ゆっくり行きましょう

気ままに生活してるシニアの残日録

歌劇「魔笛」を観劇する

2024年12月14日 | オペラ・バレエ

新国立劇場で「魔笛」を観てきた、4階C席高齢者割引10,450円、午後2時開演、5時15分終演、4階席は満席だった

この日の座席は4階の前から2列目、舞台に向かって左寄りの席、舞台も日本語字幕も完全に見えるがオーケストラピットは見えない、いい席だと思った、久しぶりの新国立劇場だが例年のようにホワイエにはクリスマスツリーが飾ってあった

魔笛はオペラの中で一番好きな演目で、一番多く聴いているオペラである、そして、私が初めて聴いたオペラが1964年カールベーム指揮ベルリンフィル「魔笛」のCDであったのは本当に良かった、あの時「オペラってこんなに素晴らしい音楽なのか!」という驚きでオペラが一気に好きになった

スタッフ

【指 揮】トマーシュ・ネトピル(1975、チェコ)
【演 出】ウィリアム・ケントリッジ(1955、南ア)
【美 術】ウィリアム・ケントリッジ、ザビーネ・トイニッセン
【衣 裳】グレタ・ゴアリス
【照 明】ジェニファー・ティプトン
【プロジェクション】キャサリン・メイバーグ
【舞台監督】髙橋尚史

出演

【ザラストロ】マテウス・フランサ(ブラジル、初登場)
【タミーノ】パヴォル・ブレスリック(Pavol BRESLIK)
【パミーナ】九嶋香奈枝
【夜の女王】安井陽子
【パパゲーナ】種谷典子
【パパゲーノ】駒田敏章
【モノスタトス】升島唯博
【弁者・僧侶Ⅰ・武士II】清水宏樹
【僧侶Ⅱ・武士I】秋谷直之
【侍女I】今野沙知恵
【侍女II】宮澤彩子
【侍女III】石井 藍
【童子I】前川依子
【童子II】野田千恵子
【童子III】花房英里子

【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

観劇した感想

  • ウィリアム・ケントリッジ演出による新国立の魔笛は初めて観たが全体としては良かった
  • ケントリッジはウィキペディアによれば、素描をコマ撮りにした「動くドローイング」と呼ばれる手描きアニメーション・フィルムで世界的に知られ、オペラの演出では、刺激的で視覚的驚きに満ちた新演出、と評価されたりしている、この日の演出も光により描かれた線や絵、舞台の枠組みののようなものが動態的に変化する刺激のある演出であり楽しめた、ただ、ドローイングは白と黒が基調で、カラフルさがなかった
  • 出演者で特筆すべきと感じたのは、パミーナ役の九嶋香奈枝だ、もう既にかなりの実績のある歌手、パミーナはけっこう得意役としているのではないか、歌唱力もあったし、役柄にぴったちの容姿だったし、衣装もよかった、良い歌手だと思った
  • 次に、ザラストロのマテウス・フランサが良かった、低音のバスの声がしっかりと出ていて容姿も貫禄があって役柄にピッタリの歌唱力と押し出しがあったと思う
  • あと大変良かったと感じたのが合唱団だ、第1幕、第2幕のフィナーレなど、合唱団の役割が非常に大事なのがこのオペラだが、これが非常に良かったと感じた、それは歌唱力も当然あるが、舞台演出もうまく、さりげなく出てきて、その位置や合唱団が集まった形もよく、衣装と相まってよく目立ち非常に良かった
  • 夜の女王の安井陽子もその歌唱力を見せつけてくれた、第1幕、2幕両方で高音の大変難しい歌があるがしっかりと声を出して歌いつくしたのはさすがである、魔笛を聴くときはいつもこの場面で聴き手の方も「果たして声が出るか」とハラハラし、完璧に歌い終わるとホッとするのである
  • 指揮者のトマーシュ・ネトピルと東京フィルの演奏だが、合格点だと思った、特によかったのがトランペットだ、このトランペットというどちらかという脇役がモーツアルトのオペラやベートーヴェンの交響曲では非常に大事な役割をする場面があり魔笛もその一つだ、特に序曲やフィナーレーではスピードについて行けず、トランペットが鳴りきらずに聞こえなくなってしまうこともあるが、この日はよく鳴り響いて大変リズムが良く、パンチが効いてよかった
  • トランペットに加えてよかったのがフルートである、これもこのオペラでは重要な枠割りを果たすが、しっかりと吹けていて素晴らしかった

  • タミーノ役のパヴォル・ブレスリックだが、歌唱力は良いのだが、あまりこの役に向いていないと思った、見た感じが怖そうで、服装も役柄に合っていないと思った、このオペラはメルヘンチックなので子供の絵本に出てくるような優しい王子のイメージに合う俳優や衣装が良いのではないか
  • パパゲーノの駒田敏章もどうかなと思った、それは彼の歌や演技が悪いというのではなく衣装である、パパゲーノは幼稚園児が見たら喜ぶような羽のついた緑色の衣装で、森で鳥を騙して捕獲する少しふざけた感じの衣装で出てきてほしい
  • 安井陽子の夜の女王の衣装にも違和感があった、3人の侍女と同じ白を基調としたレスであったが、女王だけは黒にしてほしかった、また女王の独唱の時はもっと目立つような演出にしてほしかった、例えばもっと高い位置で歌うとか
  • トマーシュ・ネトピル指揮の東京フィルの演奏だが、第1幕、2幕のフィナーレの演奏がペースが速すぎて自分の好みではなかった、このスピード感に関する楽譜の解釈は今日の演奏が広く行き渡っているが、私はそれが不満である、このオペラのフィナーレは重厚感を出すべきで、そのためにはカールベーム版CDのように、もう少しゆっくりしたペースでどっしりした演奏をしてもらいたい

  • この日の演奏では指揮者の指示だろうが、ところどころでピアノの演奏が入り、オリジナルの楽譜に追加した演奏が行われていたのに驚いた、聴きなれていないのでかなりの違和感があった

  • 新国立劇場は相変わらず開演前やカーテンコール時の写真撮影を禁止しているが時代遅れでしょう、OKにしてもらいたい

楽しめたオペラでした

「モーツァルトよ、こんなに素晴らしい、楽しい作品を残してくれて有難う」と叫びたくなった


テレビで英国ロイヤル・バレエ「シンデレラ」を鑑賞

2024年12月11日 | オペラ・バレエ

テレビで英国ロイヤル・バレエ「シンデレラ」(新制作)を鑑賞した、ロンドン旅行帰国後に旅行中のテレビの録画を確認したら、ROHでのバレエ公演があったのでさっそく観たくなった

振付:フレデリック・アシュトン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
舞台美術:トム・パイ

<出演>

シンデレラ:マリアネラ・ヌニェス
王子:ワディム・ムンタギロフ
シンデレラの義理の姉たち:アクリ瑠嘉、ギャリー・エイヴィス
シンデレラの父:ベネット・ガートサイド
仙女:金子扶生
春の精:アナ=ローズ・オサリヴァン
夏の精:メリッサ・ハミルトン
秋の精:崔由姫
冬の精:マヤラ・マグリ
道化:中尾太亮

