弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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自動車業界で木金休日,土日操業

2011-06-30 | 日記
夏の電力使用量を抑えるため,自動車業界が一斉に,木曜日,金曜日を休日にして,土曜日,日曜日を所定労働日とする取り組みが開始されたようです。
夏の電力需要のピークは,平日月曜日~金曜日の昼過ぎ~夕方ですから,自動車業界の取り組みは的を射たやり方だと思います。
終業時間を1時間早めるなどのサマータイム制を実施しても,平日月曜日~金曜日の昼過ぎ~夕方の節電という意味では,ほとんど意味がありません。
肝心の時間帯に節電に協力する意思がある企業は,休日を平日に持ってくるくらいにことをする必要があると思います。

弁護士 藤田 進太郎

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労働審判手続の特徴

2011-06-30 | 日記
Q100  労働審判手続の特徴として,どのような点が特に重要と考えていますか?

 労働審判手続の特徴はどれも重要なものですが,私が特に注目しているのは,
① 迅速な解決が予定されていること
② 裁判官(労働審判官)が直接関与して権利義務関係を踏まえた調停が試みられ,調停がまとまらない場合には労働審判が行われ,労働審判に対して異議を申し立てた場合には,訴訟に移行すること
の2点です。

弁護士 藤田 進太郎

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労働審判法の目的

2011-06-30 | 日記
Q99  労働審判法の目的を教えて下さい。

 労働審判法は,
① 労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(個別労働関係民事紛争)に関し,
② 裁判所において,裁判官(労働審判官)及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者(労使双方から1名ずつ選任される労働審判員合計2名)で組織する委員会が,当事者の申立てにより事件を審理し,
③ 調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み,
④ その解決に至らない場合には,労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利義務関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判)を行う手続(労働審判手続)を設けることにより,
⑤ 紛争の実情に即した迅速,適正かつ実効的な解決を図ること
を目的とするものです(労働審判法1条)。

弁護士 藤田 進太郎

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割増賃金(残業代)請求対策の基本的発想

2011-06-30 | 日記
Q98  割増賃金(残業代)請求対策の基本的発想として,何が重要と考えていますか?

 割増賃金(残業代)請求対策の基本的発想としては,とにかく,「支払済み」にしてしまうことが重要と考えています。

 管理監督者として扱い,多額の管理職手当を支給する一方,時間外・休日割増賃金を支払わないでいたところ,後になってから管理監督者ではないと判断されれば,多額の割増賃金を支払わなければならなくなるリスクが生じます。
 他方,同じ管理職で,同じ手取り賃金であっても,割増賃金名目で予め支給しておけば,割増賃金の追加請求を受けるリスクは低くなります。
 例えば,基本給30万円,管理職手当10万円(合計40万円)の支給を受けている課長を管理監督者として取り扱っていたところ,訴訟で管理監督者ではないと判断された場合,時間外・休日割増賃金が全く支払われていないという前提で,40万円全額を基礎に割増賃金が計算され,多額の割増賃金の支払が命じられるリスクを負うことになります。
 他方,初めから管理監督者としては取り扱わず,基本給26万円,管理職手当4万円,割増賃金10万円(合計40万円)を支給していた場合は,30万円を基礎に割増賃金を計算することになるので同じ時間働いても発生する割増賃金額は少なくなりますし,毎月10万円の割増賃金は支払済みとなっていますから,10万円で不足する場合に不足額についてのみ,割増賃金の支払義務を負うことになります。
 どちらが使用者にとって安全かは,一目瞭然でしょう。

 同様の話は,営業手当のみを支給し,所定労働時間みなしを適用している営業社員についても当てはまります。
 営業社員に対し,事業場外みなしを適用して,所定労働時間労働したものとみなし,基本給30万円,営業手当10万円,割増賃金の支払0円(合計40万円)を支給している場合と,営業社員がそれなりに残業していることを認めた上で,基本給26万円,営業手当4万円,割増賃金10万円(合計40万円)を支給している場合とでは,割増賃金(残業代)の請求に関し,どちらがリスクが高いかは一目瞭然です。

 注意点としては,既存の社員に関し,これから賃金の内訳等を変更する場合は,労働条件の不利益変更になるという点です。
 使用者が一方的に賃金の内訳を変更することは難しい(基本的にはできない)と考えるべきでしょう。
 賃金制度の変更を検討する場合は,慎重な配慮が必要となりますので,注意が必要です。

弁護士 藤田 進太郎

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「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」の対処法

2011-06-30 | 日記
Q97  事業場外みなしの適用がある営業社員について,「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」(労基法38条の2第1項但書)には,どのように対処するのがお勧めですか?

 事業場外みなしの適用がある営業社員について,「当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合」(労基法38条の2第1項但書),当該業務に関しては,「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」労働したものとみなされます。
 「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは,通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間のことであり,平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要かにより,当該時間を判断することになります。

 「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」が何時間かは,事前に決めておかないと後から争いになりますので,労使協定(労基法38条の2第2項)により,その時間を定めておくべきでしょう。
 その結果,例えば,所定労働時間が1日8時間の事業場において,「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」が1日11時間と定められた場合は,1日3時間分の割増賃金を支払う必要があることになります。
 1日3時間分の割増賃金は,割増賃金以外の基本給等の賃金とは金額を明確に分けて,支給することをお勧めします。

弁護士 藤田 進太郎

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営業社員と残業代

2011-06-29 | 日記
Q96  営業社員であれば残業代を支払わなくてもいいのですよね?

 営業社員も労基法上の労働者ですから,原則として労基法37条所定の割増賃金(残業代)を支払う必要があります。
 事業場外労働時間のみなし制(労基法38条の2)が適用され,所定労働時間労働したものとみなされれば,結果として割増賃金の支払を免れることもありますが,営業社員であれば事業場外みなしが適用されるとは限りませんので,注意が必要です。

 事業場外みなしが適用されるためには,当該営業社員が事業場外で業務に従事しただけでなく,「時間を算定し難いとき」に該当する必要があります。
 事業場外で業務に従事する場合であっても,使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合は労働時間の算定が可能なため,事業場外みなしの適用はありません。
 解釈例規(昭和63年1月1日基発第1号・婦発第1号)では,以下のような場合には事業場外みなしの適用はないとされています。
① 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で,そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
② 事業場外で業務に従事するが,無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
③ 事業場において,訪問先,帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち,事業場外で指示どおりに業務に従事し,その後事業場にもどる場合

弁護士 藤田 進太郎

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管理監督者該当性に関し,従来の一般的な判断基準とは違う判断基準を用いて判断した裁判例

2011-06-29 | 日記
Q95  管理監督者該当性に関し,従来の一般的な判断基準とは違う判断基準を用いて判断した裁判例には,どのようなものがありますか?

 一般的な判断基準とは違う判断基準を用いて管理監督者を判断した裁判例としては,ゲートウェイ21事件における東京地裁平成20年9月30日判決,プレゼンス事件における東京地裁平成21年2月9日判決,東和システム事件における東京地裁平成21年3月9日判決などがあります(いずれも管理監督者該当性を否定)。
 3件とも東京地裁民事11部の村越啓悦裁判官(当時)1人の書いた判決です。

 これらの判決は,「管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理につき,経営者と一体的な立場にあるものをいい,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきであると解される(昭和22年9月13日発基第17号等)。」とした上で,具体的には,以下の①②③④の要件を満たすことが必要であると判断しています。
① 職務内容が,少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
② 部下に対する労務管理上の決定権等につき,一定の裁量権を有しており,部下に対する人事考課,機密事項に接していること
③ 管理職手当等の特別手当が支給され,待遇において,時間外手当が支給されないことを十分に補っていること

弁護士 藤田 進太郎

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管理監督者の一般的な判断基準

2011-06-29 | 日記
Q94  管理監督者の一般的な判断基準はどのようなものですか?

