図書館に、よく出かけますが気きまぐれで、本を選ぶのに確固とした選択があるわけではありません。その日に目についたものをざっくりと借りてきます。
「博士の愛した数式」 新潮社発行 小川洋子著 もそんな借り方で読み始めた本です。
沢山の人に読まれたのでしょうか、図書館のシールが貼ってありました。本が傷ついています。申し訳ありません。
彼のことを 私と息子は博士と呼んだ。そして 博士は息子をルートと呼んだ。という書き出しではじまる物語に
なぜか不思議な力でぐいぐいと引きつけられて、昨日の午後は約束の時間にあやうく遅れそうになるまで読んでいた。
舞台は瀬戸内に面した小さな町・家政婦の私(一人で子供を育てている20代)が依頼主の家を訪ねるところからはじまる。
私の職場は立派な家の裏庭の先の離れ、その離れ専用の玄関を使うように指示されて、尋ねて行くと、迎えてくれた60代の男性の最初の言葉は
「靴のサイズは?」というものだった・・・
「24です」という答えに博士は「ほう! 実に潔い数字だ。4の階乗だ」・・・
(1から4までの自然数を掛け合わせると24になるのだそうです)
博士はよれよれの背広にネクタイ、あちこちにクリップで止められたメモ用紙がついている・・・という格好です。
かつて、ケンブリッジ大学に留学した博士は、大学の数学研究所に就職していた本当の博士なのですが、47歳のとき
事故で脳の一部に故障が生じ記憶する能力が失われ、思考は1975年で止まっている。
30年前に自分がみつけた定理は覚えていても、昨夜の夕食は覚えていないのです。
頭の中に80分の記憶しか留めることが出来ない状態なので、自分のための<新しい家政婦さん>というメモの裏には幼稚園児並みの絵だが似顔絵が描いてある。
ここに家政婦(私)は11時に来て昼食を作り、部屋の掃除や買い物をし、夕食を作り19時に帰るという仕事をする。
翌日には、博士が昨日のことを覚えている訳ではない。メモのおかげで私が家政婦だということは、かろうじてわかっているが、毎回何かしら数字に関する質問は繰り返される。
ある日、誕生日を聞かれ2月20日と答える。
誕生日の2月22日を220
博士が学長賞でもらった腕時計の番号が284 というつながりで博士が私に友愛数 の説明をするくだりから、おもしろくなり、一気に読んでしまった。
220と284の約数で
220: 1 + 2 + 4 + 5 + 10 + 11 + 20 + 22 + 44 + 55 + 110 = 284
220 = 142 + 71 + 4 + 2 + 1 : 284
博士曰くは、この素晴らしい一続きの連なりをご覧、 220の約数の和は284。
284の約数の和は220。友愛数だ。
めったに存在しない組み合わせだよ。
と、あるが数学にうといので友愛数といわれてもピンとはこない。でも友愛数という組み合わせが稀なことはわかった。
220と284は、一番小さい組の友愛数だそうです。
ある時、息子が1人で家で待っていることを知った博士は 子供を一人にしておくものではない!と言い、そこから博士と息子との交流がはじまります。
記憶が80分しかもたない博士だが、息子の頭をなでながらルートと名付けて、愛を注ぐ。
博士と息子、そして私の三人のおだやかで、少しズレてはいるが妙な均衡を保っている温かさが、読んでいるものに安堵感を与えてくれる。
作者の手法と思えるが、全部は説明せずにいるところ、博士の今の保護者である兄の妻との関係などは読者の想像にまかされている。
こういうところも、かえっておもしろいと感じましたね。
一気に読んで、気になったところを読み直すということをしています。
博士の言葉 実生活の役に立たないからこそ、数学の秩序は美しい の言葉をしっかり理解したわけではないけれど、
この本に表わされている数式は美しいと感じました。