冬になりはじめた。
友達と夕食の約束をしていて、私は繁華街へ出かけた。
夕暮れ直前、空はぎりぎりの明るさでそこにある。
賑やかな広場で不意に見つけたのは懐かしい顔だった。
懐かしさは懐かしさとして消えることはない。
私が彼を好きだったのはだいぶ前の話になるけれど、彼と目が合った瞬間に私はもう私ではなかった。
手痛い失恋をやっとの思いで乗り越えて、またつまづいたりもして、何度も何度も蘇る約束をかきけした。
もう叶わない。
今では結婚を約束した相手もいる。
式場や新居、新しい家具まで決まっているというのに、その瞬間に全てを棄ててもいいと思った。
棄てられるわけがないともわかっていた。
それでも人と人の間をすり抜けてる間、時間が逆再生しているようだった。
私は気付かれないように、あるいは気付かれたいように追い掛けた。
何も変わっちゃいない、あのころと何も。
煙草を吸って落ち着こうと思っても手が震えて火がつかなかった。
今の幸せを棄ててもいいと思った自分に震えた。
このまま時が止まってしまえばいい。
あの日の雪の中、思ったことを同じように思っていた。
このまま時を逆に走っていけば、何もなかったあのころに戻れるんじゃないか。
またあのころみたいにみんなで笑いあえるんじゃないか。
『あのころに戻れたなら、私は二度とあんたを好きになったりはしない』
恋は全てを崩す。
崩したくない幸せを私は自らの手で崩した。
月の美しい夜、音をたてて崩れ落ちた。
なんで言ってしまったんだらう。
今までそこにあった幸せが消えたあとには、強い後悔と残り火だけが残った。
片想いでも友達でもいいから好きでいることなんてムリだった。
あなたがそこに生きてくれていればいい、そう思うだけでもダメだった。
いけないことだった。
そうして何度も泣いた。
笑いたいから逃げた。
全ての感情は棄てることにした。
全てを過去形にしようと思った。
永遠さえ思った日はもう来ない。
あなたに永遠は思わない。
もう私はあなたを思うほど弱くない。
だから安心して。
私は二度とあんたに恋をしない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます