妊娠して産休を請求した女性社員に退職勧奨することはできますか。
妊娠して産休を請求した女性社員に退職勧奨 することを直接禁止する法令はありませんが,退職勧奨は,妊娠等を理由とする不利益取扱いを禁止する男女雇用機会均等法9条3項の趣旨に反しないものである必要があります。
女性社員が妊娠したことを理由として退職の強要を行うことはできません(指針第四3(2)ニ)。
退職勧奨を行うことについて女性社員の表面上の同意を得ていたとしても,これが女性社員の真意の同意に基づくものでない場合は,退職の強要を行ったものと同視されます(指針第四3(3)イ)。
基本的には,妊娠して産休を請求した女性社員に対する退職勧奨は,通常の社員に対する退職勧奨よりも抑制的であるべきでしょう。
退職勧奨の対象者選定の基準を「男性(又は女性)であること」とすることはできますか。
男女雇用機会均等法6条4号は,事業主が「退職の勧奨」について労働者の性別を理由として差別的取扱いをすることを禁止していますので,退職勧奨 の対象者選定の基準を「男性(又は女性)であること」とすることはできません。
退職の問題も業務に関連していると評価することができますので,濫用にわたらない限り,業務命令として退職勧奨 のための呼出をすることができるものと考えられます。
ただし,社員が退職勧奨に応じるかどうかは自由なのですから,社員が退職勧奨に応じることを明確に拒否しているにもかかわらず何度も呼び出して長時間にわたり退職勧奨を行ったような場合は,違法と評価されるリスクが高くなりますので,度を超さないよう注意する必要があります。
解雇することができなくても退職勧奨して辞めさせることができるのですから,問題点を記録に残したり,注意指導したり,懲戒処分に処したりする必要はありませんよね?
解雇 することができなくても退職勧奨 して辞めさせることができることがあるのは事実ですが,有効に解雇できる可能性が高い事案であればあるほど退職勧奨に応じてもらえる可能性が高くなり,退職条件も使用者側に有利になることに留意する必要があります。
到底解雇が認められないような事案で退職勧奨したところ明確に退職を拒絶された場合,退職に応じてもらうために,通常よりも高額の金銭の支払を提示するなどしなければならなくなってしまいますし,それでも合意退職に応じてもらえなければ,手の施しようがなくなってしまいます。
退職交渉が行き詰まれば,無理な退職勧奨をしがちになりますので,退職勧奨が違法と評価されて不法行為に基づく損害賠償請求が認められたり,せっかく退職届を取ったのに退職を撤回されたり,錯誤無効や強迫取消の主張が認められてしまうリスクが高くなります。
使用者側が一方的に労働契約を解除する方法は解雇だけなのですから,退職勧奨に応じないようであれば解雇できるよう,退職勧奨に先立ち,問題点を記録に残し,十分な注意指導を行い,懲戒処分を積み重ねるなどして,解雇する際と同じような準備をしておくべきでしょう。
退職勧奨するより解雇してしまった方が,話が早いのではないですか?
社員を有効に解雇 するためには,客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要ですので,そう簡単に解雇に踏み切るわけにはいきません。
勤続年数が長い正社員や幹部社員の解雇事案では,毎月支払われる賃金額が高額になる結果,仮に解雇が無効であった場合のバックペイの金額が高額となることなどから,解決金の相場も高額になりがちで,解雇が無効とされた場合のダメージも大きくなります。
一般論としては最後の最後まで解雇は行わず,社員から任意に退職届を提出してもらえるよう努力すべきです。
退職届の提出があった場合であっても,退職勧奨 の違法を根拠に,損害賠償請求を受けたり,退職の無効を主張されたりするリスクはゼロではありませんが,退職届も取らずに,一方的に解雇した場合と比べると,格段にリスクが低下することは疑いありません。
合意退職には,使用者側から何らの働きかけがないのに,労働者の側から退職願の提出があり,退職日を決めて退職するというものもありますが,このような事案の合意退職に関する紛争は多くありません。
紛争となりやすいのは,使用者から労働者に対して退職を働きかけ(退職勧奨 ),合意により退職させようとする事案です。