弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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精神的な不調を訴えて欠勤している労働者に対し,医師への受診命令をすることはできますか?

2016-03-29 | 日記

精神的な不調を訴えて欠勤している労働者がいます。この労働者に対して医師への受診命令をすることはできますか?


 一般に,就業規則に健康管理規程等が定められている場合には受診命令は可能と考えられています。

 もっとも,精神的な不調(メンタルヘルス不調)の場合には,プライバシー権といった労働者への配慮が必要であることから,強制的に受診を命令することには慎重になるべきで,受診を促すことが穏当と考えられています。

 受診を促す際にも,まずは労働者の日頃の言動について直属の上司や同僚から聴取をしたり,業務結果を分析したりすることが必要で,業務成績の低下などの原因にメンタルヘルス不調の可能性があるかを検討すべきです。


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ひとつの非違行為に対して,出勤停止の懲戒処分をした場合,さらに懲戒解雇することはできますか?

2016-03-29 | 日記

ひとつの非違行為に対して,2回懲戒処分を行うことは許されない(一事不再理の原則)ようですが,ある労働者を懲戒解雇するか検討している際に,ひとまず出勤停止の懲戒処分をしてしまうと,さらに懲戒解雇をすることは一事不再理の原則に反してしまうのですか?


 たしかに,ひとつの非違行為に対して,懲戒処分としての出勤停止をした場合,さらに懲戒解雇 をすることは一事不再理の原則に反します。

 しかし,懲戒処分としての出勤停止とは別に,業務命令として出勤停止や自宅待機を命じることができます。これは処分をするかの調査または審議決定をするまでの間就業を禁止する前置措置としての意味を持ちます。

 もっとも,業務命令としての出勤停止の場合は,懲戒処分としての出勤停止とは異なり,原則として出勤停止の間も賃金を支払う必要があります。

 したがって,ある懲戒事由が疑われていて仮にその事実が判明したのであれば懲戒解雇が相当と考えている場合には,まずは業務命令として出勤停止の措置をとったうえで,事実の調査や審議決定をするべきです。

 また,その際には,のちに一事不再理の原則を争わせないためにも,業務命令としての出勤停止の措置である旨,書面等で明示しておくことが重要だと思います。

 この場合には,次のような就業規則の定めがあると,業務命令としての出勤停止の措置の可能性があると周知させることができます。

 「懲戒に該当する行為があった者について,事実調査のため必要がある場合は,その処分が決定されるまでの間,自宅待機を命ずることがある」


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懲戒解雇をした労働者の非違行為が新たに判明した場合,裁判では追加主張することはできますか?

2016-03-29 | 日記

裁判で懲戒解雇の有効性が争われることになりました。改めてその労働者を調査したところ,懲戒解雇時には認識していなかった非違行為が当時からあったことが確認できました。裁判ではこの非違行為も追加して主張することはできますか?


 判例は,特段の事情のない限り,使用者が懲戒解雇 時には認識していなかった事実を主張することはできないとしています。なぜなら,懲戒の適否はその理由とされた具体的な非違行為との関係において判断すべきものとされているからです。

 では,特段の事情はどういう場合かというと,その懲戒の理由とされた非違行為と密接に関連した同種の非違行為の場合などを指すとされています。

 たとえば,一連の横領行為の一部のみの調査が先行しこれのみで労働者を懲戒解雇したところ,その後の調査でその前後にも横領行為があり,裁判においてこれら一連の横領行為として懲戒解雇事由に該当するとの主張がこれにあたります。

 この点,裁判例には,休日出勤命令を拒否し,さらに無断欠勤をしたことを理由に懲戒解雇を行ったあとに,その労働者が経歴詐称をしていたことが判明した事案について,特段の事情にはあたらず,経歴詐称の事実をもって懲戒解雇事由に該当するとの主張はできないとしたものがあります。

 以上より,ご質問のケースでも,特段の事情があるか,すなわち,処分時に処分理由としていた非違行為と一連一体の同一類型の行為といえるかどうかがポイントになってきます。


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減給の懲戒処分をする場合,減給できる額を使用者が自由に決めて良いのですか?

2016-03-29 | 日記

労働者が非違行為をしたことが分ったので,減給の懲戒処分をしたいと考えています。減給できる額を使用者が自由に決めて良いのですか?