管弦楽:英国ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
指揮:コーエン・ケッセルス 
収録:2023年4月5・12日 英国ロイヤル・オペラ・ハウス(ロンドン)

巨匠フレデリック・アシュトン振付のシンデレラが初演されたのは1948年、人気作品になったが、昨年初演75周年を記念しておよそ10年ぶりにリバイバル、舞台装置や衣装も一新されたプロダクションとなった

今回の舞台装置を手掛けたトム・パイは『となりのトトロ』のロイヤル・シェイクスピア・カンパニーによる舞台版『My Neighbor Totoro』で2023年のローレンス・オリヴィエ賞舞台デザイン賞を受賞するなど、数多くの話題作を手掛けた人

さっそく観劇した感想を述べてみたい

  • 一言でいえば、素晴らしいバレエであった、そして感動した、すべてが良かったと思った
  • この日の主役はシンデレラ役のマリアネラ・ヌニェス(1982、アルゼンチン生まれ英国籍)と王子役のワディム・ムンタギロフ(1990、露)であるが、二人とも今やロイヤルバレエの押しも押されぬ第一人者であるのでしょう、千両役者と言う感じであった
  • 手許の記録で確認すると私が過去に観たROHでの二人の共演は、2018年の「白鳥の湖」があり、テレビ録画で観ているがその時の二人の演技の評価も高評価となっていた

  • そして、もっとも目を惹いたのが日本人のプリンシパルの金子扶生(1992、大阪)である、今回は仙女で登場したが、出演場面も大事なところでけっこう多く、その長身と美貌と踊りがもう主役級の貫禄が出ていてびっくりした、現に彼女はこの演目の別の日の公演ではシンデレラを務めてたというからもうROHの看板バレリーナと言っても良いだろう、素晴らしかった、カーテンコールでは主役の二人並みの喝采を浴びていたのは当然であろう

  • 道化役の中尾太亮(たいすけ、今シーズンからソリストに昇格)も非常に目立っていた、難しい役だろうが一生懸命演技しているのがよくわかった、舞台にアクセントを与える大事な役であるだけに、そのひたむきで訓練されたパフォーマンスを存分に出していたと思う、カーテンコールでも拍手が多かった
  • 鳴り物入りのトム・パイの舞台装置(演出)は良かった、奇をてらったところが全くなく、オーソドックスなスタイルを踏襲していたと思う、プロジェクションマッピングなどを一部で使用しているが、それがメインではないところが良い、あえて言えば、第2幕のお城の場面だが、舞台は背景に城が見えて、その前で演技が披露される設定になっていたが、城の中の大広間で演技する方がいいような気がした、日本では急に寒くなってきたので、外より室内の方がいいと感じたのかもしれないが
  • あとは、日本出身のアクリ瑠嘉(あくり るか)が女装して抜群のユーモアで義理の姉を演じていたのもよかった、彼の両親はバレエダンサーのマシモ・アクリと堀本美和であり、父のマシモは新国立劇場バレエ団でアシュトン版シンデレラの義理の姉を演じており、親子二代でこの役を演じたことになるそうだ

ロンドン旅行に行った時にこういうバレエを観たかったが、きっとチケットは取れないでしょう

楽しめました


音楽劇「モーツァルトの旅」を観劇

2024年12月09日 | オペラ・バレエ

モーツアルトの命日である12月5日に渋谷の伝承ホールで開催された音楽劇「モーツァルトの旅」を観劇した、自由席で4,000円、8割がた埋まっていた、シニアが若干多い感じがしたが、若い人、小学生くらいの子供も来ていた

伝承ホールは初訪問、ここは渋谷区の施設で、音楽・演劇・舞踊・文芸・朗読・映画・伝統芸能等の各演奏会・発表会、講演、式典、説明会に利用できる多目的ホール、座席数は345名

この音楽劇は2015年に初演、2017年に再演、今回は3度目の上演、通常のガラコンサートとは違い、モーツァルトの人生をフィクションを混ぜながら、わかりやすく楽しむもので、芝居の中にモーツァルトの名曲アリアを織り込み、セリフで話を進行する形で構成されている、一部のアリアは日本語で歌われているのでわかりやすい

劇中で歌われるアリアはおなじみのものばかり

【イドメネオ】
「オレステスとアイアスの」
【後宮からの誘拐】
「気立てが良くて、浮気でなくて」「あらゆる拷問が」「何という喜びが」
【劇場支配人】
「私がプリマドンナよ」
【フィガロの結婚】
「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」「私も若いころは」「伯爵夫人、許しておくれ」
【ドン・ジョヴァンニ】
「地獄落ちの場」
【コジ・ファン・トゥッテ】
 「真に幸福な者とは」
【皇帝ティトの慈悲】
「涙する以外の何ごとも」
【魔笛】より
「おいらは鳥さし」「愛を感じる人ならば」「可愛い恋人か女房が」「復讐の炎は地獄のように燃え」「パパパ」
コンサートアリア
「いえいえ、あなたにはご無理です」KV419「おそれないで、愛しい人よ」KV505「彼を振り返りなさい」KV584

制作:中川美和、前澤悦子
台本・音楽構成・訳詞・ステージング:中川美和
出演:
モーツァルト:中川 美和
シカネーダー:古澤 利人
ナンネル:加地 笑子
サリエリ:杉野 正隆
コンスタンツェ:末吉 朋子
ダ・ポンテ:吉田 伸昭
ソプラノ歌手:柳澤 利佳
レオポルド・皇帝:中川 郁太郎
ピアノ:小林 滉三

観劇した感想を述べてみたい

  • 結論を言えば、素晴らしい公演だった、セリフや進行、使用するアリア、配役、ピアノ伴奏のすべてが良かった
  • 一番の活躍はモーツァルトを演じた中川美和であろう、小柄でありながら張りのあるはっきりした声でセリフをしゃべり、声量豊かにアリアを歌っていた、そしてストーリー展開、台本、ステージ設定なども彼女が中心になって考えられていたことも素晴らしいことだ、なかなか多才な人だと思った
  • それぞれの歌手の歌唱力は立派なものだと思った、特にシカネーダーの古澤利人、サリエリの杉野正隆、ダ・ポンテの吉田伸昭が良かった
  • 終演後、歌手たちがホワイエに直ぐに出てきて帰りがけの観客にお目見えしてくれたのが良かった、このような小回りの利くサービスができるのは大事なことだと思う

  • 配役も適役が配置されていると思った、一つだけあえて言えば、パパゲーナ役とナンネル役は逆の方が良かったと感じた
  • 当日の資料に原語で歌ったアリアの原語・日本語訳対比を含む作品概要の配布があり有難かった、観る人の立場に立った運営は評価できる
  • カーテンコールの時に突然、写真撮影解禁としますとアナウンスがあり、みんな喜んで写真を撮っていた、歌手たちも写真映えするようなポーズをとってくれてよかった
  • あえて注文を付けるとすると、舞台の設定が椅子とテーブルが置いてあるだけの殺風景で寂しい感じがしたことがある、通常のオペラのようにするのは無理にしても、映像を使うとか、何かウィーンの雰囲気を出す工夫ができないか検討してもらいたいと思った

