<<盛大にネタバレします。ご注意ください>>
comicoの中で今一番好きな作品が城谷間間さんの『第3艦橋より』なのですが、毎週毎週クライマックスを迎えてます。
盛り上がりが最高潮を迎えていて、いい意味で「このテンションついていけるかな」と心配になるくらい。
□読んでなかった自分を殴りたい『第3艦橋より』、『SACRIFICE OBLIVION』、『The World』
□『第3艦橋より』の読み応えポイント5つ
上記エントリでも推しに推してるのですが、今回またさらに推します。
ストーリーの内容もさることながら、ストーリーラインのテンションの緩急が秀逸なのです。
例えば終始ハイテンションのストーリーって途中で疲れますよね。
逆に終始穏やかなストーリーってのも途中で慣れてしまい、やがて飽きてしまいます。
「第3艦橋より」に関して言えば、その緩急の付け所が絶妙なのです。
例えば【アクション→シリアス→泣ける→いったん状況を整理→いきなりアクション】というふうに、いい意味で落ち着いて読めません。
ストーリー個々の内容に関すると、「あれ、そういえばあの話どうなった?」って読者がチラホラ思い出したタイミングで、登場人物の一人がストーリーラインに復帰するなど、タイミングが絶妙です。
また、読者が「伏線」と気づかず、さらにはフラグとも読み取れなかった、登場人物の小さな会話や絵の一部などが「ここが実は重要ポイントでした」と鮮やかに拾われていくのもまた読後に感嘆してしまいます。
(映画『シックス・センス』なんかはまさに「!!」だったでしょう。あの映画、1度見終わった後にもう一度観たという人はわりと多いのではないのでしょうか。)
つまり何が言いたいかっていうと、本編読んでください。
話数も70話近くなり、敷かれていた伏線が徐々に少しずつ回収されていきます。
私個人的な楽しみ方なのですが、伏線回収のゾクゾクをリアルタイムで味わいたいために、毎週水曜23:30の更新前には『復習』をしてしまうんですね。
そうでないと追いつけない、この壮大で難解で面白いストーリー。
そのストーリーの壮大さが長所であると同時に、ウィークポイントなのかもしれません。
喩えるなら「エヴァンゲリオン」。
エヴァがテレ東でやっていたのって1995年くらいなんですが、そのときはアニメ全盛期って言うくらいゴールデンタイムにもアニメを放送していたような時代だったので、その中でのエヴァの注目度はさほど高くはなかったと思います。
庵野監督って名前も一部の人は知ってましたが、そんなに一般に広まっていたわけではなかったかと。
私も当時小学生で、アニメ好きの小学生よろしくエヴァは観ていたはずなのですが、「ロボットもの?話が難しすぎてよくわからない。なんでこの男の子頭抱えてんの?」ってくらいでした。
放送後にジワリジワリと人気が広がって、というよりエヴァの世界観やストーリーに視聴者の大半が追いついて、「ヤマト、ガンダムに続く作品」と言われるようになって……
そこからは劇場版できーの再放送しーのメディアミックス展開しーの……で現在に至るのかもしれません。
ふと思ったんですけどこのエヴァの放送のあった年って、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件のあった年なんですね。エヴァももう20年前かあ。
そんなわけで。
ちょっとストーリーが落ち着いている今のうちに、もう一度読み返してこよう。
ついでにあらすじ拾ってみよう、どの伏線が残ってるのか整理しておこう、と思い立ちました。
あらすじはこちらです。(物凄い勢いのネタバレをしています)
ていうか本編読んだほうが手っ取り早いですよ。
<<以下ネタバレ注意>>
□ポピーとスッチ
物語は。ポピー・アジェナが『第三艦橋高速言語処理班』への配属辞令を受けたところから始まります。
本編では大変なことになっているポピーですが、本職は言語学者。
これについては34話でも、自分の本職は人間に限らず様々な動物の言語を解析することを専門としていることを話しています。
『様々な動物の言語』について同じく34話で、ポピーは鯨に関して、「人間とは全く違う哲学性を持ったコミュニケーションを図っている」と話しており、「あれ木星圏にも…」と言っています。
この『鯨』がどうもキーワードになりそうな気がします。
というのも第4話、気絶したポピーが見ている夢なんですが、海中のようなところでポピーはスッチに導かれるように泳いでいくのですが、そこに大きな鯨が現れています。
鯨というものが、宗教的にどのようなシンボルであるのか。
