6月10日、「2020年までにCO2を、2005年に比べて15%削減」という日本の中期目標が発表されました。
世界からは冷たい反応が返ってきています。EUはもちろん中国からも。
これまで、削減の基準は「1990年に比べて」何%減らそうというのが、97年の京都議定書以降の基本でした。
京都議定書で日本は2012年までに、90年から6%削減義務となりましたが、まず達成できません。逆にその後7%程度増えてしまいました。
それをごまかすために「2005年に比べて15%減」という言い方をし始めました。
これなら、同じ削減量でも「90年から8%削減」というより、むしろ削減幅が大きい印象を与えられます。
国内世論向けには、これで通用するかもしれないですが、国際世論や国際交渉では通用しないでしょう。
こういう言い換えは、いかにも日本的(「敗戦」を「終戦」、「副作用」を「副反応」、「敗退」を「転進」など・・)で、国際的に大きく信用を落したと思います。
数字合わせな政策の作られ方や、経済界の目先を求める動き(90年比+4%を経団連は主張していた)など、日本の行き詰りが表れている感じがします。
希望は、きちんと問題を指摘するNGOがいることです。
気候ネットワーク、環境エネルギー政策研究所 プレスリリース有り。
ちょっと長いですが、映画になった「不都合な真実」の翻訳者、枝廣淳子さんのメルマガから引用。問題が整理されています。
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Enviro-News from Junko Edahiro No. 1656 (2009.06.17)
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■麻生首相、日本の中期目標を発表
6月10日、麻生首相は官邸で記者会見し、2020年までの日本の温室効果ガス排出
削減の中期目標を「05年比15%減」とする方針を正式に発表しました。
「05年比15%減」は、選択肢の議論をしていたときの基準年1990年比にすると
8%減となります。日本は1990年から2005年の間に、排出量を7%以上増やしちゃっ
ているからです。
麻生内閣総理大臣の記者会見のようすは、こちらにインターネットテレビでの映
像と、スピーチ&質疑応答のテキストが載っています。
http://www.kantei.go.jp/jp/asospeech/2009/06/10kaiken.html
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■発表された中期目標について考えること
今回の発表について、いろいろ考えるところがありますが、大きく3つ書きます。
(1) 目標設定が科学に基づいていない
(科学ベースではなく、相対的に立ち位置を決めるという政治)
欧米の政治家のスピーチの多くには、「IPCCでは」「科学によると」という前提
の上に、自分たちはどうする、という説明があります。科学をベースに政治や政
策を考えているのですね。
日本の政治(政治家)は、科学などぶれない軸をもたず、対人関係や距離感で政
治や政策を考えるんだなあ、とよく思います。絶対的な基準や軸を持つのではな
く、相対的なのですね。「米国がそう出るなら日本はこう出そう」「民主党がそ
う出すなら、自民党はこう出そう」などなど……。
今回の麻生総理の中期目標を発表するスピーチにも、「IPCC」という言葉は一度
も出てこなかったし、「科学」という単語も、以下の2箇所だけで、「温暖化の
科学がどうなっているのか」「科学が何を要請しているのか」、しっかり認識し
た上での判断とは思えないなあ、、、と。
「私は日本の中期目標を決断するのに先立って、専門家に経済的な影響も含め、
総合的、科学的に分析をしていただきました。」
「科学の要請に応えるためには、この中期目標では小さ過ぎるという意見がある
かもしれません。今ある技術だけでは、2050年60%から80%削減に向けて直線的
な経路を歩むことは困難です。長期目標を達成するためには、まだ見えていない
革新的技術の開発と普及が必要となります。」
「今回は産業界の求める4%増と、NGOの求める25%減の間を取った。どちら
にも不満が残る形になるよう決定した」という声も聞かれました。ケンカ両成敗
じゃないのですから、「間を取る」という発想ではなく、温暖化を止めるという
そもそもの目的に照らして「どうあるべきか」で判断すべきものですよね?
(2) 基準年を1990年から2005年に変えて数字を大きく見せようとしている
太りすぎのAさんとBさんが「お互い、ダイエットして体重を落とそう」と話し
合い、Aさんは8kg、Bさんは6kg、減らす約束をしました。
Aさんは実際に8kgぐらい減量しました。一方、Bさんは、減らすどころか逆に
7kg以上増えてしまいました。
久しぶりに会った2人は、「目標の体重までまだまだ遠いから、もっと減らす約
束をしよう」と相談しました。
Aさんは、「元の体重から20kg減らすよ」と約束しました。すでに8kgぐらい減
らしていますから、あと13kg減らすことになります。
Bさんは、「元の体重から8kg減らそう」と考えました。最初の約束で、元の体
重から6kg減らすことを約束していましたから、追加で2kgしか減らさないとい
うことです。
実際には、最初の約束の6kg減のはずが7kg以上増えてしまっているBさんは、
「元の体重じゃなくて、いまの体重から考えれば、元の体重から8kg減らす分と
7kg増えている分を足すことになるから、15kg減らすことになる」と思いました。
そこでBさんはAさんに対して、「キミの目標の13kgより、ボクの目標の15kgの
方が多いから、ボクの方が偉いんだよ。どうだ、すごいだろう!」といばりまし
た。
……??? 何だかヘンだと思いませんか?