楽しめました、このような良い演劇がもっと広まってほしいと思う、特に小学生・中学生などの子供の教育にも良いと思った


ブレゲンツ音楽祭2024歌劇「魔弾の射手」をテレビ鑑賞

2024年12月07日 | オペラ・バレエ

ブレゲンツ音楽祭2024歌劇「魔弾の射手」をテレビで観た、この演目のCDはたまに聴くが、映像でオペラを観るのは初めてかもしれない

ウェーバー作曲
演出・美術・照明:フィリップ・シュテルツル

<出演>

アガーテ:ニコラ・ヒレブラント(1993、独、ソプラノ)
マックス(営林署の書記官):マウロ・ペーター(1987、スイス、テノール)
ザミエル(悪魔):モーリッツ・フォン・トロイエンフェルス(1988、独)
エンヒェン(アガーテ従妹):カタリーナ・ルックガーバー
カスパール(マックス同僚):クリストフ・フィシェッサー
キリアン(牛飼い):マクシミリアン・クルメン
クーノー(アガーテ父):フランツ・ハヴラタ
オットカール(領主):リヴィウ・ホーレンダー
隠者:アンドレアス・ヴォルフ

合唱:ブレゲンツ音楽祭合唱団、プラハ・フィルハーモニー合唱団
管弦楽:ウィーン交響楽団
指揮:エンリケ・マッツォーラ 
収録:2024年7月12・17・19日 ボーデン湖上ステージ(オーストリア・ブレゲンツ)

今回の舞台はスイスとオーストリア、ドイツの3国にまたがるボーデン湖の湖上ステージ、夕日が沈むころから舞台が始まるムード満点の設定

 
舞台は30年戦争直後のボヘミア、銃が苦手な営林署の書記官のマックス、射撃試験に優勝しないと婚約者のアガーテと結婚できない彼に魔弾の誘惑が忍び寄る、魔弾とは黒魔術で製造される6発までは思いのままに命中するが、7発目を誰に当てるかは悪魔が握っているという弾丸

今回の演出はフィリップ・シュテルツル、湖上にゴシック・ホラーの世界を出現させ、物語も出演者も現代風にアレンジされ、悪魔ザミエルが狂言回しのように物語の進行を語るユニークなもの

鑑賞した感想などを書いてみたい

  • 湖の湖上ステージで観客席もやたらと大きいため、歌手はマイクを付けて歌っていた、遠い座席からは歌手たちは豆粒にしか見えないだろう、テレビでは会場にスクリーンがあったどうかわからなかったが、他の方のブログを読むとスクリーンの用意があったようだ
  • テレビではオーケストラも全く見えなかった、どうも舞台の下で演奏していたようだ、この演奏もスピーカーで大きくして流していたのでしょう、指揮者やオーケストラの演奏の模様もスクリーンで写されたようだ
  • 演目の内容も通常のオーソドックスなものからかなりアレンジしてあり、悪魔のセリフなどはこのオペラ独自のものらしいので、ある意味、原作とは別の野外劇場用のエンターテイメントオペラになっていると言えよう
  • 歌劇の構成もプロローグ(若い娘の葬儀)とそれ続く3幕だが幕間がない2時間の1幕物になっている、そのプロローグではアガーテの葬式と住民の怒りをかって殺されるマックスの死が描かれ、悲劇の結末を予期させる出だしとなっているが、第3幕の終りの所で、悪魔がハッピーエンドにしてやるか、と言って原作通りメデタシ・メデタシで終わる

  • 歌手では主役のアガーテ役のニコラ・ヒレブラント(Nikola Hillebrand)が素晴らしかった、美人だし、スタイルも良いし、歌も声量豊かでうまかった、初めて見る歌手だがすっかり気にいった
  • 調べてみると彼女はまだキャリアの初期段階であるが、ドイツのゼンパーオーパーでいつくかのオペラに出演しているほかボンやリヨン、チューリッヒ、ハンブルクなどで経験を重ねているという、ただ、演じた役はまだ主役級の役ではなく、今回のアガーテが初の主役ではないかと思う、彼女は容姿・能力から言って椿姫のヴィオレッタなどの主役をやれると思った
  • それと比べると恋人のマックス役のマウロ・ペーターは小太りで、銃がうまく打てない書記官という設定で、どうしてアガーテのような美女と相思相愛になるのかイメージできないが、劇中でアガーテに「男は銃のうまい下手で争うが彼は筆で仕事をしている(ところに惚れた)」と言わせていた、彼の歌自体は問題ないと思った

  • 次に素晴らしかったのは悪魔ザミエル役のアンドレアス・ヴォルフ(Moritz von Treuenfels)だ、彼は歌は歌わない、セリフだけだ、彼はオペラ歌手ではなく、ドイツの映画俳優、演劇俳優だ、今回の彼の役回りからそれで充分務まる、真っ赤なスパイダーマンのような衣装に身を包み、毒のあるセリフで登場人物たちを混乱させる役を実にうまく演じていた
  • オペラの中で妙だなと思ったのは同性愛的なセリフが入っていたところだ、例えば、悪魔がマックスに「俺たち愛し合おうよ」というところや、エンヒェン(アガーテ従妹)がアガーテにマックスを捨てて射撃試験前にスイスに逃れようと彼女に気があるようなセリフを言うところがあり、二人で抱き合ってキスまでする場面があるところだ、原作にそんなところがあるかどうか知らないが、演出のフィリップ・シュテルツルが最近のLGBTなどの注目話題を入れたということだろうと思った、やれやれだ

よくできた屋外オペラのエンターテイメントだと思った


英国ロイヤル・オペラ・ハウスでバレエ鑑賞

2024年12月06日 | オペラ・バレエ

今年も師走になった、12月になると自室でベートヴェンの第九をかけて年末ムードを楽しんでいたが、ここ10年くらいはバッハ「クリスマス・オラトリオ」を聴いている、これが実に素晴らしく、クリスマスムードに浸れ、厳かな雰囲気にもなるので気に入っている

第九のコンサートはたくさんあるがクリスマス・オラトリオを聴かせる公演がないのが残念である

ロンドン旅行中にロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)に観劇に行ってきた、演目はEncounters: Four contemporary ballets (出会い:4つの現代バレエ)、夜7時半開演、公演時間は2回の休憩を含めて約2時間40分、満席だった、ROHは仕事で来た時も前を歩いたりして場所は知っていたが観劇する時間的・精神的余裕がなかった

海外でオペラ劇場に行くときは、オペラを鑑賞したいが普段ほどんどオペラを聴かない嫁さんと一緒に行くので、わかりやすいオペラでないと苦痛になり、昼間の観光で疲れて眠くなるだけだ。魔笛、セビリアの理髪師、こうもりなどであればセリフがわからなくても音楽を聴いて見ているだけで面白いが、今回滞在中の公演はホフマン物語、ラ・ボエムなので無理だと思い、バレエとした、バレエはセリフがないので誰でも楽しめる

今回はバレエと言っても現代バレエなのが難点だが、演奏時間が休憩も含めて2時間40分なので何とか飽きずに見れるかなと考えた

ROHには日本人バレエダンサーが何人もいる、最高位のプリンシパルには高田茜、平野亮一、金子扶生が、First Soloistsに前田紗江などがおり、今夜は前田紗江が出演するので楽しみだ