旧約聖書には「嵐を鎮めるため生贄として海に投げ出されたヘブライ人ヨナ(ジョナサン)を助けるべく神が創った“大きな魚”」とあります。
「こぴみの暴走を抑えるために思考制御を失ってまで戦ったポピーを助けるべく、スッチが創ったもの。すなわち『魂』」と言い換えることはできないでしょうか。
ともすれば、スッチの子宮の中で育っていた胎児の魂がポピーに転生した、という味方もできなくもありません。
きっかけ・トリガーは、37話でポピーがスッチの涙を拭ったことでしょう。
スッチが自分の子どものように愛していたであろうポピーを想って流した涙です。
スッチとポピーの関係性は、第1話で登場します。
ポピーがスッチに抱いた第一印象が「お母さんみたいな人」でした。
スッチが涙を流した37話、ポピーは「僕たちを創ってくれてありがとうございます」と話しているのですが、これはおそらく母というよりも『創造主』への気持ちでしょう。
しかしそれだけではなかったことが判明したのが、59話。
ポピー・アジェナという名前は、スッチと夫・ウルヴァ・アジェナの間に子どもが生まれたときにつける予定だった名前でした。
時を経て、ポピー・アジェナという言語学者がスッチのいる第3艦橋にやってくるのですが、それをスッチは「すべてのテヤ人が導いてくれた運命」と語りました。
これは無限の猿定理(ランダムに文字列を作り続ければどんな文字列もいつかはできあがるという定理)によるもので(作者コメントより)、スッチとポピーが母子関係だったというわけではありません。
しかしスッチは「実の子どもではないにしても、目の前に現れたポピー・アジェナという青年(少年?)に対して、母性に近いものを抱いていた」と考えられます。
そうした想いが37話で涙となり、青年ポピーに、ポピーと名付ける予定だった胎児の魂を宿らせるトリガーとなった、考えられます。
ちなみにポピーは13話でことみの涙を拭っていますが、このときのことみの涙は自身の置かれた状況に混乱したためのもの。
ポピーへの思い入れがあるという描写はこの段階ではまだなく、『魂を宿すトリガー=ことみの涙』へのミスリードだった可能性があります。
そこで問題になるのが、52話で思考制御を失って暴走したポピーが動作を停止した理由。
ことみの声掛けでポピーは瞳の光を失い、一度意識を失うのですが、次に目覚めた67話では理性を取り戻しています。
ことみの涙は直接的にポピーに魂を与えたわけではないにしろ、何らかの『影響』を与えていたのかもしれません。
それが53話でマリーゴールド艦長が言っている「地球人の特別な力」なのかもしれません。
□QWERTYとテヤの歴史
物語の根底部分で未だに謎の多いこの軸。
実は何度かに分かれて語られています。
最初は18話、マリナが幼児退行を起こしていたマリーゴールドに語っている場面です。
かつてテヤという文明が太陽を失いかけ、絶滅の危機に瀕したとき、テヤ人のうち5万人を宇宙へ脱出させたこと。
その生き延びた5万人のテヤ人も必死に生き延びながらも、あるウイルスの流行によって7人にまで減ってしまったこと。
その7人は「神様」と呼ばれ、それが元老院となったこと、という神話めいた話でした。
次に37話、スッチがポピーに語る場面です。
このときスッチの立ち位置が人口を管理する産婦人科医・小児科医というモノであったことが明らかになります。
しかしその管理されていたはずの人口が、QWERTYがヘリオポーズ(噛み砕いていうと境界面)を脱出したころから、急激な妊娠率の低下によって減少し始めます。
当時それに気が付いていたのはスッチともう一人の男性(後述の夫、ウルヴァ・アジェナ)でした。
妊娠率の低下、すなわち人口減少、QWERTY全体の人口は母星からの距離に反比例して減少していくという『魂の在処』という説が唱えられました。
結果7人にまで減少したテヤ人は魂と呼ばれる現象の特性に苦しみながらも、現在の元老院となります。
魂の問題は解決せず、現在のQWERTY民は全て思考制御がなくしては暴走してしまう、そんな仮初の生命とされます。
「そうするしかなかった」と涙を流すスッチに、ポピーは初めてスッチに会った時に抱いた感情と感謝の意を伝えました。
その後、50話。
マリナが文献検索中に、ウルヴァ・アジェナからスッチへの手紙を発見します。
手紙には血清を7本同封したこと、1本はスッチ自身に使い残り6本の使い道は任せること、ウルヴァ・アジェナの研究のことなど綴られていました。
次に描かれるのがスッチの過去編です。これまでの断片的な情報が集約されます。
55話。
ヘリオポーズを脱出した頃、QWERTYはある漂流物を宇宙空間から回収しました。
