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【ネタバレ】『空想自治区』は一気読みをオススメしたい理由4つ。

2015-06-03 11:49:07 | comico

comico公式作品のご紹介。


ほんま譲さん『空想自治区
のご紹介です。

こちらの作品、一応毎週読んでるんですが、正直に言うとごめんなさい、「??」となるときがあるんですね。
で、今日一気読みをしてみたところ…

全ての点と点が線でつながった( ゜д゜)

『空想自治区』に限らず、展開がわけわからなくなって「??」となってる作品はそこそこ数ありますが、
「こういうときの一気読みだな」
と身をもって実感しました。

【以下ネタバレします。初見の方ご注意】




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【『空想自治区』をオススメしたい理由4つ。】

1.リアルな描写、リアルな時間の流れ

漫画としては遅すぎるんじゃないかなってくらいの丁寧な展開です。

物語の導入である第1話、主人公・青人が朝食を食べてニュースに向かって一言。電車の中で痴漢に対して行動出来ない自分を悔やんで、ここで終わりです。



続いての2話、友人の太田と試験の感想を話していた青人は偶然ケンカを目撃します。その日の朝の後悔もあってケンカを止めに入りますが、あえなく返り討ちにあって保健室へ。そこでクラスメイトの久石に「いいもの教えてやるよ」と言われます。ここまで。



そして3話、太田と受験の話をしている青人でしたがどうやらかなり問題がある様子。それでも前向きに取り組む姿勢が描かれます。帰宅した青人を待っていたのは、その日学校で助けた久石でした。久石は青人の勇気を讃え、「自治区に入れる人だ」と言います。



久石は続けます。
「優秀な人間がもっと優秀な人間になるために作られたサイバー上の国、そこは空想自治区と呼ばれている」

このように第3話でようやく『空想自治区』という言葉が登場します。
さらに空想自治区が何たるかがより明らかになるのは第8話です。

この間別にゆったりのんびり展開というわけではなく、むしろ青人の葛藤や周囲の人たちとの出会いが丁寧に描かれています。
久石、太田、それから3話以降だと佐々木、京香などの登場人物が出てきますが、彼らがどんな思いで日常を送っているかが、非常に繊細に描かれています。

ストーリーとしてはのんびり、と感じてしまうかもしれませんが、実際の生活はどうでしょう。
現実世界で急展開なんてそうそうありませんよね。
(恋愛は別としても)
むしろひとつひとつの問題に立ち向かって、そのたびに喜怒哀楽を顕して、そんなことの繰り返しだと思います。

現実に近いリアルな時間軸の中に、恐ろしいほど丁寧な人物描写。
人が何かを思って行動するときというのは、決して言葉だけではなく、態度や表情にも表れるものです。

それも例えば「笑顔→怒り」といきなり変わるのではなく、「笑顔→苦笑い→無表情→やや怒→結構おこ→激おこ」など段階を踏むものですよね。それが一コマ一コマ描かれているので、登場人物が目の前にいるような錯覚に陥ります。

そういった意味で、「リアルな描写とリアルな時間の流れ」がこの作品の魅力です。

ただそういった長所が逆にウイークポイントであり、週刊漫画としては遅い、というのは否めない部分です。なので冒頭にも書きましたが、毎週読みと併せての、「一気読み」をオススメしたいです。




2.空想自治区とは何か、正義とは何か


空想自治区とは何なのでしょうか。

そこは法と正義を重んじる人間しか入ることのできない架空の世界です。人間の持つ良心と知性を最大限引き延ばすことを目的としたサイバー国家であり、そこでは2年任期の大統領選挙が行われます。大統領選挙に立候補するにはIQテストや社会貢献度などでステータスの数値をあげる必要があります。

では、なぜそんな場所が作られたのでしょうか?

8話で明らかになった空想自治区の真の目的は「頭脳明晰、人格も優秀なエリートの育成」でした。

自治区で育てられた人間が現実の社会で活躍することで、世界は規律を守る「正しい人間」の社会への革命を遂げるはず、ということでした。



もし、そのような現実が訪れるとしたら、確かに平和であることは確かでしょう。犯罪で命を落とすような人も減るでしょうし、治安もよくなるでしょう。しかし、「規律を守る正しい人間」、なぜかもやっとするものがあります。

ストーリ上でもそんな不安が露呈します。誰にも知られずに逃走しているはずの悪人が、自治区の人間によって次々と逮捕されます。もちろん悪が法的に裁かれることに対して異論はありません。しかし問題はその監視社会です。

果たしてそれは真の平和と言えるのでしょうか。

象徴的に描かれるのが、第18話です。
試験を終えた青人は、『家庭教師』をしてくれた二宮からとある問題を投げかけられます。



轢き逃げ犯にどれくらいの刑を求刑するか、あるいはその犯人に事情があったとすれば求刑は変わらないか、さらにその犯人が自分の家族であったとすれば……と二宮は青人に3つの質問を投げかけます。

色々と考えさせられる回でしたが、私がこのとき思い出したのは
「正義なんて立ち位置で変わる」
という某有名刑事ドラマの某官房長の言葉でした。

犯人に対して何も知らなければ、事情を知っていれば、あるいは犯人の身内だったら。自分の立場立ち位置で変わる信念は正義なのか、憐れみなのか。難しい問題です。



二宮が青人に出したこの問題、実はノンフィクションでした。というのも二宮は実は検事でした。



この同僚に対して、二宮は懲役10年を求刑すると言います。そして
「ルールを守らなかった者はルールに守られない」
と付け加えます。果たしてルールとは単に法のことを指しているだけなのでしょうか。



第20話にて、次々と逃走中の容疑者が逮捕される様子が描かれます。そのとき二宮は言いました。
「誰も償いからは逃れられない」



その後24話以降、二宮をはじめとするZ区の人間はトマトという謎の人物に翻弄されていきます。
そのトマトは実は二宮に因縁を抱いていた人物だったのですが、そのとき言った言葉がこれです。
「俺の正義でてめーの正義を潰す」

トマトの正体は二宮がかつて立件した強盗殺人事件の犯人・大門徹の弟・大門湊でした。これはのちに冤罪とわかるのですが、二宮によって死刑が求刑されてしまいます。



もちろん二宮に抗議する大門湊ですが
過去の犯歴などもあり
「私は正義を尊ばない者を信じない」
と二宮に一刀両断されてしまいます。

一方、死刑求刑をされた大門徹は心的ショックのあまり拘置所で首を括ってしまいます。そのときから湊は二宮、あるいは空想自治区に対して並々ならぬ恨みを抱くようになりました。


その二宮に対して、対立する軸にあるのが青人の父です。飄々とした風貌で青人の成長を見守る父、実は弁護士でした。





青人パパが自分がはじめて弁護した刑事事件の公判を振り返り、こんなことを言います。
「自分は正義の味方のつもりだったが、人には悪の味方に見えていた」

また、上述の二宮と法廷で対峙したときはこのように言いました。



正義というものの絶対性はない、それが弁護士としての青人パパのスタンスのようです。

また、青人パパは大門徹の公判でも弁護にあたっており、二宮と対峙しています。ジッポライターの指紋だけという物的証拠の脆弱性を攻めようとしますがあえなく失敗。このときのショックを今でもひきづっている言動があらわれています。



このように、二宮の正義、青人パパの正義、大門湊の正義、そして青人の正義。
様々な立ち位置での正義が交錯し、ストーリーは展開していきます。

何が誰が正しいのかはわかりませんが、個人的に青人の正義が一番優しい、それから青人パパの正義が人間的なのかなと思います。

果たして自治区はどうなってしまうのか、青人はどうなってしまうのか。


余談ですが、青人パパは納豆大好きで、納豆を食べてるシーンが描かれます。
納豆めちゃくちゃ美味そうだな!!!( ゜д゜)




3.魅力的な登場人物たち

ここで登場人物を整理しておきます。『空想自治区』、登場人物も魅力的なんです。とはいえわりと主要な人たちに絞っていきます。

まずは主人公・宮本青人。

普通の高校生、受験に取り組む前向きな少年です。そんな彼が空想自治区に入ることでどう変わっていくのか、そして大学受験はどうなるのか。

青人の友人・太田

青人の相棒として登場します。
太田の父親は警察官で、二宮とも面識があるようです。

高橋京香。

青人と偶然出会った女子高生。
自治区のおかげで頭はいい様子ですが、イケメンの壁ドンに憧れる彼女もまた普通の女子高生。

佐々木透

わりと序盤の6話、10話から12話で登場します。久石とは因縁の関係であるようです。11話での表情の変化には鳥肌がたちました。

久石守

青人のクラスメイトであり、青人に空想自治区を紹介した人物。自治区ではZ区に属しており、自治区全体のセキュリティを担当するスーパー高校生。

二宮光。

青人の家庭教師として登場しましたが、実は検察官。確固たる正義感の持ち主で、空想自治区での情報網を用いて刑事事件の捜査をしますが、それが露呈しはじめます。

他にも愛子や新田など多くの人物が自治区とリアル世界に交互に登場します。
また、久石、二宮をはじめとする謎の多いZ区の面々は29話~31話で描かれます。
ステータスがすごいです。




個人的に魅力的なのは青人の通う学校の教員です。

面談しているシーンからみて、おそらく担任。現代文担当?


