愛詩tel by shig

プロカメラマン、詩人、小説家
shig による
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Short Love Story 「夏風邪」

2018年04月06日 21時09分30秒 | 小説

 頭痛がする、エアコンに当たったら足ががくがくした

行きつけの医者は午後の診察は3時から
今はまだ2時

僕は一番に診てもらえるよう、2時半に医院に行った
ところが僕より先に可愛い女の子が来ていた

僕は体温計を借りて脇にさした
彼女はこんこんいっている
僕も咳をした
お互いに目を合わせて笑った

「夏風邪?」

「うん、冷たいもの食べ過ぎたみたい」

「僕は今朝映画館で3時間強い冷房にさらされたから」

 僕は体温計を取り出した
「いくら?」

「39.1度」

「私は39.2度、勝ったわ」

「勝ち負けの問題じゃないと思うんだけど」

やがて彼女が呼ばれて診察を受け、戻ってきた

続いて僕が呼ばれた
「典型的な夏風邪ですな、熱が下がれば収まるでしょう」

 僕は注射を打たれ、待合いに戻ってきた

 彼女が言った
「典型的な夏風邪ですな」って言われたでしょう?」

「うん、どうしてわかるの?」

「私も同じだから」

「ねえ、風邪が治ったら病院以外の場所で会えないかな?」

「私もそう思ってたの」

僕たちは携帯番号とメールアドレスを交わして別れた。
彼女は美奈という名前だった僕も努と告げた

翌日、僕の症状はとてもよくなった
熱も6度8分まで下がり、元気になった
美奈のことが気になり、メールを送った

「僕は元気になりました。あなたは?」

すぐ返信が帰ってきた

「私ももう大丈夫、日曜あたり会えませんか?」

僕は跳び上がった
「もちろんいいです、T駅には近い?」

「うん、歩いていける距離」

「じゃあ、T駅で10時でいいですか?」

「はい、そうしましょう」

 僕の胸は躍っていた

僕は約束通りT駅に着いた
しかし彼女は30分経っても姿を見せなかった
僕は携帯に電話してみた

「どうしたの?」

「それが、風邪がぶり返して、9度1分も熱があるの、なにもできない」

「美奈さんは一人暮らしなの?」

「ええ、ねえ、努さん、うちに来てくださらない?動けないの」

「いいけど、道を教えてくださいな、すぐ行くから」

美奈の指示に従って歩いてゆくと、そこはワンルームマンションだった
マンションの入り口で、インターフォンめがけて着いたことを告げた

すぐ応答があって、ドアが開いた
僕は12回までエレベーターに乗った
美奈の部屋1203でドアにノックした
美奈はしばらく経ってドアを開けた

「どうぞ、入って」

僕は入っていった

部屋は整然と片づけられていた
ただ、ゴミ箱にはティッシュがやまと積まれていた

「あ、ごめんなさい、咳とたんがひどいの
今まで休んでいたわ」


「休んでいたらいいよ、粥を作ろう、米はどこかな?」

「キッチンの左の米櫃の中、ごめんなさいね」

「いいんだ、風邪を引いたのはお互い様だ
ちょっと僕の方が早く治っただけ」

僕は粥を作った
そして美奈に食べさせた

「他にすることがあるかい?買い物とか」

「悪いわ」

「いいんだ、気にしないで」

「じゃあ、牛乳とヨーグルト買ってきてくださる?プレーンの」

「おやすいご用だ、行って来るよ」

僕は買い物に出かけて帰ってきた

「ありがとう」

彼女は牛乳を飲み、ヨーグルトを食べ、薬を飲んだ

「ちょっと横になっていいかしら?」

「もちろん、僕がそばにいるから心配ないよ」

美奈はそれから一時間眠り続けた
僕は美奈の寝顔を見つめた
なんて可愛い娘だろう
夏風邪がもたらした素敵な出会いに僕は感謝した

美奈は目覚めると、体温計を取ってくれと言った
デジタル体温計は8.1度を示した

「高熱だな、洗面器はどこ?それとタオルと」

美奈はそれらをしまってある場所を僕に告げた

洗面器に水を三分の一ほど入れ、氷を冷蔵庫から出し、
洗面器にタオルとともに入れた
よく絞って美奈のおでこに当てた

「気持ちいいわ、ありがとう、こんな時一人暮らしって不安なものよね
努さんに出会えてよかった、神様に感謝だわ」

「僕でよかったらいつでも呼んで」

「本当にありがとう」

僕は夕方、お総菜を近くのスーパーに買いに行った

帰ってくると、美奈の熱も37度まで下がっていた。

ご飯を炊き、二人で夕食を済ませた

「デートのはずが、こんな風になっちゃってごめんなさいね」

「とんでもない、君の世界にいきなり飛び込ませてもらって感激だよ」

「努さんの風邪は大丈夫なの?」

「僕は平気、ぴんぴんしてる」

「よかった、私もおかげさまで元気になってきたわ」

「無理しちゃいけないよ、まだ微熱があるんだから、咳だって」

「はい、先生」

美奈はおどけて言って見せた。

「じゃあ、僕、帰るね、何かあったら遠慮なく電話しておいで」

「ありがとう、ね、一週間後の日曜日、空いてる?」

「大丈夫だよ」

「じゃあ、T駅で10時でいい?それまでしっかり風邪なおしておくから」

「OK、じゃあね」

僕はしばらく閉じられたばかりの扉を見ていた

それから毎日、美奈にご機嫌伺いの電話をかけた
土曜日には微熱も下がり、咳も治まったと美奈は告げた

  日曜日、T駅、10時。美奈は遅れずに来た

「どこか行きたい場所、あるかい?」

「ううん、考えてない」

「じゃあ、美術館へ行こう」

美術館へはT駅から歩いて10分で行ける

印象派の特別展が開かれていた

美奈は一枚一枚の絵を丹念に見ていた
一通り見た後で、隣接の日本庭園に行った
歩き続けだったので、ベンチに腰掛けた

「なにか飲み物買ってこようか?」

「じゃあ、お茶をお願い」

僕は自販機で缶コーヒーとお茶を買ってきた
しばらく二人はそれぞれの飲み物を黙って味わっていた

風が吹いてきた
心地よい風だ

「もう秋ね」

「うん、風が違うね」

「夏は去っていくけれど、大切なものを残していった、
努さんは私から去っていかないわよね」

「もちろんだよ、僕はこの夏にも、夏風邪にもとても感謝している」

「まだ知り合って2週間だけど、努さんにはもっと前から知り合いのような気がする」

実を言うと僕もそうなんだ、ひょっとすると生まれる前から・・」

「生まれる前から二人は風邪で知り合うことが決まっていたって?
ふうん、そうかもしれない」

「歩こう」

二人は日本庭園の散策路をゆっくりと歩いた
そして人目のつかない場所で、どちらからともなく近寄り、
そっとキスをした

夏の終わりを告げる蝉の声が二人を包んでいた

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