前田紗江は15歳で英国に渡りロイヤル・バレエのスクールで3年、カンパニーで6年経験し、もう10年目に入っているという、彼女のインタビュー動画を見たら明るい性格でルックスもよく、常に感謝の気持ちを忘れないこと、いつも小さい目標と大きな目標の両方を持ち頑張っているとか実にしっかりした考えを持っている方だとわかり感心した、プリンシパルまで昇格してほしい

そして、今夜の彼女の演技は素晴らしかった、背も高いし、ルックスも上品な感じで健康的で知的な印象を与える女性ダンサーと見えた、頑張ってほしい

さて、今夜の演目であるが、

音楽/ライアン・ロット、テッド・ハーン、マリーナ・ムーア、オーウェン・ベルトン

振付/21 世紀の振付師 4 人、カイル・アブラハム、パム・タノウィッツ、ジョセフ・トゥーンガ、クリスタル・パイトによる大胆な現代作品を通して、動きを通して人間の感情を探ると題している

4幕物の現代バレエで、それぞれが独立した話になっている、指揮者も振付師もダンサーもそれぞれ異なる面白い試みの現代バレエである

ストーリーはわかりずらいというか全く理解できないが、バレエを観てる分には十分楽しめた、ただ、舞台の演出がクラシックバレエに比べて抽象的で豪華さがないので物足りない感じがした

幕間には劇場内を散策した、劇場隣接のカクテルエリアは外から見てもわかるようにガラス張りの建物になっており、夜になると大変華やかな感じで大いににぎわっていた

そこから上のフロアーやテラスにも行ってみたがそこにもバーカウンターがあり皆さん飲みながら大いに盛り上がっていた

ドレスやタキシードで着飾っている人もいたが、カジュアルウェアの人も多く気楽に観に行ける雰囲気になっていると思った

楽しめました、来てよかったし、また来たい

第1幕:『The Weathering』/Geoffrey Paterson指揮

愛、喪失、記憶についての穏やかな瞑想であるカイル・エイブラハムの『ザ・ウェザリング』を作曲家ライアン・ロット ( 『Everything Everywhere All at Once』)の音楽に合わせて踊る、『ザ・ウェザリング』は、アメリカ人振付師がロイヤル・バレエ団のために手がけた最初の一幕物、ダンサーは、Melissa Hamilton, 前田紗江, Lukas Bjørneboe Brændsrød, Joshua Junker, Liam Boswell

第2幕:パム・タノウィッツの「Or Forevermore」 新作/Geoffrey Paterson指揮

以前の成功作『 Dispatch Duet』をさらに発展させた新作で、振付師パム・タノウィッツはトレードマークのウィットと明るさでダンスの慣習をひっくり返す、ダンサーは、Anna Rose O'Sullivan, William Bracewell

第3幕:ジョセフ・トゥーンガの「夕暮れ/Dusk」新作/Charlotte Politi指揮

振付師ジョセフ・トゥーンガは、クラシックバレエとヒップホップの表現法が融合したカンパニーでの2作目のメインステージ作品を発表する、ダンサーは、Charlotte Tonkinson, Nadia Mullova-Barley, Marianna Tsembenhoi, Benjamin Ella

第4幕:クリスタル・パイトの「声明/The Statement」

振付師クリスタル・パイトの魅惑的なダンスドラマ、4 人の登場人物が主導権をめぐって戦う、スポークン ワードに合わせて振り付けられた「The Statement」は、人間性と役員会の政治の暗い深淵を探る、ダンサーは、Ashley Dean, Kristen McNally, Joseph Sissens, Joshua Junker, Calvin Richardson, Liam Boswell


「ドン・ジョヴァンニ」を無料ストリーミングで鑑賞

2024年11月28日 | オペラ・バレエ

新国立劇場のオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を無料配信サービスで鑑賞した、配信期間は2025年1月10日まで、収録日は2022年12月8日、イタリア語上演/日本語及び英語字幕付

こういう粋な取り扱いは有難い、地方に住んでいて新国立劇場になかなか来れない人もいるので、是非継続してもらいたい

作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
指揮:パオロ・オルミ
演出:グリシャ・アサガロフ

出演

ドン・ジョヴァンニ:シモーネ・アルベルギーニ
騎士長:河野鉄平
レポレッロ:レナート・ドルチーニ
ドンナ・アンナ:ミルト・パパタナシュ
ドン・オッターヴィオ:レオナルド・コルテッラッツィ
ドンナ・エルヴィーラ:セレーナ・マルフィ
マゼット:近藤 圭
ツェルリーナ:石橋栄実

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

指揮者のパオロ・オルミはプロフィールを見ると、イタリアで修業し、欧州を中心に活躍している指揮者で、新国立劇場には99年『仮面舞踏会』、01年『ナブッコ』、 02年『ルチア』、10年『愛の妙薬』を指揮して以来の登場、結構来日しているようだ

家のパソコンをテレビにつないだ鑑賞では実際の音とあまりに異なるので彼の指揮やオーケストラの演奏の論評はできないと思った

演出のグリシャ・アサガロフはドイツ生まれ、82年からチューリヒ歌劇場、86年からウィーン国立歌劇場首席演出家、2012年までチューリヒ歌劇場芸術監督、新国立劇場では04年『カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師』、06年『イドメネオ』、08年『ドン・ジョヴァンニ』の演出を手がけるほか、09年ポネル演出の『チェネレントラ』の再演演出および演技指導で参加しており、この人も結構来日しているようだ

彼の演出は奇抜なところがなく、オーソドックスな演出だった、劇場の説明では主人公を18世紀に実在した色男カサノヴァになぞらえ、舞台をヴェネツィアにしているとのこと、確かにヴェネチアの運河が出ていた、合格点の演出だと思った

タイトルロールのシモーネ・アルベルギーニ(バス・バリトン)は1973年、イタリアのボローニャ生まれ、実績からしてもう第一人者なのだろう、新国立には初登場、見た目は役柄にピッタリの風貌だった、歌もまあまあだと思った、劇場のプロフィールを見ると結構この役が得意な人のようだ、なお、彼はアンナ・ ネトレプコのパートナーだった(1999–2007)

レポレッロのレナート・ドルチーニ(バリトン)は、新国立劇場初登場、1985年ミラノ生れで、既に数々の作品に出演していおり、特にバロック作品やモーツァルトで活躍とある、歌はまあまあだと思ったが、役柄に合っているのかとちょっと疑問に感じた、レポレッロはもう少しおっちょこちょいなところもある人間なのではないかと思うが、そういうイメージではなかった

ドンナ・アンナのミルト・パパタナシュ(ソプラノ)は、ギリシャ出身で2007 年にローマ歌劇場へ『椿姫』ヴィオレッタでデビューを飾って以降、世界で活躍しているとプロフィールにある、太ってなくて美女で、声量もそれなりにある歌手なので、美人の主役級の役がぴったりはまる人だと思った、今回もまさにそれだと思った、新国立劇場では『フィガロの結婚』伯爵夫人、『椿姫』ヴィオレッタに出演しているそうだ

