愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
写真、詩、小説、エッセイ、料理、政治、経済etc..

闇 病からの奇跡の復活三部作より

2016年12月15日 09時42分02秒 | 小説

プロローグ

10月の第二月曜日、僕は休みを取った。瞳に頼まれたからだ。
天王寺駅で待ち合わせした。
約束の8時30分。僕が到着すると、瞳は少し浮かない表情で待っていた。


「どうしたの?」


「うん、眠れないの。それと、生理がないの。だから、今から鉄道病院の産婦人科に行くんだけど
一人じゃ心細くて。だから、穣二についてきて欲しかったの」


鉄道病院は天王寺駅からわずか3分で着く。
受付を済ませ、産婦人科の待合いで、長い間待たされた。これだから、大きい病院は嫌だ。
瞳は落ち着かない。

「ねえ、赤ちゃんできてたら、どうしよう」


「いいじゃん、お腹が大きくなる前に式を挙げよう。

できちゃった結婚なんて、今時珍しくも何ともない。恥ずかしくないよ」


「有り難う。少し安心したわ」


名前が呼ばれた。

「徳永瞳さん、2診にどうぞ」


僕も一緒に診察室に入った。


「どうしましたか?」

初老の男の医師が尋ねた。


「はい、生理がありません。
それと、眠れない夜が続いています。食欲がなくなったり、逆に旺盛になったりしています」


「なるほど、ではまず、尿を取って、妊娠しているか調べてみましょう。その後、もう一度お呼びします」


瞳はトイレから帰ってきた。程なくして、再び2診から声がかかった。


「妊娠ではありませんね。そうすると、精神科で診てもらった方がいいかも知れません。

カルテを持って、4階に行ってください。ただ、生理不順については、私の管轄です。
この表に基礎体温をつけて、3ヶ月後にまた来て見せてください」

と基礎体温表なる小冊子が手渡された。
体温のグラフを見てから、漢方薬だかホルモンバランスを整える薬だか出すかどうか判断するらしい。


4階の精神科の待合いにいる人たちは、どことなく変だ。凄く暗い顔をした人、
宙に向かって何かぶつぶつ言ってる人。スポーツ新聞を開いて、へらへら笑っている人。
不思議な光景だ。なんだかこちらも変になりそうだった。


1時間ほど待たされて、ようやく3診に呼ばれた。
ドアに医師の名前が掲げてある。

山川久美子。今度は女医だ。
山川医師は、瞳ほどではないが、美人だった。30台後半といったとことろか。
カルテを見ながら、瞳に尋ねた。

「お仕事は何ですか?」


「普通のOL、経理です」


「最近身の回りに何か変わったことはありましたか?ストレスになるような」


「はい、2ヶ月前まで、営業課にいたんです。でも、売り上げがあがらなくって、今の経理に回されました。

そこでは最年少なので、お茶くみとか、コピー取りとかを先輩から頼まれます。

それは別にいいんですが、同僚が冷たくて、仕事を教えてくれません。

上司は、私が作成する書類の不備をねちねち責めてくる。
そんなある日、夜中に汗びっしょりになって目が醒めました。それから不眠と生理不順が始まったのです」


「軽度の鬱ですね。安定剤と睡眠薬を出しておきましょう。また、二週間後に来てください」


会計で精算を済ませ、薬局で処方箋を貰い、病院を出て、となりの処方箋薬局で薬を貰った。
ハルションとデパス。軽い薬だと山川医師は言っていた。

 

2.

天王寺ターミナルのイタリアンレストランでパスタを食べた後、瞳は貰ったばかりの薬を飲んだ。


食後のコーヒーを飲んでいると、瞳の表情が明るくなってきているのに気付いた。


「不思議。さっきまでの、訳の分からない不安が嘘のように消え去ったわ」


「安定剤が効いてきたんだよ。良かったね」


僕は瞳をマンションまで送った帰り、大きな書店に寄った。
鬱に関して、多くの本があった。

その中から、「鬱は必ず治る」という本を選んだ。
家に帰って一気に読んだ。

そこには、軽い鬱なら投薬で3ヶ月もすれば治ると書いてあり、一安心した。


土曜日、瞳に電話した。


「どう、眠れてる?」

「ええ、ハルションって薬、よく効くわ。久しぶりに眠れるようになった」


「今から行ってもいい?」


「だめなの。会社でこなせなかった仕事、家に持ち帰っちゃった。今、パソコンと格闘中。
きっと、明日一杯かかるわ」

「そう、大変だね。あまり無理しないように」


電話を切った後、瞳が今まで仕事を家に持ち帰ったことがないのを思い、どうしたのかな?と思った。


1週間、瞳からの連絡はなかった。
元気でやっているんだろうと思っていた。
だが、日曜の昼過ぎに送られてきた携帯メールに、僕は愕然とした。


「死にたい」


たった四文字の中に、それだけしか書けなかったことに、
僕は瞳のこころに起こっている、深刻な事態を感じ取った。


すぐ、自宅に電話した。

消え入りそうな声で、やっと瞳は言った。


「また眠れなくなってしまったの。死にたい。明日、また病院に付き合ってくれる?」


「もちろん、休みを取ってあるよ。9時だったよね。くれぐれも早まっちゃだめだよ。
君がいなくなると僕がどんな気持ちになるか考えて」


翌日、8時45分に病院の4階で待ち合わせした。
瞳はまるで別人のように憔悴しきっている。一言も口を利かない。
やがて、3診から山川医師が顔を出した。


「徳永さん、どうぞ。その後、どうですか?」


「先生、最悪です。あれから1週間はよかったんです。よく眠れたし、不安も消えていました。
ところが、先週始めに、仕事で小さなミスをして、上司からこっぴどく叱られました。
大したミスじゃないのに。


