示していないのに残業をしている労働者がいることに気付いたら,事情を聴くなどして,残業をやめさせて帰宅させるか,残業を続けさせて残業代を支払うかを判断しなければなりません。
 残業させる必要性が低いのであれば,早く帰るよう声がけするだけでなく,現実に退勤させましょう。残業をやめさせずに放置すると黙示の残業命令の存在が認定されるのが通常であり,残業命令に基づかない残業であることを理由として残業代の支払義務を免れられるケースは限定されます。(労働審判や訴訟における主張はともかく)事前対応としては,現実に退勤させることで対応すべきであって,残業命令に基づかない残業であることを理由として残業代の支払義務を免れることを期待すべきではありません。
 「定額(固定)残業代を導入すれば,残業代を稼ぐために残業する社員が減るから,無駄な残業を抑制することができる」という発想は本筋ではありません。使用者に残業させるかどうかを決める権限があるのであって,労働者に残業するかどうかを決める権限はないのです。
 【医療法人社団康心会事件最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決】
 「労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される」

必要のない残業をしていないかを確認する

 タイムカード,ICカード,日報等を基礎として労働時間を管理し,残業する必要がないと思われるのに残業していることがタイムカード等から読み取れる場合は,残業が必要な理由の説明を求めるようにしましょう。
 タイムカード等を確認すれば,残業していることが容易に分かるにもかかわらず残業を放置し,未払残業代の請求を受けた後になって必要のない残業だから残業していた時間は労働時間ではないと主張しても,なかなか認められません。

仕事をしていない在社時間を抑制する

 始業時刻前・終業時刻後は,その時間に仕事をする必要がある場合を除き,社内の仕事をするスペースにいることを禁止するようにしましょう。
 在社時間と労働時間は異なる概念であり,在社していたからといってそれが直ちに労働時間と評価されるものではありません。しかし,労働者が社内の仕事をするスペースにいる場合,仕事をしている可能性が高いと推定され,使用者側が有効な反証ができない限り,労働時間と評価されるリスクを生じさせることになります。

残業禁止命令

 残業をしないよう強く注意指導しても指示に従わない場合は,書面で残業禁止命令を出さなければならないこともあります。書面で残業禁止命令を出したにもかかわらず,命令に反して残業した場合は,残業時間として認められないのが原則です。
 残業禁止命令を出したにもかかわらず,残業時間として認められてしまう事案としては,事実上,残業を容認していたような場合や,不当労働行為に当たるような場合くらいです。書面で残業禁止命令を出すくらいのことまでしていれば,無駄な残業は解消することがほとんどです。

残業の事前許可制

 残業する場合には,上司に申告してその決裁を受けなければならない旨就業規則等に定め,実際に,残業の事前許可なく残業することを許さない運用がなされているのであれば,不必要な残業時間の抑制になります。
 しかし,就業規則に残業の事前許可制を定めて周知させたとしても,実際には事前許可なく残業しているのを上司が知りつつ放置しているような職場の場合は,黙示の残業命令により残業させたと認定され,残業代の支払を余儀なくされることになります。
 残業の事前許可制を採用した場合,事前許可なく残業している従業員を見つけたら,現実に残業を止めさせて帰らせるか,許可申請させて残業を許可するかを判断しなければなりません。
 就業規則を整備しても,実態を伴わなければ,残業代請求対策として不十分であり,不必要な残業時間の抑制にも想定外の残業代請求対策にもなりません。
 残業の事前許可制を採用した場合における典型的な失敗事例は,残業の事前許可なく残業しているのを見かけたものの,事前許可がない残業だから残業代を支払わなくてもいいと思い込んで残業を放置していたところ,残業代請求を受けるケースです。事前許可なく残業していることを上司が知りながら放置しているような場合は,黙示の残業命令があったと認定され,残業時間と評価される可能性が高くなります。

 

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労働時間(例外)

2017-12-27 | 日記

労働時間(例外)

変形労働時間制

 労基法32条の法定労働時間よりも労働時間が多い週・日もあれば,少ない週・日もある場合には,変形労働時間制を採用することによって,時間外労働時間数を抑制することができます。
 他方,恒常的に法定労働時間を超える残業がある場合には,変形労働時間制を採用しても残業時間数を抑制することはできません。
 変形労働時間制を採用する場合には,労使協定の締結・届出等や,各日の所定労働時間の特定が必要となります。所定の手続を怠った場合は,変形労働時間制は無効となり,原則どおり労基法32条の法定労働時間が適用されることになります。

フレックスタイム制

 フレックスタイム制は,労使協定の定める1か月などの単位期間について,一定の時間数労働することを条件に,始業・終業時刻を個々の労働者が自ら決定する労働時間制です。
 フレックスタイム制では,始業・終業時刻を自由に選択できる時間帯(フレキシブルタイム)と,必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)を定めるのが一般的です。
 フレックスタイム制で残業代が生じるのは,清算期間内における実労働時間が清算期間における法定労働時間の総枠を超えた場合です。

