弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログです。

解雇の相談

2013-09-30 | 日記
解雇


 解雇は労使紛争が表面化する契機となりやすく,訴訟や労働審判で争われることが最も多い紛争類型です。
 適切な手順を踏めば問題社員を有効に解雇することができるケースは珍しくありませんが,たとえ問題社員であっても,適切な手順を踏まずにいきなり解雇したような場合には,無効と判断されるリスク高くなります。
 スポーツでルールを守らなければ反則を取られて試合にも負けやすいのと同様,解雇の仕方にも従うべき一定のルールがあり,ルールを遵守しなければ解雇は無効となってしまい,多額の解決金の支払を余儀なくされてしまいます。
 近年の傾向としては,解雇が無効と判断されれば多額の解決金を取得できると教えられた労働者が,使用者に対し解雇を促すような言動を取るケースが増えているのが印象的です。
 このような労働者は,解雇されれば当然,当初の予定どおりに解雇の効力を争う旨の通知を送ってくるとともに,形式的には職場復帰を求めて労働審判を申し立てるなどし,最終的には退職と引き替えに多額の解決金を要求してきます。
 見え透いた罠に引っかかってしまう会社経営者が後を絶たないのは残念なことです。
 弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京)は,解雇事件の対応,解雇のコンサルティングを数多く行ってきました。
 解雇事件の対応,解雇の相談は,弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京)にご相談下さい。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

勝手に何日も休んで周りに迷惑をかけている問題社員を解雇する際の注意点

2013-09-30 | 日記
「仕事を休みます。」とだけ連絡してきて,勝手に何日も休んで周りに迷惑をかけている問題社員を解雇する際の注意点を教えて下さい。

 勝手に何日も休んで周りに迷惑をかけている社員を解雇する場合は,正当な理由なく欠勤を続けていることを解雇理由とするのが通常です。
 したがって,この解雇の有効性を判断するにあたっては「欠勤」の有無,日数,欠勤の理由等が問題となります。

 ここで最初に問題となるのが,「仕事を休みます。」との連絡が,年次有給休暇の取得申請なのか,欠勤の届出なのかという点です。
 何年も勤務を続けている社員の場合,年次有給休暇(労基法39条)が何日もたまっていることがあります。
 何日も欠勤したことを理由として解雇したところ,年次有給休暇取得の申請をしたのだから欠勤しておらず解雇事由が存在しないとか,欠勤した日はあるにしても年休を取得した日数を差し引けばわずかな欠勤日数なのだからこの程度の欠勤日数で解雇するのは解雇権の濫用(労契法16条)で無効であるといった主張がなされるリスクが残ることになります。
 もちろん,所定の用紙を用いて年次有給休暇取得を申請するルールになっているにもかかわらず,単に「休みます。」と連絡しただけでは年次有給休暇取得を請求したとはいえないと解釈すべきという主張にももっともな理由があるところです。
 しかし,会社の中には,風邪などで欠勤した場合に,年次有給休暇を使ったことにして欠勤扱いせず,欠勤控除しないのが慣行となっている会社も数多くあるところです。
 そのような会社で,年次有給休暇が10日も20日も残っている社員が休むと連絡してきた場合,その連絡には年次有給休暇取得請求の趣旨が含まれていると考えることもできそうです。
 また,社員本人が年休を取得していると考えていたのであれば,それが欠勤と評価されることが後から判明したとしても,会社が当該社員の意思確認をそれなりにしていない限り,何ら理由のない欠勤とは悪質性の程度が大きく異なると言わざるを得ません。
 事前に書面で申請しない限り年次有給休暇の取得は一切認めないというルールを作成し,現実にそのルールを例外なく適用していて,全ての社員がルールをよく理解している会社であれば話は別かもしれませんが,貴社においてそのような運用は現実的でないというのであれば,別の対処方法を考えた方が賢明と思われます。

 私が顧問先企業にお勧めしているアドバイスの中には,「欠勤を理由に何らかの処分をしたいのであれば,まずは年次有給休暇を使い切らせて下さい。」というものがあります。
 年次有給休暇が残っていれば,年休取得なのか,欠勤なのかの問題が残りますが,年次有給休暇を使い切らせてしまえば,年休を取得したという主張を完全に封じることができます。
 また,会社とトラブルになっている社員の中には,退職すること自体はやぶさかではないが,年次有給休暇を使い切らずに退職してしまうのだけが心残りだ,もったいない,と考えている者も多くいます。
 心残りとなっていることを解消してやれば,紛争解決に大きく近づいていくことになりますので,年次有給休暇を使い切らせるというのは,実際上も紛争解決に役に立つことになります。
 くれぐれも,「こんな問題社員に年休取得までさせたら,踏んだり蹴ったりで,会社ばかりが一方的に損をすることになるし,迷惑がかかっている他の社員が納得しないから,年休取得を認めるわけにはいかない。」などと考えて,年休取得を妨げるようなことはないようにして下さい。
 そのような不合理な対処をしたら,労働審判などにおける解決金の相場が無駄に上がってしまう可能性が高くなります。
 具体的なやり方としては,所定の申請用紙を本人宛書留郵便などで郵送し,年次有給休暇の取得なのか,欠勤なのか,明確に記載して返送するよう伝えれば足りますので,難しい手続ではありません。
 年次有給休暇が何日も残っている社員であれば,まず間違いなく,年次有給休暇を取得する旨記載して返送してきます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

問題社員の解雇で苦労しないようにするためのポイント

2013-09-30 | 日記
問題社員の解雇で苦労しないようにするためのポイントを教えて下さい。

 私の印象では,問題社員解雇で苦労することになった原因のかなりの部分は,会社経営者が多忙であることなどから,採用活動にかける手間や費用を惜しんだり,人手不足の解消を優先させたりして,問題社員であるかもしれないと感じていながら,採用してしまったことにあります。

