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有期契約労働者を契約期間満了で雇止めしたところ,雇止めは無効だと主張してくる。

2012-10-04 | 日記
Q18 有期契約労働者を契約期間満了で雇止めしたところ,雇止めは無効だと主張してくる。

 有期労働契約は契約期間満了で契約終了となるのが原則です。
 ただし,有期労働契約が反復更新されて期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となった場合,雇用継続に対する労働者の期待利益に合理性がある場合は,新労契法19条(平成24年8月10日の第1次施行段階では18条として規定されているが,平成25年4月1日に予定されている第2次施行の際,19条に移動する予定。)が適用されて,使用者は従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされる可能性があります。

 新労契法19条の条文は以下のとおりです。
(有期労働契約の更新等)
19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって,使用者が当該申込みを拒絶することが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって,その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが,期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

 新労契法19条は,雇止めに関する従来の判例法理(雇止め法理)を明文化したものであり,雇止め法理の内容を変更するものではないと説明されています。
 しかし,新労契法19条には,雇止め法理では要求されていなかった「契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合」という要件が加わっており,有期契約労働者が主張立証すべき要件事実は明らかに変更されています。

 解雇権濫用法理を類推適用する場合か否か,要求される合理的理由の程度について,裁判例では,「当該雇用の臨時性・常用性,更新の回数,雇用の通算期間,契約期間管理の状況,雇用継続の期待をもたせる言動・制度の有無」等が考慮されてきました(菅野『労働法』第九版192頁)。

 有期労働契約は,一般に,以下の①②③④に類型化されています。
 ②③④のタイプに対しては解雇権濫用規制が類推適用され,当該有期労働契約の事案に即した合理的理由が必要とされることになります。
 これに対し,①のタイプでは類推適用が否定され,期間満了による契約終了が肯定されることになります(菅野『労働法』第九版192頁)。
① 契約期間の満了によって当然に契約関係が終了する「純粋有期契約タイプ」
② 期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っていると認められる「実質無期契約タイプ」
③ 相当程度の反復更新の実態から,雇用継続への合理的な期待が認められる「期待保護(反復更新)タイプ」
④ 格別の意思表示や特段の支障がない限り当然に更新されることを前提に契約を締結したものと認められる「期待保護(継続特約)タイプ」

 基本的な対処方法としては,「実質無期契約タイプ」と評価されないためにも,最低限,契約更新手続を形骸化させず,更新ごとに更新手続を行う必要があります。
 また,不必要に雇用継続を期待させるような言動は慎み,契約更新を拒絶する可能性があることを労働条件通知書等に明記するとともに,よく説明しておくべきでしょう。
 有期契約労働者については,身元保証人の要否,担当業務の内容,責任の程度等に関し,正社員と明確に区別した労務管理を行うべきです。
 雇止めが無効となるリスクが高い事案においては,合意により退職する形にすることをお勧めします。
 上乗せ金の支払も検討せざるを得ないでしょう。
 年休を消化させたり,年休買い上げの合意を盛り込んだりしておくと,退職合意の有効性が認められやすい傾向にあります。 

 労働者の適性を評価・判断する目的で労働契約に期間を設けた場合は,期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,契約期間は契約の存続期間ではなく,試用期間と評価されることになります。
 したがって,労働者の適性を評価・判断する目的の期間満了による雇止めが有効とされるためには,試用期間満了時における本採用拒否と同様,解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合であることが必要となります。
 期間満了で労働契約を終了させられるようにしておきたいのであれば,当初の労働契約書において,期間満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意をしておくとともに,期間満了により当初の労働契約は現実に終了させ,その後も正社員として勤務させる場合には,通常の正社員採用の際と同様,労働条件通知書を交付する等の採用手続を改めて行う必要があります。
 これを怠ると,当初から正社員として採用したものであり,当初の契約期間は試用期間に過ぎず,契約期間満了による退職(雇止め)は,試用期間における本採用拒否(解雇)と評価されるリスクが生じることになります。

弁護士 藤田 進太郎
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