事業場外労働のみなし労働時間制

 事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合,通常は所定労働時間内(所定労働時間が8時間の場合は,8時間以内)で当該業務が終わる場合は,所定労働時間(8時間)労働したものとみなされます。通常は所定労働時間を超えて(例えば,10時間)労働することが必要となる場合については,所定労働時間ではなく,当該業務の遂行に通常必要とされる時間(10時間)労働したものとみなされます。法定休日に労働させれば休日割増賃金の支払が,深夜に労働させれば深夜割増賃金の支払が必要となることに変わりはありません。
 「労働時間を算定し難いとき」という要件を満たすかが議論されることが多いですが,事業場外労働のみなし労働時間制の要件を満たしたとしても,通常所定労働時間を超えて(例えば,10時間)労働することが必要となる場合には,当該業務の遂行に通常必要とされる時間(10時間)労働したものとみなされますので,議論の実益がある場面は,当該業務の遂行に通常必要とされる時間を超えて労働させたような事例に限定されます。

裁量労働制

 労基法上の裁量労働制には専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。いずれも労基法で定める要件を満たせば,実労働時間にかかわらず,みなし労働時間が1日の労働時間となるため,時間外割増賃金の請求に対し抗弁となり得ます。法定休日に労働させれば休日割増賃金の支払が,深夜に労働させれば深夜割増賃金の支払が必要となることに変わりはありません。
 いずれも適用対象業務が限定されており,労基法所定の要件を満たさなければ効力が生じません。

管理監督者

 労基法上の管理監督者に該当する場合は,労働時間規制の対象から除外されるため,時間外・休日に労働させても時間外・休日割増賃金を支払う義務はなく,深夜労働時間を把握して,深夜割増賃金を支払えば足ります。
 管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,
① 職務の内容,権限及び責任の程度
② 実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度
③ 待遇の内容,程度
等の要素を総合的に考慮して,判断されます。

 管理監督者性に関する裁判例としては,店長の管理監督者性を否定した日本マクドナルド事件東京地裁平成20年1月28日判決が著名ではありますが,『労働事件事実認定重要判決50選』146頁以下において,西村康一郎裁判官(東京地裁民事19部)は,「総店長」の管理監督者性を肯定した高裁レベルの判決であることぶき事件東京高裁平成20年11月11日判決を中心に検討しています。

【『労働事件事実認定重要判決50選』158頁(西村康一郎裁判官(東京地裁民事19部))】
 「管理監督者性が認められた裁判例は少ないのが実情であるが,肯定例の内容をつぶさにみると,いずれもさほど特異な例とは思われないし,行政通達で具体化された内容をみても,同様の印象を抱く。使用者側としては,どうせ管理監督者性は認められないから,などと過度に萎縮する必要はないものと思われるし,仮に管理監督者性が認められないとしても,裁判所に対し,企業の中での当該管理職の立ち位置を具体的に示し,その待遇としても十分なものが与えられていることを示すことは,付加金支払義務の関係においても意味のあることと思われる。使用者側としては,その意味で,企業内での当該管理職の序列なども十分立証して,裁判所の説得を試みるべきであろう。」

労基法上の労働者性

 割増賃金の支払について定めた労基法37条が適用されるのは,労基法9条の「労働者」ですから,労基法上の労働者に該当しない個人事業主等は,労基法37条に基づき残業代を請求することはできません。他方,契約形式が請負や業務委託だったとしても,注文主等と「個人事業主」等との間に使用従属性が認められれば,「個人事業主」等は労基法上の労働者と評価され,労基法37条に基づき残業代を請求することができることになります。
  労基法上の労働者に該当するかどうかは,労基法上の労働者性に関する裁判例のほか,昭和60年12月19日付け労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」を参考に,仕事の依頼,業務の従事の指示等に対する諾否の自由の有無,業務遂行上の指揮監督の有無(業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無等),拘束性の有無,代替性の有無,報酬の労務対償性,事業者性の有無(機械,器具の負担関係,報酬の額等),専属性の程度等の要素を考慮して判断することが多いです。

 

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労働時間

2017-12-27 | 日記

労働時間

労基法上の労働時間

 労基法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい(労基法32条),労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めの如何により決定されるべきものではありません。
 労働者が,就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは,当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても,当該行為は,特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものである限り,労基法上の労働時間に該当します。

