宇宙軍を創設するって？

アメリカが「宇宙軍」を創設する。２０２０年までに実現する計画だとい
う。ペンス副大統領が発表した構想だから、これはれっきとした国家プロ
ジェクトである。SFアニメなどとはまるきり違うが、なんだか夢のある話
ではないか。

トランプ大統領は、北朝鮮やロシア、中国との軍事的駆け引きに疲れ、夜ひ
とりでバーボンを傾けながら、宇宙冒険のロマンに浸り、銀河系を探検する
「宇宙軍」の夢をいだくに至ったのだろうか。

それとも、「宇宙人」という外敵の脅威をでっち上げることで、中・朝・露
など、反目する世界各国を糾合し、この地球上から戦争を無くそうと考えた
のだろうか。だとしたら、これは核廃絶の可能性をはらむサプライジング構
想、ーー驚くべき次善の策であり、この「発明」はそれだけでノーベル平和
賞に値すると言わなければならない。

しかし、しかし、である。残念なことに、我々のこのおめでたい推測は当た
らない。ペンス副大統領は「宇宙軍」の創設について、これは中国やロシア
に対抗するためだと明言しているからである。この計画が宇宙探検のためで
ないことは、言うまでもない。

では、この「宇宙軍」はそもそも何を本務とするのか。地球の大気圏を取り
巻く真空・無重力の表層空間を考えればよい。

「宇宙」と言うと、我々は広大な銀河系宇宙を想像するが、「米国宇宙司令
部」は英語ではUS Space Command、また「宇宙作戦部隊」はSpace Operations
Forceと呼ばれる。このことからも分かるように、「宇宙」とはSpace つ
まり「空間」のことである。

さて、地球の大気圏を取り巻く真空の表層空間（ーー以下、この空間を単に
「宇宙」と記すーー）で、「宇宙軍」はどのような活動を行うのか。その活
動は、何のために必要とされるのか。

事実に即して言えば、中国もロシアも、「宇宙」ですでに軍事活動を行って
いる。中露は軍事偵察衛星を、すでに「宇宙」の領域で何機も周回飛行させ
ている。それだけではない。中露は、ＧＰＳや偵察衛星を撃墜する衛星攻撃
兵器（ＡＳＡＴ）の開発を加速させているのだ。それに、大陸間弾道ミサイ
ルも「宇宙」空間を飛翔するから、これを迎撃するのも「宇宙」空間でのこ
とになる。このように、近未来の世界戦争の主戦場は「宇宙」空間に移され、
すでにこの「宇宙」を舞台にして、熾烈な攻防が始められているのである。

「宇宙軍」はロマンにあふれた夢と希望の軍隊ではない。逆に、人類の夢と
希望を打ち砕く絶望の軍隊である。

まあ、近未来の世界戦争の、その主戦場が「宇宙」に移れば、人類が蒙るダ
メージは その分だけ少なくなる、とも予想できるんだけれどね。