妄想ジャンキー。202x

人生はネタだらけ、と書き続けてはや20年以上が経ちました。

『あなたに永遠を思うほどもう弱くない』

2007-10-20 22:54:52 | 物書き

冬になりはじめた。
友達と夕食の約束をしていて、私は繁華街へ出かけた。
夕暮れ直前、空はぎりぎりの明るさでそこにある。
賑やかな広場で不意に見つけたのは懐かしい顔だった。

懐かしさは懐かしさとして消えることはない。
私が彼を好きだったのはだいぶ前の話になるけれど、彼と目が合った瞬間に私はもう私ではなかった。
手痛い失恋をやっとの思いで乗り越えて、またつまづいたりもして、何度も何度も蘇る約束をかきけした。
もう叶わない。
今では結婚を約束した相手もいる。
式場や新居、新しい家具まで決まっているというのに、その瞬間に全てを棄ててもいいと思った。
棄てられるわけがないともわかっていた。

それでも人と人の間をすり抜けてる間、時間が逆再生しているようだった。
私は気付かれないように、あるいは気付かれたいように追い掛けた。
何も変わっちゃいない、あのころと何も。
煙草を吸って落ち着こうと思っても手が震えて火がつかなかった。
今の幸せを棄ててもいいと思った自分に震えた。

このまま時が止まってしまえばいい。
あの日の雪の中、思ったことを同じように思っていた。
このまま時を逆に走っていけば、何もなかったあのころに戻れるんじゃないか。
またあのころみたいにみんなで笑いあえるんじゃないか。



『あのころに戻れたなら、私は二度とあんたを好きになったりはしない』

恋は全てを崩す。
崩したくない幸せを私は自らの手で崩した。
月の美しい夜、音をたてて崩れ落ちた。
なんで言ってしまったんだらう。
今までそこにあった幸せが消えたあとには、強い後悔と残り火だけが残った。
片想いでも友達でもいいから好きでいることなんてムリだった。
あなたがそこに生きてくれていればいい、そう思うだけでもダメだった。
いけないことだった。
そうして何度も泣いた。
笑いたいから逃げた。
全ての感情は棄てることにした。
全てを過去形にしようと思った。

永遠さえ思った日はもう来ない。
あなたに永遠は思わない。
もう私はあなたを思うほど弱くない。
だから安心して。

私は二度とあんたに恋をしない。


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