第1 給与を下げる方法
1 降格処分による場合
(1) 人事権の行使としてなされる場合
ア 職位・役職を引き下げる場合
例えば,部長から一般職に降格し,これに伴い(部長)役職手当を不支給にする場合を言います。
使用者は労働契約上当然に人事権を有しているので,人事権の行使として職位・役職を変更(低下)できます。
違法になるのは権利濫用(労契法3条5項)になる場合に限られます。つまり,職位・役職の引下げ自体が適法である限り,役職手当の不支給も相当とされています。
なお,労働契約上,職位・役職が特定されている場合には,労働者の同意がない限り降格できません。
イ 職能資格等級を引き下げる場合
職能資格等級とは,企業における職務遂行能力を職掌として大くくりに分類したうえ,各職掌における職務遂行能力を資格とその中でランク(級)に序列化したものをいいます。
一般的に,能力の向上は勤続年数の経過が必要であることから,年功序列的なものになる傾向があります。
職務遂行能力は,勤続によって蓄積される性質であることが暗黙の前提となっており,その能力が下がることは想定されていません。
個々の資格等級と基本給を連動させる形で賃金制度として導入されています。
職能資格等級の引下げができるのは,労働者の合意があるか,もしくは就業規則上,使用者に引下げ権限が明確に与えられている場合(例えば,就業規則に「職務遂行能力を評価して,当該資格要件を満たさなくなった場合は,降格を行う場合がある」と規定され地得る場合)に限られています。
ウ 職務等級を引き下げる場合
成果主義型の賃金制度として,労働者の能力(年功による能力の蓄積)ではなく,職務に着目し,職務と賃金とを連動させる形の賃金制度を言います。
(2) 懲戒処分として降格がなされる場合
懲戒処分の検討手順は,FAQ536 をご参照ください。
懲戒処分の減給可能額は,FAQ537 をご参照ください。
2 配点(職務内容の変更)に伴う場合
職能資格制度を導入している場合には,職務の変更は賃金額に影響しないため,労働者の同意を得ることなく,賃金を引き下げることはできません。
3 人事考課(個別査定)による場合
人事考課制度の合理性・公正さ(決定手続の相当性)がポイントです。
裁判例では,
① 就業規則等に降給が規定されていること
② 降給の仕組み自体に合理性と公正さがあること
降給が決定される過程に合理性があること
その過程が従業員に告知されてその言い分を聞くなどの公正な手続が存すること
③ 降給の仕組みに沿って降給措置が採られていること
④ 個々の従業員の評価の過程に,特に不合理ないし不公正な事情が認められないこと
を満たす必要があるとされています。
就業規則(賃金規程)例としては,
第○条 基本給の改訂(昇給または減給)は,原則として,毎年4月に行う。
2 基本給の降給は,人事考課が平均未満の場合に行われる。
3 基本給が降給となる場合,その上限は従前の基本給の10%の範囲内とする。
第2 最後に(賞与について)
賞与は,会社の業績に応じて特別に支給するものであり,支給するかどうかは会社の裁量にあります。
もっとも,就業規則に「賞与として基本給の3か月分を支給する」と規定している場合には,規定通り支払う必要がでてきます。
企業として裁量を残したいのであれば,支払金額を記載せずに,「賞与を支払うことがある」という規定にしておいた方が良いでしょう。
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