 確かに,問題を起こすような応募者だとは全く思わなかったのに,採用してみたら問題ばかり起こして困っているという事案もないわけではありません。
 事業を始めたばかりで経験が足りず,人を見る目がないといった特別の事情があるのであれば,問題社員とは夢にも思わなかったという話にも一定のリアリティがあります。
 しかし,弁護士相談しなければならないほどの事案は,採用時にあまりいい印象を持たなかった応募者を採用してみたところ,やはり問題社員だったという事案が,かなりの割合を占めています。
 応募者からだまされて採用してしまったというより,問題があることには気づいていたものの,採用の手間や費用を惜しんだり,人手不足の解消を優先させたりして自分を偽り,問題がある人物を採用することを自分で正当化して採用してしまったという表現の方が適切な事案が多いのです。
 あまり深く考えていないと,「実際に使ってみなければ良い社員かどうか分からない。」といった一般論に説得力があるように聞こえるかもしれませんが,実際には「良くない社員だということは採用の時点から分かっていた。」ということが多いのです。
 経験豊富な会社経営者の目をごまかすことは,容易ではありません。
 会社経営者が,会社にとって魅力的な人物だと判断できれば採用する,魅力的だと思わなければ不採用にするといった,当たり前の方針を貫いていただければ,採用で失敗するリスクは相当下がるはずです。
 採用に値する積極的な理由がない場合には,不採用とすることをお勧めします。
 採用することに積極的な理由が必要なのであって,不採用とすることに積極的な理由が必要なわけではないのです。

 「類は友を呼ぶ。」ということわざのとおり,部下に採用を任せた場合,その部下は,仕事に関し,自分と似た価値観,ものの考え方を持った人物を採用する傾向にあります。
 会社経営者を中心とした結束が生命線の中小企業の場合は,会社経営者自らが採用活動に深く係わるべきと考えますが,仮に,部下の誰かに採用を任せることになった場合は,会社経営者の会社経営に協力的で人間性も優れている人物に採用を担当させるべきと考えます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

会社を辞めると言い残して退職届も提出せずに出て行った場合

2013-09-30 | 日記
社員の態度が悪いため改善するよう指導したところ口論になり,当該社員は会社を辞めると言い残して退職届も提出せずに出て行ってしまいました。どのように対応すればいいでしょうか?

 まずは,本人と連絡を取って,会社を辞めるのであれば退職届を提出するよう促して下さい。
 退職届等の客観的証拠がないと,口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず,解雇したと認定されたり,解雇もなく合意退職も成立していないからまだ在職中であると認定されたりすることがあります。
 退職届を提出するよう促しても提出しない場合は,電子メールか書面で,会社を辞めるのであれば退職届を提出するよう促すとともに,退職する意思がないのであれば出社するよう促し,解雇していない事実を明確にして下さい。
 最近では,使用者や上司を挑発して解雇の方向に話を誘導して会話を無断録音し,後になってから不当解雇だと主張して多額の解決金を獲得しようとする問題社員が増加しています。
 自ら進んで退職届を提出したのでは会社からお金を取れませんが,解雇されたことにして争えばある程度の解決金は取れると考える問題社員も中にはいるということです。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

労基署に相談してから解雇すれば,裁判にも勝てますよね?

2013-09-28 | 日記
労基署に相談してから解雇すれば,裁判にも勝てますよね?

 労基署に相談してから解雇すれば,裁判にも勝てるのでしょうか?
 労基署は労基法違反を取り締まっていますので,労基法20条の解雇予告等をしてから解雇するよう指導する等,労基法違反にならないようにするためのアドバイスはしてくれるかもしれません。
 労基官によっては,解雇には客観的に合理的な理由が必要であり,社会通念上相当なものである必要もあること(労契法16条)についても教えてくれるかもしれません。
 しかし,解雇の有効性を判断する最終的な権限があるのは裁判所(司法機関)であり,労基署(行政機関)には解雇が民事上有効かどうかを最終的に判断する権限がありません。
 したがって,労基署に相談してから解雇を行ったとしても,直ちに裁判にも勝てることにはなりません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

講演・著作等(弁護士 藤田 進太郎)