第1 はじめに

 減給できる額には,労基法上の制限があるため,同法の範囲内で減給額を決定することになります。

 その制限とは次の通りです。

 一つの事案における減給額は平均賃金の1日分の半額以下

 減給の総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下

でなければなりません。

 この制限について懲戒処分の手順(FAQ536 )に沿って検討してみます。

第2 ケース検討

0 想定事例

(1) 非違行為発生日時

 平成○○年7月1日

(2) 賃金の締め日(賃金の締め日があるときはその直前の締め日から3か月を起算する)

 当該月の末日

(3) 総日数

 91日(4月~6月)

(4) 賃金

 月給30万円

1 就業規則などにおける根拠規定の存在

 就業規則に減給できる旨の規定があるかを確認します。

 たとえば,「始末書をとり将来を戒めるとともに賃金を減ずる。この場合,減給の額は一事案について平均賃金の1日分の半額とし,複数事案に対しては減給の総額が当該賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超えないものとする」という規定が考えられます。このように,減給の際には始末書も提出させる旨定めることもあります。

2 懲戒事由該当性

 懲戒事由に該当するかは,客観的な証拠から認定できるかを軸に検討していきます。

 実際にはここでの証拠収集や認定作業(手続)を抜かりなくやっていくことが重要です。

 客観的な証拠は,後に事実の有無が争われた際に,懲戒事由に該当する事実があると主張する際に重要な証拠になります。

3 懲戒処分の相当性

 当該減給が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当とは認められない場合には無効になります。

 その際には,非違行為の性質,態様や被処分者の勤務歴および当該同種の非違行為に対する懲戒処分についての先例等を総合的に判断していきます。

 労基法のルールは,一つの事案における減給額は「平均賃金の1日分」の「半額以下」というものです()。

(1) 平均賃金の計算方法

ア 計算式

計算式

イ あてはめ

あてはめ

(2) 減給額

ア 平均賃金の1日分÷2=減給額()

イ 9890円÷2=4945円

(3) 他のケースの場合( 減給の総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下)

 仮に同じ月に7事案の非違行為をした場合

 4945円×7事案=3万4615円を減給できるか??

ア 一賃金支払期の賃金総額×0.1(10分の1)=減給の総額()

イ 30万円×0.1=3万円までが減給できる範囲になります。

 したがって,3万円を超える減給はできず,それを超える部分(4615円)は次回の賃金支払期以降に減額していくことになります。

第3 最後に

1 「減給」とは?

 以上説明してきた懲戒処分としての「減給」とは,労務遂行上の懈怠や職場規律違反に対する「制裁として」賃金額から一定額を差し引くことをいいます。

 これと区別すべきものとしては,たとえば,配転による職務内容の変更に伴って賃金が低額に変更される場合があります。

 また,人事考課における低査定の結果,基本給や賞与の額が低額になることは賃金の計算方法に過ぎず,「減給」には該当しません。

 さらに,遅刻,早退,欠勤に対する賃金の差引は,現に労働しなかった事案に相当するだけの差し引きであれば賃金の計算方法に過ぎず,「減給」には該当しません(不就労時間に相当する賃金額以上の差し引きであれば,超過部分につき「減給」に該当します)。

2 国家公務員の場合

 なお,国家公務員については,「1年以下の期間,俸給の月額の……5分の1以下に相当する額を,給与から減ずる」定めがありますが,このような措置をとることは労基法上は許されていません。


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懲戒処分の手順を教えてください。また,懲戒事由及び種類にはどのようなものがありますか?

2016-03-29 | 日記

懲戒処分の手順を教えてください。また,懲戒事由及び種類にはどのようなものがありますか?