漂流物に関して「文明的な何かだとすれば遥か昔超古代文明が我々より先にこの外宇宙まで来ていたことになります」とコメンテーターは述べています。
スッチは産婦人科医・小児科医として勤めつつ、妊娠率の低下を危惧していました。
「生殖のための精子と卵子の運動は、恒星と惑星の運動が関係している」というのがスッチの研究です。(思いっきりセクハラ発言受けますが)
このとき、謎の流行病によって死亡者が急増していきます。
スッチも「人が死に過ぎている」と状況を懐疑的に考え始めました。
それに対して「あれは回収してはいけなかった」「艦橋区は何かを隠蔽している」とコメンテーター。
そんな混乱の中、スッチは夫のウルヴァ・アジェナから7本の血清アンプルと手紙を預かり、それに涙を落としています。(このときに夫が亡くなった?)
そして100日が経過し、テヤ人はスッチと新生児6名の合計7名を残し絶滅しました。
それから10年後の57話、紆余曲折を経て生き残った子どもたち6人と離れ離れになったスッチは、夫の手紙に会った通りに生前夫がしていた計画を引き継ぎます。
夫が携わっていた仕事は複製体計画であり、妊娠率の低下問題に先駆けて複製体作成に着手していたことで、これによりスッチは夫からの手紙に託されていた意味を知ることになります。
艦橋区で絶望に打ちひしがれるスッチでしたが、そこに現れたのはアンドロイド、個体識別番号719342、後のスマロでした。
さらに5年後の58話、離れ離れになっていた子どもたちと再会します。
子どもたちのリーダー格・ヨベルはスッチに謝りますが、スッチはナミとスイが連れている赤い眼の子ども2人に驚きます
ヨベルはスッチと離れていた5年間の出来事をスッチに伝えました。
しかし問題が魂の格納実験。スッチはそこで6人の子どもたちがなぜ自分を尋ねてきたのかを察し、自分が実験体になることを伝えます。
700年後にスッチは目を覚ましました。そこでオリスから説明を受けて、本編1話に至ります(59話)
過去編の説明がだいぶ駆け足になりましたが、いくつがポイントをあらってみましょう。
○ヘリオポーズを脱出したときの妊娠率の低下
「QWERTY全体の人口は母星からの距離に反比例して減少していく」と『魂の在処』仮説。
「生殖のための精子と卵子の運動は、恒星と惑星の運動が関係している」とスッチの研究
「恒星惑星間運動と妊娠の因果関係は、魂の定着にも必要であったこと、外宇宙では出来えないことであったこと」とヨベル。
作品自体から少し離れますがヒントとなるかもしれない概念がこちら。
・ヘリオポーズの磁場の影響、または宇宙放射線の被曝
・宇宙空間(無重力空間)での哺乳類の生殖(有性生殖)は困難
という2点です。
放射線被曝は今では知られていますが、分裂速度が速い細胞にほど影響を与えます。
一般成人なら脱毛、あるいはエラーを起こした細胞が腫瘍化の影響が考えられますが、分裂速度が一番早く、放射線の影響を最も受けやすいのは「生殖器官」であり「胎児」です。
ヘリオポーズを脱出したことにより照射する放射線が急増、その被曝による死産、それが妊娠率の低下を引き起こしたとも考えられます。
同時にその被曝により急性放射線障害を起こした大人たちも急性の放射線疾患によって死亡、それによる人口減少、という考え方もできなくもありません。
47話ではポピーの母親が亡くなった場面で、死因は「急性の宇宙放射線疾患」と父が話しています。
(余談ですが、宇宙戦艦ヤマトの沖田船長も宇宙放射線疾患でした)
次に宇宙空間でも哺乳類の有性生殖は困難という話ですが、これはNASAやISなどでも実験段階のものです。(諸説あります)
「卵子や精子の運動あるいは受精卵の成長には、重力が深くかかわっている」、つまりスッチの説とほとんど近いものですね。
ヨベルもまた「外宇宙ではできないこと」と言っているので、スッチやヨベルの言っている「惑星恒星間運動」というのはもしや『重力』のことなのかもしれません。
○回収した漂流物
「文明的な何かだとすれば遥か昔超古代文明が我々より先にこの外宇宙まで来ていたことになります」とコメンテーター。
「あんなものを宙空から回収しなければこんなことにはならなかった。私も感染している」とウルヴァ・アジェナ。
「あれは回収してはいけなかった」とコメンテーター。
「回収物の中には『何もなかった』」と艦橋区(多分)
「素粒子宇宙論体系の発見には、テヤ人が回収した漂流物が役に立った」とヨベル。
さて、何を回収したのでしょうか。
ウルヴァ・アジェナのくだりから考えると、それが何らかの感染源であったものと考えられます。(血清はワクチンか?)
