現場には、ひと足早く松明をかざす影が、いくつかあった。その中で、くぐもった声をあげて立ち膝を突いていたのは、トーマスの父親だった。
トーマスの父親は、膝の上にトーマスの頭を載せ、冷え切った額をなでていた。
「どうしたんだ――」と、ケントは嘆き悲しんでいる父親の後ろで、松明をかざしているアルの父親に尋ねた。
「遅かったよ」と、アルの父親は残念そうに言った。「腕に深い噛み跡があって、こんこんと血が流れ出ていた。おそらく動脈が破れたらしい。駆けつけた時にはずでに、息も絶え絶えだったよ――」
そう言うと、アルの父親は黙って指を差した。ケントがその方向を見ると、またひとつ、松明を掲げた男達の一団があった。ケントはうなずくと、オモラとともにそちらへ向かっていった。
「ちょっとすまん」と、ケントが男達を割って中をうかがうと、膝を伸ばし、腕をだらりと垂れて、呆けたように目を見開いて座るトムの姿があった。
「トム……」と、ケントは思わずつぶやいた。
ぐるりを取り囲むようにしていた男達が、ケント、と口々にどよめいた。
「おい、うちのグレイをどうしてくれたんだい!」と、オモラは怒りをぶちまけると、地面を蹴ってトムに土を浴びせた。
「おかみさん――」と、男達の中にいたカッカが、興奮して歯を剥きだしているオモラを押さえた。
トムの足元には、ケントから盗んだジャックナイフが落ちていた。その刃には、既に固まった血が、焦げ茶色の縞模様となってこびりついていた。
「トム……」と、ケントは身をかがめると、生気を失っているトムに訊いた。「トム、おまえがやったのか」
ケントは、ぶるぶると震える手で、ナイフを拾い上げた。
トムは、ぼんやりとした眼差しを、目の前にかざされたナイフに向け、「ヘヘ……」と、気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「この狼男め!」
ケントはトムの胸ぐらをつかむと、その顔に大きな拳を叩きつけた。黙って見ていた男達は、あわててケントをトムから引き離さなければならなかった。怒りに我を忘れたケントは、大の男が四人がかりで押さえつけなければならないほど、怒りに我を忘れていた。声が潰れるほど、トムに憎しみをぶつけるケントをよそに、引き離されて男達に守られたトムは、まだあのにやついた笑みを浮かべていた。
「カッカ、グレイはどうしたんだよ。あの子は、どうなっちまったんだ――」
カッカはオモラに落ち着いてくれるよう頼むと、押さえつけていた腕を放して言った。
「姿が見えないんですよ、おかみさん」と、カッカは困ったように言った。
「なんだって?」と、オモラは信じられないというように訊いた。