2013-09-28 | 日記
講演・著作等

労働問題問題社員の対処法Q&A~」(神奈川県司法書士会平成25年度第6回会員研修会,平成25年9月27日)
『問題社員対応の実務』(企業研究会,東京会場,平成25年9月25日)
『飲食店経営者のための労働問題相談セミナー』(平成25年9月24日)
『中小企業における労働問題の実務 ~メンタルヘルスの視点を踏まえて~』(東京司法書士会平成25年度企業法務研修会第1回,平成25年9月4日)
パワハラと業務命令の境界線』(第411回証券懇話会月例会,平成25年7月26日)
『あんしんビジネス相談所 トラブルの多い社員を解雇することはできる?』(あんしんLife vol.494)
『会社経営者のための労働問題相談サイト』開設(平成25年7月1日)
『改正高年齢者雇用安定法の実務上の留意点』(労政時報第3844号)
『日本航空事件・東京地裁平成23年10月31日判決』(経営法曹第176号)
『実務コンメンタール 労働基準法・労働契約法』(編集協力者,労務行政研究所編)
『改正労働契約法の詳解』(共著,第一東京弁護士会労働法制委員会編,労働調査会)
『中小企業における労働問題の実務』(東京司法書士会,企業法務研修会,平成25年1月21日)
『Q&A職場のメンタルヘルス -企業の責任と留意点-』(共著,三協法規出版)
『労務管理における労働法上のグレーゾーンとその対応』(全国青年社会保険労務士連絡協議会,特定非営利活動法人個別労使紛争処理センター,平成24年12月7日)
解雇退職の法律実務』(新社会システム総合研究所,東京会場,平成24年11月20日)
『社会保険労務士の紛争解決手続代理業務を行うのに必要な学識及び実務能力に関する研修』ゼミナール講師(東京,平成24年11月9日・10日・17日)
『問題社員対応の実務』(企業研究会,東京会場,平成24年10月4日)
『問題社員対応の実務』(企業研究会,大阪会場,平成24年9月28日)
『問題社員への法的対応の実務』(経営調査会,平成24年9月26日)
『日本航空事件東京地裁平成23年10月31日判決』(経営法曹会議,判例研究会,平成24年7月14日)
『問題社員に対する法的対応の実務』(新社会システム総合研究所,札幌会場,平成24年6月26日)
『有期労働法制が実務に与える影響』(『労働経済春秋』2012|Vol.7,労働調査会)
『現代型問題社員を部下に持った場合の対処法~ケーススタディとQ&A』(長野県経営者協会,第50期長期管理者研修講座,平成24年6月22日)
『労働時間に関する法規制と適正な労働時間管理』(第一東京弁護士会・春期法律実務研修専門講座,平成24年5月11日)
『問題社員に対する法的対応の実務』(新社会システム総合研究所,福岡会場,平成24年4月17日)
『高年齢者雇用安定法と企業の対応』(共著,第一東京弁護士会労働法制委員会編,労働調査会)
『実例 労働審判(第12回) 社会保険料に関する調停条項』(中央労働時報第1143号,2012年3月号)
『問題社員対応の実務』(企業研究会,東京会場,平成24年3月8日)
『労使の信頼を高めて 労使紛争の当事者にならないためのセミナー』(商工会議所中野支部,平成24年3月7日)
『問題社員対応の実務』(企業研究会,大阪会場,平成24年2月29日)
『健康診断実施と事後措置にまつわる法的問題と企業の対応』(『ビジネスガイド』2012年3月号№744)
『問題社員に対する法的対応の実務』(新社会システム総合研究所,名古屋会場,平成24年1月20日)
『問題社員に対する法的対応の実務』(新社会システム総合研究所,大阪会場,平成23年10月31日)
日韓弁護士交流会・国際シンポジウム『日本と韓国における非正規雇用の実態と法的問題』日本側パネリスト(韓国外国語大学法学専門大学院・ソウル弁護士協会コミュニティ主催,平成23年9月23日)
『問題社員対応の実務』(企業研究会,大阪会場,平成23年9月16日)
『マクドの失敗を活かせ!新聞販売店,労使トラブル新時代の対策』(京都新聞販売連合会京都府滋賀県支部主催,パートナーシステム,平成23年9月13日)
『問題社員対応の実務』(企業研究会,東京会場,平成23年9月6日)
『問題社員に対する法的対応の実務』(新社会システム総合研究所,東京会場,平成23年8月30日)
『社員教育の労働時間管理Q&A』(みずほ総合研究所『BUSINESS TOPICS』2011/5)
『問題社員対応の実務』(企業研究会,東京会場,平成23年4月14日)
『改訂版 最新実務労働災害』(共著,三協法規出版)
『労働審判を申し立てられた場合の具体的対処方法』(企業研究会,東京会場,平成22年9月8日)
『もし,自分が気仙沼で教師をしていたら,子供達に何を伝えたいか?』(気仙沼ロータリークラブ創立50周年記念式典,平成22年6月13日)
『文書提出等をめぐる判例の分析と展開』(共著,経済法令研究会)
『明日から使える労働法実務講座』(共同講演,第一東京弁護士会若手会員スキルアップ研修,平成21年11月20日)
『採用時の法律知識』(第373回証券懇話会月例会,平成21年10月27日)
『他人事ではないマクドナルド判決 経営者が知っておくべき労務,雇用の急所』(横浜南法人会経営研修会,平成21年2月24日)
『今,気をつけたい 中小企業の法律問題』(東京商工会議所練馬支部,平成21年3月13日)
『労働法基礎講座』(ニッキン)
『管理職のための労働契約法労働基準法の実務』(共著,第一東京弁護士会労働法制委員会編,清文社)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

問題社員に対する注意指導や懲戒処分の必要性

2013-09-27 | 日記
問題社員に注意指導や懲戒処分をしたら,気分を害して職場の雰囲気が悪くなりますから,注意指導や懲戒処分なんてせずに直ちに解雇した方がいいのではないですか?

 確かに,問題社員に注意指導や懲戒処分をした場合,一定の軋轢が生じることは予想されるところです。
 しかし,注意指導や懲戒処分もせずに問題社員の好き勝手にさせていることの方が,職場の雰囲気にとって大きな問題です。
 当然行うべきであった注意指導や懲戒処分をしなかった結果,上司に対する態度もますます悪化したり,新入社員に仕事を教えなかったりいじめたりして何人も辞めさせたりする等の問題行動がエスカレートしてしまうのです。
 問題社員に注意指導や懲戒処分をすることは,会社の秩序や真面目に働いている他の労働者を守るために必要不可欠なことですから,逃げずに注意指導し,それでも改善されない場合には懲戒処分に踏み切るようにして下さい。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