「何もなかった」とすれば空気感染する何か、とも考えられます。
個人的な考えですが、これもしかしてウランなどの放射性物質ではないかなと。
とすれば放射性物質の被曝によって急性放射線障害(症状が感染症に類似)とも考えられるのですが、しかしそれだと血清の説明がつきません。
またヨベルの言う素粒子宇宙論を体系化するのに役立ったという文言も気になります。
○ウルヴァ・アジェナの研究
「何もかもが失敗だったが、私が心血を注いできた肉体と魂、そして恒星系と魂の研究が何かの役に立ってくれることを祈っている」とウルヴァ・アジェナ本人からの手紙と、同封されている血清。
「妊娠率の低下問題に先駆けて複製体作成に着手していたこと」を知ったスッチ。
ウルヴァ・アジェナの研究は複製体の作成、それも妊娠率低下問題に先駆けて行われていたものでした。
これについてはスマロも知っており、57話「試験運用後私以外廃棄された」と話しており、加えてなぜ廃棄されたのかの問いに対して「本事案に対するアクセス権ありません」と答えています。
また49話、マリナは古い文献から、スマロと同種素体のアンドロイドがクローン人間殺処分任務にあたっていたことを知り、疑問を抱いています。
ウルヴァ・アジェナはなぜ複製体を作る必要があったのでしょうか。
また54話、こぴみの言葉に「精製機の中でみた、ワタシはお前の罪を知っているぞ」とあります。
精製機の中でこぴみは何を見たのか、スッチの罪とは何か。
子どもたち別れてから再開するまでの、5年間複製体を作成しては廃棄を繰り返していたことでしょうか。
それともさらに前段階のウルヴァ・アジェナの研究にまでさかのぼるのでしょうか。
□聖書の物語がモチーフ?
母星を離れて飛び立った宇宙船・QWERTY。
25話でもマリーゴールド艦長が「そんな目的のために一体どれだけの犠牲をこの方舟は生み出すのか。」と言っています。
スッチも36話で「方舟で去った母星」と言っている通り、QWERTYはギリシャ神話や旧約聖書に登場する『ノアの方舟』に模されていると考えられます。
『ノアの方舟』とはものすごく要約すると、『神に選ばれた人間と種を保つ為の動植物のみが乗る事を許された、一隻の救助船』です。
純粋な意味では「方舟=母星を脱したQWERTY」と捉えられそうですが、その実を考えると「方舟=ヘリオポーズ脱出後のQWERTY」という見方のほうが妥当のような気もしてきます。
果たして、方舟とはQWERTYが絶滅を逃れた5万人という意味なのか、それともその後さらに絶滅を逃れた7人なのか、あるいはテヤの母星が滅びる直前に何かが隠されているのか。
もしくはただの比喩表現なのか、どれともつきません。
余談ですが、『ノアの方舟』のあと、旧約聖書創世記は『バベルの塔』に物語が続きます。
『バベルの塔』とは、天まで届くような高い塔を建築しようとした人間の愚かさに神が怒り、塔は砕かれ、もと1つであった人間の言語を混乱(バラル)させた、という話です。
62話と63話のタイトル「Elilema sabachthani/AB」、(エリ・エリ・レマ・サバクタニ?)で「神よ、なぜ私を見捨てられたか?」という意味のアラム語です。
次いで64話のタイトル「無原罪懐胎」もまた聖書用語で「聖母マリアが神の恵みの特別なはからいによって、原罪の汚れと咎を存在のはじめから一切受けていなかったとする」という意味の言葉です。