懲戒処分は以下の3つの手順を踏んでその適法性を判断していきます。

1 就業規則などにおける根拠規定の存在

就業規則に懲戒処分の規定がない企業,就業規則に定めがあってもこれを事業場の労働者に周知していない企業は,有効に懲戒処分をすることができません。

就業規則に定めることが考えられる懲戒事由は以下の通りです。

(1) 経歴詐称

(2) 業務命令違反

(3) 職場規律違反

(4) 無断欠勤など

(5) 会社物品の私用

(6) 私生活上の非行

(7) 二重就職・兼業規制


2 ② 懲戒事由該当性

具体的なケースによって判断していきます。

その際にはFAQ535 でも説明したとおり,事実経過を記載した始末書があると,有利な証拠になります。


3 懲戒処分の相当性

当該懲戒が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当とは認められない場合には無効になります。

その際には,非違行為の性質,態様や被処分者の勤務歴および当該同種の非違行為に対する懲戒処分についての先例等を総合的に判断していきます。

懲戒処分の種類は次のものが考えられます。

(1) 戒告・けん責

一般的に,戒告は始末書の提出を求めずに将来を戒めるもの,けん責は始末書の提出をさせて将来を戒めるものとされています。

(2) 減給

減給額について,労基法上の制限があるので注意してください(FAQ537 をご参照ください)。

一事案の減給額は平均賃金の1日分の半額以下,減給の総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以下でなければなりません。

(3) 出勤停止・自宅待機命令

(4) 降格

(5) 諭旨解雇

(6) 懲戒解雇


4 最後に

懲戒解雇などの有効性が裁判で争われた際には,懲戒処分時に上記の3つのステップがきちんと踏まれていたかを審理していきます。そのため,懲戒処分時にどのような事実(証拠)に基づいて当該懲戒処分をしていたかが決定的に重要になります(処分時に懲戒事由としなかった事由を追加して主張することはできません)。

したがって,懲戒処分の検討段階からどのように証拠を残していくかを念頭に置きながら対策を練っていくことが必要です。


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始末書の不提出を理由にさらに重い懲戒処分することは可能ですか?

2016-03-29 | 日記

労働者が無断欠勤を繰り返したので,けん責の懲戒処分として始末書の提出を命じたものの,この提出もしません。この場合,始末書の不提出を理由にさらに重い懲戒処分することは可能ですか?


 使用者は労働者に対して,謝罪や反省を強制することはできないとされています(提出を求めることは当然できます)。個人の意思決定の自由は尊重されるべきという理由からです。

 したがって,謝罪や反省を内容とする始末書の提出に応じなかったことを理由として,懲戒処分をすることはできません。

 では,このような労働者に対して,使用者はどのような手段をとることができるかが問題になります。

 まず,謝罪ではなく純粋に事実経過の報告を求める性質の書面であれば,個人の意思決定の自由とは関係がなくなってきます。

 また,労働契約上,労働者には企業運営上の支障となる行為をした場合,その具体的な事実を報告する義務があると言えます。

 このような理由から,業務命令として事実報告を求めることは可能だといえます。

 最後に,始末書の有効な記載方法を説明します。

 始末書は,誰が,いつ,どこで,何をしたかという事実を明確にしておくことに意義があります。たしかに,謝罪や反省をさせる目的もあるとは思いますが,むしろ客観的事実を正確に記載していることの方が重要です。例えば,「このたびの一件について…」といったものだと,労働者が何をしたのかが不明確であり,後に紛争が生じる原因となってしまいます。

 また,本人の言い分を記載したものの方が本人に弁明の機会を経た証拠にもなり,手続上も適正なものであったと主張しやすくなります。

 始末書は,基本的に裁判に提出することを想定して提出してもらっているものではないとは思いますが,後日紛争になったときのコストを考えると以上のような記載(有利な証拠)を今のうちから(準備)しておくことをお勧めします。


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整理解雇をする際の検討すべきポイントを教えてください

2016-03-29 | 日記

整理解雇をする際の検討すべきポイントを教えてください。


 整理解雇 (指名解雇)は,企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇 です。労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではない点が特徴であり,解雇権濫用法理の適用においてより厳しく判断すべきと考えられています。

 裁判では,次の4つの要素を軸にして考慮していきます。

① 人員整理の必要性

 企業経営上の十分な必要性に基づいていること,またはやむを得ない措置と認められることが必要です。

 例えば,企業が倒産の危機にある場合はこれに該当することは間違いないです。

 人員整理の必要性判断について,一般的には,経営者の判断を尊重しているようですが,経営者側には,経営危機の状況や経営判断に合理性があることの説明責任があると言われています。