ドン・オッターヴィオのレオナルド・コルテッラッツィ(テノール)は、新国立劇場初登場、ドンナ・アンナからドン・ジョヴァンニが地獄に落ちた後も結婚を1年待ってと言われてしぶしぶ引き下がるダメ男のようなイメージがあるが、見た目も立派で歌がうまいせいかしっかりした男という印象を持った、主役級の役ができるのではないか

ドンナ・エルヴィーラのセレーナ・マルフィ(メゾソプラノ)は、イタリア生まれ、新国立劇場初登場、むかしドン・ジョバンニに振られたがまだ未練がある難しい役柄だが、何となくそのイメージに合ったメイクをしていた、もう数々の実績があり、主役級の役も務まると思った

ツェルリーナの石橋栄実(ソプラノ)は役柄にピッタリだと思った、声量もあり町娘の愛嬌と亭主を尻に引くようなしっかりした女であり、ドン・ジョバンニに誘惑されかけマゼッタに拗ねられたが、よりを戻そうとすり寄る仕草とかがうまいと思った、一癖ある『こうもり』アデーレなどの役がピッタリの歌手だと思った

マゼットの近藤圭(バリトン)は、もう既に十分な実績のある歌手で、主役級の役もわき役もどちらもうまうこなせる歌手だと思った

ドン・ジョバンニは何と言っても以前よくNHKで放送していた1954年10月 ザルツブルク音楽祭でのフルトヴェングラー指揮、ウィーン・フィルの演奏があまりに強烈で、これこそが私にとって基準となる存在

これと比較するとどのドン・ジョバンニも霞んで見える、今やこの演奏もYouTubeで無料で見れるから有難い、パソコンで聴いてもその迫力は十分伝わる、指揮者、役者、演出、すべて良い

そういう意味で、今回のストリーミングサービスのドン・ジョバンニの演奏は評価不可能と上で書いたが、正直に言うと少し物足りないと感じる、パンチ力が足りないと感じた、フルトヴェングラーと比較するのはかわいそうだけど

十分楽しめました

ここまで書いて、この日のドン・ジョバンニは見たことがあるかもしれないと思い観劇ノートを見たら確かに観劇していた、その時の感想メモを見ると「指揮、管弦楽は良かった、演出もだいたいOKだが、最後の地獄に落ちる前後のところがイマイチ迫力がない、全体としてはカラフルで良い」と書いてあった


歌劇「ドン・カルロ」をテレビで鑑賞する

2024年08月06日 | オペラ・バレエ

歌劇「ドン・カルロ」(1884年ミラノ4幕版)をテレビで観た

ヴェルディ作曲
演出:ルイス・パスクワル
原作:フリードリヒ・シラーの戯曲『ドン・カルロス』
初演:1867年3月パリ、オペラ座(4幕改訂版は1884年1月、スカラ座)

<出演>

ドン・カルロ:フランチェスコ・メーリ(1980、伊)
エリザベッタ:アンナ・ネトレプコ(1971、ロシア)
ボーサ侯爵ロドリーゴ:ルカ・サルシ (1975、伊)
エボリ公女:エリーナ・ガランチャ(1976、ラトビア)
フィリッポ2世:ミケーレ・ペルトゥージ
大審問官/修道士:パク・ジョンミン
修道士(カルロ五世):イ・ファンホン

合唱:ミラノ・スカラ座合唱団
管弦楽:ミラノ・スカラ座管弦楽団
指揮:リッカルド・シャイー(1953、伊ミラノ)
収録:2023年12月7日 ミラノ・スカラ座(イタリア) 

パリでフランス語による5幕のオペラとして初演され、ヴェルディ自身が何度も改訂したので、このオペラにはいくつもの版がある。イタリア語4幕版が一般的だったが、最近はイタリア語5幕版もよく上演される、今回はイタリア語4幕版。

原作の戯曲は読んだことがあるし、このオペラも1度観たことがあるが久しぶり、一度観ただけでは3時間以上あるこのオペラは理解できない、今回は一回観てから再度、要所を部分的に見直した

あらすじは

スペインの王子ドン・カルロは、フランス王女エリザベッタと婚約していたが、彼女は政略によってカルロの父、王フィリッポ2世と結婚、女官であるエボリ公女はカルロのことを密かに愛していたが、彼がまだエリザベッタのことを忘れられないことを知って嫉妬、カルロの肖像画が入っていたエリザベッタの宝石箱を盗み王に渡す

カルロの親友ロドリーゴは恋に悩むカルロに、王子としてスペインの圧政に苦しむフランドルの救済に力を注ぐように言うが、反逆罪で捕らえられる、ロドリーゴはカルロを救おうとし、身代わりになって処刑される、一方、良心の呵責を感じていたエボリ公女はエリザベッタに罪を告白し、カルロの命を救うことで罪を償おうとする

月夜の静かな修道院、エリザベッタが待っているところへカルロが現れ、フランドルに密かに旅立つため、永遠の別れを決意、そこへ王が現れカルロを捕らえようとするが、先王カルロ5世の亡霊が出現し、カルロとともに地下に消えていく

以上があらすじであるが、このオペラの原作シラーの戯曲は実話に基づく部分も多いという、16世紀のスペイン国王カルロ5世は広大な領地を治め、死後、スペインを息子のフィリッポ2世に与えた。エリザベッタがカルロではなく、フィリッポ2世に嫁いだこと、フランドル地方(現在のベルギーとフランス北部)の独立戦争も史実

この物語の軸となるのは次のような人間関係だ、主要登場人物全員が苦悩を抱えている

  1. ドン・カルロとエリザベッタの悲恋
  2. エボリ公女の嫉妬
  3. ポーサ侯爵ロドリーゴとカルロの友情と政治
  4. ボーサ侯爵のドン・カルロと国王との板挟み
  5. 国王の苦悩

主役はドン・カルロ、エリザベッタ、エボリ公女、ボーサ侯爵の4人だろう。歌手陣は、タイトルロールのフランチェスコ・メーリは知らなかったが、エボリ公女のガランチャ、エリザベッタのネトレプコ、ボーサ侯爵のルカ・サルシと大物ぞろいだ

実話に基づく部分が多いと述べたが、国王が妻から愛されていないと苦悩するところは本当かどうか? 結婚がお家存続のためから愛に基づくものに変わりつつあった時代、政略結婚で夫婦になったエリザベッタを愛していたのだろうか

オペラの進行に合わせて、感動したところなどを中心に感想を述べたい

第一幕

第一場:エステ修道院の中庭

  • 修道士が出てきて悲恋に悩むカルロに「地上の苦悩は修道院の中でも我々につきまとうもの、心の葛藤は天において鎮まるのだ」と述べる、その声をカルロは「あの方の声だ、まるで祖父皇帝が王冠と黄金の鎧を隠して修道衣を纏い声がまだ堂内に響いているようだ、恐ろしい」という。これは最後の場面の暗示であろう、同じ場面が最後にもう一回出てくる
  • カルロとロドリーゴが友情を誓う二重唱「主よ、われらの魂に」が美しかった

