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「アリエナ、町へ帰っちゃいけないよ」
アリエナが食器を洗っているところへ、オモラが血相を変えて家に入ってきた。
「カッカから聞いたんだ。昨日、アリエナが顔を出した頃、町に異端審問官のブタ野郎がやって来たって。さっそく、アル達が取り調べのため捕まったらしいよ。
町に出ればあんたにも魔の手が迫るかもしれない。事が収まるまで、ここにいるんだ。わかったね――」
オモラは、アリエナの肩をつかむと、真剣な顔でのぞきこんだ。
「えっ、ええ……」と、アリエナは、オモラの目を見ながらうなずいた。
「もう仕事はやめだ」と、オモラは手を離すと、言った。「山子達も家へ帰したよ。もう仕事になんかなりゃしない。とんでもない嵐が吹いてきたもんさ。
――いいかい、アリエナ。これからなにがあるかわからない。気持ちだけはしっかり持っているんだ。意に反したことを聞かれても、決して『はい』と答えちゃいけない。生き残らなきゃ、なんにもなりゃしない。まず生き残ること、それだけを考えて行動するんだ」
アリエナは、よく理解もできないまま、こくんとうなずいた。
「――なんの用だ」と、厳つい顔をした兵卒が、ジムの行く手を遮りながら言った。
「町長のジムです。ゲリル様に到着のお祝いを申したいと思いまして、やって参りました」と、ジムは手に持っている鞄を見せた。
「よしっ、ちょっと待っていろ」
にやりと笑った兵卒は、ほかの兵卒に持ち場を頼むと、教会に入っていった。ジム達三人が顔を見合わせ、まんじりともしないで待っていると、教会の扉が開き、兵卒と、ヨーセが顔を出した。
「ゲリル様がお会いになるそうだ。司祭に着いていけ――」
ジム達は、ヨーセの後ろを着いていった。歩きながら、ヨーセは小声でジムと話した。
「なにしに来たんだ、ジム」
「――アル達のことですよ」
「町長が話し合いに来たって、どうにもならないのがわからなかったのか?」と、ヨーセは顔をしかめた。
「みんなで決めたんです。それに我々にできるのは、直接会って話し合うことぐらいしか、ないじゃないですか」
「だが、もっと悪い結果を招きかねんぞ」
「それは、やってみなければわかりません」と、ジムはきっぱりと言った。
「アル達は、どうしているんですか――」と、ジムに着いてきた一人が言った。
「わしももう、神に召されてしまいたいよ。とてもじゃないが、昼間は耳から手が離せられない」と、ヨーセは首を振りながら言った。「あんなひどい拷問は、はじめてだ。あれでは、もうすでに自白させられているだろう」