原罪とは何か、聖母とはだれか、神とは誰のことか。
あまりこの分野には詳しくないので、どなたか解説班おなしゃす。
□艦長の意思
第3話、艦長は、研究・観測のための走査ポッドが撃墜対象となったことに憤慨し「地球人と全面戦争だ」と言いながら登場します。
11話、ことみに対し「地球に還りたいのなら、私に協力しろ」。
次に12話、脅迫めいた行動に納得のいかない艦長は、元老院内での地球支配の目論見について言及し、自分が元老院内部へ潜入することをポピーに告げます。
しかしこのあとの16話、艦長が元老院による査問委員会にかけられ、艦長は更迭との採決がとられ、すべての艦長権限を剥奪されます。
17話、艦長はマリナとともに幽閉され、記憶の混濁と幼児退行を起こします。
そんな艦長を見守りながらマリナは、まだ艦長になる前のマリーゴールドの言葉を思い出します(第25話)
「私はこの世界から悲しみを一掃したい」
「この宇宙を闇から救済する。誰がはじめたのか知らないが、そんな目的のために一体どれだけの犠牲をこの方舟は生み出すのか。」
その後44話でも「私はQWERTY民全員の存続と出来うる限りの繁栄を望む」と言っているのですが、艦長はかなりの強い意志でもって艦長の任にあたっていたことがうかがえます。
65話では居住区の粛清を進める元老院に対して怒りを露わにし、スッチの協力を得て、元老院の魂をPTS通信網から切り離すべく、その管理区域への侵入を試みていました。
元老院との確執は以前よりあったようで、「金色の子ども」や「創造主への感謝がない傲慢なネズミ」とも言われています。
ところで艦長はQWERTY人です。
QWERTY人は本来、強力な思考制御が脳にかけられているはずです。
実際12話ではポピーが元老院の動向は平和主義に反するのではと反論をしますが、逆に艦長は「目の前で暴行されそうになっている者がいたら、相手を殺してでも助けるか?」と問いかけ、このときポピーは答えに窮してます。
また、63話、艦長候補生のチコリイが居住区での避難誘導をしている場面、「元老院って…なんだったかしら」と言っています。
艦長自身も61話でQWERTY人について「元老院の承認なしには許されない存在」とことみに説明しています。
元老院に対して反目していた艦長の意識は本当に元老院の管理下にあったのでしょうか。
この点について少し気になるのが33話、幽閉室の扉を破壊するシーン。
「私の暴力は全てを破壊する。だから暴力は嫌いなんだ」と話します。(33話)
もしや艦長は、思考制御を自身でコントロールできていた、それはスッチが教えたこと、とも考えられます。
□マリナ・メイン
23話、マリナ・メインはスッチ(元老院)より「お前はこの方のために死になさい」と艦長の前に出ます。
この言葉はマリナにとって自己価値のひとつになっているのですが、フラグのように思えなくもない。
□スマロ
スマロの時系列だけを追いかけると上記のようになります。
・ウルヴァ・アジェナによる複製体計画
・試験運用後、個体識別番号719342を残し廃棄処分(理由は不明)
↓
・艦橋区内でスッチと出会い、スッチの複製体計画に協力
・2363年、清掃の任務を受ける
(19話の「43万7000日前に清掃の任につくよう命じられていた」より逆算)
↓
・3560年、ポピー、ことみと出会う。
・スマートフォンと融合
・こぴみとの格闘により負傷
・マリナによる治療(修理?)