第二場:エステ修道院の中庭の外、心地よい場所

  • エボリ公女が小姓テオバルドの伴奏で歌うアリア「美しい宮殿の庭で」、ガランチャの歌もよかったが、舞台のカラフルさとダークさのコントラストがよかった
  • エリザベッタはカルロに二人が結ばれることは不可能だと言う、その時の二重唱「失われた恋人、たった一つの宝物」が良かった、この二重唱では途中でカルロが「エリザベッタ、あなたの足元で愛のために死んでしまいたい」と歌い実際にエリザベッタの足元に横になる場面があるが、大の大人が子供のように駄々をこねているように見えて面白かった、またエリザベッタへの愛を叫ぶカルロに向かって「ではやりなさい、父を殺して私を婚礼の祭壇の上に導きなさい」というところのネトレプコの迫力がすごかった
  • 王は自らの苦悩をロドリーゴに打ち明けると、ロドリーゴは王が初めて心の内を話してくれたと喜ぶところ、ルカ・サルシの表情がうまかった

第二幕

第一場:マドリードにある王妃の庭

  • ロドリーゴが間に入って友人カルロを弁護し、エボリ公女をおどすが効き目がない、この時の三重唱「私の怒りを逃れてもむだです」が素晴らしかった、そしてエボリ公が去って、今度は王子とロドリーゴの二重唱がまた素晴らしかった

第二場:アトーチャ聖母教会前の大広場

  • 人々が歓喜を歌う合唱「さあ、大いなる喜びの日だ」が良い。ここがこのオペラの一番盛り上がるところであろう、とにかく民衆に扮した合唱団の数が多いこと、それがヴェルディの素晴らしメロディに従って王を讃える合唱をするのだから、アイーダ「凱旋行進曲」と同じで、ヴェルディはこういうのが得意だ
  • 苦難のフランドルの民が王の慈悲を求めるが、父王は聞こうともせず、反逆者たちを追い出せと命じる場面の最後でも「さあ、大いなる喜びの日だ」の合唱が再び歌われ、舞台の中央には異端者を処罰する火刑所の火が焚かれ、「天に栄光あれ」の合唱で第二幕が終わるところが盛り上がった

第三幕

第一場マドリードの王の執務室

  • エボリ公女は自分の美貌がもたらした結果を嘆き、危険にさらされているカルロを救うことを誓って歌うアリア「おお、醜い運命よ」がランチャの歌唱力が存分に発揮され拍手がしばらく鳴りやまず

第二場ドン・カルロの牢獄

  • ロドリーゴが火縄銃で肩を撃たれると、スペイン王国を嫌悪し、腹を立てた民衆が王子を称えながら牢獄に押し入ってくる。そこに大審問官が登場すると民衆は怒りをおさえて、王の前にひざまずく。この場面で人々が「国王万歳」と合唱する歌がヴェルディらしく盛り上がってよかった

第四幕

エステ修道院の回廊

  • エリザベッタが少女時代の喜びとカルロへの愛を歌うアリア「人間の虚栄心を知るあなた」、歌い終わった後の拍手がなかなか止まなかった、確かにネトレプコの歌はさすがだと思わせた
  • この後、修道士が現れ「地上の苦悩は修道院の中でも我々につきまとうもの心の葛藤は天において静まるのだ」と言ってドン・カルロと同様に地下に消えていく、その後のネトレプコの「ああーー」という絶叫がすごかった、これは彼女でないとできないだろう
  • オペラの説明にはカルロ5世が孫のドン・カルロを連れ去る、とあるが、この舞台では第一幕のところでカルロが言った通り、修道士の格好をして現れたのがカルロ5世の亡霊であるという演出であろう、配役のところに「修道士(カルロ5世)」となっている
  • カルロ5世の亡霊が出てくるこの場面、大審問官が「カルロ5世の声だ」と恐れおののくが、聖職者のトップが世俗の最高位であった先代の王に恐れおののくというのもおかしくないかと感じた。このオペラの冒頭でカルロ5世の葬儀の場面だろうか、修道士が「彼は、生前は傲岸不遜だったが、神のみが偉大なのだ」というようなことを言っているのにこの終わり方には違和感を覚えた

最後に歌手陣であるが、

  • ネトレプコはさすがの演技と歌だと思った、声量の多さ、歌唱力のうまさ、演技のうまさ、どれをとってもピカイチだと思った
  • ルカ・サルシも大した歌手だと思った、ボーサ侯爵の役だが、ドン・カルロと並んでいるとルカ・サルシが王に見えてくる貫禄がある
  • しかし、ネトレプコ、ルカ・サルシ、どちらもその風貌からは悪役が似合うと思う。ネトレプコはマクベス夫人、ルカ・サルシはスカルピアなどだ、悪役をやらせたら彼らの演技はもっと冴えるだろう、ガランチャもどちらかというと、今回のような一癖ある女が似合う歌手であると思う、その点で今回のエボリ公女役はピッタリはまっていたと思った。

予想外に素晴らしいオペラだった、楽しめました

 


歌劇「トゥーランドット」をテレビで鑑賞する

2024年07月29日 | オペラ・バレエ

テレビの録画で歌劇「トゥーランドット」を観た、2023年12月7・8・13日、ウィーン国立歌劇場での公演

作曲:プッチーニ (1858年~1924年、65才没)
台本:ジュゼッペ・アダミ、レナート・シモーニ(イタリア語)
原作:カルロ・ゴッツィの寓話劇『トゥーランドット』
初演:1926年4月、ミラノ・スカラ座、トスカニーニ指揮

出演:

トゥーランドット:アスミク・グリゴリアン(1981、リトアニア)
皇帝:イェルク・シュナイダー
ティムール:ダン・パウル・ドゥミトレスク
カラフ:ヨナス・カウフマン
リュー:クリスティーナ・ムヒタリヤン

大官:アッティラ・モクス
ピン:マルティン・ヘスラー
パン:ノルベルト・エルンスト
ポン:尼子 広志(1992年)

管弦楽:ウィーン国立歌劇場管弦楽団
指揮:マルコ・アルミリアート
演出:クラウス・グート

この作品は普段あまり鑑賞したことがなく、詳しいことは知らなかったので、今回は鑑賞の前にネットである程度の予習をした、その中からいくつか述べたい

  • 作曲はプッチーニであるが、今年は彼の没後100年のアニバーサリー・イヤーである
  • このオペラはプッチーニの最後のオペラだが未完に終わった、彼の死後、第3幕ラストのトゥーランドットとカラフの二重唱からは、プッチーニが残したスケッチを弟子のアルファーノが補筆し完成させた。
  • このオペラの初演を指揮したトスカニーニは、二重唱の前のリューの死の場面が終わると指揮棒を置き、「作曲者はここのところで亡くなりました」と言って演奏を中断し、全曲演奏は翌日に持ち越された
  • トスカニーニとプッチーニは第一次世界大戦時からの政治的対立(プッチーニは親ドイツ、トスカニーニは嫌独派)もあり数年間冷却関係だったが、その後、友好関係を取り戻した、そして、トスカニーニに宛て「この作品をやる時には、完成直前に作曲家は亡くなったのだと伝えて欲しい」という手紙を残していた

