妄想ジャンキー。202x

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〈05冬、シルクロード・タクラマカン周遊〉西安~敦煌

2005-02-26 22:46:17 | ○05冬、シルクロード横断の旅
列車の朝は冷え込む。動く床5泊目。
いいかげんにホテル泊が待ち遠しい。
私の感情を知らないであろう列車は相変わらずの音をたてながら、河西回廊を西へ突き進む。
車窓に見える白色は塩か石灰か。
違うよ雪だよ。
あ、羊がいる。
山羊もいるよ。
いよいよだねえ。
ねえ──寝ぼけなまこで交わした会話。
NHKで見た光景が今目の前に広がっている。
誰もがその実感を握り締めていたはずだ。
気が付けば雪は止んでいた。
荒涼とした大地に時折山々が展開する。
喉が渇いてきたのは景色だけのせいだっただろうか。



夜遅くに敦煌に到着した。
列車の中で知り合ったウイグル人の男性とはここで別れることになる。
ホータンでの再会を約束して握手をした。
出会いと別れ──当たり前のように繰り返してきたこと。
夜の柳園駅を発つバスの中で考え込んでしまった。
黒いゴビ灘の中に、懐かしい人たちの面影が浮かんでは消え、また浮かんでは消えていく。
なんだか悲しくなってきたので上を見上げたら、プラネタリウム顔負けの星空が広がっていた。
オリオン座の中の小さな星まで見える。
乾いた空気は澄みきっている。
明るい世界。
不思議な世界。
今目に映る星は数千年前に消えてしまっているのかもしれない。
そう考えると涙が滲んで視界が曇ってきた。

1人でゴビの中を歩いていた。
それはゴビの持つ魔力だったのかもしれないと今思う。
星空に見とれた旅人は魔物に呼び寄せられるように奥へ、奥へ──それでもふと寂しくなってバスのほうを振り返った。
温かい人たち。皆の喋り声が聞こえてきた。
やっぱり近くにいたんだね。
私どこか別の世界へ行っていたみたい。







文明は砂漠から生まれる──莫高窟でそんな誰かの言葉を思い出した。
過酷な状況だからこそ何かに頼りたい。
信じるものを求めて宗教が生まれ、やがて文明となる──それはさておき、ガイドに従って莫高窟は10の窟に入る。
さすがに一世紀という時間は長く色はあせていたり、イスラム教徒によって目をはがされていたり、はたまた探検家によって綺麗に剥ぎ取られていたりしたけれど、懐中電灯に照らされた飛天は今でも鮮やかに空を舞っていた。
古の人々はどんな思いでこの窟を開き壁画を描いていったのだろうか。

上海でも西安でも、ここ敦煌でも感じる世界の広さ。
自分のちっぽけさ。
土の街・敦煌故城も月牙泉、鳴砂山も結局は土と砂だが、感動を言葉にすることは出来ない、言葉にしたら安くなる、そんな強い波が押し寄せた。
太陽光が砂に反射する鳴砂山。
目を閉じて砂に身を任せると、砂の流れる音が聞こえてきた。
一歩進んでは二歩下がり、二歩進んでは三歩下がり、それでも上を目指す。
友人が横を追い抜いていった。
負けるもんか──私だって見てやるんだから。
頂上から見える何かを。

地平線は列車の中で何度か見てきたが、改めて眼前にすると息を呑む壮大さがあった。
地球は丸い。
きっとあの地平線まで行っても、同じ景色が続いているだろう。
昨夜見たゴビが今は夕陽を浴びている。
ゆっくりと生命が眠りにつくようだ。

私たちは童心に返り競って土の山に登った。
数段高いところから見るサンセット。
明日も明後日も同じ太陽なのは判っているが、きっと同じ夕陽は二度と見られないだろう。
砂が流れるように時間も流れる。
そこにとどまることはない。
人の気持ちも一緒──そう考えると切なくなってきた。




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