 管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,①職務の内容,権限及び責任の程度,②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度,③待遇の内容,程度,などの要素を総合的に考慮して,判断されるのが通常です。
 この点,日本マクドナルド事件東京地裁平成20年1月28日判決は,①の要件に関し,「職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか」という基準を用いています。
 私見では,同判決が「企業全体の事業経営」に関する重要事項への関与まで要求している点は疑問であると考えていますが,そのように判断されても問題が生じないよう社内体制を整備しておく必要があると考えます。

 従来の裁判例の判断基準に対する評価としては,『労働法 第九版』(菅野和夫著)284頁~285頁における以下の記述が参考となるものと思われます。
 「近年の裁判例をみると,管理監督者の定義に関する上記の行政解釈のうち,『経営者と一体の立場にある者』,『事業主の経営に関する決定に参画し』については,これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ,それらを連携統合しているのであって,担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが『経営者と一体の立場』であると考えるべきである。そして,当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば,その管理を通して経営に参画することが『経営に関する決定に参画し』にあたるとみるべきである。」

弁護士 藤田 進太郎

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管理職と残業代

2011-06-28 | 日記
Q93  管理職には残業代を支払わなくてもいいのでしょうか?

 管理職も労基法上の労働者ですから,原則として労基法37条の適用があり,週40時間,1日8時間を超えて労働させたような場合は,法定時間外労働時間等に応じた残業代(割増賃金)を支払わなければならないのが原則です。
 当該管理職が労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)に該当すれば,労働時間,休憩,時間外・休日割増賃金,休日,賃金台帳に関する規定は適用除外となりますので,その結果,労基法上,使用者は時間外・休日割増賃金の支払義務を免れることになりますが,裁判所の考えている管理監督者の要件を充足するのは,本社の幹部社員など,ごく一部と考えられます。
 後から労基法37条に基づく時間外・休日割増賃金の請求を受けるリスクを負いたくない場合は,管理職であっても,最初から管理監督者としては取り扱わずに割増賃金を満額支給し,基本給や賞与等の金額を抑えることで,総支給額を調整したほうが無難かもしれません。
 なお,管理監督者であっても,深夜労働,年次有給休暇に関する規定は適用されますので,使用者は深夜割増賃金の支払義務は免れません(最高裁第二小法廷平成21年12月18日判決)。

弁護士 藤田 進太郎

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固定残業代の設定方法と社員募集の際の体裁

2011-06-28 | 日記
Q92  残業代を基本給とは別に支払うよりも,残業代込みということで基本給を支払った方が,基本給が高く見えて,社員募集の際に体裁がいいのではないでしょうか?

 それはそうかもしれませんが,残業代はそれ以外の賃金とは別に支払うべきものですから,残業代以外の賃金額を明らかにせざるを得ません。
 基本給が残業代込みというのであれば,基本給のうち何円が残業代なのかを明らかにする必要がありますから,結局,残業代以外の賃金額を明らかにしなければいけませんので,同じことです。
 採用された社員が騙されたと感じるような採用募集広告では,結局,すぐに辞めてしまって定着しませんので,正直にありのままの労働条件を説明し,正攻法で対処しないと,根本的な解決にはなりません。

弁護士 藤田 進太郎

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固定残業代の支給名目

2011-06-28 | 日記
Q91  固定残業代の支給名目はどのようなものがいいでしょうか?

 固定残業代を支給する場合は,基本給の中に一定の金額・時間分の残業代が含まれる扱いにしたり,営業手当等の名目で一定額を支給する扱いにしたりするよりも,「残業手当」等,それが残業手当であることが給与明細書の記載から直ちに分かるよう記載しておくと,労使紛争となるリスクが減少する印象です。
 なぜなら,弁護士等が労働者から相談を受け,割増賃金が不払となっているかどうかを検討する際,給与明細書の記載を参考にすることが多いからです。
 給与明細の残業手当欄に記載されている金額については残業手当の趣旨で支給していることが明らかですが,基本給や営業手当等の欄に記載されている金額についてはその文言から直ちに残業代の支払であることが分からないため,残業手当の趣旨ではないという前提で労働審判等を申し立てられることになりやすく,労使紛争を十分に予防できないことになってしまいます。
 また,入社以来,給与明細書の残業手当欄に十分な金額の残業手当が記載されて支給されているのであれば,そもそも,労働者は残業代については不満に思いませんから,残業代だけのために弁護士等に相談することはないという面もあります。
 労働審判等の対応が会社にとって大きな負担となることは明らかなのですから,訴訟で勝てばいいというものではなく,労使紛争が生じないようにするための方法を考えていくことが重要です。

弁護士 藤田 進太郎

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固定残業代の比率・金額

2011-06-27 | 日記
Q90  固定残業代の比率・金額を高く設定することについてどう思いますか?