問題社員の解雇に臨むに当たってのあるべきスタンス

2013-09-27 | 日記
問題社員の解雇に臨むに当たってのあるべきスタンスを教えて下さい。

 最初に解雇を決定してからどうやって辞めさせるかを検討するのではなく,解雇せずに正常な労使関係を回復する方法がないか検討したものの正常な労使関係を回復する現実的方法がないため,やむなく解雇に踏み切るというスタンスが重要です。
 余程ひどい事案でない限り,まずは十分に指導注意し,それでも改善されない場合に初めて解雇に踏み切るべきことになります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

解雇に踏み切るタイミング

2013-09-26 | 日記
解雇に踏み切るタイミングを教えて下さい。

 解雇に踏み切るのは,原則として解雇が有効であることを証拠により立証できるようにしてからです。
 まずは,何月何日にどこでどのようなことがあったといったような解雇に客観的に合理的な理由があることを基礎付ける事実を紙に書き出してみて下さい。
 紙に書かれた事実だけで,解雇に客観的に合理的な理由があるといえるでしょうか?
 解雇に客観的に合理的な理由があるといえるような事実を紙に書き出せないようでは,解雇は時期尚早と考えた方がいいでしょう。

 次に,紙に書き出した事実を立証するための証拠があるかどうかをチェックして下さい。
 客観的証拠がありますか?
 それとも,一般に証明力が低いと考えられる陳述書や法廷での証言で立証するほかない状態でしょうか?
 証拠の存否や証明力を考慮して事実認定した場合,解雇に客観的に合理的な理由があると評価できるだけの事実を証明することができないようであれば,やはり解雇は時期尚早と考えられます。

 解雇に客観的に合理的な理由があることを証明することができるだけの証拠がそろっている場合には,解雇の可否について最終的な検討に入ります。
 その解雇が社会通念上相当といえるかどうか,それを証明するための客観的証拠があるかどうかについても,紙に書き出してみるとよいでしょう。
 解雇が社会通念上相当であることを証明できると判断した場合には,解雇の準備が整ったことになります。

 以上が正攻法ですが,解雇の有効性を証明することができるだけの証拠がそろっていない時点で解雇するケースもなくはありません。
 しかし,解雇の有効性を証明することができるだけの証拠がそろっていないわけですから,和解金の金額が高額になりがちですし,労働者側が金銭解決を望まない場合には,どれだけ高額のお金を積んでも辞めてもらえないこともあります。
 特別な事情があれば別ですが,できる限り正攻法を選択することを会社の方針とするよう強くお勧めします。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

誰の目から見ても勤務態度が悪く,改善するとは到底思えない社員

2013-09-25 | 日記
誰の目から見ても勤務態度が悪く,改善するとは到底思えない社員であっても,解雇に先立ち注意指導する必要がありますか?

 解雇権の濫用に当たるかどうか(労契法16条)を判断するにあたっては,注意指導や懲戒処分歴の有無等が考慮されます。
 勤務態度の悪さが客観的に改善の見込みが乏しいことを立証できるのであれば別ですが,注意指導や懲戒処分をしていないのでは,よほど悪質な事案でない限り,勤務態度の悪さが客観的に改善の見込みが乏しいことを立証することに困難を伴うのが通常です。
 勤務態度の悪さが改善の余地がないと会社が勝手に思い込んでいるだけではないかと思われないようにするためにも,十分な注意指導をし,懲戒処分を積み重ねてから,解雇すべきと考えます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

勤務成績,勤務態度が悪いことは本人が一番よく知っているはず

2013-09-24 | 日記
勤務成績,勤務態度が悪いことは本人が一番よく知っているはずだし,このことは社員みんなが知っているような場合であっても,証拠固めが必要だというのはどうしてですか?

 十分な証拠固めをしないまま,「彼の勤務成績,勤務態度が悪いことは,本人が一番良く知っているはずだ。このことは社員みんなが知っていて証言してくれるはずだから,裁判にも勝てる。」といった安易な考えに基づいて「問題社員」を解雇する事例が見られますが,訴訟になるような事案では,労働者側はほぼ間違いなく自分の勤務成績,勤務態度には問題がなかったと主張してきますし,経営者,社員等の利害関係人の証言は経営者が思っているほど重視されません。
 したがって,解雇に踏み切る前の時点で,解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実を説明することができるのかどうか,その事実を立証できるだけの客観的証拠が準備できているかどうかを確認する必要があります。
 そして,相手の言い分を聞かないことには,解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実があるのかないのかを確認することが難しいのが通常ですから,解雇に踏み切る前に,「問題社員」の言い分を十分に聴取し,使用者側が認識している事実関係と照らし合わせて,客観的にどのような事実が認定できるかを検討すべきと考えます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

解雇した社員が合同労組に加入して団体交渉を要求する。

2013-09-22 | 日記
解雇した社員が合同労組に加入して団体交渉を要求する。

(1) 団交応諾義務
 解雇された社員であっても,解雇そのものまたはそれに関連する退職条件等が団体交渉の対象となっている場合には,労働組合法第7条第2号の「雇用する労働者」に含まれるため,解雇された社員が加入した労働組合からの団体交渉を正当な理由なく拒絶した場合,団交拒否の不当労働行為となります(労組法7条2号)。
 多数組合との間でユニオン・ショップ協定(雇われた以上は特定の組合に加入せねばならず,加入しないときは使用者においてこれを解雇するという協定)が締結されていたとしても,ユニオン・ショップ協定は多数組合以外の組合に社員が加入することを禁止するものではありませんから,社員が合同労組の組合員となった場合に,合同労組が社員を代表することができないことにはなりません。
 社内組合が唯一の交渉団体である旨の規定(唯一交渉団体条項)のある労働協約が締結されていたとしても,団体交渉拒否の正当な理由とはなりません。

