博多は、大陸との交流の玄関口として日本で最も古い湊の一つと考えられています。遣唐使や留学僧などの歴史上の偉人や日中双方の商人たちが、中国大陸や朝鮮半島の先端文化を博多にもたらしており、数多くの痕跡が今に伝えられています。
承天寺(じょうてんじ)は、そうした痕跡が今に伝わる代表的なスポットです。全国的に有名で日本有数の歴史のある祭・博多祇園山笠は、この寺にルーツがあります。饂飩・蕎麦や饅頭の発祥の地とする説もよく知られています。中国から最先端文化を伝えた禅寺として、日本を代表する古刹です。
大都会・博多にもこんなに静かな一角が
承天寺は、鎌倉時代半ばの1241(仁治2)年、宋への留学から帰国したばかりの円爾(えんに)が開山となって創建されました。円爾は後に京都・東福寺の開山にも招かれる高名な僧です。没後には禅僧としては初めて天皇から国師号を贈られ、聖一国師(しょういちこくし)という名でもよく知られています。
博多は平清盛が港を整備して以降、日宋貿易の拠点として繁栄を続けます。街には多くの中国人商人が住み、中世日本の最大の国際貿易都市でした。承天寺の創建も謝国明(しゃこくめい)を中心とした南宋の商人たちの援助により行われています。
円爾と謝国明は関係が深かったと考えられます。この二人の優れた人物が承天寺に集まったことで、承天寺が最先端文化の発信拠点になったのでしょう。
左「饂飩蕎麦発祥之地」、右「御饅頭所」
承天寺には、饂飩・蕎麦・饅頭の発祥の地を示す石碑がたっています。
饂飩・蕎麦の発祥につては奈良時代にまでさかのぼって様々な説があります。現代のように麺にして食べるのが一般的になったのは江戸時代以降であり、蕎麦がきのように多様な食べ方があったことは想像に難くありません。どれが最初かを判定するのはほぼ不可能でしょう。
饅頭の発祥については製法の違いで2系統あります。
円爾がもたらしたのは「酒饅頭」と呼ばれる製法で、博多の茶屋「虎屋」の主人に教えたのが始まりです。円爾が主人に与えたとされる「御饅頭所」の木製看板は。現在も東京・赤坂の「虎屋」につたわっています。赤坂の「虎屋」は、公式には室町時代に京都で創業としていますが、博多の「虎屋」との関係は大いにロマンを掻き立てます。承天寺の石碑は赤坂の「虎屋」につたわる看板の文字を写したものです。
なおもう一つの系統は「薬饅頭」で、円爾から100年後に中国留学から帰国した禅僧に同伴してきた中国人・林浄因(りんじょういん)が奈良で店を開き売り出しました。その店は現在も続く東京・明石町の「塩瀬総本家」です。2つの系統がいずれも、現在の日本を代表する和菓子の老舗として続いていることには驚きです。
官寺だったことを示す扁額
饂飩・蕎麦についても、円爾と謝国明ら南宋の商人が何らかの製法や食べ方を紹介したことはおそらく事実でしょう。博多は何といっても中国の最先端文化が集まる国際貿易都市であり、禅寺は上流階級のサロンだったからです。
博多祇園山笠は、博多に疫病が流行した際に、町民に担がれた円爾が水をまきながら街を清めたのを発祥とするのが定説になっています。現代では博多の街の鎮守である櫛田神社(くしだじんじゃ)の氏子たちによって祭は行われていますが、山笠は承天寺にも必ず立ち寄って奉納します。
元寇で街が焼き払われる30年ほど前の時代です。貿易と最先端文化で繁栄を謳歌していた博多の街はとても幸福な時代だったように思えてなりません。
建物内部の拝観はできませんが、境内は禅寺らしくとても清掃が行き届いています。方丈の前に広がる石庭「洗濤庭」は波文様がとても優雅です。イベント時に方丈が開放された場合に鑑賞できます。
承天寺一帯は、街の東端にあたり、御笠川沿いに寺が集中的に配置されたエリアです。そのため大都会の喧騒とは切り離されてとても静かなエリアです。承天寺以外にも多くの歴史の痕跡を確認することができ、木々の緑のシャワーがとてもすがすがしい気分にしてくれます。
博多で”静”を楽しむのも乙なものです。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
博多祇園山笠主催者による聖一国師と祭の起源の公式アニメ
承天寺
【福岡市観光公式サイト】https://yokanavi.com/spot/26915/
※この寺は観光目的では常時公開されていません。建物内部の拝観はできません。次の公開時期は未定です。
※境内の散策は可能です。
福岡市地下鉄・空港線「祇園」駅下車4番出口から徒歩3分、JR博多駅から徒歩12分
JR博多駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:12分
博多駅→地下鉄空港線→祇園駅
________________________________
→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal
「お寺・神社・特別公開」カテゴリの最新記事
あの本能寺は今どうなっているか?_光秀と信長の夢の跡
黄不動の彫像、世界最古のビザ_大津 三井寺の至宝が特別公開
世界最高峰の天平彫刻と静かに向き合える_東大寺 戒壇堂 四天王
里山風景の中に美少年のような十一面観音_京田辺 観音寺
南山城に不思議な魅力の白鳳仏_カニがいっぱい蟹満寺
福岡 宗像大社_大陸との交流が封印された沖ノ島は素晴らしい世界遺産
今しか見れない仁和寺の魅力_観音堂&御殿 特別公開 7/15まで
京都の”端っこ”はやはり素晴らしい_嵯峨野 愛宕念仏寺 ほのぼの石仏
琵琶湖疎水の脇にたたずむ安祥寺、驚きの国宝美仏が伝わる
京都 大覚寺 王朝文化を伝える美仏と書_「天皇と大覚寺」展 5/13まで