『こんな簡単な仕事もできないで給料を貰っているのか。君は会社にとって不必要な人間だ。
いや、それどころか、いるだけで会社にとって損失だ。いっそ辞めてしまえ』


そう言われたんです。その途端に、すごい不安感が襲ってきて、耐えられなくなって、早退しました。
その夜、薬を飲んでも、全く寝ることができず、朝になって出かけようと服は着たんですが、
会社のことが頭によぎり、冷や汗がどっと吹き出してきました。
結局、その日は会社を休みました。

上司は冷たく、『あ、そう』とだけ言いました。


その日から会社には行ってません。不眠と不安が続き、毎日死ぬことばかり考えるようになったんです」

 

3.

山川医師は言った。


「鬱が進んだようですね。自殺を考えるようでは。しばらく会社は休んだ方がいいですね。
このまま働き続けると、余計、悪化するでしょう。とりあえず、1ヶ月休んでください。
診断書を書いておきます。それと、ハルシオンは軽い眠剤なので、もう少し強い薬も出しましょう。
抗うつ剤も出しておきます。あなたより若い方には、少々危険な薬ですが、安心して飲んでください。」


会計で診断書を受け取り、薬局で処方箋を貰い、この間と同じように外の調剤薬局で薬を貰った。
一日4回に分封された薬を見ると、ハルシオンと別に、新しい薬が入っていた。
説明書を見ると、マイスリー、とある。
それ以外にパキシルという抗うつ剤が朝夕二回、服用するよう書いてある。
家に帰ってネットで調べると、マイスリーは2000年に販売開始された眠剤で、
服用して最短15分で効いてくるとある。
パキシルは日本で最初に販売されたSSRI(選択的セロトニン取り込み阻害薬)とある。
なんだか難しい。うまく瞳に効けばいいが。


翌日、瞳からメールが届いた。


「会社に診断書を出しました。診断書通り1ヶ月休みます」

とある。


僕は広告代理店のコピーライターなので、自由に席を離れることができる。
外に出て、携帯から瞳を呼び出した。


「上司、課長なんだけど、診断書を見て、何と言ったと思う?


『ふん、仕事もできないのに病気か。休むより辞めて貰った方がいいんだが、労組もうるさいしな。』
だって。嫌な奴」


「そりゃあ、僕でも病気になるよ。そんな上司じゃ。昨日は眠れた?」


「それが、薬、あまり効かないの。夜中に何度も起きてしまう」


「死にたいっていう気持ちは?」


「いつも思っているわ」


「昨日貰った抗うつ剤について、調べたら、2週間ほど経たないと効果は現れないそうだ。
今日から毎日、仕事帰りに寄るよ。とても心配だ」


「いいの?ありがとう。一人でいると悪いことばかり考えてしまうの」


会社の近くの花屋で、見舞いの花を買った。少しはこころが休まるかも知れない。
1メートル近くある花を下げて、瞳のマンションを尋ね、合い鍵を使い部屋に入った。


瞳の表情はやはり暗かった。
瞳は花を見るや言った。


「胡蝶蘭ね。ありがとう、私の好きな花。可憐だわ。
でも、時間が経つと、少しずつ枯れて、ポトリ、ポトリと落ちていくのよね。
そんな風に私も滅びていくんでしょうね」


「何を言っているんだ。君の病気は、鬱は必ず治るって、この間読んだ本に書いてあった。
心配ない。山川先生は信頼できるし、僕もついている。暗い気持ちになるのは仕方がないさ。
そういう病気だから。でも、これだけは言っておく。絶対に死のうとしてはいけないよ。
僕はいつも君を見張っているわけにはいかない。だから、約束してくれ。絶対に自殺なんかしないと」


瞳は黙ってうなずいた。

 

4.

