この短い小説は、日本看護協会が募集している(2019年2月1日締め切り)
「忘れられない看護エピソード」に応募するために書いたものです。
「僕の彼女は最高の名医」
ライト・アップされた建物。電飾が施された並木道。ぼくの周りだけが真っ暗だった。
余命僅かと医師から告げられた夜、新米ナースの彼女は、なぜかとても明るかった。
「やっと私の出番ね。」
「なんだって?」
「いいの。どんな病もね、必ず治るっていう信念と、その人を心から愛してくれる人の力で治るものなの。」
次の日、彼女は勤務している病院に超休暇を取り、僕を信州の温泉に連れてきた。
「お医者様でも草津の湯で持って歌、知らない?」
「うん、知ってるけど、僕の脳腫瘍は・・」
「うるさい、とにかく何度も入ること。いいわね」
彼女は1日に何度も心を込めて作った料理やジュース、果物を運んできてくれた。
ある夜、温泉に白い猿が入ってきた。
そして3ヶ月が過ぎた。
あの日、目の前が真っ暗になった診察室。
同じ白衣の医師がCT画像の前で動かない。
僕の隣では、彼女がニコニコ顔で座っている。
やがて医師がこちらを向いた。
「一体何が何だか・・こんなことって・・僅か3ヶ月で脳腫瘍がすっかり消えてしまうなんて・・」
横でクスッと笑う彼女。
大学病院の正面玄関で彼女は一言。
「ね、言ったでしょ。どんな病だって、必ず治るっていう信念と、その人を心から愛してくれる人の力で治るものなのって。」
なんて娘なんだろう。僕は一生彼女に頭が上がらないだろうな。
ヒバリの声が聞こえる。春はもう、春の風を運んできている。
彼女が僕の脇腹をつつく。
「わかったって。僕の彼女は最高の名医だ。