(2) 会社オフィス付近での街宣活動
 会社オフィス付近での街宣活動が正当な組合活動と評価される場合には,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等をすることはできません。
 他方,正当な組合活動を逸脱するようなものについては,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等が認められます。
 労働組合が組合員の経済的地位の向上をはかる目的で,会社の経営方針や企業活動を批判する場合,文書の表現が激しかったり,多少の誇張が含まれているとしても,なお正当な組合活動といえ,そのために会社が多少の不利益を受けたり,社会的信用が低下することがあっても,会社としてはこれを受忍すべきものと判断される可能性が高いところです。
 しかし,組合活動としてなされる文書活動であっても,虚偽の事実や誤解を与えかねない事実を記載して,会社の利益を不当に侵害したり,名誉,信用を毀損,失墜させたり,あるいは企業の円滑な運営に支障を来たしたりするような場合には,組合活動として正当性の範囲を逸脱すると評価することができ,懲戒処分,損害賠償請求等の対象となります。
 ビラ配りがなされた場合は,ビラを確保して内容をチェックして下さい。

(3) 企業の物的施設を利用した組合活動
 労働組合またはその組合員が,使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは,原則として使用者の施設管理権を不当に侵害するものであり,正当な組合活動とはいえません。
 他方,会社敷地内での組合活動であっても,一般人が自由に立ち入ることができる格別会社の職場秩序が乱されるおそれのない場所での組合活動は,使用者の施設管理権を不当に侵害するものとはいえないと評価される可能性が高いものと思われます。

(4) 企業経営者の私生活の領域における組合活動
 労働組合の諸権利は企業経営者の私生活の領域までは及びません。
 労働組合の活動が企業経営者の私生活の領域において行われた場合には,企業経営者の住居の平穏や地域社会における名誉・信用という具体的な法益を侵害しないものである限りにおいて,表現の自由の行使として相当性を有し,容認されることがあるにとどまります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がることにクレームをつける。

2013-09-22 | 日記
再雇用後の賃金が定年退職前よりも下がることにクレームをつける。

(1) 再雇用後の賃金水準に対する規制
 高年法上,継続雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,パート労働法8条,労契法20条,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。
 定年後に再雇用された社員の賃金水準が定年退職前よりも下がるのはむしろ通常の話であり,社会通念に照らし,直ちに不当ということはできません。
 定年の延長や継続雇用の場合は手順を間違えると労働条件の不利益変更(労契法9条・10条参照)の問題となってしまうリスクがありますが,再雇用の場合はいったん定年退職し新たな労働契約を締結するわけですから,定年退職前の労働条件との関係では労働条件の不利益変更の問題とはならないと考えられます。
 もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合はそれが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。

(2) 再雇用後の適正な賃金水準
 年金支給開始年齢が引き上げられていることを考慮すれば,賃金原資に余裕がない企業であっても,同業他社と同水準の賃金が払えないから再雇用自体を拒絶せざるを得ないといった発想で対処するのではなく,再雇用自体は認めた上で,体力に応じた金額の賃金を支給するようにすべきでしょう。
 再雇用後の業務の内容,当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が定年退職前と変わらないにもかかわらず,再雇用後の賃金が定年退職前よりも大幅に下がったのでは高年齢者の不満が大きくなりますから,賃金額を大幅に下げる場合は,再雇用後の勤務日数や勤務時間数を減らすとか(例えば週3日勤務にするとか1日4時間勤務にするといったことも考えられます。),業務の内容を正社員でなくてもできるような難易度の低いものにするとか,責任の軽い仕事を担当させるとか,職種や勤務地を限定するとかした上で,賃金額を下げる必要があります。
 高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきであり,「時給1000円,1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。
 一定規模以上の会社の場合は,再雇用後の賃金水準は,定年前の50%~70%程度になることが多いようです。
 賃金原資に余裕があるのであれば,同業他社よりも高めの賃金設定でも構いません。
 
(3) 定年退職者に提示した賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合
 高年法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではありません。
 事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,定年退職者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に定年退職者が再雇用されなかったとしても,高年法違反となるものではありません。
 企業が定年退職者に提示した適正な賃金水準での再雇用を高年齢者が拒絶した場合は,再雇用されなかったとしてもやむを得ないところです。
 企業ができることは,自社の体力,定年退職者の能力,再雇用後の業務の内容,当該業務に伴う責任の程度,当該職務の内容及び配置の変更の範囲等に見合った適正水準の賃金等の労働条件を提示するところまでであり,当該労働条件での再雇用を希望するかどうかは,定年退職者の選択に委ねられることになります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

有期契約労働者が正社員と同じ待遇を要求する。

2013-09-22 | 日記
有期契約労働者が正社員と同じ待遇を要求する。

(1) 問題の所在
 有期契約労働者の労働条件は個別労働契約又は就業規則等により決定されるものであり,正社員と同じ待遇を要求することは認められないのが原則です。
 しかし,有期契約労働者が正社員と同じ仕事に従事し,同じ責任を負担しているにもかかわらず,単に有期契約というだけの理由で労働条件が低くなっているような場合には,「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」を定めた労契法20条に違反,正社員と同じ待遇を要求することができるのではないかが問題となります。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
 労契法20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない。

(2) 労契法20条の趣旨
 労契法20条は,使用者に対し,有期契約労働者と無期契約労働者の間の均等待遇を義務づけるものではありません。
 また,条文の表題からも明らかなように,労契法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との間で「期間の定めがあることによる」不合理な労働条件の相違を設けることを禁止する趣旨の規定であり,期間の定めを理由としない労働条件の相違については射程の範囲外です。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」でも,「法第20条は,有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合,その相違は,職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう。以下同じ。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,有期契約労働者にとって不合理と認められるものであってはならないことを明らかにしたものであること。」「したがって,有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく,法第20条に列挙されている要素を考慮して『期間の定めがあること』を理由とした不合理な労働条件の相違と認められる場合を禁止するものであること。」とされています。