 したがって,経営者として,財務諸表,流動性比率,支払能力比率,収益性比率,労務費の分析等,客観的資料に基づいた具体的な主張をすることがポイントになります。

② 解雇回避努力義務

 広告費・交際費等の経費削減,役員報酬の削減,残業規制,中途採用・再雇用の停止,希望退職者の募集などの措置がとられていたかがポイントになります。

 この点,希望退職の募集は,判例上,労働者の意思を尊重しつつ人員整理を図るうえで極めて有用な手段と評価されていて,希望退職の募集をせずにいきなり解雇した場合には,解雇回避努力義務を尽くしていないと判断されることが多いです。

 したがって,整理解雇を実施する前に,まずは希望退職の募集等をするのがポイントといえます。

③ 人選の合理性

 客観的で合理的な基準に基づくことが必要です。

 基準として考えられるのは以下の5つです。

(1) 勤務態度の優劣(欠勤日数,遅刻回数,規律違反歴等)

(2) 勤続年数,休職日数等

(3) 勤務成績(過去の実績,業務に有益な資格の有無等)

(4) 正規従業員であるか,臨時従業員であるか

(5) 労働者側の事情(年齢,家族構成等)

 営業成績を基準とするのであれば比較的,数値化・客観化することは容易ではありますが,そうでない場合には評価の仕方の合理性が問題になります。

④ 手続の妥当性

 労働協約に協議・説明義務条項があるのにこれを欠いたのであれば解雇は無効になります。このような労働協約がない場合でも,裁判例は,経営者に協議・説明義務を負わせています。

 したがって,いずれにせよ協議・説明の手続を踏むことがポイントになります。

 以上が整理解雇の検討のポイントですが,使用者が整理解雇に際し,割増退職金を提示していたり,再就職先の斡旋をしていたりすることがあります。これらは直接的な解雇「回避」措置ではないものの,解雇の相当性判断や和解の場面においては相当程度考慮されるものですので,使用者側には有利な事情となります。


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採用した労働者のパフォーマンスが低く期待外れとなってしまった場合の,解雇の可否の検討方法

2016-03-29 | 日記

労働者を採用したのですが,そのパフォーマンスが低く,期待外れとなってしまいました。この場合の解雇の可否の検討方法を教えてください。


 回答を先に申し上げると,その労働者の職務内容,労働者の能力不足の程度,改善の余地,配置転換の可否などを総合的に検討していくことになります。以下,詳説していきます。

 ご質問のケースは,類型的にみて能力不足を理由とする解雇といえ,以下,FAQ531 で説明した普通解雇 の検討手順(①解雇 の客観的合理性に絞って)に沿ってみていきます。

 解雇事由の特定

 就業規則に能力不足を解雇事由としている条項があるかどうかを確認します。

 たとえば,「業務遂行能力,勤務成績が劣り,または業務に怠慢で向上の見込みがないと認めたとき(解雇する)」という条項が考えられます。なお,ここで「著しく劣り」というような規定にしていると,どのような場合に「著しく劣る」といえるのか問題になるおそれがあるため,このような形容詞はいれないほうが良いでしょう。

 将来的予測の原則に基づく検討

 第一に,労働契約上,その労働者に求められている職務能力の内容を検討します(専門的能力が求められているか,責任の重い管理能力が求められているか)。

 第二に,その職務能力の不足が,労働契約の継続を期待できないほど重大なものであるかを検討します。この検討は客観的総合的に行うべきものであり,使用者の主観的な評価(人事考課)は,一資料にとどまります。

 最終的手段の原則に基づく検討

 客観的にみて,使用者にそれでもなお,雇用の義務を負わせることができるか,これができる場合には期待可能な解雇回避措置として考えられる方法及び使用者がこれを尽くしたかを検討していきます。

 この点,裁判例には,会社が人事考課の相対評価が下位10%未満の従業員を「労働能率が劣り,向上の見込みがないと認めたとき」と定められていた就業規則に基づいて解雇した事案につき,主に次の二点を指摘して解雇を無効にしたものがあります。つまり,相対評価の人事考課から直ちに労働能率が劣っているとは言えないこと(),指導により能力向上を図る余地や配置転換による雇用維持の努力をしていなかったこと()を指摘して,解雇を無効にしました。

 これらの検討を経てはじめて①解雇の客観的合理性の判断ができます。

 ①が肯定された場合には,さらに②解雇の社会的相当性(FAQ531 )の検討に続きます。


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普通解雇について,就業規則に記載されていない事由を理由として解雇することはできますか?