 固定残業代を支給しても,その金額で不足する場合は追加で不足額を支払わなければならないことから,固定残業代の比率・金額を極端に高く設定している会社があります。
 しかし,初めから極端な長時間労働を予定して,基本給と比較して高額の固定残業代を支払うことにしておかなければならないようでは,(理屈では別の問題だとしても)労働安全衛生上の問題が生じかねないのではないかとの懸念が生じますし,労働者のモチベーションが下がって優秀な人材を確保する障害になりかねませんので,その金額は,1月あたり45時間分程度までにとどめておくべきなのではないかと考えています。
 例えば,基本給14万円,残業手当8万円といった極端な比率に設定することは,やめるべきでしょう。
 少なくとも,私は,そのような比率で賃金設定のなされている会社で働きたくはありません。
 これでは,長時間労働を当然に予定していることを,宣言しているようなものです。
 また,1か月あたりの平均所定労働時間が160時間の会社でこのような賃金額を定めた場合,基本給14万円÷160時間=875円/時となってしまい,下手するとパート・アルバイトよりも低い時間単価となってしまいます。
 ボーナスを考慮すれば,パート・アルバイトよりも賃金が高くなる可能性はありますが,これでは,働く意欲が削がれ,常に転職先を探しながら仕事をするということになりかねません。

弁護士 藤田 進太郎

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固定残業代に関する合意の有効性

2011-06-27 | 日記
Q89  割増賃金に関し,使用者と社員が合意することにより,残業時間にかかわらず,一定額の残業手当(固定残業代)を支給するとすることはできますか?

 残業時間にかかわらず,一定額の残業手当(固定残業代)を支給するとする合意は,所定労働時間分の賃金と時間外労働分の割増賃金に当たる部分を明確に区分して合意されており,労基法所定の計算方法による額がその額を上回るかどうか,上回る場合にはその不足額が何円なのかが計算できるようなものであれば,労基法所定の計算方法による額が固定残業代の金額で不足しない限度で,有効と考えられています。
 ただし,労基法所定の計算方法による額が固定残業代の金額を上回る場合は,使用者は不足額について支払義務を負うことになりますので,固定残業代の金額が低すぎることがないよう注意する必要があります。
 例えば,基本給21万円,残業手当1万円では,ちょっと残業しただけで,固定残業代が不足することになってしまいますので,通常は,固定残業代の比率をもう少し高めた方がいいでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

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日当を1日12時間勤務したことに対する対価とする合意

2011-06-27 | 日記
Q88 使用者と社員が合意することにより,日当を1日12時間勤務したことに対する対価とすることはできますか?

 所定労働時間を1日12時間とすることはできませんが,「1日12時間勤務したことに対する対価」の意味が,「1日8時間の所定労働時間内の労働と4時間の時間外労働をしたことに対する対価」という趣旨であると解釈でき,割増部分が特定されていると評価できるような場合であれば,このような合意も原則として有効と考えられます。
 ただし,このような合意の仕方は,何時間分の対価として賃金額が定められたのかとか,割増部分が特定されているのかという点について,問題が生じやすく,細心の注意を払わないと,所定労働時間を12時間と定めたものであるとか,割増部分が特定されていないと評価されて,日当は8時間の所定労働時間内の労働の対価と認定され(労基法13条・32条2項),日当全額を基礎として計算された割増賃金の支払を余儀なくされるリスクがありますので,注意が必要です。

 最低限,日当が12時間分の労働の対価であることくらいは,書面上明示しておく必要があります。
 1日何時間働かなければならないのか不明確なまま,「日当1万○○○○円」と定めただけでは不十分です。
 このような定め方では,労基法の労働時間の上限である8時間(労基法32条2項)に対する対価と評価されてしまいます。
 当然,8時間を超える労働に対しては,別途,残業代の支払を余儀なくされることになります。

