宗教の聖地は日本にもたくさんありますが、高野山はその中でも最も有名なところでしょう。山の上に広がる標高800mの盆地は寺で埋め尽くされ、僧侶の姿が目立ちます。年間を通じて平地より6度ほど気温が低いこともあり、凛とした空気が独特の空間を醸し出します。
そんな別世界を目指して毎日多くの人がやってきます。
1,200年前、空海が高野山で最初に建設を始めたエリアが壇上伽藍(だんじょうがらん)です。金堂や大塔など、寺としての中心的な堂宇があるエリアです。空海の時代から現代まで高野山という一大宗教都市の中心であり続け、高野山にやってきたことを強く実感できる空間です。
高野山のランドマーク・根本大塔
高野山は山上全体を一つの寺としてとらえています。商店や郵便局などもあるため意外に思えますが、宗教都市と呼べるほどの巨大寺院です。塔頭や子院を含めると寺院数は117もあります。比叡山も同じく山上全体を延暦寺という一つの寺ととらえますが、宗教施設以外はほとんどなく宗教都市の観はありません。
高野山は比叡山に比べ、山上で生活する僧侶がはるかに多いためです。比叡山は京都や琵琶湖との往来が便利な山のふもとでの居住が早くから行われていたました。また信長の焼討で壊滅状態になったという事情もあります。
高野山は近隣に往来が頻繁になるような大都市がなく、焼討にもあっていません。このため独特の宗教都市としての規模と趣が維持されてきたのです。日本最大の宗教都市と言っても過言ではないでしょう。
高野山に向かう電車の中では外国人観光客が非常に目立ちます。世界遺産になっていることが大きいですがやはり、日本でここにしかない神聖な空間を求めてやってくるのだと思います。
金堂前の賑わい
壇上伽藍エリアも他の日本の寺と同じく何度も火災にあっています。現在の金堂は1926(昭和元)年の焼失後、1932(昭和7)年に当時の関西建築界の重鎮・武田五一の設計により再建されたものです。
1926年の消失は創建以来実に7回目でしたが、創建当初からあった可能性のある秘仏本尊も失ったことが、寺にとっては痛恨の極みとなりました。明治以降ほぼすべての文化財の調査が行われていましたが、この秘仏本尊だけは行われていませんでした。そのため姿形は全く不明で、尊名も薬師如来・阿閦如来のどちらか定まっていません。
再建金堂を鉄筋コンクリート造りにしたのも、火災への備えを最優先した結果でしょう。
室内には毎日、世界中からやってくる参拝者が絶えません。天井の高い室内には、横山大観らとともに岡倉天心のもとで活動した木村武山(きむらぶざん)による壁画が、幻想的な宗教空間を形成しています。本尊は秘仏ですが、著名仏師・高村光雲(たかむらこううん)の制作です。再建が新しいだけに、宗教建築の内部装飾がとてもよくわかり、独特の世界観を体感できます。
壇上伽藍のもう一つの主役である根本大塔(こんぽんだいとう)は、1843(天保14)年に壇上伽藍がほぼ全焼した大火で焼失し、1937(昭和12)年になって再建されたものです。こちらは創建以来、6代目となります。室内は、堂本印象(どうもといんしょう)によって16本の柱には描かれた十六大菩薩が圧巻です。真言密教の世界観を表す曼荼羅空間を体験できます。
国宝・不動堂
壇上伽藍には国宝建造物が一つだけあります。室町時代初期の不動堂(ふどうどう)です。1908(明治41)年に現在地に移築され、金堂からも少し離れているため幾度の火災から免れています。
中世の趣を色濃く残し、新しい建築が多い壇上伽藍の中でも独特のオーラを発しています。ここには運慶の代表作の一つとして著名な国宝・八大童子(はちだいどうじ)が安置されていました。現在は霊宝館で安置されていますが、昨年2017年秋の東博の運慶展でも大人気だったことはまだ記憶に新しいです。
【霊宝館公式サイトの画像】 国宝・八大童子
高野山では各所でコウヤマキが路上販売されています。コウヤマキは仏花の代用として供えられるものですが、仏花需要の大きい高野山でよく利用されたことから名づけられました。太い針のような葉が特徴的で、とても長持ちします。ゴマ豆腐と並んで高野山の参拝土産の二強です。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
仏像イラストレーター・田中ひろみがお届けする高野山ガイド
高野山 壇上伽藍
http://www.koyasan.or.jp/meguru/sights.html#danjogaran(高野山金剛峰寺公式サイト)
http://www.koya.org/tourism-koyasan.html#garan(高野町観光協会公式サイト)
※壇上伽藍、すなわち境内の拝観・見学に条件はありません。いつでも無料で拝観・見学できます。
※壇上伽藍内にある金堂と大塔の内部参拝は有料で、拝観時間も限られます。
※常時公開されていない仏像や建物があります。
おすすめ交通機関:高野山内路線バス「金堂前バス停」下車、徒歩0分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:2時間30分
JR大阪駅→メトロ御堂筋線→難波駅→南海高野線→極楽橋駅→高野山ケーブル→高野山駅→高野山内路線バス→金堂前バス停
公式サイトのアクセス案内
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