翌朝、僕はクリエイティブ局局長に事情を話し、在宅勤務にして貰った。


局長は僕を買ってくれているので、二つ返事で了解してくれた。


「いいよ。コピーはメールで送ってくれればいい。
君のコピーなしでは、クライアントがどれだけ減るか分からんからな」


と優しく言ってくれた。とても嬉しかった。


帰りに、梅田のヨドバシカメラでモバイルコンピューターと、イー・モバイルを買った。
これさえあれば、どこでも作品を送れる。


家に帰り、メインマシンからモバイルに必要なソフトとデータをコピーした。


そして、一大決心をして、行動を開始した。
まず、クリスチャン仲間である、臨床心理士、加藤に電話した。


「婚約者が鬱になった。鬱について徹底的に勉強したい。本を紹介してくれ」


要点だけの素っ気ない電話。奴とのやり取りはいつもこんな調子だ。お互い、時間を無駄にしない。


「分かった。まず、”病める心の理解”、柏木哲夫。日本におけるホスピスの草分けで
この本を書いた時点では淀川キリスト病院で精神科外来を担当していた。
有名な人だが、クリスチャンでもある。
次に”「うつ」と「躁」の教科書”ブライアン・P・クイン。
アメリカの精神医学は、常に日本の数段先を行っている。
これを読めば、最新の情報がデータとともに鬱を理解できるはずだ。
そして、”治療精神医学への道程”辻悟。柏木先生と同じ大阪大学出身だが、この本を書いた時点では、
医療法人榎坂病院付属治療精神医学研究所所長となっている。
薬物投与中心の日本の精神医学に、新しい概念である、”治療精神医学”というものを持ち込み、
大きな波紋を投げかけた。
この本はなかなか難しい本だが、それを分かりやすく、臨床でのやり取りを書いた本がある。
やはり治療精神医学を辻先生のもとに実践している、平井孝男”心の病の治療ポイント”。
患者さんとの言葉のやり取りの中で治療を行い、薬物投与は、必要最小限にする、という内容だ。
彼は、東淀川で、平井クリニックを開いている。これだけ読めば、とりあえず十分だろう」


「恩に着るよ。また、このお返しをする」


「高級フレンチレストランだぜ。新しいクライアントをプレゼントする、なんてのはやめてくれよな。手一杯なんだ」


僕は笑って電話を切った。


自転車に飛び乗り、天王寺の旭屋書店まで急いだ。

幸い、全ての本が手に入った。


その帰り、5分で僕の通っている教会に着いた。幸い牧師先生が在宅だった。


事情を話すと

「この本を貸しましょう。役に立つと思います。返すのはいつでもいいです。
瞳さんというのですね。お祈りしましょう」

そう言って、瞳の鬱が早く治るように祈ってくれた。
毎日祈ります、とも言ってくれた。


僕は感謝の言葉を告げ、手の中の本を見た。

”獄中からの賛美”マーリン・キャロザース。


牧師先生の説明では、良いことだけでなく、悪いことも神に感謝することによって、奇跡が起こる
という内容だそうだ。面白そうだ。


家に帰ると、とりあえず3日分の荷物をかばんに詰め
モバイルコンピューターをパソコン専用のリュックに入れた。

そして、瞳のマンションに向かった。

 

5.

瞳の住んでいるのはは、大阪北部の服部緑地を見下ろせる、瀟洒な分譲マンションの10階だ。


広々とした、一面の緑が窓から見下ろせる。

無論高価だったらしいが、亡くなった母親の生命保険を頭金に、購入したらしい。

春には桜が、秋にはバルコニーから紅葉が楽しめる。


ドアを開け、「瞳」と声をかけたが、返事は無かった。

寝室に行くと、ベッドに横になっていた。


昨日の服のままだ。
眠ってはいなかった。

じっと、こちらを見ている。たった一晩で、ずいぶんやつれて見える。


「何か食べたかい?」


「食欲がないの。朝から何も食べていないわ。このまま餓死すればいい、と考えてたの」


「また、そんなことを言う。いいかい、聖書にはこう書いてある。
全ての人は、それぞれ神様から与えられた指命を持って生まれてくる。
君は神様から果たすべき役割を与えられているんだ。
そして、神様は君のことをとても大切に思っている。愛されているんだ。
この病から回復したときの君の働きが見物だ」


「私、何もできないのよ。営業も、経理も。だめ人間なんだわ」


「今はそう思うだけさ。さあ、少しでも胃に入れとかなくちゃ。食べたくなくてもね。
駅前のスーパーで総菜を買ってきた。一緒に食べよう」


「ねえ、その荷物はどうしたの?旅行にでも行くの?」


「まさか、こんな状態の君を残してどこへも行くもんか。当分、僕は君んちに泊まる。いいね」


「それは嬉しいけど、ここから出勤するつもりなの?」


「いや、仕事場はここだ。在宅勤務にして貰った。モバイルコンピューターを買ったよ。
ここだけじゃない。僕がいる所が僕の仕事場だ」


「私のために・・こんなだめな私のために・・」


「君が窓から飛び降りたりしてないかと始終心配しているより、よっぽどいい。
それだけじゃない。僕は君の病気が少しでも良くなるために、何でもする。これも、その一部だ」


僕は5冊の本をかばんから出して、瞳に見せた。


「今日から猛勉強だ。きっと、鬱病のエキスパートになれるぞ。でも、所詮、僕は素人だ。
君に下手に治療行為を行って、よけい悪くなっては困る。そこんとこもちゃんと考えてある」


「穣二ったら、凄いパワーね。ほんの少しでいいから、分けて欲しいわ。今の私、まるで抜け殻よ」


「ところで、夕べ眠れたのかい」


「うとうとしたくらい。何度も夜中に時計を見たわ」


「そうか、今日も同じかも知れないね。

でも、大丈夫。今夜、僕は眠らない。これらの本を読破しないと。
それと、何本かコピーも書かないと。明日の分もね。会社よりはかどるかも知れない。

だから、眠れなければ、いつでも僕に声をかけていいよ。話し相手になってあげる」


僕らは夕食を簡単に済ませ、気乗りがしないという、瞳をせき立てて、シャワーを浴びさせた。


スエット姿に着替えた瞳は、僕の持ってきた本をぱらぱらと開いていた。


「なにも頭に入らないわ」


「そういうもんだと思うよ。活字なんて読む気にならないだろう。僕が読むから大丈夫。横になっていれば?」


ベッドに横にならせて、僕もシャワーを浴びた。


パジャマ姿でバスルームから出てくると、瞳はバルコニーにいた。


「だめだ!」

僕は動転した。

「大丈夫。夜の緑地を見てるだけよ」

「びっくりした」

 

6.