(3) 労契法20条の禁止内容
 ア 期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては,
 イ 有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違は,
   ① 労働者の業務の内容
   ② 当該業務に伴う責任の程度
   ③ 当該職務の内容(=①+②)及び配置の変更の範囲
   ④ その他の事情
を考慮して,不合理と認められるものであってはならないとされています。
 有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が期間の定めを理由としている場合に初めて労契法20条違反が問題となりますので,訴訟や労働審判においては,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理と認められるものかどうかだけでなく,有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が期間の定めを理由としたものかについても問題となります。
 ①労働者の業務の内容,②当該業務に伴う責任の程度,③当該職務の内容及び配置の変更の範囲,④その他の事情は,それぞれ独立した要件ではなく,不合理性を判断する上で考慮される要素です。
 比較の対象となる「無期契約労働者」は正社員とは限らず,正社員以外に無期契約労働者がいる場合は,無期契約労働者が比較の対象となることも考えられます。
 また,労契法20条は,同一の使用者に雇用されている有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違に関する条文ですから,使用者が異なれば比較の対象にはなりません。
 不合理性の解釈にあたっては,「本条の『不合理と認められるものであってはならない』とは,有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件に比して単に低いばかりではなく,法的に否認すべき程度に不公正に低いものであってはならないとの趣旨を表現したものと解される。」(『労働法(第十版)』235頁)との有力な見解があります。

(4) 労契法20条違反の効果
 労契法20条は,違反の効果について「不合理と認められるものであってはならない。」と規定しており,使用者の行為規範としての性質を有することは明らかであり,使用者と労働組合との間の団体交渉等で活用されることが予想されますが,本条違反の効果について明確に規定されていないこともあり,裁判規範たり得るかについては検討を要します。
 本条が使用者の行為規範として作用する以上,同条に違反した場合に使用者が不法行為法上の義務違反ないしは労働契約上の債務不履行が認められ,他の要件を充たせば損害賠償責任を負う可能性があるとまではいえるものと思われます。
 問題は,本条に違反した労働条件を無効と解すべきか否か,無効となるとすると,無効とされた労働条件はどのような内容となるのかです。
 この点,平成24年8月10日付け基発0810第2号「労契法の施行について」は,「法第20条は,民事的効力のある規定であること。法第20条により不合理とされた労働条件の定めは無効となり,故意・過失による権利侵害,すなわち不法行為として損害賠償が認められ得ると解されるものであること。法第20条により,無効とされた労働条件については,基本的には,無期契約労働者と同じ労働条件が認められると解されるものであること。」としています。
 しかし,立法の際参考にされた特許法35条が,まずは3項において従業員等は一定の場合に「相当の対価の支払を受ける権利を有する。」と定めた上で,同条4項において「契約,勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には,対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況,策定された当該基準の開示の状況,対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して,その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。」と定めているのとは異なり,労契法20条には,特許法35条3項に相当する条項(一定の労働条件を請求する権利を有する旨直接規定した条項)が存在しません。
 また,本条は,無効となった労働条件をどのように補充するのかについて具体的に規定しておらず,労働協約,就業規則,労働契約の解釈により,無効となった労働条件を補充する労働条件を導き出すことができる事案であれば,有期契約労働者は,当該労働条件の無効及びあるべき労働条件を主張立証していけばよいとも考えられますが,無効となった労働条件を補充する労働条件を導き出すことができない場合は,同条に違反した場合の労働条件を直ちに無効としてしまうと,不合理ながらも存在していた労働条件に関する合意すら効力がなくなってしまい,かえって有期契約労働者にとって不利益となりかねません。
 正社員等の無期契約労働者の労働条件が職務内容等に照らし高過ぎるような場合には,有期契約労働者の労働条件を引き上げたらかえって不合理に高い労働条件になってしまいますので,有期契約労働者の労働条件を引き上げるのではなく,不合理に高い労働条件となっている無期契約労働者の労働条件を引き下げた方が合理的な場合もあり得ます。
 労契法20条違反の効果に関しては,「労働条件分科会での議論をみれば,本条は,訓示規定にとどまるものではなく,私法上の効力をもつことを想定して構想されたといえる。つまり,『不合理』と認められた労働条件の定め(労働協約,就業規則,労働契約)は無効とされよう。」としつつ,「不合理性の判断に際して比較対象となった無期契約労働者の労働条件を定める就業規則等の基準が存しており,その合理的な解釈によって同基準を有期契約労働者にも適用できるような場合でなければ,無効と損害賠償の法的救済にとどめ,関係労使間の新たな労働条件の設定を待つべきであると考える。」(『労働法(第十版)』238頁~239頁)との有力な見解が存するところですが,本条違反の効果について明確に規定されていない以上,本条は単なる訓示規定に過ぎず,本条違反の労働条件も無効とはならないという解釈も成り立ち得るところです。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