・にぼしの魂が宿る
スマロと涙についてですが、まず20話。
涙を流すことみをなだめながら「私もいつか涙を流す体験をしてみたい」とことみの涙に触れています。
次に41話、ことみに対し「生命とはなんなのでしょう」と問いかけながらことみの涙に触れています。
この涙が魂を宿すトリガーになったことが本編では考えられています(詳しくは後述)
スマロについてはとにかくこっちが泣ける言葉が多いのですが、個人的にぐっときたのは43話。
「かみさま、私は生きたい。もう一度ことみ様に会いたい」、スッチに言った言葉です。
この言葉の真意がわかるのが57話、過去編で「スッチ様、私にとってあなたが神様です」と言っている場面でした。
□魂??
さて、ほとんど本題といっていいくらいの問題です。魂について。
いかんせん『魂を求める物語』でもあります。
初出は22話。こぴみが完成したとき言葉を発しないことについて、ことみは『魂』がないのでは、と指摘をします。
次に36話、スッチがポピーに自身の歴史を語る場面です。
ここではスッチとウルヴァ・アジェナが研究していた「魂の在処」説が説明されますが、それはこのようなものでした。
魂を持たない器は本能や欲望のみが顕在化し暴力衝動を抑制できなくなってしまうため、強力な思考制御を施す必要があること。
地球人なら、とスッチも期待していたものの、やはり魂を持たない器はあのようになってしまうこと。
方舟で去った母星そのものが魂の部屋、魂の輪廻転生のための装置であったこと、母星を捨てたことで魂のほとんどが宇宙空間に消失してしまったこと。
次に43話、倒れたスマロの元にやってきたスッチが、スマロが涙を流した後をみて
「魂が宿ったの…?」
と驚いています。
次いで44話、スッチは艦長とマリナと合流し、スマロに宿った魂を『観測』します。
それはことみの飼い猫・にぼしの視点で見た断片的な映像でした。
このときQWERTYは木星と土星の間あたりを航行しており、QWERTYと地球の距離に関して「魂の転生が起きても不思議ではない」と話しています。
また「地球の一部の地域には使い古された物や道具に魂が宿るという信仰があります」とアニミズム、あるいは付喪神の例が挙げられます。
51話、スマロがマリナに修理してもらっているとき、魂について言及します。
「この機械の身体に流れる温かいもの、それが魂というものかもしれないと推察します」と言いますが、マリナはアンドロイドらしからぬ答えであると返します。
そのときスマロがまた涙を流し、ことみの夢を見たと話しています。
56話からの過去編では、子どもたち(のちの元老院)がスッチの研究論文をもとに繁殖に成功したと話しました。
恒星惑星間運動と妊娠の因果関係は、魂の定着にも必要であったこと、外宇宙では出来えないことであったこと。
魂の格納システムを作り上げたこと(これを作ったのはオリス)、QWERTYの管理保守は複製体に任せ、自分たちは魂を格納して生き続けること。
成功確率50%の実験ながら、スッチは最初の魂格納実験の実験体に名乗り出ました。
「観測を続けろ」
「スッチ先生の魂が意味消失するぞ」
「観測維持だ」
と、限界の状況の中で実験は行われ、その後スッチは700年間眠り続けました。
そこへオリスがやってきて、事の顛末をスッチに説明しました。
「魂の観測は一欠片でも取りこぼすと意識としての回収が難しくなる。スッチ先生の魂は損傷が激しかった」とオリスは話しています。
過去編をはさみ61話、艦長がことみに「魂が宿るきっかけはなんだったのか」と尋ねたとき、ことみは涙の可能性を示唆します。
これに関してことみが「魂がないことがそれほど困ることなのか」と艦長に問いかけたあと、
艦長はQWERTY人が「元老院の承認なしには許されない存在」という前提を述べ、さらにことみが「魂を持つことが出来ればその状況が変わるのか」と続けます。
以上を踏まえて、次の3点を考えてみます。
○魂とは?
