リボンの男 /  山崎ナオコーラ

2022年07月04日 | や行の作家






難しい言葉も難しい言い回しも難しいからくりもひねりもなく、すらすら素直に読めて気持ち良く読み終えました。
久しぶりの楽しい読後感🎵

確かに、主婦や主夫って小さい世界だと思いがちではあります。
主婦や主夫の世界ってつまりは家庭。
誰でもその小さいと思われる世界、家庭から巣立って、やがては大きいと思われる世界からも巣立って、また小さいと思われる世界へ帰ってくるわけで。
小さい世界は浅い世界かと言えば、無限な深さもあるわけで。
そのあたりの描き方は、主夫である妹子さんの心の中にあたるのですが、感動的でした。

妹子さんの本名は小野常雄さん。妻はみどりさん。子供はタロウ君。
三人の名前、なかなかです。
主夫の妹子さんが常に♂だなんて。
みどりさんはさわやか、三人が住む野川にぴったりです。
そして、タロウ君。カタカナですが漢字ならどんな字だろうと想像してみました。
「多朗」はどうでしょう?「ほがらかがいっぱい」の多朗です。

妹子さんは専業主夫なので稼ぎはありません。
稼げないことを妹子さんは気にしたりします。
稼ぐ立場の妻であるみどりさんの稼がなくてはならないプレッシャーもよくわかるので、稼ぐ稼げない辛さはフィフティフィフティ。
お金を基準に考えるって、何だか世界を狭めますね。
小さい世界を巣立って大きい世界でお金を稼ぐのに、狭める?…
何だか、変です。

家事や育児が女性だけのものでなくなり、働かない男性の主夫の物語が登場するまでになって、そういう時代になったことがうれしくなります。
日本は「こうあるべき」にずいぶん縛られてきました。
生きづらさや息苦しさは「こうあるべき」の縛りなのですね。


で、この物語は家事や育児の問題だけではなく、現代の日本が抱える問題をいろいろ提示しています。
野生の動物と人間の境界
非正規雇用と正規雇用の格差
男性と女性の差別
プラスチックと環境
心の病
外来種…。

いま、こういう社会に住んでいるんだなと思ったら、物語の舞台の野川をのんびりと歩いてみたくなりました。



本文より

「いろいろな形態の書店が進化していってこそ、多様な書店文化が育まれるんだと思います。共存したいな、って思います」

「そうだよね。やりたいことは何個でもやった方がいいよね」

外来種だって、ただの生き物で、一所懸命に生きている。外来種の生き物や植物の多くが在来種より大きくて強いからといって、悪口を言って良いわけではないだろう。








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