賃金減額に応じない。

2013-09-22 | 日記
賃金減額に応じない。

(1) 賃金減額の方法
 賃金減額の方法としては,①労働協約,②就業規則の変更,③個別同意によることが考えられます。

(2) 労働協約による賃金減額
 労働組合との間で賃金に関する労働協約を締結した場合,それが組合員にとって有利であるか不利であるか,当該組合員が賛成したか反対したかを問わず,労働協約で定められた賃金額が労働契約で定められた賃金額に優先して適用されるのが原則です(労組法16条)。
 したがって,労働者が賃金減額に反対していたとしても,当該労働者が加入している労働組合との間で賃金を減額することを内容とする労働協約を締結すれば,賃金を減額することができます。
 労働協約の規範的効力が及ぶ範囲は原則として組合員との範囲と一致し,労働協約締結後に組合員となった者にも組合加入時から労働協約の規範的効力が及びますが,労働組合を脱退した場合には離脱の時点から労働協約の規範的効力は及ばなくなります。
 労働協約が締結されるに至った経緯,当時の会社の経営状態,同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らし,同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものである場合には,その規範的効力を否定され(朝日海上火災保険(石堂・本訴)事件最高裁第一小法廷平成9年3月27日判決),賃金減額の効力が生じません。
 賃金減額の効力が及ぶのは,原則として労働協約を締結した労働組合の労働組合員に限られることになりますが,労働協約には,労組法17条により,一の工場事業場の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは,当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても右労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められており,この要件を満たす場合には,賃金減額に反対する未組織の同種労働者に対しても労働協約の効力を及ぼし,賃金を減額することができます。
 ただし,労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容,労働協約が締結されるに至った経緯,当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし,当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは,労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼし,賃金を減額することはできません(朝日海上火災保険(高田)事件最高裁第三小法廷平成8年3月26日判決)。
 具体的に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約により処分又は変更することは許されません。
 少数組合に加入している組合員に対しては,労組法17条の一般的拘束力は及びません。
 したがって,少数組合に加入している組合員の賃金を減額するためには,当該少数組合と労働協約を締結するか,就業規則を変更するか,個別同意を取る必要があります。
 未組織組合員に一般的拘束力が及ばない場合に賃金を減額するためには,就業規則を変更するか,個別同意を取る必要があります。

(3) 就業規則による賃金減額
 就業規則により賃金を減額する場合は,就業規則の不利益変更に該当するため,就業規則の変更が有効となるためには,以下のいずれかの場合である必要があります。
 ① 労働者と合意して就業規則を変更したとき(労契法9条反対解釈)
 ② 変更後の就業規則を周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき(労契法10条)
 ①に関し,「就業規則の不利益変更は,それに同意した労働者には同法9条によって拘束力が及び,反対した労働者には同法10条によって拘束力が及ぶものとすることを同法は想定し,そして上記の趣旨からして,同法9条の合意があった場合,合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないと解される。」(協愛事件大阪高裁平成22年3月18日判決)との見解が妥当と思われますが,労働者の同意があれば合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないとの見解に立ったとしても,合意の認定は慎重になされるのが通常であるため,最低限,書面による同意を取る必要があります。
 労働者が就業規則の変更を提示されて異議を述べなかったといったことだけでは足りません。
 合理性に乏しい就業規則の規定の変更については,書面による同意を取ったとしても,労働者の同意があったとは認定されないリスクが高いものと思われます。
 ②に関し,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生じます(大曲市農協事件最高裁昭和63年2月16日判決)。
 具体的に発生した賃金請求権を事後に変更された就業規則の遡及適用により処分又は変更することは許されません。

(4) 個別合意による賃金減額
 個別合意よりも社員に有利な労働条件を定めた労働協約,就業規則が存在する場合には,それらの効力が個別合意に優先するため(労組法16条,労契法12条),労働協約,就業規則を変更しない限り,個別合意により賃金を減額することはできません。
 個別合意よりも社員に有利な労働条件を定めた労働協約,就業規則が存在しない場合は,個別合意により賃金を減額することができますが,賃金減額に対する同意の認定は慎重になされることが多いので,「書面」で同意を取っておくべきです。
 「既発生の」賃金債権の減額に対する同意は,既発生の賃金債権の一部を放棄することにほかなりませんから,それが有効であるというためには,それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであることが明確である必要があります(シンガーソーイングメシーン事件最高裁第二小法廷昭和48年1月19日判決)。
 「未発生の」賃金債権の減額に対する同意についても「賃金債権の放棄と同視すべきものである」とする下級審裁判例もありますが,「未発生の」賃金債権の減額に対する同意は,労働者と使用者が合意により将来の賃金額を変更した(労契法8条参照)に過ぎず,賃金債権の放棄と同視することはできないのですから,通常の同意で足りると考えるべきであり,それが労働者の自由な意思に基づいてなされたものであることが明確であることまでは要件とされないものと考えます。
 北海道国際空港事件最高裁第一小法廷平成15年12月18日判決(労判866号14頁)が,「原審は,上告人が平成13年7月25日に減額された賃金を受け取り,その後同年11月まで異議を述べずに減額された賃金を受け取っていた事実によれば,同年7月1日にさかのぼって賃金が減額されることも,上告人はやむを得ないものとしてこれに応じたものと認めることができると認定した。すなわち,原審は,上告人が平成13年7月25日に同月1日以降の賃金減額に対する同意の意思表示をしたと認定したのであるが,この意思表示には,同月1日から24日までの既発生の賃金債権のうちその20%相当額を放棄する趣旨と,同月25日以降に発生する賃金債権を上記のとおり減額することに同意する趣旨が含まれることになる。しかしながら,上記のような同意の意思表示は,後者の同月25日以降の減額についてのみ効力を有し,前者の既発生の賃金債権を放棄する効力は有しないものと解するのが相当である。」と判示し,未発生の賃金債権の減額に対する同意の意思表示を肯定しているのは,既発生の賃金債権の減額に対する同意の意思表示の効力を肯定するための要件と未発生の賃金債権の減額に対する同意の意思表示を肯定するための要件を明確に区別し,未発生の賃金債権の減額に対する同意の意思表示を肯定するための要件としては,それが労働者の自由な意思に基づいてなされたものであることが明確でなければならないことを要求していないからであると考えられる。

