妄想ジャンキー。202x

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〈05冬、シルクロード・タクラマカン周遊〉西安~上海~神戸

2005-03-12 08:51:42 | ○05冬、シルクロード横断の旅
新疆ほどの内陸になると、海を見ずに亡くなっていく人も多いんだろう。
砂は水。
オアシスは島。
ラクダは船。
長いタクラマカン砂漠の後悔を終えた旅人たちは東シナ海を目指す。
海を一つ越え、また2つ越え。
こうやって旅は続くのだろう。
こうやって生きていくのだろう。
いくつもの海を越えながら。

日本へ入った瞬間に何かを忘れてしまうような気がする。
故郷というものは時に残酷だ。
残したい。話したい。伝えたい──でも足りない。
今は伝える術がない。
長い時間が欲しい。
考えなきゃいけないことだってたくさんある。
将来のこと。自分は何がしたいのか。どういう人間になりたいのか。
来年までには具体的なビジョンを描かなければいけない。
私にそれが描けるだろうか。
日々の生活にまた押しつぶされるんじゃないのだろうか──大丈夫。きっと大丈夫。
それは逃げではないよ。
しっかりとした君の現実だよ。
だから小さな希望を忘れないで。
友人と熱く語る列車の夜。
時間を惜しむように喋り続けた。





タクシーでボラれたり、終電を逃したり、都会は都会で色々と大変である。
2週間前にここにいたときはまだ足元がおぼつかなかった。
実際に船の揺れが残っていたりもした。
外灘の夜景を見ていると、新疆での2週間は夢だったのかもしれないと思えてくる。
だが確かな絆がある。
夢ではない。現実だ。
実感が沸いていなくても、これは私のリアルなんだ。
レトロなビルは上下左右から光に照らされて、川を挟んだその向こう側にシンボルであるテレビタワーがそびえたつ。
黒い河にまばゆい光。
世界でも1,2を争うであろう極上のコントラスト。
夜空に様々な色が浮かんだ──西安のすなぼこり、敦煌の星空、莫高窟、列車からずっと眺めた日没、イスラムのバザール、ヤルカンドの踊り子、タクラマカンの砂、別れた人たち──絶対に忘れない。
忘れるもんか。
大切な思い出は今輝いている。
ダイヤモンドではないけれど、ビー玉となって輝きを増している。
今両手の中で弄ばれている。
落とさぬよう、割らぬよう。ゆっくりと磨いていく。

3週間という日々はまさに「奔流」。翻弄されながら一度は失いかけた自分を見つけた。
悔しさとかプライドとかが大事なときもあるだろう。
だがここでは勝った負けたは重要ではない。
シルクロードでは何よりも水が大切なように、私の人生にも何にも変えがたい大切なものがある。
それは躍動あり生きた証であり、希望であると思う。

上海の朝。昨夜の喧騒は忘れたように静まり返る街。
もうすぐ船は港を立つ。
離岸の瞬間を見たいと私は甲板に出た。
あのとき不安を抱いていた甲板と同じ。
高揚した気分で霧霞む上海を眺めた甲板と同じ。
今は3月らしからぬ冷えた上海の空気が肌に突き刺さる。
大都会のビルを背景に背負って広い海原へ。
海の向こうにある懐かしい故郷へ。
まだ夢見心地だ。
実感はわいていない。
家について、テレビを見て、それから感じるのだろう。
「ああシルクロードにいったんだ」と。
きっとそれまでに忘れてしまうこともある。
残さなきゃ伝わらない。
ありがとうシルクロード。ありがとう中国。




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