その夜、僕は瞳のシングルベッドに添い寝した。

強い眠剤を飲んでいるので、瞳はすぐに眠りについた。


僕は瞳を起こさないように、そっとベッドを抜け出し、リビングに行き
まず、「心の病の治療ポイント」を読んだ。

次に、「病める心の理解」を読み切った。


既に3時を超えていた。

眠気を感じたので、冷蔵庫からジンジャエールを取りだし飲み干した。

続いてリュックからパソコンを取りだし、起動させた。


Wordを開き、しばし宙をぼおっと見た。

コピーが舞い降りるのを待つ。


今回のは大手家電メーカーから、新商品のネーミングの依頼だった。


思いつくままに、幾つものネーミングをWordに書き込む。
50ほど出来上がると、気に入らないのを消していく。

最後に3つ残った。
この中から、大手家電メーカーの担当者が選ぶことになる。

どれを選んでも、間違いなくヒットするはずだ。


「仕事してるんだぁ」


後ろから声をかけられて、僕はびっくりした。


「眠れないのかい?」


「うん、全然眠れない」


「いや、寝息たててたよ。寝れてない気がするだけだ。
まあ、マイスリーも3時間しか効かないと書いてあったからね。今起きてもおかしくない」


「ねえ、それなに?ジンジャエール?私にもちょうだい」


僕は冷蔵庫からジンジャエールを出してきて、プルリングを引き、瞳に手渡した。


瞳は美味しそうにごくごくと一気に飲み干すと

「プハー、美味しい」と言った。


「仕事は終わったから、ベッドに行こう。横で起きて君を見てるよ」


二人はベッドに横になった。

シングルベッドだから、少々窮屈だったが、密着していることで瞳は安心したのか

しばらくすると寝息を立てた。

僕は瞳の寝顔を見ている間に気を失った。


電子音が鳴った。

腕時計のアラームを6時半にセットしてあったことを思い出すのにしばらく時間がかかった。

瞳がリビングからやってきた。


「嘘つき。眠らないって言ったくせに」


「ごめん、それにしても眠いよ。さあ、洋服を着て」


「え?どこかに出かけるの?」


「うん、平井クリニックに行く。

緑地公園駅から東三国まで10分、そこからクリニックまで歩いて10分だ。
この本を書いた先生に診てもらう。本を読んで感動した。きっと君の病気をよくしてくれるはずだ」


瞳は嫌々ながら、歯を磨いて顔を洗い、化粧を始めた。僕もその間に洗面台で支度をした。


7時過ぎにマンションを出た。

緑地公園駅までは、歩いて5分。

8時にはクリニックに着いた。
9時からの診療だが、整理券が置いてあった。見ると、2番だった。早い人がいるんだ。


駅前に戻り、喫茶店でモーニングを食べた。

クリニックに戻ったときには、扉が開いていた。
やがて受け付けが始まり、瞳は整理券と保険証を提出した。


「こちらは初めてですか?」

受付の女性に聞かれ

瞳は小さな声で「はい」と答えた。


質問票のようなものを渡され

「こちらに記入してください」と言われた。


待っている間にそれに記入し

やがて9時に診察が開始され、1番の人が呼ばれた。


15分ほどで、「徳永さん、どうぞ」と先生から呼ばれ、診察室に一緒に入った。


平井先生は優しそうな目をした方だった。

椅子に腰掛けておられた。


「どうぞ、お掛けください。そちらの方は?」

「婚約者です」

 

7.

開口一番、平井先生は瞳に尋ねた。

「さて、どうしました?」


瞳は会社でのこと、異動のこと、上司のこと、新しい仕事のことなどをぽつぽつと説明した。


「そうですか、会社は休まれているのですね。で、鉄道病院ではどんな薬を貰いましたか?」


瞳はバッグから薬局で貰った、薬のリストを先生に手渡した。


「で、どうしてここに来られたんですか?」


「彼に連れてこられたんです。平井先生は素晴らしい先生だからって。先生の本を読んで」


「そうですか、では今からいろいろ質問をします。初めが一番大切なので。
話すのが少々辛いかも知れませんが、正直に答えてください。
ところで、今の医者から病気の説明を受けましたか?」


「鬱病だと言われました」


「その鬱病とはどういうことか説明を受けましたか?」


「いえ、ただ、鬱ですね、薬を出しておきます、と言われただけです」


「それじゃ薬以外に、治療の目的はこういうことだとか、どうしたら治りやすくなるかといったことは?」


「何もありません。薬をくれただけです」


それからは先生から、矢継ぎ早に質問が繰り出された。


瞳が答え終わる前に、次の質問が飛んでくる。
家で何も喋らない瞳も、うろたえながらも何とか答えている。


質問の終わりの頃には、人間には調子が良いときも悪いときもあること。
調子が悪い自分を否定しないことを納得したようだった。


先生は最後に、持続作用の長い眠剤、ロヒプノールという薬があるが、飲まれますか、と聞かれた。


瞳は「はい、お願いします」と答え、先生は次回はどうしましょう、と聞かれた。


「え、どうしたらいいんでしょう?」


「そうね、あなたが今日の話し合いで、だいたい納得してこれでいけると思ったら、
もう来なくてもいいだろうし、まだ少し疑問だなと思ったり、話しとしてはわかるけど、
実際はなかなか覚悟できないというんなら、また来て話し合いを続けてもいいし、どうしますか?」