(5) 定期昇給凍結
 就業規則に一定額・割合以上の定期昇給を行う義務が定められている場合に定期昇給を凍結するためには,定期昇給を凍結する旨の労働協約を締結するか,定期昇給を凍結する旨就業規則の附則に定める等の就業規則の変更が必要となります。
 労働協約を締結できず,定期昇給を凍結する旨の就業規則の変更に関し同意が得られない場合は,就業変更により一方的に労働条件の変更をせざるを得ませんが,その合理性(労契法10条)の有無が問題となります。
 就業規則に一定額・割合以上の定期昇給を行う義務が定められておらず,使用者に定期昇給の努力義務が課せられているに過ぎない場合は,定期昇給をしなくても法的問題はありません。

(6) ベースアップ凍結
 ベースアップは労使交渉により特段の決定がなされない限り行う必要はありません。

(7) 賞与不支給
 個別労働契約,就業規則,労働協約で一定額・割合の賞与を支給する義務が定められていない場合には,使用者には賞与を支給する義務がないため,賞与不支給としても法的には問題はありません。
 他方,一定額・割合の賞与を支給する義務が定められている場合は,賞与を支給する義務があります。
 就業規則の定めを変更して賞与不支給とする場合には,就業規則の不利益変更の問題となるため,その高度の合理性の有無が問題となります。

(8) 諸手当の廃止,支給停止
 賃金規程で定められた諸手当の廃止,支給停止を行う場合は,賃金規程を変更したり,附則に支給を停止する旨定めたりする必要があり,就業規則の不利益変更の問題となります。

(9) 年俸額の引下げ
 年俸制を採用した場合に,年度途中で年俸額を一方的に引き下げることができるか,次年度の年俸額引下げを求めたところ合意が成立しない場合における次年度の年俸額がどうなるかは,当該労働契約の解釈の問題です。
 トラブルを予防するためにも,労働契約上明確にしておくことをお勧めします。
 労働契約上明確でない場合は,年度途中で年俸額を一方的に引き下げることはできないケースが多いのではないかと思います。
 次年度の年俸額引下げを求めたところ合意が成立しない場合における次年度の年俸額については,使用者の提示額を超えては請求できないとされた裁判例,前年度実績の年俸額を支給すべきものとされた裁判例等があります。

(10) 休業時の賃金カット
 会社の業績が悪いことを理由とした休業がなされた場合は,通常は使用者の責めに帰すべき事由があると言わざるを得ないため,平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります(労基法26条)。
 休業手当の支払義務は,労働協約,就業規則,個別合意により排除することはできません(労基法13条)。
 民法536条2項の適用を排除し,平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨の労働協約が締結された場合には,当該労働組合の組合員については,平均賃金の60%の休業手当を支払えば足ります。
 少数組合の組合員など,労働協約の効力が及ばない社員に対し,平均賃金の60%の休業手当を超えて賃金を支払う必要があるかどうかについては,従来,民法536条2項の「使用者の責めに帰すべき事由」の存否の問題として争われてきました。
 例えば,いすゞ自動車事件宇都宮地裁栃木支部平成21年5月12日決定は,使用者が労働者の正当な(労働契約上の債務の本旨に従った)労務の提供の受領を明確に拒絶した場合(受領遅滞に当たる場合)に,その危険負担による反対給付債権を免れるためには,その受領拒絶に「合理的な理由がある」など正当な事由があることを主張立証すべきであり,その合理性の有無は,具体的には,使用者による休業によって労働者が被る不利益の内容・程度,使用者側の休業の実施の必要性の内容・程度,他の労働者や同一職場の就労者との均衡の有無・程度,労働組合等との事前・事後の説明・交渉の有無・内容,交渉の経緯,他の労働組合又は他の労働者の対応等を総合考慮して判断すべきものとしています。
 民法536条2項は民法上の任意規定であり,特約で排除することもできるため,労働契約及び就業規則において休業期間中は平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨定めておけば,理論的にはこれを超える賃金を支払う義務はないはずですが,裁判所は,民法536条2項の適用除外について慎重に判断する傾向にあります。
 例えば,いすゞ自動車(雇止め)事件東京地裁平成24年4月16日判決(労判1054号5頁)は,休業手当に関し,就業規則に「臨時従業員が,会社の責に帰すべき事由により休業した場合には,会社は,休業期間中その平均賃金の6割を休業手当として支給する。」と定められている事案において,「被告は,本件休業に係る休業手当額を平均賃金の6割にすることについては,第1グループ原告らとの間の労働契約及び臨時従業員就業規則43条により,その旨の個別合意が存在し,この合意は本件休業の合理性を基礎付ける旨主張する。しかし,上記の規定は,労働基準法26条に規定する休業手当について定めたものと解すべきであって,民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による労務提供の受領拒絶がある場合の賃金額について定めたものとは解されないから,被告の上記主張は,その前提を欠くというべきである。」と判示しており,民法536条2項の適用除外を認めていません。
 民法536条2項の適用を排除するためには,単に休業期間中は平均賃金の60%の休業手当を支払うとだけ就業規則に規定するのではなく,民法536条2項の適用を排除する旨明確に規定しておくべきでしょう。
 また,就業規則が労働契約の内容となるための要件として合理性が要求されていることもあり(労契法7条),事案によっては適用が制限されるリスクがないわけではありません。
 大多数の社員の理解を得られないまま休業を行った場合,会社経営に支障が生じる可能性が高いため,少なくとも多数派の同意を得ておくべきでしょう。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする