風がささやく 3
谷田茂
札樽自動車道までは10分もかからなかった。
札幌ジャンクションで道央道に乗ったところで、瞳に尋ねた。
「地平線の見える大牧場に行く前に、富良野に立ち寄る予定なんだけど。
構わないかな?」
「もちろん。まったく計画のない旅だから」
「よかった。それと、泊まりはファーム・インといって、農家が経営する宿なんだけど。
そこのコッテージを取ってある。寝室は2つあるから、一緒でいい?襲ったりしないよ」
「大丈夫。信用してるわ。卜部さん紳士だもの」
「紳士とまでは言えないけど、分別はあるほうだ」
そのとき、BMWのオープンカーが横につけた。
若い男で、走り屋って感じだ。ニッと不敵な笑いを見せて、急加速した。
「ねえ、ちょっとスピード上げるよ。挑戦されては黙っていられない」
「大丈夫。負けないで」
僕はシフトレバーの上にある、Sボタンを押した。
オペルに付いている、スポーツモードだ。押せばオートマでも加速性能が発揮される。
アクセルペダルを目いっぱい踏み込むと、背中がシートに強く押し付けられた。
アストラはぐんぐん加速し、遥か前方のBMWがあっという間に近づいた。
BMWを抜き去るとき、走り屋の男はびっくりしたような顔をしていた。
「すごいわ。これ、スポーツカーなの?」
「まさか。普通のセダンだ。ドイツではサルーンと呼ばれてるけど。
ただ、この車は特別に生産されたうちの1台で、高速で稲妻のように走る。
エンブレムの稲妻のマークは伊達じゃない」
1時間ほどで高速を降り、田舎道を通り越し、山間部を走る。
小さな滝で休憩し、やがて<msnctyst w:st="on" address="富良野市" addresslist="01:北海道富良野市;"> 富良野市
渋滞を避け、農道を走る。ほどなくファーム・インのコッテージが見えてきた。
コッテージの前にアストラを停め、エンジンを切った。
向いにある建物がオーナーの家だ。チャイムを鳴らした。
奥さんが出てきた。
「卜部さん、いらっしゃい。鍵は部屋にあります」
「どうも。それと、二人で泊まります。あと、夕食なんですが二人分用意お願いできますか?」
「はい、分かりました。いつものですね」
僕は頭を下げ、車に戻り、瞳をコッテージに案内した。ログハウスだ。
「わあ、カントリーハウスね。とても素敵だわ」
「ここはリビング。2階が君の部屋だ。荷物を置いたら外に出ておいで」
僕は瞳を裏の畑に案内した。瞳は息を呑んだ。
「わあ、ひまわり畑。圧巻ね」
僕はカメラを構え、ファインダーを覗くなり、すぐにソフトフォーカスレンズに交換し撮影した。
その間、瞳は一面に広がったひまわり畑に見入っていた。
瞳を畑から引き離してリビングに戻り、カメラをケーブルでテレビにつないだ。
そして、さっき撮ったばかりのひまわり畑を画面に映した。
瞳は「え?!」と声に出した。
「これ、さっきのひまわり畑?なんだかファンタジックに写ってる」
「うん、幾つか傷んだ花があったから、ソフトフォーカスレンズを使って分からないようにした」
「ふうん、これがプロの技なのね。納得」
「ひまわりって、日に向かう葵って書くよね。今の君にはそんなパワーが必要かもしれないね」
4につづく