麻生総理は中期目標の発表で、「今回、私が決断した日本の目標は、国際的に見
てもヨーロッパの2005年比13%減や、アメリカ、オバマ政権の14%減といった欧
米の中期目標を上回るものだと思っております」と胸を張っていらっしゃいまし
た。。。
実際の数字を専門家に確認したので、詳しくお伝えしますと、
○日本は、第一約束期間は90年比6%削減を約束しているが、05年には7.7%増
加している。今回は2020年には05年から15%削減と言った。
○EU15は、第一約束期間は90年比8%削減を約束し、05年までに2%削減し
た(EU27では05年までに8%削減)。
2020年にはEU27として90年比20%削減(各国が相応の努力をした場合は90年
比30%削減)と言っている。すでに減らした分があるので、05年でいえば13%削
減となる。
○米国は、第一約束期間は90年比7%削減を約束したが、京都議定書を批准せず
枠組みに参加しなかった。実際には05年までに14%増加した。今回は、2020年に
は05年から14%削減するとオバマ大統領が言っている。
(下院で審議されているワックスマン・マーキー法では2020年には05年から20%
削減、30年には05年から42%、50年には83%の削減が提案されている)
(3) 今回発表された目標の数字は、
・温暖化を止めるというそもそもの目的に対しても
・そのための2050年の長期目標に対しても
・資源・エネルギー制約の時代に向けて日本の社会や経済の構造を変えていくと
いう日本のサバイバルのためにも
・途上国や米国を巻き込んで今後の国際体制をつくっていく上でも
小さすぎる、と私は考えています。地球益・日本の国益から考えても、足をひっ
ぱりそうです。年末のCOP15に向けて、目標の積み上げも含め、もっと国全体で
議論をしていかなくては、と思っています。
今回総理が発表したから、決定・オシマイ!ではないのです~。
今回発表した目標以下に変更することはできないでしょうけど、目標の引き上げ
は問題ありませんから。世論が変われば、または、政権が変われば、そういう可
能性も出てくることと思います。(そのように動かしていきましょう!)
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世界からは冷たい反応が返ってきています。EUはもちろん中国からも。
これまで、削減の基準は「1990年に比べて」何%減らそうというのが、97年の京都議定書以降の基本でした。
京都議定書で日本は2012年までに、90年から6%削減義務となりましたが、まず達成できません。逆にその後7%程度増えてしまいました。
それをごまかすために「2005年に比べて15%減」という言い方をし始めました。
これなら、同じ削減量でも「90年から8%削減」というより、むしろ削減幅が大きい印象を与えられます。
国内世論向けには、これで通用するかもしれないですが、国際世論や国際交渉では通用しないでしょう。
こういう言い換えは、いかにも日本的(「敗戦」を「終戦」、「副作用」を「副反応」、「敗退」を「転進」など・・)で、国際的に大きく信用を落したと思います。
数字合わせな政策の作られ方や、経済界の目先を求める動き(90年比+4%を経団連は主張していた)など、日本の行き詰りが表れている感じがします。
希望は、きちんと問題を指摘するNGOがいることです。
気候ネットワーク、環境エネルギー政策研究所 プレスリリース有り。
ちょっと長いですが、映画になった「不都合な真実」の翻訳者、枝廣淳子さんのメルマガから引用。問題が整理されています。
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Enviro-News from Junko Edahiro No. 1656 (2009.06.17)
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■麻生首相、日本の中期目標を発表
6月10日、麻生首相は官邸で記者会見し、2020年までの日本の温室効果ガス排出
削減の中期目標を「05年比15%減」とする方針を正式に発表しました。
「05年比15%減」は、選択肢の議論をしていたときの基準年1990年比にすると
8%減となります。日本は1990年から2005年の間に、排出量を7%以上増やしちゃっ
ているからです。
麻生内閣総理大臣の記者会見のようすは、こちらにインターネットテレビでの映
像と、スピーチ&質疑応答のテキストが載っています。
http://www.kantei.go.jp/jp/asospeech/2009/06/10kaiken.html
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■発表された中期目標について考えること
今回の発表について、いろいろ考えるところがありますが、大きく3つ書きます。
(1) 目標設定が科学に基づいていない
(科学ベースではなく、相対的に立ち位置を決めるという政治)
欧米の政治家のスピーチの多くには、「IPCCでは」「科学によると」という前提
の上に、自分たちはどうする、という説明があります。科学をベースに政治や政
策を考えているのですね。
日本の政治(政治家)は、科学などぶれない軸をもたず、対人関係や距離感で政
治や政策を考えるんだなあ、とよく思います。絶対的な基準や軸を持つのではな
く、相対的なのですね。「米国がそう出るなら日本はこう出そう」「民主党がそ
う出すなら、自民党はこう出そう」などなど……。
今回の麻生総理の中期目標を発表するスピーチにも、「IPCC」という言葉は一度
も出てこなかったし、「科学」という単語も、以下の2箇所だけで、「温暖化の
科学がどうなっているのか」「科学が何を要請しているのか」、しっかり認識し
た上での判断とは思えないなあ、、、と。
「私は日本の中期目標を決断するのに先立って、専門家に経済的な影響も含め、
総合的、科学的に分析をしていただきました。」
「科学の要請に応えるためには、この中期目標では小さ過ぎるという意見がある
かもしれません。今ある技術だけでは、2050年60%から80%削減に向けて直線的
な経路を歩むことは困難です。長期目標を達成するためには、まだ見えていない
革新的技術の開発と普及が必要となります。」
「今回は産業界の求める4%増と、NGOの求める25%減の間を取った。どちら
にも不満が残る形になるよう決定した」という声も聞かれました。ケンカ両成敗
じゃないのですから、「間を取る」という発想ではなく、温暖化を止めるという
そもそもの目的に照らして「どうあるべきか」で判断すべきものですよね?
(2) 基準年を1990年から2005年に変えて数字を大きく見せようとしている
太りすぎのAさんとBさんが「お互い、ダイエットして体重を落とそう」と話し
合い、Aさんは8kg、Bさんは6kg、減らす約束をしました。
Aさんは実際に8kgぐらい減量しました。一方、Bさんは、減らすどころか逆に
7kg以上増えてしまいました。
久しぶりに会った2人は、「目標の体重までまだまだ遠いから、もっと減らす約
束をしよう」と相談しました。
Aさんは、「元の体重から20kg減らすよ」と約束しました。すでに8kgぐらい減
らしていますから、あと13kg減らすことになります。
Bさんは、「元の体重から8kg減らそう」と考えました。最初の約束で、元の体
重から6kg減らすことを約束していましたから、追加で2kgしか減らさないとい
うことです。
実際には、最初の約束の6kg減のはずが7kg以上増えてしまっているBさんは、
「元の体重じゃなくて、いまの体重から考えれば、元の体重から8kg減らす分と
7kg増えている分を足すことになるから、15kg減らすことになる」と思いました。
そこでBさんはAさんに対して、「キミの目標の13kgより、ボクの目標の15kgの
方が多いから、ボクの方が偉いんだよ。どうだ、すごいだろう!」といばりまし
た。
……??? 何だかヘンだと思いませんか?
麻生総理は中期目標の発表で、「今回、私が決断した日本の目標は、国際的に見
てもヨーロッパの2005年比13%減や、アメリカ、オバマ政権の14%減といった欧
米の中期目標を上回るものだと思っております」と胸を張っていらっしゃいまし
た。。。
実際の数字を専門家に確認したので、詳しくお伝えしますと、
○日本は、第一約束期間は90年比6%削減を約束しているが、05年には7.7%増
加している。今回は2020年には05年から15%削減と言った。
○EU15は、第一約束期間は90年比8%削減を約束し、05年までに2%削減し
た(EU27では05年までに8%削減)。
2020年にはEU27として90年比20%削減(各国が相応の努力をした場合は90年
比30%削減)と言っている。すでに減らした分があるので、05年でいえば13%削
減となる。
○米国は、第一約束期間は90年比7%削減を約束したが、京都議定書を批准せず
枠組みに参加しなかった。実際には05年までに14%増加した。今回は、2020年に
は05年から14%削減するとオバマ大統領が言っている。
(下院で審議されているワックスマン・マーキー法では2020年には05年から20%
削減、30年には05年から42%、50年には83%の削減が提案されている)
(3) 今回発表された目標の数字は、
・温暖化を止めるというそもそもの目的に対しても
・そのための2050年の長期目標に対しても
・資源・エネルギー制約の時代に向けて日本の社会や経済の構造を変えていくと
いう日本のサバイバルのためにも
・途上国や米国を巻き込んで今後の国際体制をつくっていく上でも
小さすぎる、と私は考えています。地球益・日本の国益から考えても、足をひっ
ぱりそうです。年末のCOP15に向けて、目標の積み上げも含め、もっと国全体で
議論をしていかなくては、と思っています。
今回総理が発表したから、決定・オシマイ!ではないのです~。
今回発表した目標以下に変更することはできないでしょうけど、目標の引き上げ
は問題ありませんから。世論が変われば、または、政権が変われば、そういう可
能性も出てくることと思います。(そのように動かしていきましょう!)
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