32歳のバーのママ美咲と35歳の会社員祐一、そして「武蔵野S」
妖艶な夜の帳が下りる、寂れた街の一角。
バー「夜蝶」のママ、美咲は、その妖艶な佇まいで、常連客を惹きつけてやまない。32歳とは思えない色香と、知的な会話は、この店のムードメーカーだ。
そんな美咲の店で、いつものようにカウンターに座っていたのが、35歳の会社員、祐一。優柔不断な性格で、何かと悩んでいる様子が窺える。
「祐一さん、今日はいつもよりお疲れのようね」
美咲が、いつものように気さくに声をかけた。
「ああ、そうだな。実はさ、今日の『武蔵野S』で、ちょっと賭けてみたんだけど、見事に外れちゃってね」
祐一は、グラスを傾けながら、肩を落とした。
「あら、そうだったの。でも、競馬なんてそんなもんだよ。また次のレースに期待すればいいじゃない」
美咲は、そんな祐一を優しく見つめながら、そう言った。
「そうなんだけどさ、最近、仕事も上手くいかないし、プライベートも充実してるって言えないし…」
祐一は、溜息をついた。
美咲は、そんな祐一の言葉に、何かを感じ取った。
「祐一さん、もしかして、何か抱え込んでいることがあるんじゃない?」
「え、そんな…別に」
祐一は、慌てて否定した。
しかし、美咲は、祐一の表情から、彼が何かを隠していることに気づいていた。
「祐一さん、私、何でも聞くよ。もし、話したいことがあれば、いつでも相談してね」
美咲の言葉に、祐一は少しだけ心が安らいだ。
「ありがとう、美咲さん」
祐一は、グラスを空にして、立ち上がった。
「また明日来るね」
「待ってるわ」
美咲は、そんな祐一の背中を見送りながら、静かに考え込んでいた。
祐一は、なぜこんなに自信がないのだろう?
美咲は、祐一の心の奥底にある何かを、見つけ出したいと思った。