「はい、また来たいと思います」


「それじゃ1週間後がいいですか、それとも2週間後?」


「1週間でお願いします」


診察室を出た瞳は、大きくため息をついた。


「はあ、疲れた。こんなに話したの久しぶりだったから。
でも、あなたの言うとおり、素晴らしい先生だわ。私、随分気が楽になった気がする。
今はこの心の状態が、特別なものじゃないって思えるの」


「そうだね。僕もそう思った。来てよかったね」


「うん、ありがとう。これからどうするの?うちに帰る?」


「いや、天王寺に行こう」


「鉄道病院に行くの?」


「違うよ。柏木先生の本には、一般的には健康には三つの要素がある、と書いてあった。
身体、精神、社会、の三つ。

でも、真の健康には4つ目が不可欠だそうだ。

それは、霊的健康だそうだ。今から行くのはね、僕の通っている教会さ」

 

8.

天王寺駅から少し東へくだり、右折すると、そこはマンションが建ち並ぶ住宅街だ。

駅が近い立地のよさと、人気の高い公立の小、中学校があるので、近年凄まじい勢いでマンションが建てられた。


それらのマンションに挟まれるように日本基督教団大阪常磐教会はある。

屋根の上に真白い十字架が乗っている。


連絡しておいたので牧浦牧師が礼拝堂の中で、出迎えてくださった。


大正建築がそのまま残されている、この礼拝堂が僕は大好きだ。
真白く塗られた天井は高く、柱のない空間は、まるで昔にタイムスリップしたようで、とても落ちつく。


牧浦牧師は笑顔で迎えてくださった。


「ようこそ、いらっしゃいました。そちらが瞳さんですね」


「はい」瞳は小声で答えた。


「この教会には、心を煩っておられる方も通ってこられます。
鬱病と聞きましたが、最近増えている病ですね。

私は医者ではありませんから、お祈りするくらいしかできませんが、

心の中心を自分から神様に明け渡せば、心の病が快方に向かうことは、
私の知り合いである、クリスチャン精神科医、柏木哲夫先生がよく仰っておられます。
いきなりイエス様を受け入れなさいとは言いません。でも、聖書を読まれることをお勧めします。
また、穣二さんと一緒に、気が向けば礼拝にお越し下さい。水曜には夜の集会もあります。
今はほとんど穣二さんしか来られていませんから、礼拝よりも気軽に来ることが出来ると思います。
さあ、よろしければ、お祈りしましょう」


「はい、お願いします」瞳は言った。


「鬱が治ることを祈ればよろしいですか?」


「ええ、そうなんですが、今朝行ってきた精神科の先生が、人間には調子が良いときも悪いときもある。
調子が悪い、今の自分を否定しないで受け入れましょう、と仰ったので、
そのようにお祈りをしていただければ・・」


「分かりました。では、一緒に祈りましょう」


瞳は鬱が治る、ではなく、今の自分を受け入れることが出来るよう、祈った。


そのあとで、先生が、同様に祈り、


神様の祝福が瞳さんに豊かに与えられますように、と唱え、瞳が導かれて来たことに感謝し、
最後に、「この感謝と願いを、主、イエスキリストの名によって、御前にお捧げします」と祈られた。


そして、聖書を開き、聖句を読まれた。


「祈り求めるものはすべて既に得られたと信じなさい。そうすれば、そのとおりになる」
マルコによる福音書11章、24節。


「今、3人一緒に祈りました。神様はきっと答えてくださるでしょう」


僕らは牧浦牧師に感謝の意を伝え、教会を後にした。


天王寺への道すがら、瞳はしみじみと言った。


「平井先生、牧浦牧師、とても素晴らしい方だったわ。
不思議。あんなに苦しかったのに、今は少し楽になった。穣二、何とお礼を言えば・・」


「何言ってるんだ、僕の一番大切な人のために、なんでもすると言ったろう」


「ねえ、少しお腹が減ったわ」


「へえ、食欲が出てきたんだ。信じられない、そんなに早く回復しないよ。本によれば3ヶ月かかるって」


「もちろん、まだ、不安はあるし、自分がだめな人間だって気持ちはあるのよ。
でも、そればかり考えていた昨日までとは、少し違うみたい」

「へえ、凄い」

 

9.

「何が食べたいの?」


「カレーがいいわ。思いっきり辛いやつ」


僕は瞳を僕のよく行く、カレーハウスに連れて行った。10分で着いた。レジャービルの地下2階。
カウンターばかりの小さな店だが、僕はここの味が気に入っている。


瞳はカツカレーの辛口を注文し、ペロリと食べて僕を驚かせた。


地下鉄に乗り、緑地公園で降りた。


「緑地、歩いてみようか。日に当たるのは、鬱にいいそうだから」


公園の入り口から左へ折れると、梅園があった。開いている花はまだ、なかった。
まだ冬は終わっていない。
しかし、よく見ると、濃いピンク色のつぼみがたくさんついていた。