 日当が12時間分の労働の対価であることが書面上明示されている場合は,訴訟になってもそれなりに戦うことができると思いますが,そのような場合であっても,1日8時間の所定労働時間内の労働に対する賃金が何円で,4時間の時間外労働に対する割増賃金が何円なのかが,方程式を使って計算しないと判明しないような場合で,1日12時間を超えて働いた場合に不足額を追加で支払ったことが一度もないような場合は,(主張が認められるかどうかはさておき,)労働者に割増部分が特定されていないとの主張を許すことになってしまうリスクが生じます。
 もちろん,1日12時間を超えて働いた場合に,割増賃金の不足額がきちんと計算され,その都度,不足額が追加で支払われているのであれば,訴訟になってもまず大丈夫ですが,そこまでしっかり処理している会社は多くありません。
 トラブル防止のためにも,1日の賃金額については,例えば,「(8時間分の)日当1万6000円,(4時間分の)時間外勤務手当1万円,合計2万6000円」といったように,1日8時間の所定労働時間内の労働に対する対価の部分と,割増部分とに明確に分けて賃金額を定めることをお勧めします。
 このように,1日8時間の所定労働時間内の労働に対する対価の部分と,割増部分とに明確に分けて賃金額を定めておけば,1日12時間を超えて労働した場合に不足する割増賃金の額を計算することが容易なため,多少問題があっても,全面的に敗訴するリスクは比較的低くなるものと思われます。

弁護士 藤田 進太郎

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残業代込みの賃金ということで社員全員が納得しているケースの残業代不払いのリスク

2011-06-27 | 日記
Q87 残業代込みの賃金ということで社員全員が納得しており,誰からも文句が出ていないのですから,別途残業代を支払わなくてもいいのではないですか?

 残業代込みで月給30万円とか,日当1万6000円と約束しており,それで文句が全く出ていないのだから,割増部分を特定していなくても,未払割増賃金の請求を受けるはずはない,少なくともうちは大丈夫,と思い込んでいる経営者もいるかもしれませんが,甘い考えと言わざるを得ません。
 現実には,解雇などによる退職を契機に,未払残業代を請求するたくさんの労働審判,訴訟等が提起されており,残業代の請求に必要な情報は,インターネットをちょっと検索してみれば,簡単に見つかります。
 また,訴訟になれば,労働者側は必ず,「月給30万円(日当1万6000円)に残業代が含まれているなんて話は聞いたことがない。」と主張するに決まっており,そうなってから使用者側が後悔しても後の祭りです。
 現時点で在籍している社員から文句が出ていないのは,社長の機嫌を損ねて職場に居づらくなるのが嫌だからに過ぎず,解雇されるような事態が生じた場合は,躊躇なく,会社に対して未払残業代の請求をするようになります。
 最近では,退職前であっても,問題社員に辞めてもらおうと思って退職勧奨をした途端,社員の態度がそれまでとは全く変わってしまい,「それだったら,これまでの未払残業代を支払って下さい。」と強硬に言われたり,素直に業務指示に従わなくなってしまったりして困っているといった相談も散見されるところです。
 勤務を続けさせてもらえるのなら未払割増賃金の請求はしないが,辞めさせられそうになったら未払割増賃金を退職金代わりに請求しようと考えながら勤務している問題社員もいるようです。
 残業代の請求を受けてから,「文句があるんだったら,最初から言ってくれればよかったのに。」と嘆く社長さんが大勢いるのは残念なことです。
 しかし,採用前に社長に文句を言ったら採用してもらえませんし,在職中に社長に文句を言ったら事実上会社にいられなくなってしまいますから,退職を決意する前に社長に文句を言う社員など,滅多にいるはずがありません。
 本来であれば,全ての会社が,すぐにでも賃金制度を変更して,通常の賃金にあたる部分と残業代にあたる部分を区別できるような形で賃金を支払うようにすればいいのですが,一度,痛い目にあってからでないと,なかなか,対策が採られないというのが実情です。
 そういった無防備な会社をターゲットにした残業代請求が,一部の弁護士の「ビジネスモデル」として確立しつつある印象ですので,ご注意下さい。

弁護士 藤田 進太郎

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