労働時間の認定

 労働時間は,原則として,「一日の労働時間の開始時刻から終了時刻までの拘束時間-休憩時間」で,一日ごとに認定されます。
 タイムカード,ICカード等の客観的な記録がある場合は,原則としてタイムカード,ICカード等の客観的な記録を基礎として,一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間が認定されます。自己申告制を採用し,日報等が存在する場合も,原則として日報等を基礎として一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間が認定されます。
 ただし,タイムカード,ICカード等の客観的な記録や自己申告の内容が,実際の一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間と大きく乖離している場合には,これらを基礎として一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間を認定することはできません。必要に応じて実態調査を実施し,所要の労働時間の補正をするなどして,適正に実際の一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間を管理しましょう。
 タイムカード,ICカード等の客観的な記録も自己申告された日報等も存在しない場合であっても,日記等により一応の労働時間の立証がなされたのに対し使用者が有効な反証ができないと,日記等の証明力の低い証拠だけで労働時間が認定されることがあります。

通勤時間の労働時間性

 通勤は,労働者が労働力を使用者のもとへ持参するための債務の履行の準備行為であって,使用者の指揮命令下に入っていない労務提供以前の段階に過ぎませんので,通勤時間は労働時間に該当しません。
 高栄建設事件東京地裁平成10年11月16日判決においても,労働者が会社の提供するバスに乗って寮と就業場所を往復していた時間について,「寮から各工事現場までの往復の時間はいわゆる通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものである以上,これについては原則として賃金を発生させる労働時間にあたらないものというべきである」と述べており,単に通勤方法について一定の拘束を受けていたというだけでは,使用者の指揮命令下におかれているとは認めていません。

直行直帰の移動時間の労働時間性

 直行・直帰とは,いったん会社に出勤し,そこから使用者の業務命令により作業現場や得意先などの目的地に移動すべきところを,会社を経由することによる無駄を省くため,直接自宅から目的地に移動し,また,目的地から直接自宅に移動することをいいます。
 実際の労務提供は目的地で開始されるものであり,目的地までの移動は準備行為と考えることができ,且つ,労働者は移動時間中の過ごし方を自由に決めることができることから,使用者の指揮命令が全く及んでいない状態にあるため,原則として労働時間性は認められません。

手待ち時間の労働時間性

 手待時間は,使用者の指示があれば直ちに作業をしなければならず,使用者の指揮監督下に置かれている時間ですので,手待時間は労働時間に該当します。使用者の指揮監督から離脱し,労働者が自由に利用できる時間である休憩時間とは異なります。
 労基法でも,作業時間と手待時間が交互に繰り返される断続的労働について,労働時間規制の例外としていますが,手待時間も労働時間に含まれることを前提としていると考えられます。
 手待時間と休憩時間の区別については,場所的拘束の有無や程度,使用者の指揮命令の具体的内容,実作業の必要性から生じる頻度や実作業に要する時間等の判断要素を踏まえて,個別具体的に判断していくことになります。

緊急対応のための待機時間の労働時間性

 緊急対応のための待機時間は,それが使用者の指揮命令下に置かれているか否かにより,労基法上の労働時間に該当するか否かを判断することになります。
 自宅での待機時間については,待機場所が自宅であることからすれば,待機中も制服の着用を求めたり,仮眠を禁止したりするなど,待機中の過ごし方を強く拘束されている場合や,頻繁に緊急対応しなければならないような場合でなければ,労働時間には該当しないと考えます。

研修や勉強会の時間の労働時間性

 就業規則や労働契約において,就業時間外に行われる研修,講習,自主活動等の時間について,残業代を支払う旨定められているなどして,残業代を支払うことが労働契約の内容となっている場合には,当然,残業代を支払う必要があります。
 このような定めでが無い場合でも,
 ① 使用者が研修への参加を義務付ける場合
 ② 使用者が参加を義務付けないとしても不参加の場合に賃金や人事考課等で不利益を受けたりする場合
 ③ 使用者の義務付けや不利益を受けることがなくても研修の内容が業務と密接な場合
 ④ 研修を受けないと業務に支障が生じる場合
には,参加を余儀なくされたと評価されるため,使用者の指揮命令下に置かれているものと評価することができ,研修の時間を労働時間として取り扱わなければならないと考えます。
 他方,純然たる自由参加で,社員が参加しなくても何の不利益も課されず,業務に具体的な支障が生じないような場合は,研修等に要した時間は労働時間には該当しません。

健康診断の労働時間性

 通達では,一般健康診断に関し,「健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払については,労働者一般に対して行われるいわゆる一般健康診断は,一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり,業務遂行との関連において行われるものではないので,その受診のために要した時間については,当然には事業者の負担すべきものではなく,労使協議して定めるべきものであるが,労働者の健康の確保は,事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると,その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」としています。
 同通達は,一般健康診断は,労働者の一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり,業務遂行との関連において行われるものではないため,一般健康診断を受診しなくても本人の業務に具体的な支障が生じないことから,実質的に受診の義務付けがないものとして,その受診に要した時間の賃金を使用者が「当然には」負担する義務がないとしているものと考えられ,一般健康診断に要する時間が労基法上の労働時間には該当しないという理解を前提としているものと考えられます。同通達の理解を前提とすれば,一般健康診断に要する時間を労基法上の労働時間と考える必要はないことになります。
 もっとも,懲戒処分の威嚇の下,業務命令により一般健康診断の受診を命じたような場合は,労働者が一般健康診断の受診を使用者から義務付けられたと言わざるを得ず,労基法上の労働時間に該当するとも考えられます。一般健康診断に要する時間が労基法上の労働時間に該当するかどうかは,事案ごとに判断していくほかないものと思われます。

