妄想ジャンキー。202x

人生はネタだらけ、と書き続けてはや20年以上が経ちました。

〈08冬、北海道・果ての岬〉湿原ラプソディー

2008-02-14 19:22:39 | ○08冬、極寒北海道・果ての岬
14時、釧路湿原に到着した。
夏季のみの営業だったが今年は列車を限定して停車する。
降りたのは二人だけだった。
情緒ある駅舎を後にして、細岡展望台へ急ぐ。
釧路行きSL冬の湿原号が、湿原駅に停車するのは20分後だ。
とはいえくれぐれも転ばないように。

細岡展望台。
誰もいないので本当にここで正しいのか判らなくなるが、看板が出ている、間違いない。
湿原には低気圧の影響もあってか、強い空っ風が吹いていた。
頭上を大きな鳥が飛んでいる。
ワシだろうか。
――気持ちよさそうだなあ。

SLの音が聴こえた。
慌てて望遠レンズを向けるが場所がわからない。
音は聴こえる。
蒸気も見える。
だがあの黒い車体が見当たらない。
吹きすさぶ空っ風の中に確かに聴こえる。
ブオーッと汽笛がまさに轟く。
鳥の飛び立つ音。
湿原。
こんな絶景を独り占めしていいんだろうか。

ビジターハウスでしばし時間を潰し、駅へ戻った。
乗り遅れたら洒落にならないのだ。
無人駅に人は誰も来ないまま、時間だけが過ぎていく。
途中何度か鳥が空を横切った。
――智恵文を思い出した。
1年半前、ひまわりを探したあの夏を。
寒さは桁違いだけれど、夕日がなんだか暖かく感じた。


前言撤回、寒さで凍えた末に釧網本線のワンマンカーがやってきた。
車内は地元の足として混みあっている。
しかたないので運転手脇に立ちながら車窓を眺めることにした。
折しも夕刻、湿原に夕日がしずんでいく。
みとれていたら急停車――
「シカだ!」
横のお姉さんの小さな呟きで慌てて目をこらすと、親子のエゾシカがいた。

線路脇に避けたシカ親子はじぃっとこちらを見ている。
「本当にいるんですね」
「びっくりしました」
お姉さんと笑いながら話していると、運転手が
「ほら、あそこにも群れが」
「あっ」
10匹はいただろうか。
じぃっとワンマンカーを見ているシカ、背中を向けて湿原に走っていくシカ。
「すごい」
すぐに動き出した列車がシカたちから遠ざかり、ちょうど夕日の方向へ。
まるで一枚の名画を見ているような風景だった。


茅沼駅では駅長がタンチョウ鶴の餌付けをしているという。
餌付けの時間はわからないが車窓からも見える、とビジターハウスの方が教えてくれた。
その通り、赤いベレーの恋人たちは、湿原のはしっこで凛とした立たずまいで立っていた。
白鳥もそうだが、鶴も一生つがいで沿い遂げるらしい。
ずっと大好きな人と、ずっとずっと――。
それはどれだけ幸せなことなんだろう。

もうすぐ夕日が沈む。
湿原が終わる。

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