ずっと昔、あなたと二人で
母の肖像
やがて夕暮れが夜に
さまよえる絵描きが、夜へ
真夜中の秘密
5編の連作短編集。
何だかすごい重たいものを読んだような。
でも、重たいものは面白さにつながっています。
怖いのは、人の情。
怒り。
理性ではどうしようもない怒りが沸点を超えてしまう。
それがどうしようもなく、かなしい。
人は、どうしても自分がかわいい。
子どもより、親より、誰より自分がかわいい。
それが、怒りの、かなしいの原点。
さて、このレビューを書いていて、この本のテーマは「捨てる」ではないかと思い始めています。
殺めた人を捨てるのはもちろんですが、逃げ出すのも捨てる。
捨てて生きる。別の世界で、別の場所で、別の人となって。
捨てたはずなのに、愛着の情は残っていて、それがまた別の世界へと誘う。
そうして、生きるためにその愛着さえ捨てる。
捨てて生きる。
みんな強いのです。
別の場所へ旅立てる強さと、別の人格へ変われる強さと。
それにしても、殺されてしまった人は無念です。
無念が、おしゃべりをして、動き、狙い、病ませ、狂わせる。
無念は自責の念につながるのかも。
おそろしいです。
「真夜中の秘密」の主人公、藤島泰斗さんは結婚し、父親になります。
彼の結婚相手が、「やがて夕暮れが夜に」の主人公、あかりさんなら良いなと思いました。
あかりさんが、山での生活に終止符を打ち穏やかな生活を送っていてくれたら、と思います。
思いがけずかかわってしまったけれど、藤島泰斗さんもあかりさんも誰も殺めてはいないのだから。
本文より
もうここにはアキの帰る場所はなかった。だがそれでいいのだ。(ずっと昔、あなたと二人で)
「あまり多くを求めずに生きられる人なのだと思います。そういう人は、強い」(真夜中の秘密)