 なお,労働者が,使用者が行う健康診断の受診を希望せず,他の医師等の行う健康診断を受診した場合は,労働者は使用者の指揮監督下に置かれていないのが通常ですので,その受診時間は労基法上の労働時間には該当しないものと考えます。

喫煙時間の労働時間性

 喫煙には業務性がないのが通常ですから,本来,労働時間ではありませんが,喫煙のため業務を離脱した時間の立証は困難で,仕事の合間に喫煙をしていたとしても,まとまった時間,仕事から離脱したような場合でない限り,所定の休憩時間を超えて労働時間から差し引いてもらうのは難しいと考えます。
 喫煙の管理として,例えば,喫煙に立つ際は必ずその旨及び行き先を明示することを労働者に義務付けたり,1日当たりの回数や時間の上限を定め,これに大きく逸脱した場合には,職務専念義務違反として注意指導や懲戒処分などのペナルティを課すなど,喫煙のルールを設定することが考えられます。

接待ゴルフの労働時間性

 日本では,ゴルフを通じた社交が企業文化として根付いているため,使用者が労働者のゴルフ代や旅費を負担し,参加を奨励することが多く行われています。
 接待ゴルフといっても主な目的はゴルフのプレーであることから,仮に,使用者から参加を義務付けられていたり,会社が費用を負担していたとしても,プレー中に労働者が使用者の指揮命令下に置かれているとはいえないのが通常です。ゴルフのプレー中に具体的な商談が予定されていて特定の労働者が必ず参加しなければいけないような場合でない限り,接待ゴルフの時間は労働時間に該当しないものと考えます。

 

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未払残業代の計算

2017-12-27 | 日記

未払残業代の計算

未払残業代の計算式

 未払残業代の計算式は,次のとおりです。
  残業代額-賃金支払日に支払った残業代額+遅延損害金-賃金支払日後に支払った残業代額

残業代の計算式

 残業代の計算式は,次のとおりです。
  労基法施行規則19条1項各号に定める通常の賃金の時間単価×時間外・休日・深夜労働時間数×割増率
 ただし,実務上,以下の手順で計算することが多いです。
  ① 労基法施行規則19条1項各号に定める通常の賃金の時間単価を計算(円未満四捨五入)
  ② 通常の賃金の時間単価に割増率を乗じて,時間外・休日・深夜割増賃金の時間単価を計算(円未満四捨五入)
  ③ 時間外・休日・深夜割増賃金の時間単価に時間外・休日・深夜労働時間数を乗じて,時間外・休日・深夜割増賃金を計算

通常の賃金の時間単価

(1) 計算方法(労基法施行規則19条)
ア 時間によって定められた賃金
 時給が,通常の賃金の時間単価となります。
 時給1000円であれば,通常の賃金の時間単価は1000円/時となります。

イ 日によって定められた賃金(所定労働時間数が日によって異ならない場合)
 日給を一日の所定労働時間数で除した金額が,通常の賃金の時間単価となります。
 日給1万円で一日の所定労働時間数が8時間であれば,通常の賃金の時間単価は1万円÷8時間=1250円/時となります。

ウ 月によって定められた賃金(月によって所定労働時間数が異なる場合)
 月給を一月平均所定労働時間数で除した金額が,通常の賃金の時間単価となります。
 月給が24万円で一月平均所定労働時間数が160時間であれば,通常の賃金の時間単価は24万円÷160時間=1500円/時となります。

エ 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金
 その賃金計算期間における歩合給額を総労働時間で除した金額が,通常の賃金の時間単価となります。
 歩合給が10万円で総労働時間数が200時間の場合,通常の賃金の時間単価は10万円÷200時間=500円/時となります。

オ 定め方が異なる賃金が複数ある場合
 それぞれ算定した金額の合計額が,通常の賃金の時間単価となります。
 日によって定められた賃金の時間単価が1250円/時で月によって定められた賃金の時間単価が250円/時であれば,通常の賃金の時間単価は1250円/時+250円/時=1500円/時となります。
 ただし,歩合給に関する時間外・休日割増賃金は,時給・日給・月給等の場合と異なり,割増部分(25%部分等)のみを支払うものであること等から,時給・日給・月給等とは別枠で通常の賃金を計算するのが一般的です。