「ほら、長い冬を越えて、もうすぐ春を告げようとしている。
君も今は闇の中だけど、いつか春の光りの中にいることになる。僕はそう、信じている」


「うん、ありがとう。今日はとっても不思議な日。なんだか少し、希望が持てるようになった気がするの」


梅が咲いたら、次は桜だ。弁当持って、花見に来よう。その頃までに、回復してるといいね」


瞳はそれには答えず、つぼみの一つを愛しそうに指の先で優しくなでていた。


「寒くなってきたね。マンションに戻ろう」


瞳がマンションの部屋に入るや、

「見て!」と大きな声を出した。


「どうしたの?」


「胡蝶蘭、先の方は枯れているけど、朝までつぼみだったのが、開いてる。
開いたばかりだから、とても、活き活きしてる」


「覚えてるかい、僕がこれを持ってきたとき、君がなんて言ったか」


「覚えてるわよ。いじわる。分かったわ。これは、希望なのね。神様からのメッセージかしら」


「そうかも知れないね。ちょっと、仕事するよ」


「どうぞ」


僕はノートパソコンを起動し、

検索エンジンに「鬱」を入力して、ENTERキーを押した。
ふと、気になるページが見つかった。


「鬱から這い出すには」とある。

クリックしてみた。右ににじんだような色彩がある。
何かの花のようだが、美しい。左に詩が書いてある。声に出さずに読んでみた。


不思議な詩だった。あらゆるものが生きていて、それを大切にすれば、

それらが力を合わせて、
鬱から救い出してくれる、という内容だ。

その中に、光る言葉があった。


「瞳、今、ネットで興味深い詩を見つけたんだ。読んでみるね」


「え?仕事してたんじゃないの?」


「いいから、いくよ」


「『鬱は心の落とし穴である。もがけばもがくほど、深みにはまり、自力ではめったに脱出できない。
そこから抜け出るためには、なにものかの助けが要る。
自分自身を見つめ続け、さいなみ続けるところに鬱の罠がある。
自分という存在、人間という存在がいかに小さなものか、いかに多くのものによって、
自分が生かされているかを考えるべきなのだ。
すなわち、自分自身を見つめるのではなく、自分自身を捨てる。
ここに鬱から這い出す秘訣がある』

って。


『自分自身を見つめるのではなく、自分自身を捨てる』

か。名コピーだ。


この詩人はコピーライターとしても超一流だ。一度会ってみたいな。


これはつまり、客観的に自分を見れる、もう一人の自分を用意するってことだと思う」


「うん、分かる気がする。今すぐには出来ないけど、努力してみるわ。それって、平井先生が仰った、
『調子の悪自分も許容する』って言葉にも通じるような気がする。
私、多くのもの、多くの人に支えられて生きているのね。今日、よく分かったわ。
何よりも、穣二、あなたにはなんて感謝していいか分からないわ」


「感謝なんかいいんだ。君がまた、笑ってくれるようになりさえすれば、僕は幸せだ」


その時、ほんの一瞬だが、瞳が微笑んだように見えた。錯覚だろうか。


「ねえ、今日貰った薬、効くかどうか早く試してみたいわ。お風呂入って、薬飲んで寝るわね」


「うん、それがいい」


瞳に続いて、僕も風呂に入った。バスルームから出ると、もう瞳はベッドの中で眠りについていた。


深い寝息だ。朝まで起きないで眠れればいいが。


7時にアラームが鳴った。ベッドの横で、瞳はすやすやと眠っていた。


僕はそっとベッドから抜け出し、リビングでコピーを練っていた。


突然、瞳が後ろから抱きついてきた。


「やったあ!ぐっすり眠ったわよ。途中で起きたりもしなかった。久しぶりだわ。まだ、眠いけど」


「まだ、薬が体に残ってるんだよ。でも、よかったね。僕もとても、嬉しい」

 

エピローグ

そよ風が桜の花弁を一枚、運んできて、瞳の髪の上に落ちた。


綺麗な髪の黒と、桜のピンクのコントラストが美しい。


僕はそれをそっと、指でつまんだ。


「なあに?」


「ん?髪に桜が。君に挨拶に来た。ほら」


「へえ、これって、挨拶なの?」


「うん、全ては生きているからね。君の回復に、おめでとう、と言っているんだ」


「なんか、それって、キリスト教の教えと違うんじゃない?」


「うん、僕はね、オーストラリアのアボリジニや、アメリカ先住民族の本をよく読む。
彼らは、太陽や風や木や水、あらゆるものに精霊が宿ることを信じ、
その精霊たちとコミュニケーションを取ることが出来るそうだ。自然と共に今も生きてる。
僕はクリスチャンだけど、彼らの生き様に共感を覚える。だから、真のクリスチャンとは言えない」


「ふうん、さっきから、箸が進まないじゃないの。せっかく頑張って作ったお弁当が泣いてるわ」


僕らは緑地の桜の木の下に、ござを敷いて座っていた。


ビニールシートでは、桜の木が息を出来ず、苦しむ。
ござなら呼吸が出来るから、大丈夫とどこかに書いてあった。


瞳の病に関わっていく過程で、僕も少し変わっていった。
前よりも、人や、人以外のものに対して優しくなれた気がする。


見上げると満開の桜。

その、圧倒的な存在感ゆえに、以前は桜があまり好きでは無かった。


でも、今は違う。

長い冬の寒さの中でつぼみを守り、ほんの数日、咲き誇ると、
後は花吹雪と共に散っていく潔さ、そしてその後に現れる、みずみずしい新しい葉に、
生命のストーリーを感じ取るのだ。