2016-03-29 | 日記

普通解雇について,就業規則に記載されていない事由を理由として解雇することはできますか?


 就業規則のなかに具体的事由を列挙した後に,「その他前各号に準ずるやむをえない事由が生じたとき」といった包括条項が定められている場合には,解雇 できる可能性があります。

 この点,解雇できるのは,就業規則に定められた解雇条項に限られるのか(限定列挙説),それともあくまでも解雇条項は例示にすぎないのか(例示列挙説)について,裁判例でも判断が分かれています。

 現在では,労基法の改正により解雇事由の定めは就業規則の絶対的記載事項になったことから,限定列挙説をとる考えが優勢のようです。

 使用者として考えられる対策は,解雇事由に遺漏がないようにするため,また予期せぬ事態に備えるためにも,冒頭のような包括条項を就業規則に定めておくのが有効です。

 もっとも,包括条項に頼りきるのではなく,就業規則に列挙した解雇事由に該当しない限り,解雇できないという方向(限定列挙説)で準備しておくべきでしょう。


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労働者側の事情に基づく解雇を検討する際の解雇権濫用法理のポイントを教えてください。

2016-03-29 | 日記

労働者側の事情に基づく解雇を検討する際の解雇権濫用法理のポイントを教えてください。


 労働者側の事情に基づく解雇をする場合には,解雇予告制度,個別法令による制限,当事者自治による規制(労働協約,就業規則等)のハードルに加えて,労契法16条が,①解雇 の客観的合理性,②解雇の社会的相当性を要求しています。これが解雇権濫用法理と呼ばれているものです。①では客観的類型的な見地からみた解雇事由の有無を判断し,②では①を前提に,当該解雇の個別事情を踏まえて判断します。

 まず,①解雇の客観的合理性は次の3つのステップを踏んで検討していきます。ここで注意すべきは,あくまでも普通解雇 は労働契約の債務不履行状態が将来にわたって継続することが予想される場合(将来的予測の原則)の最終手段(最終的手段の原則)であることを念頭に置くべきということです。

 解雇事由の特定

 解雇事由は以下の5つに分類できますが,裁判上は就業規則上の解雇事由該当性の有無を検討していることが多いです。

(1) 病気・負傷に基づく労働能力喪失を理由とする解雇

(2) 能力不足を理由とする解雇

(3) 職務懈怠を理由とする解雇

(4) 非違行為・服務規律違反を理由とする解雇

(5) 経歴詐称を理由とする解雇

 将来的予測の原則に基づく検討

 例えば,当該病気などが労働義務の履行を期待することができないほどの重大なものであるか,職務懈怠につき当該労働者に改善・是正の余地がないといえるのか,を検討していきます。

 最終的手段の原則に基づく検討

 を踏まえて,客観的にみて,使用者にそれでもなお雇用の義務を負わせることができるか,これができる場合には期待可能な解雇回避措置として考えられる方法及び使用者がこれを尽くしたかどうかを検討していきます。

 裁判において,解雇回避措置義務については解雇事由の重大性の程度と相関的に判断されているようです。

 次に,②解雇の社会的相当性についてですが,これは①が認められる場合であっても,

(1) 本人の情状(反省の態度,過去の勤務態度・処分歴,年齢・家族構成等)

(2) 他労働者の処分との均衡

(3) 使用者側の対応・落ち度

(4) 解雇事由の性格(非違行為としての重大性の程度)

などに照らして,解雇が過酷に失すると認められる場合に,解雇の社会的相当性を欠き,解雇権の濫用となり無効となるというものです。

 この点,①が認められる場合であっても,実際上は不当な動機・目的で行われていた場合には,②解雇の社会的相当性を欠くとして,解雇権濫用とされます。

 以上の通り,裁判で解雇の有効性が争われ,解雇権濫用の問題になった場合には,このようなステップで解雇の有効性を検討していきます。有効に解雇をするためには,検討すべきポイントが多くあることを理解していただけると思います。


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