  • プッチーニの死後、補作を巡っての混乱があった。まずトスカニーニがザンドナーイの起用を主張したが、プッチーニの版権相続者となった息子トニオはそれに難色を示し、かわりにトニオが推したのがフランコ・アルファーノであった、当時プッチーニの後継第一人者を自他共に任じていたザンドナーイが、プッチーニの意図を離れたオリジナルなものを創作してしまうことへの懸念があったものとみられる。より中庸温厚な性格のアルファーノならプッチーニの構想により敬意を払ってくれるであろうとの期待、また東洋的な題材を扱ったオペラ『サクーンタラ』( 1921年)が成功していたことも理由であった
  • アルファーノは1926年1月に総譜を完成、それはまずトスカニーニの許へと送られた。ところがトスカニーニは「余りにオリジナル過ぎる」と評して、400小節弱の補作中100小節以上をカット。これは、ザンドナーイ起用案が退けられたことへの意趣返しなど様々の意図が込められていた行為とされている。アルファーノはこのカットに対して激怒したが結局は削除を呑まざるを得なかった
  • 今まではこの初演時のカット版が演奏されることがほとんどであったが、今回の公演では完全版による上演となった
  • 初演はイタリアにとっての国家的イベントと見做され、当初はオペラ愛好家でもあるムッソリーニ首相も臨席する予定であったが、当時国家元首の臨席時に演奏されるファシスト党の党歌の演奏をトスカニーニが拒絶したことから、ムッソリーニの出席は取止めとなった、優柔不断なフルトヴェングラーはナチにうまく利用されたが、トスカニーニは常にイエス・ノーをはっきり言える人間だったのだろう

さて、今回の公演は新制作である、演出はクラウス・グート(1964、独)、彼の演出について少し述べたい

  • 彼は、ワーグナーとR・シュトラウスの作品のオペラ制作で特に知られている、また、現代オペラにも力を入れている
  • 番組の説明では、今回の演出は、初演当時のヨーロッパの政治情勢から、舞台から中国趣味を排除し、カフカとジャック・タチ「プレイタイム」をヒントにスタイリッシュな不条理空間を創造した、とある
  • 主役以外の出演者は浅葱色のスーツや眼鏡、ネクタイをするなど現代風の衣装であり、その解釈がわからないところが多かった
  • 例えば、最初にコーラスの1列目(浅葱色スーツとメガネ集団)が登場して座ると舞台が開いてその後ろに同じく浅葱色スーツのメガネ集団がずらりと座っている、最後の場面でもこの眼鏡集団がずらりと並ぶが、その意味が分からなかった(これは民衆を表しているのかもしれないが)、また、この集団が座っている真ん中に時計があり、針が動いている、その意味も分からなかった

さて、出演者であるが

  • 通常、主役はタイトル・ロールを務める歌手であろうが、今回はトゥーランドット姫のグリゴリアンではなく、カラフ役のヨナス・カウフマンであった、そのイケメンぶりと歌唱力が素晴らしく、他の出演者を圧倒していた
  • タイトル・ロールのグリゴリアンだが、昨年テレビ鑑賞した2023年ザルツブルク音楽祭「マクベス」でマクベス夫人を務めていたあのグリゴリアンだ(その時のブログはこちら)、なかなか美人で歌唱力もあると思ったが、今回も美しい容姿、風貌で、歌唱力もあるところを見せつけてくれた、今回はカツラをかぶっていたのでマクベス夫人の時とはイメージが違っていたので彼女の別の面を観た思いがした、前回よりも若く感じた
  • このオペラに詳しくないので、トゥーランドットがどういう性格の女性なのか分からない、よって、グリゴリアンがトゥーランドットの役柄に合っていたのか判断できないが、見たところ、オペラの中ではトゥーランドットはかなり暗い過去のある女として描かれていたので、グリゴリアンの印象はそれにピッタリであった

  • ピン・ポン・パンのポンは日本人の尼子広志が勤めていて結構出番が多かった。尼子氏は1992年に日本人の父親と、英国人(ウェールズ)の母親の間に生まれ、英国で育った日系英国人テノール歌手、英国のloyal college of musicで学び2018-19シーズンからハンブルク歌劇場のメンバーとなり、現在はウィーン国立歌劇場のメンバーとなっている人だ
  • オペラの中で重要な役割が与えられているリューのクリスティーナ・ムヒタリヤン(Kristina Mkhitaryan、ロシア、ソプラノ)も良い演技をしていたと思うし、歌唱力もあると思った、彼女はタイトル・ロールが務まると思った

楽しめました

 

 


歌劇「トスカ」をテレビで観た

2024年06月21日 | オペラ・バレエ

テレビで放送していたミラノ・スカラ座2019/20シーズン開幕公演、歌劇「トスカ」を観た、2019年12月の公演で、コロナの蔓延直前の公演だ。

作曲:プッチーニ (1900年、ミラノ初稿版)
演出:ダヴィデ・リーヴェルモル

<出演>

トスカ:アンナ・ネトレプコ
カヴァラドッシ:フランチェスコ・メーリ
スカルピア男爵:ルカ・サルシ
アンジェロッティ:カルロ・チーニ
スポレッタ:カルロ・ボージ
シャローネ:ジュリオ・マストロトターロほか

合唱:ミラノ・スカラ座アカデミー児童合唱団、ミラノ・スカラ座合唱団
管弦楽:ミラノ・スカラ座管弦楽団
指揮:リッカルド・シャイー 
収録:2019年12月7日 ミラノ・スカラ座(イタリア)

公演開始前にはイタリア大統領ご一行が場内に紹介され、スカラ座管弦楽団によるイタリア国歌が演奏された、良いことではないか、日本でも新国立劇場の新シーズン開幕公演では天皇陛下のご来臨を賜り君が代の演奏をやってもらいたいものだ、競馬の天皇賞やサッカーの国際試合でも国歌斉唱はやっているではないか

もっともスカラ座が毎年そうやっているのかは知らないし、演目がトスカだからこそ大統領一行が訪れ、イタリア万歳の国歌を演奏したのかもしれない

この「トスカだから」というところだが、

  • トスカの舞台は17世紀末のローマである、私の愛読する塚本哲也氏の「わが青春のハプスブルク」(文春文庫)によれば、近世に入ってからのイタリアは、フランスのブルボン家とオーストリアのハプスブルク家の争奪戦の場となり、18世紀以降はハプスブルク家が圧倒的に優勢で、支配権を固めていた
  • フランス革命のあと、ナポレオンが全イタリアを席捲し、18年間もその支配下におかれていたものの、没落後、再びそのほとんどをハプスブルク帝国の配下におかれ、オーストリアの勢力と影響力が広く覆うことになる
  • トスカはこの時代を舞台にしたオペラであり、オーストリアと大いに関係がある、すなわち、フランス革命直後、ナポレオンがイタリアを制圧して帰国後、1799年からオーストリア・ロシア連合軍の反攻が始まり、北イタリア、中部イタリアのほとんどがオーストリアによって奪還された、こういう状況の中での歌姫トスカの6月17日から18日の二日間にわたる物語である
  • ハプスブルク支配下のナポリ警視総監スカルピアはローマにおいてフランス革命を賛美する者たちを弾圧していた、6月17日はマレンゴの戦いの初戦でオーストリア軍がナポレオン軍を圧倒し勝利が確実になったとの伝令が入った日だ、トスカはスカラ座の名ソプラノ歌手で17日夜、オーストリア軍の祝勝オペラを歌う予定だったが、スカルピアは共和主義者をかくまっているトスカの恋人で画家のカラヴァドッシを逮捕、拷問にかけると、心配のあまりトスカは共和主義者の秘密を口走ってしまい、血だらけのカラヴァドッシが出てくると今度は、マレンゴの戦いで最後の瞬間にナポレオン軍が歴史的な勝利を収めたとのニュースが入る、スカルピアは・・・・
  • スカルピア総監はナポリ王国、その背後にあるオーストリア帝国の象徴であり、トスカとカラヴァドッシはイタリア独立派の代表である、トスカは要するに、恋愛悲劇に名を借りた反オーストリアのオペラという性格を持っていたといえないこともない
  • 原作はヴィクトリア・サルドーというフランス劇作家、1877年に当時の名女優サラ・ベルナールのために書いたものである、既にイタリア統一後だが、そのために犠牲になった人たちへの記念碑なのである、それにプッチーニが感激してオペラとして作曲した、フランス人も当時オーストリアに事あるごとに覇を争い、イタリアを応援していたから、イタリアの反オーストリア感情はまたフランスの劇作家の心境でもあったのだろう