瞳は1ヶ月の休職の後、会社に復帰した。
そこで待っていたのは、いじわる課長ではなく、穏和な人柄で有名な人事部長だった。
まだ、十分に回復していない瞳のために、仕事の楽な、庶務課の辞令を渡した。
そこでの仕事は、単調ではあるが、その単調さが換って、瞳の自信を取り戻す効果を持っていたようだ。


瞳は少しずつではあるが、回復してきている。

不眠も無くなり、自殺願望も消えた。


僕は自宅に戻り、会社に出勤するようになった。

クリエーティブ局局長に復帰を報告すると、彼は言った。


「それはよかった。メールではネーミングやコンセプト、ラジオCMは作れても、テレビCMは送れない。
絵コンテがいるからね。

テレビCM、君が戻るまで、クライアントに待って貰っている。
忙しくなるぞ。頑張ってくれたまえ。君はうちのホープなんだから」


僕は局長の心遣いにとても感謝した。

いい上司を持てて、幸せだ。
当分、僕が鬱になることはないだろう。


瞳はというと山川医師に、平井クリニックへの紹介状をあらためて書いて貰うため、鉄道病院を訪れた。


山川医師は瞳の快復が予想以上に早いことに驚きを隠せなかった。


「私も嬉しいです。でも、一体、何をしたんですか?あなたの前回の様子から考えて、
こんなに早く改善するのはとてもレアなケースです」


瞳は平井クリニックで治療を受けたこと、4つ目の健康、すなわち霊的な健康には信仰が必要なので、
教会に行っていることを告げた。


「平井孝男先生ですか。大阪市大や関西カウンセラーセンターなどで、治療学の講座を担当お持ちですね。
著書も多い。治療精神医学、私も勉強し直さなくてはなりませんね。
それと、霊的な健康というのは、淀川キリスト病院におられた、柏木先生のよく話されることですね。
確かに、心の病には信仰が良い結果をもたらすことは私も認めています」


と言って、快く紹介状を書いてくれた。


平井クリニックでの2回目の診察では、血圧、体重、尿検査に加えて、
目を開けて30秒、つぶって30秒、それから足を前後に開き、次にかかとを上げて、
それぞれバランスを取ることが出来るかをテストされた。

その後が大変だった。


「薬の効果を上げるには?その十箇条。」

「引き受ける時の条件」の二枚の書面を渡され、
熟読することを求められた。

薬に対して過剰な期待を持たないことや、
治療が医師と患者の共同作業であることなどが書いてあった。


その後、それらの内容についての感想や、薬の良かった点、悪かった点、心配な点、
今までの治療者の良かった点、悪かった点、今後一番期待すること、恐れること、など、
15項目にも及ぶ、回答困難な難しい質問について用紙に記入することを求められた。


瞳は悩みながら書いていたが、ゆうに1時間以上かかった。

その後、診察室に呼ばれた。
回答書を見ながら平井先生は、またも前回同様、鋭く瞳に質問を投げかけ、時に瞳の悩みに共感し、
時に瞳の言葉に疑問を呈したりしながら、瞳との会話の中で、治療行為を行った。

僕は目を見張った。


「すごい、これが治療精神医学の神髄なんだ」

心の中で、うなった。


最後に「一日の行動記録」を渡され、毎日1~3行書き、
良い一日は○、良くない一日は×、わからないは△をつけて次回持参するように指示された。


瞳は毎水曜日、常磐教会の夜の集会と日曜礼拝に、嫌がることもなく、僕と一緒に参加している。
まだ、キリスト教の教えにはピンと来てないようだが、賛美歌を歌うのは楽しい、と言う。
牧浦牧師は、それでいいです。ゆっくり、急がず、と仰っておられる。

 

 

桜が満開の土曜日の昼下がり。

花見客が多い。

子供たちが走り回りながら、
落ちてくる桜の花びらを追いかける。


瞳がポツリ言う。

「私、子供、好きよ。結婚したら、5人は欲しいわ」


「5人・・大きな家がいるね。頑張って稼がないと」

瞳がくすっと笑う

 

 

瞳が握った、おむすびをほおばりながら、缶ビールを一口飲む。


また、ひとひら花びらが舞い降りてくる。


春の日差しが眩しく、思わず目を閉じる。


聖句が心の中に浮かぶ。


「光は闇の中に輝いている。そして、闇はこれに勝たなかった」ヨハネによる福音書第一章5節


鬱という闇の中から、瞳は光の中に飛び出そうとしている。

なんて素敵なんだ。

 


目を開くと、すぐ前まえに瞳の眼があった。


「寝てるの?だめねえ。缶ビール1本で酔っちゃうなんて」


瞳は笑っていた。


思わず僕は瞳を強く抱きしめた。


春のめくるめく光の中で、僕らはいつまでも抱き合っていた。


強い風が吹き、二人を桜吹雪が包み込んだ。


永遠にも思える時と空間の中で、
絶えまなく降りしきる桜の花びらの中で、


僕は

神に、桜に、風に、お世話になった人たちに、

あらゆるものたちに、深く感謝していた。


その時、ふと、桜が笑った、そんな気がした。




あとがき

 

小説を書くのに、これほどパワーを傾けたのは、初めてのことです。

自分が鬱経験者だから、というので、軽い気持ちで始めたのですが、

僕が鬱になったのは、もう、30年近くも前のこと。

当然のことながら、その間に精神医学は凄まじい発展を遂げており、

眠剤や抗うつ剤も新薬がどんどん出されています。

無論、それらの新薬の副作用についてもまた、多くの報告が提出されています。

 