(2) 除外賃金
 原則として全ての賃金が残業代計算の基礎となりますが,以下の①②は除外されます。
 ① 労基法37条5項・労基法施行規則21条で限定列挙されている家族手当,通勤手当,別居手当,子女教育手当,住宅手当,臨時に支払われた賃金,1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(除外賃金)
 ② 残業代
 ①除外賃金に該当するかは,名目のみにとらわれず,その実質に着目して判断されます。
 ②残業代として基礎賃金から除外されるかについても,名目のみにとらわれず,その実質に着目して判断すべきと考えるのが素直であり,残業代としての実質を有しない賃金は,残業代計算の基礎賃金から除外されないと考えられます。
 労基法37条の定める割増賃金として残業代計算の基礎賃金から除外されるためには,通常の賃金に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要です。

割増賃金の時間単価

(1) 時間外割増賃金
ア 原則
 割増率は25%
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば,時間外割増賃金の時間単価は,次のとおりとなります。
  1500円/時×1.25=1875円/時
 ただし,歩合給については,割増部分のみが割増賃金の時間単価となるため,歩合給に関する通常の賃金の時間単価が500円/時であれば,歩合給に関する時間外割増賃金の時間単価は,次のとおりとなります。
  500円/時×0.25=125円/時

イ 60時間を超える時間外労働時間
 割増率は50%(中小企業を除く。)
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば,時間外割増賃金の時間単価は,次のとおりとなります。
  1500円/時×1.5=2250円/時
 ただし,歩合給については,割増部分のみが割増賃金の時間単価となるため,歩合給に関する通常の賃金の時間単価が500円/時であれば,歩合給に関する時間外割増賃金の時間単価は,次のとおりとなります。
  500円/時×0.5=250円/時

(2) 休日割増賃金
 割増率は35%
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば,休日割増賃金の時間単価は,以下のとおりとなります。
  1500円/時×1.35=2025円/時
 ただし,歩合給については,割増部分のみが割増賃金の時間単価となるため,歩合給に関する通常の賃金の時間単価が500円/時であれば,歩合給に関する休日割増賃金の時間単価は,以下のとおりとなります。
  500円/時×0.35=175円/時

(3) 深夜割増賃金
 割増率は25%
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば,深夜割増賃金の時間単価は,以下のとおりとなります。
  1500円/時×0.25=375円/時

(4) 労基法を超える割増率
 労基法を超える割増率が就業規則等で定められている場合には,その割増率のとおり計算します。

残業時間数

(1) 時間外労働時間数
ア 原則
 時間外労働時間とは,労基法32条の規制を超えて労働させた時間のことをいい,週40時間,1日8時間を超えて労働させた時間は,原則として時間外労働時間に該当します。
 1日8時間超の時間外労働時間としてカウントした時間については,週40時間超の時間外労働時間には重複してカウントしません。
 例えば,日曜日が法定休日の事業場において,月曜日~土曜日に9時間ずつ労働させた場合,月~木に9時間×4日=36時間労働させているから金曜日に4時間を超えて労働した時間から週40時間超の時間外労働になると考えるのではなく,月~金に1時間×5日=5時間の時間外労働のほか8時間×5日=40時間労働させているから土曜日の勤務を開始した時点から週40時間超の時間外労働となると考えることになります。
 日曜日 法定休日
 月曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間
 火曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 水曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 木曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 金曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 土曜日 9時間(時間外労働9時間)←週40時間超

イ 特例措置対象事業場
 ① 物品の販売,配給,保管若しくは賃貸又は理容の事業
 ② 映画の映写,演劇その他興行の事業
 ③ 病者又は虚弱者の治療,看護その他保健衛生の事業
 ④ 旅館,料理店,飲食店,接客業又は娯楽場の事業
のうち,常時10人未満の労働者を使用するもの(特例措置対象事業場)については,1週間については44時間,1日については8時間まで労働させることができます。特例措置対象事業場についても,1日8時間を超えて労働させた場合には時間外労働となりますが,1週間については44時間を超えて労働させて初めて時間外労働となります。
 例えば,日曜日を法定休日として月~土に1日9時間ずつ労働させた場合,土曜日に4時間を超えて労働し始めた時点から週44時間超の時間外労働時間となります。
 日曜日 法定休日
 月曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 火曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 水曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 木曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 金曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 土曜日 9時間(時間外労働5時間)←週44時間超

(2) 休日労働時間数
 休日労働時間とは,労基法35条の法定休日(原則として1週1休以上)に労働させた時間をいいます。
 日曜日が法定休日の場合,法定休日ではない土曜日や祝祭日に労働させても,ここでいう休日労働には該当しません(週40時間を超えて労働させれば,時間外労働に該当します。)。

(3) 深夜労働時間数
 深夜労働とは,深夜(22時~5時)に労働させた時間をいいます。

(4) 法内残業時間数
 所定労働時間を超えて労働させた時間のうち,時間外労働ではない労働時間をいいます。例えば,所定労働時間7時間の会社において,1日7時間を超えて8時間労働した場合の1時間がこれに当たります。法内残業時間は,労基法37条の規制対象外ですが,就業規則等に別段の定めがない場合,労働契約上,割増ししない通常の時間単価の賃金を支払う義務があると解釈されることが多いです。

消滅時効

 残業代の消滅時効期間は2年で,起算点は各賃金支払日の翌日です。
 賃金支払日から2年を経過している残業代については,消滅時効を援用します。内容証明郵便等で残業代の請求を受けた場合であっても,6か月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起等がなされない場合は,内容証明郵便等による請求は時効中断の効力を生じませんので,6か月経過の有無を確認します。
 賃金支払日から2年を経過して消滅時効にかかっている期間の残業代に関し,損害賠償請求を受けることがありますが,通常は認められません。

賃金支払日における残業代の支払

 各賃金支払日に支払われた残業代は既払金として控除され,不足額がある場合に,不足額部分が各賃金支払日の時点の未払残業代となります。
 残業代の名目で,あるいは賃金規程等で残業代の趣旨で支給する旨規定した上で,残業代としての実質を有しない賃金を支払ったとしても,残業代の支払として認められないと考えられます。
 労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるというためには,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができる必要があります。
 時給制のパート・アルバイト等に関しては,時間外・休日・深夜労働の対価として時給が支払われており,未払となっているのは割増部分のみであることは珍しくありません。残業代のうち時給部分は支払済みでないかの確認を失念しないようにしましょう。
 日給制のトラック運転手等に関しては,休日労働・週40時間超の時間外労働の対価(休日・時間外割増賃金)として日給が支払われていることが多いです。休日労働・週40時間超の時間外労働が行われた日の対価(休日・時間外割増賃金)として,日給が支払われていないかの確認を失念しないようにしましょう。

遅延損害金

 各賃金支払日の時点の未払残業代に関し,各賃金支払日の翌日から遅延損害金が発生します。利率は,株式会社,有限会社等の営利を目的とした法人は年6%,社会福祉法人,信用金庫等の営利を目的としない法人は年5%です。
 退職後の遅延損害金の利率は,年14.6%になる可能性があります。ただし,「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること。」等,賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条各号の事由に該当することを主張立証できた場合は,その事由の存する期間については,原則どおり年6%または年5%の利率が適用されます。

付加金

 裁判所は,労基法37条に定める割増賃金を支払わなかった使用者に対して,労働者の請求により,未払残業代に加え,これと同一額の付加金の支払を判決で命じることができます。
 未払割増賃金と同額の付加金の支払が命じられることが多いですが,付加金の支払を命じるかどうか,付加金を減額するかどうかは,裁判所の裁量に委ねられていますので,付加金の支払を命じるのが相当でない事情があるのであれば,その事情を主張立証しておくようにしましょう。
 付加金の請求は,違反のあったときから2年以内にしなければならないとされています。この期間は除斥期間であって消滅時効期間ではないため,内容証明郵便等で残業代の請求を受けても中断せず,除斥期間を遵守するためには,労働審判を申し立てたり訴訟を提起したりして付加金を請求する必要があります。
 労働審判委員会は裁判所ではありませんので,労働審判において付加金の支払が命じられる余地はありませんが,訴訟に移行した場合に備えて,除斥期間を遵守する目的で,労働審判手続申立書に付加金の支払を請求する旨記載されていることがよくあります。
 訴訟において,事実審の口頭弁論終結時までに未払残業代全額を支払い,その旨の主張立証をした場合は,判決で付加金の支払を命じられることはありません。他方,事実審の口頭弁論終結後に未払残業代全額を支払ったというだけでは,判決で支払を命じられた付加金の支払義務を免れることはできません。
 第一審判決で付加金の支払を命じられた場合であっても,控訴して判決で支払を命じられた未払残業代全額を確定的に支払い,控訴審の口頭弁論終結時(多くの場合,第1回口頭弁論期日終結時)までにその旨主張立証すれば,控訴審判決が第一審判決より増額された未払残業代を認定しない限り,付加金の支払を回避することができます(控訴審判決が第一審判決より増額された未払残業代を認定した場合は,増額部分について付加金の支払を命じられる可能性はあります。)。

賃金支払日後における残業代の支払

 係争中であっても,存在する蓋然性が高い未払残業代額を給与振込先口座に振り込むなどして支払うことがあります。
 未払残業代額が減少した限度で,以後の遅延損害金の発生を防止し,判決で支払を命じられる付加金の額を減らすことができます。

 

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残業代請求に対する基本的対応

2017-12-27 | 日記

残業代請求に対する基本的対応

残業代の支払に関し何らかの不満が表明された場合

 残業代の支払に関し,社員から何らかの不満が表明された場合,それを放置されたままにしてはいけません。残業代の支払に関し不満があるようでは,仕事に打ち込むモチベーションが低くなりがちですし,仮に,未払残業代があるのであれば,いつ残業代の請求を受けるか分からない危険な状況に置かれていることになるからです。未払残業代があるかどうかは,正確に計算して確認しなければなりません。また,今後も未払残業代が生じ得る状況にあるのであれば,改善して未払残業代が発生しないようにしなければなりません。
 残業代の支払に関し,社員から何らかの不満が表明された場合に行わなければならないのは,主に以下の2点です。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