英語の先生。


世界史の先生。

などなど学校が舞台でもあるので多くの先生が登場します。受験指導なのでより実践的なアドバイスは、現実に即しています。
「こんな先生に教わりたかったな」
そう思う人も少なからずいるのではないのでしょうか。

それにしても先生が魅力的に描かれるのって、恋愛ものでもない限り珍しいですよね。




4.丁寧に複雑に張られた伏線



[トマトの謎]

第9話、新宿の暴行事件。


第14話、新宿の暴行事件続報。


この直前、二宮は青人とのテレビチャット中に誰かからの着信があり、「特徴的なオレンジの頭、了解」と言っていました。これらのことから、二宮が何らかの情報網(おそらく空想自治区)で捜査をしていることはわかるのですが、トマトの登場でそれが破綻しはじめます。

19話、詐欺事件の実行犯・野村金太郎。逮捕時に「あのメールは本当だったんだな」と言っています。


また26話、二宮の取り調べシーンでもリークメールのことが話題にあがります。

このとき、メールにはトマトの絵文字があったことが付け加えられました。

27話、二宮は指名手配していた矢崎の潜伏先を突き止めたと太田に連絡します。加えて逮捕予告に関する注意を言い足すのですが、何やら不穏な空気です。

その矢崎はこれ。


そんな矢崎に、トマトソースパスタを手渡しながら声をかける人物がいました。


偶然ながらその場に居合わせた青人と太田。腹を空かせていた矢崎にコンビニおにぎりをあげようとしていたところ、謎の人物に声をかけられます。
「まずは疑え、じゃないと社会に裏切られるぞ。俺のようにな」と。

同じく28話、大統領である愛子とその友人・純子の大学の講義の様子が描かれます。


この答えが明かされるのが、35話でした。不正アクセス禁止法違反で取り調べを受けていた大門湊。しかしそのハッキング対象もまた条例違反の疑いのある企業であることがわかり、湊は湊なりの正義の鉄槌を降したことが明らかになります。


そんな湊を迎えに行った兄の徹は、弟の湊をトマトに喩えます。


こののち大門兄弟に訪れる悲劇は割愛しますが、湊は社会、特に直接的に死刑求刑をした二宮に対して恨みを抱いていきます。それが具現化したのがトマトというわけでした。

悲しい皮肉です。兄から「社会はまだおまえの味を知らないだけだ」と言われていた湊が、毒物として社会に攻撃をしていく。なんとも言えない悲しい話です。



で、また場面は変わって地下鉄のとある駅。湊はある男にある提案をしていました。

その対価は10億円。

その男というのがこれ。


矢崎とは少し違うようですが、この人、少し戻って21話、何やら病に冒されている野田という男だと思います。

治療費の支払いもままならず、また見舞いにくる家族もなく絶望しきっていたところに、医療費支援が受けられるとの朗報が届きます。

ひとつは『空の想医療基金』、もうひとつは『社会福祉法人真紅のトマト』でした。前者は空想自治区が行っている社会支援活動で、もうひとつの実施団体は不明ですが、野田は返済の必要のない『真紅のトマト』からの支援を受けることに決めます。



『真紅のトマト』の借り入れ条件は、完治後にボランティア活動に従事することでした。そのボランティア活動がまさかの地下鉄で騒ぎを起こすというもの。

しかしまたここに居合わせたのが青人と太田でした。野田がわざと置いた紙袋を拾い、野田に届けますが、そこて一悶着。


そうこうしてるうちに、紙袋の中から不穏な音が聞こえます。音と停電の描写から、電磁障害を起こす何か、電磁パルス爆弾のようなものであると考えられます。



ところでこの地下鉄のシーン。どこかで見覚えがあると思ったらこれでした。
ほんま先生のベストチャレンジ作品です。


全力チロリスト

ホームレスの男性が過激派に『仕事』を依頼される・・・

全力チロリストの登場人物はなんとも言えない悲しい結末を迎えましたが、果たして野田と青人はどうなるのでしょうか。



気になることはもうひとつ。

[J区の区長の謎]


第1話、北区の連続空き巣事件で防犯カメラに映し出されてる不審者。

この特徴的な男が再登場するのが26話です。

青人の所属するJ区の区長でした。

さらに36話。


冤罪を着せられて拘置所で自殺した大門徹の事件、その真犯人はJ区の区長・牧原でした。
「これで真相はめでたく闇の中。社会はばーかの集まりで、空想自治区もばーかの集まりだ」

規律を守る善人の集まりであるはずの空想自治区に犯罪者がいるとになり、またその罪を間接的ながら晴らしたのが二宮になってしまいます。
区長は、二宮は、青人は、どうなってしまうのでしょうか。




このように丁寧な伏線が幾重にも渡って張り巡らされています。
今回ご紹介したのはごく一部、他にも佐々木君や太田パパの謎なども隠されていますのでぜひ探してみてください。




そんな『空想自治区』、ぜひ一読、いや一気読みしてみてください。

点と点が線で繋がった瞬間は爽快そのものです。




ほんま先生、楽天マンガニュースにも執筆なさっているようです。

恐怖の事件簿事件の真相など、現実に起きた事件を元にしたフィクション作品です。
暴力的なシーン・グロテスクなシーンがあるので、苦手な方は閲覧をご注意下さい。
(事件当時を知っている者としてもこれはきつい…という描写がいくつかありました)

しかしまあ、このような社会的テーマを取り扱っておられるからこそ、『空想自治区』という発想に着いたのならそれは頷ける話です。
様々な問題に取り組んでこられた先生が描く正義/悪とは?『空想自治区』とは?


今後の展開が楽しみな作品のひとつです。
ぜひご一読をおすすめします。





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