また、今現在、鬱で苦しんでおられる方にも読まれることが分かっており、

下手なことは書けない、と、

書き始めから、プレッシャーを受けました。

 

それ故、現役の精神医から、

薬の処方、それも、薬品名や量だけでなく、

それぞれの段階の鬱患者に、「最初に投薬するのは、この薬、次にこの薬。」

などと、アドバイスを頂きながら書き進めました。

 

そして、実在の精神科医の先生の名前を出さなくては小説が成り立たない場面では、

先生の著書から引用させていただき、

(心の病の治療ポイント 平井孝男 著 不朽の名著です)

先生の実名を上げ、この原稿を持って伺い、

「先生がこのように発言されたことにしていますが、よろしいでしょうか?」と了解を頂いたり、

そういえば、その時、

「はいはい、私はこのように言うこともありますからね。」

と仰って頂いたとき、ホッと心をなでおろしたのを、今、思い出しました。

 

教会の名前や牧師の名を出してよいかどうか、牧師先生の了解を取ったり、大変でした。

プロの物書きならば、取材を繰り返すのは当然のことですが、

僕は基本的に、詩人なので、

今までこのような苦労をしたことがありませんでした。

 

また、お名前を借りた以上、

先生がたが、完成した原稿をお読みになるのは当然のことで、

これもまた、この作品を描き進める上でのプレッシャーでありました。

 

とはいえ、なんとか、最後まで書き上げることが出来ました。

これも、ひとえに、

先生方はもちろんのこと、

コメントやメールで僕を励ましてくださった、

読者の方々のお陰と、心から感謝しています

 

また、瞳が最初、産婦人科にかかる、という場面での、医師の対応を教えてくださった、

産婦人科のD先生、

投薬についてのアドヴァイスを下さった、

首都大学東京大学院人間科学研究所及び、群馬大学先端研究機構イノベーションセンター客員教授、

村島善成先生、

この先生に何度も質問を繰り返し、僕に伝えてくださった、精神科のベテラン看護師さん。

 

何よりも、

大変にお忙しい中、

(平井先生は、心を病んだ人が最後に辿り着く駆け込み寺的クリニックの院長だから、

超人気にもかかわらず、一人一人の患者さんを心から愛される。

先生の著書を読まれればわかります。禅宗の仏教徒だと聞きます)

原稿をお読みいただき、実名を出すことも合わせて、快く承諾してくださった、

平井クリニック院長並びに新大阪カウンセリングセンター所長、平井孝男先生。
優しいが厳しい、平井先生 

 

同じく原稿を全て読んだ上で、教会の名前や、牧師先生の名前を出すことを了承してくださった、

日本キリスト教団大阪常磐教会の、牧浦昇牧師。

 

心より感謝しております。

先生方のご協力なしでは、

この小説は書き上げることは出来ませんでした。

 

今、鬱で苦しんでいる方や、身近に鬱の方がおられる方の参考に、

少しでもなれば、とても嬉しいです。

 

すべて書き上げた今、僕の心に浮かぶのは、瞳と穣二の今後にもう会えないこと。

それは、実在の人間との別れに近いものなのです。

フィクションでありながら、今、とても寂しいです。

 

今日からこの原稿を、

情報提供して頂いたり、登場して頂いた先生方はもちろんのこと、

僕がお世話になっている、精神障害者を支援する施設の管理責任者やスタッフの方々に、

読んでいただく仕事が残っています。

 

好意的なコメントを頂けたら、作家冥利につきます。

 

以上、長くなりましたが、あとがきとさせて頂きます。

皆さん、大変有り難うございました。

 

shig/谷田茂 拝

 

 ※この作品は
2008年10月にOcnCafeにて発表されたものに若干の加筆、修正を加えました。

 

追記

日本の精神医療については、100%薬物治療。
多剤大量処方、しかも精神科医によりその投薬処方もまちまちの中で、

僕は一切信頼を置いていません。

ただ一つ「治療精神医学」を置いては。

治療精神医学を提唱された、辻先生なき今、

実践においては、平井先生に右に出るかたはいないと思いますが、

治療精神医学とは何かについては、

平井先生のお仲間、小寺クリニック院長 小寺隆史Dr.の論文がわかりやすいので、

紹介しておきます。

↓クリック

『治療精神医学からみたうつ病 :
昨今のいわゆる非定型うつ病も視野に入れて』2010年6月27日

http://www.koteraclinic.jp/library/literature/utsubyou_20060627.html


コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« LOVER.COME BACK TO ME | トップ | どきどき くりすますいヴ »

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いいお話でした (biko)
2016-12-15 15:55:30
私も、3年前に精神薬で酷い目に遭った体験者ですので、この小説に深く感銘を受けました。

この記事というか、小説は、リンクさせていただけないでしょうか?

他の、現在うつ病で苦しまれている方々の希望になればと存じます。
返信する
bikoさん、こんにちは (shig/谷田茂)
2016-12-16 00:03:42
コメントありがとうございます。
リンクフリーです
ご自由にどうぞ。

こころをこめてshig/谷田茂
返信する
ありがとうございました (biko)
2016-12-16 15:33:54
リンクさせていただきました。<(__)>

http://blog.goo.ne.jp/1972416/e/29be0d50689f4ea1f6364e40bfdcd804
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説」カテゴリの最新記事