未払残業代の支払を要求する内容証明郵便等の通知書が届いた場合

 未払残業代の支払を要求する内容証明郵便等の通知書が届いた場合,その請求の対応が必要となりますが,未払残業代の有無,金額が分からなければ,的確な対応をすることはできません。また,未払残業代が発生し続けているような労働時間管理,賃金制度のまま,個別の紛争を解決しても,絶えず追加請求のリスクにさらされ続けることになりますので,個別請求の対応以上に,それ以上未払残業代が発生しない労働時間管理,賃金制度とすることが重要となります。
 したがって,未払残業代の支払を要求する内容証明郵便等の通知書が届いた場合についても,以下の2点の対応が必要となります。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

労基署から労基法37条違反の残業代不払があるとして是正勧告が出された場合

 労基署から労基法37条違反の残業代不払があるとして是正勧告が出された場合,本当に労基法37条に定める残業代の不払があるかどうか,あるとすればその額を確認し,不払がある場合は不払額を支払って労基法37条違反の状態を是正しなければなりません。また,残業代不払の原因として,労働時間管理や賃金制度に問題がある場合は,その是正も必要となります。
 したがって,労基署から労基法37条違反の残業代不払があるとして是正勧告が出された場合も,以下の2点の対応が必要となり,労基法37条違反の状態が是正され次第,労基署に報告する必要があります。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

社員が合同労組に加入し合同労組から団体交渉の議題として未払残業代の支払を要求された場合

 社員が合同労組に加入し合同労組から団体交渉の議題として未払残業代の支払を要求された場合,団体交渉特有の注意事項はあるものの,基本的にはこれまでと同様,以下の2点を行う必要があることに変わりありません。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

労働審判手続が申し立てられて労働審判申立書が裁判所から届いた場合

 労働審判手続が申し立てられて労働審判申立書が裁判所から届いた場合,速やかに弁護士に依頼して充実した答弁書を作成し,第1回労働審判期日に備えなければなりません。労働審判手続特有の注意点はありますが,以下の2点を行う必要があることに変わりありません。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

残業代を請求する訴訟を提起され訴状等が裁判所から届いた場合

 残業代を請求する訴訟を提起され訴状等が裁判所から届いた場合,訴訟手続特有の注意点はありますが,以下の2点を行う必要があることに変わりありません。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

残業代請求がなされた場合に共通する基本的対応

 残業代請求がなされた場合,以下の2点については,共通して行う必要があります。
 ① 未払残業代を計算して未払残業代の有無,額を確認し,未払残業代の支払を検討すること
 ② 現在の労働時間管理,賃金制度が,未払残業代を発生させるようなものになっていないかを確認し,未払残業代を発生させるようなものになっている場合は是正すること

 ポイントは,②を速やかに行うことです。②を放置したまま①の対応を行った場合,第2,第3の未払残業代請求を受けるリスクがそれまで以上に高くなります。

 

