妄想ジャンキー。202x

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〈05冬、シルクロード・タクラマカン周遊〉ホータン~チャルチャン~チャルクリク

2005-03-05 08:38:59 | ○05冬、シルクロード横断の旅

砂漠を行く車窓は単調だ──誰がそんなことを言えたのだろう。
温度差で少し曇った硝子越しに見える世界には、次から次へと生命が写り行く。
道路に併走する黒いパイプ。
渇きを潤す水の流れ。
彼方に見えていた石油基地はいつのまにか消えていた。
山や集落もどこかで終わっていて、今はもう小さな砂丘の連なりが続くだけだ。
先には何があるのか、何が待っているのか、その問いが探検家達を東へ向かわせる原動力となったのだろう。
きっと今の私も同じなはず。未来を知りたい、見たいと思う力がエネルギーとなっている。

オアシスは砂漠の奇跡、輝石。
この軟玉もそうだろう。
活気溢れるホータンの街もそうだろう──そんなロマンティックなことを考えながらロバ車に揺られる。
行き先は白玉河とマリカワト古城。
女の子たちはロバを器用に操る。年長者らしい子が「50元、50元」と声をかけてきた。
首を振ると少し残念そうな顔をしたが、すぐに「スカーフまいてあげるよ」と言ってきた。
では頼もうかな、と立ち止まる。
彼女は自分と同じように私にも巻いてくれた。
髪と顔が砂を浴びなくてすむらしい。
確かに、川辺まで来ると皮膚の毛穴という毛穴は砂で埋まっていた。
「ユハメット」つたないウイグル語で彼女に御礼をした。






800キロ。
移動距離にして東京下関間くらいの勢いである。
ホータンからニヤを通過し、チャルチャンを目指す。
普段なら西域南道を行くのだが、工事中らしく砂漠の未舗装道路を長く行かなければならないらしい。
日本の道路のように舗装されているならまだしも、ガタガタの悪路。
しかも車内は砂まみれ。
ダウン者が出るのは至極当然のことだ。
旅もそろそろ折り返し、いいかげんに疲れが溜まっている。
1人が皆を、皆が1人を思いやりながら苦難を乗り切る。
この連中ならどこでどんな大変なことが起こっても平気なんじゃないかな、そう思えてきた。

途中でバスは停車した。
乾いた村。
バスを降りると砂が吹き込んできた。
毛穴に砂混じりの空気が侵入してくる。
土臭い、しかし温かい。
空は晴れ渡っていた。今宵は星空が期待できそうだ。



群衆から外れて歩いていると村人に会った。
どこから来たんですか──東の国からです。
子供たちは愛らしく微笑む「ヤクシ」。
ここの村民はウイグル族ではなく昔にタクラマカン砂漠へ迷い込んできたウズベク族の末裔らしい。
路地裏の民家──日干し煉瓦とタマリスク製の家の陰から小さな赤ん坊を連れた女の子が顔をひょっこり覗かせていた。
中国に上陸してからあちらこちらでノスタルジックな気分になってきたが、この村がその原型なのかもしれない。
日本の農村を思わせるような、それでいて何かが異質のような。
民家で頂いたハミ瓜を頬張りながら、また考え込んでしまった。

夕方、三度バスは給油のために停車した。
丘に登る。ひたすらに砂を割る。
先に何が見えるのか。
北京時間19時、新疆時間17時。
あたりは僅かに暗がりが落ちていた。
少し肌寒い生足に温かい砂がしみこむ。
いつかの駅で入った足湯のような気分だ。

シルクロード特急の車窓を眺めていたときから思っていたが、砂漠は海だということ。
現実を忘れ、本当に温かい海に浸かっているようだった。
ホータンからきたバスは三叉路へ差し掛かる。
オアシスを求めるバスはつかの間の休息を終えた。





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