少し哲学的、宗教的な話ですが、
まずは51話、スマロの推察で「この機械の身体に流れる温かいもの」とありますが、こののちスマロに宿ったものはにぼしの記憶でした。
ポピーもまた眠っていた時の夢でスッチの声を聞いた記憶(おそらく胎内記憶)を話しています。
ここから『魂=記憶』
次に61話の会話から、「QWERTY人が元老院の承認なしには許されない存在」というのは、おそらくPTSによる意識管理や思考制御のことではないでしょうか。
思考制御を失ったQWERTY人はポピーが暴走した通りで、「魂を持つこと」が出来たポピーはと自我と理性を取り戻します。
ここから『魂=自我』。
様々な解釈ができそうですが、「(自我と連続性のある)記憶」ではないかと思います。
なお、前述の聖書のモチーフを考慮すると、
「人間の不滅の本質」
「肉体を支配するために適用され、理性を付与された、特別な実体」
「性格と記憶の連続性によって接続された一連の精神状態」
「人格性の本質的な構成要素」
「したがって、魂に関連付けられるいかなる個々の人間身体からも論理的に区別されるばかりでなく、まさに人格そのものである」
「魂は感覚と思考、願望、信仰、意図した行為を実行する能力を備えている」
「魂は人間の本質的な部分である」
もうなにがなんだか。
○涙との因果関係
61話、ことみが魂を宿すきっかけについて「その人のことを思ってあふれ出した涙に触れること」と意見します。
スマロに関しては40話、スマロを助けようと奔走することみの涙にスマロが触れており、43話ではスマロが涙を流した痕跡をみたスッチは「魂を宿したの?」と驚いていました。
修理ののちにオッドアイとなったスマロですが、68話でスマロの中にことみの飼い猫・にぼしの魂が宿っていることが判明しました。
ポピーについては37話、ポピーがスッチの涙を拭ったことがきっかけで、一時理性を失ったポピーは回復します(67話)
この67話でマリナが、ポピーがスッチの夢をみていたことについて、
「魂を宿したのはことみの涙ではなくスッチの涙。恒星圏に入りテヤ人の力が戻っている」ということに気が付きます。
スマロに対しにぼしの魂を宿したのはことみの涙、ポピーに対し生まれてくるはずだった赤子の魂を宿したのはスッチの涙、ということになります。
61話でことみが言っていた、「その人のことを想ってあふれ出した涙に触れること」はあながち間違いではなかったというわけです。
そこで疑問点がひとつ、49話でポピーに攻撃されているこぴみが「殺して…」と言いながら涙を流しています。
こぴみに魂が宿っているのでしょうか、宿っているのだとしたらそれは誰なのでしょうか。
○魂の観測とは?
魂の観測という言葉が登場したのはまず44話で、スッチと艦長とマリナが、スマロに宿った魂を観測します。
このときは断片的な映像が出てくるだけでした。
次いで過去編59話、魂の格納実験中と思われる描写で「観測維持」という言葉が出てきます。
スッチが実験後に目覚めた後、オリスがスッチに以下のことを尋ねています。
「スッチ先生の夫、ウルヴァ・アジェナとの魂との関係を精査していた段階で何度も出てくるポピー・アジェナという名前はなんでしょうか」と。
また62話、艦長は元老院によってQWERTY人が粛清の危機に瀕していることに対して、その支配のかなめであるPTSを乗っ取り元老院全員をシステムから切り離すと話しました。
それはすなわち魂の観測維持を不能の状態とすること、と付け加えました。
元老院サイドでは65話、リンがヨベルに対し「PTSに組み込んで艦長権限まで存在を引き上げないと、神の目による観測ができないわ」と言っています。
『観測』という言葉から連想されるのは「天体観測」や「気象観測」など、字面の通りの「観察する・予測する」などの言葉です。
しかし意味合いが少し異なってくるのが量子力学での『観測』。
「シュレーディンガーの猫」などが有名ですね。
量子力学における問題に『観測問題』があり、波動関数の収縮がどのように起きるのか、ということに関するなんとかかんとかでよくわかりません。
もうさっぱりわからないので知恵袋から引っ張ってきますが
「観測とは、人間が認識できる形にすることである」
「自我を持った存在が確かめること」
という定義だとすれば、「魂の観測」は以下のように理解できるのではないかと思います。
粒子状の『魂の断片』を認識できる形、つまり『魂』と認識すること。
……もうなにがなんだか。
□こぴみ、どうなった?
54話でスッチの腹部を刺し、脱出用ポッドに乗ってしまったこぴみ。
あの恰好で地球に還ったら色々とやばいんじゃないかとは思いますが、果たしてそう簡単に帰れるのでしょうか。
たとえば相対性理論とか。
つまり何が言いたいかっていうと、本編読んでください。
もう聖書のあたりと物理学出てきたあたりで脳みそパンクしそうだったので、どなたか解説班おなしゃす。
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