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残業代対応でお悩みの会社経営者の皆様へ

2017-12-25 | 日記

 未払残業代があると,会社経営にどのような悪影響があると思いますか?深く考えれば考えるほど,未払残業代が存在することによる悪影響の大きさを実感せざるを得なくなるはずです。単なる法令遵守の問題では終わらないのです。
 毎月の給料日に支払っている給料のほかに未払残業代があると主張されて残業代請求を受け,多額の残業代の支払を余儀なくされたら,予想外の出費のため,会社の資金繰りが苦しくなることは容易に想像できると思います。残業代を請求する労働者の数が多く,未払残業代が多額に上る場合はなおさらです。
 残業代を請求した一部の社員についてのみ残業代を支払った場合,社員間で大きな不公平が生じ得ることは重大な問題です。同じように働いていたにもかかわらず,多額の残業代の支払を受けられる者と,残業代の支払を受けられない者が出てきたのでは,公平とはいえません。ましてや,会社に迷惑をかけて辞めたような問題社員に対しては多額の残業代を支払うことになったのに対し,本来であれば優先してボーナスを支払ってあげたくなるような会社に対する貢献度が高い社員には残業代が支払われないといった事態になったら,会社のために頑張って働いている社員に不公平感が蔓延してしまいかねません。会社経営者は,残業代請求をしてきた一部の社員のことだけ考えればいいというものではなく,あなたの会社のために働いてくれている社員全員のことを考えてあげなければなりません。賃金原資が限られている中,社員全員が会社に対する貢献度に応じた賃金を得られるよう配慮してあげなければならないのです。
 未払残業代があると,職場の秩序が乱れやすくなることも忘れてはなりません。上司の指示に従わず,同僚に暴言を吐き,後輩を虐めて辞めさせるような問題社員に勤務態度を改めるよう注意指導したところ,多額の未払残業代を請求すると脅されて,強く注意指導できなくなってしまう事例は珍しくありません。残業代請求が怖くて問題社員を放置した結果,次から次へと退職者が続出するようでは,健全な職場とはいえません。会社に見殺しにされて辞めて行かざるを得なくなった社員の心情を想像すると,やりきれない想いになります。会社経営者は,職場の秩序を維持して,真面目に働いている社員たちを問題社員から守ってあげなければなりません。
 弁護士法人四谷麹町法律事務所は,残業代請求を受けた会社の経営者から数多くの相談を受け,残業代を請求する内容証明郵便,労働審判,労働訴訟,団体交渉等の対応に当たってきました。会社のために頑張ってくれている社員が不公平感を抱かないよう,社員全員が会社に対する貢献度に応じた賃金を得られるようにするための労働時間管理や賃金制度の構築を行うことや,職場の秩序を維持して真面目に働いている社員たちを守ってあげるための問題社員対応も数多く行ってきています。残業代を請求する内容証明郵便,労働審判,労働訴訟,団体交渉等の対応,社員全員が会社に対する貢献度に応じた賃金を得られるようにするための労働時間管理や賃金制度の構築,職場の秩序を維持して真面目に働いている社員たちを守ってあげるための問題社員対応は,東京都千代田区の弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談下さい。

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代表弁護士 藤田 進太郎

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残業代請求の対応(会社経営者側)
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労働審判対応FAQ改訂

2017-12-15 | 日記

「会社経営者のための労働審判対応」サイトのFAQを改訂しました。

 

Q1 労働審判手続とはどういうものですか?

Q2 全国の労働審判事件の新受件数・平均審理日数・期日実施回数・解決率を教えて下さい。

Q3 労働審判手続申立書が届いた時の具体的段取りを教えて下さい。

Q4 労働審判手続の勝負のポイントを教えて下さい。

Q5 弁護士に労働審判の代理を依頼した方がいいですか?

Q6 答弁書はどのように作成すればいいですか?

Q7 労働審判期日当日の流れを教えて下さい。

Q8 労働審判期日には誰が出頭すればいいですか?

Q9 労働審判事件はどのようにして終結しますか?

Q10 労働審判の終決事由である「調停成立」,「労働審判」,「取下げ」,「24条終了」,「却下・移送等」とはそれぞれどういうものですか?

Q11 労働審判事件が訴訟に移行するのはどのような場合ですか?

Q12 調停を成立させる場合の解決金額はどのように考えればいいですか?

Q13 「解決金」名目で金銭を支払う場合,源泉所得税はどうすればいいですか?

Q14 解雇の効力が争われた場合の退職日について教えて下さい。

Q15 労働者から「会社都合」である旨,調停条項に明記するよう要求された場合,応じるべきでしょうか。

Q16 紛争の経緯や調停の内容等を労働者側に公表して欲しくない場合はどうすればいいですか?

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残業代対応FAQ改訂

2017-12-15 | 日記

「会社経営者のための残業代対応」サイトの残業代対応FAQを改訂しました。

 

■残業代や労働時間等の考え方と計算方法
Q1 残業代の種類と計算式を教えて下さい。

Q2 残業代の時間単価の計算方法を教えて下さい。

Q3 固定給制と歩合給制のそれぞれの残業代の計算方法を教えて下さい。

Q4 除外賃金とはどのような賃金ですか?

Q5 所定労働時間が8時間未満の会社の残業代計算方法を教えて下さい。

Q6 所定労働時間が8時間未満の会社の残業代計算方法を教えて下さい。

Q7 残業時間の種類とそれぞれの考え方について教えて下さい。

Q8 残業時間の具体的な計算方法を教えて下さい。

Q9 労働時間性が問題となるケースにはどのようなものがありますか?

Q10 残業代の消滅時効期間と遅延損害金について教えて下さい。

Q11 残業代の付加金とはどういうものですか?

 

■残業代請求対策

Q12 残業代請求対策を教えて下さい。

 

■定額残業代(固定残業代)

Q13 定額残業代(固定残業代)とはどういうものですか?

Q14 定額残業代(固定残業代)の支払が割増賃金の支払と認められるための要件を教えて下さい。

Q15 定額残業代(固定残業代)を適切に運用するためのポイントを教えて下さい。

 

■運送業の残業代対応

Q16 なぜ運送業は残業代請求を受けやすいのですか?

Q17 運送業を営む会社の残業代請求対策を教えて下さい。

Q18 運転手が「もっと働いてお金を稼ぎたい」とか,「給料日までお金が持たないから貸してほしい」と言ってきた場合,どう対応すればいいですか?

 

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