ちょっと歴史的経緯の説明が長くなったが、ここでこのオペラを観た感想を書いてみたい

  • タイトルロールのトスカを歌ったのはご存知、アンナ・ネトレプコだ、歌唱力は抜群であった
  • 彼女が出てくる場面のうち、第2幕で、トスカがスカルピアを刺し殺した後、ぼう然としているところの奥に、彼女が着ていた青と赤のドレスと同じ衣装の女性がポーズをとって現れるところがある(上の写真)、これが何を暗示しているのか、この時点ではわからなかった
  • 第3幕の最後にトスカがカラヴァドッシの死亡に愕然とし、投身自殺するところ、この公演では天に召されるように天上に昇華して消えていくという演出であった。この時のトスカの姿だが、上に述べた第2幕でトスカの背後に亡霊のように出てきた同じ衣装を着た女性は、天子か女神であり、最後の悲劇でトスカがそうなる運命であることを暗示したのかなと思った
  • また、この最後のトスカが天に召されて消えていくところは歌舞伎の宙吊りと似ている演出だと思った
  • スカルピアを演じたルカ・サルシ(1975、伊)であるが、実にうまかった、役柄にピッタリの歌手だと思った、歌唱力も抜群であり、いやらしさの出し方などは素晴らしかった、この人は悪役に向いていると思った、特に第1幕フィナーレは舞台演出の壮麗さと彼の歌の迫力がぴったりと一致して素晴らしい歌唱力だと思った

さて、ミラノのスカラ座であるが、

  • 塚本氏の本によれば、スカラ座はハプスブルク家と深い関係がある、すなわち、スカラ座はハプスブルク帝国にあるウィーン国立歌劇場と中が瓜二つであるそうだ、スカラ座の内装もハプスブルク王朝の象徴である白・赤・金の三色が使われている、ウィーン宮廷はイタリア人の建築や絵画、彫刻の才能と香り高い文化には深い敬意と親しみを持っていた、スカラ座の基本設計はイタリア人であり、その影響がウィーンのオペラ劇場にも及んだわけであり、イタリアとハプスブルクの文化交流の象徴ともいえるそうだ、なるほど両国の関係を知ればわかるような気がする
  • 私は一度、スカラ座を訪問したことがある、その時は劇場見学ツアーにも参加したが、バレエも観劇した、演目は「マノン」、フランスのアベ・プレヴォーの小説『マノン・レスコー』を基にしたバレエ、この時の主役マノンはロシアのスヴェトラーナ・ザハーロワ、相手の恋人役を地元イタリアの伊達男として人気ナンバーワンのロベルト・ボッレというこれ以上望めない組み合わせだった、素晴らしい劇場と演技を見せてもらった


(見学ツアーの時に撮影した劇場内)


(自席から撮った写真、平土間の後ろのほうの席だった)


(開演前、オーケストラピットの前で振り返って取った写真)

いろいろ興味の尽きないオペラである


歌劇「ばらの騎士」をテレビで観た

2024年06月12日 | オペラ・バレエ

びわ湖ホール公演、歌劇「ばらの騎士」(原題:Der Rosenkavalier)をテレビで観た。

作曲:リヒャルト・シュトラウス
初演:1911年1月26日、ドレスデン宮廷歌劇場
台本:フーゴ・フォン・ホーフマンスタール
演出:中村 敬一

<出演>

ウェルデンベルク侯爵夫人:森谷 真理
オックス男爵(夫人の従兄):妻屋 秀和
オクタヴィアン(夫人の愛人青年貴族、薔薇の騎士):八木 寿子(ひさこ)
ファーニナル(俄か成金の貴族):青山 貴
ゾフィー(ファーニナルの一人娘):石橋 栄実(えみ)
合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル
児童合唱:大津児童合唱団
管弦楽:京都市交響楽団
指揮:阪 哲朗

収録:2024年3月2日滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール

「ばらの騎士」を観るのは昨年METライブビューイングでリーゼ・ダーヴィドセンが元帥夫人をやった公演以来だ(その時のブログはこちら)、私の好きなオペラの一つ、私の愛聴盤は宇野功芳先生推薦のカラヤン指揮、フィルハーモニア管弦楽団、エリザベート・シュワルツコップ元帥夫人の1956年盤である。これを自室で読書しているときにBGMとしてかけていると、実に素晴らしい音楽だと感じる。

びわ湖ホールは1998年開館、ロビーからは琵琶湖を一望できるいいロケーション、歴代の芸術監督として若杉弘、沼尻竜典、そして2023年からは阪哲朗が就任。今まで数々のオペラを上演してきたという。確かにホールのwebページを見るとほぼ毎日、公演やイベントがある。今月下旬には阪指揮による「フィガロの結婚」の公演もあるようだ。

このびわ湖ホールで音楽的基盤となっているのが、びわ湖ホール声楽アンサンブルだ、オーディションで選ばれた若者たちが一定の公演に出て訓練して巣立っていく、アンサンブルが核になり、できない部分はゲストを呼ぶという方針で運営しているそうだ

今回の「ばらの騎士」は阪が就任後最初の大規模オペラ公演となった、ウィーンなどで活躍した阪にとって思い出の深いオペラだろう、阪哲朗は京都市出身、ドイツの劇場で音楽監督を務めるなどのキャリアを積んできた。現在、びわ湖のある大津市在中

演出の中村敬一は開館時からびわ湖ホールにかかわってきた、今回の「ばらの騎士」ではウィーンというテーマを前面に出した演出をした、作品が持っている誰もがイメージする原風景を大事にしている、それを舞台で再現する、と述べているが、こういうスタンスは好きだ、あまりに前衛的な、全然時代が違う現在に置き換えるような演出はあまり好きではない

阪はサロメやエレクトラなど音楽が無調化し、どんどんわかりにくくなってきたときに、モーツアルトを意識して作曲したのが「ばらの騎士」ではないか、と述べている。それは元帥夫人とオクタヴィアンとの朝食の場面でメヌエットのようなところが出てくるし、オックスがファーニナルの家を訪問した時に演奏されるワルツなどだ、観客を飽きさせない工夫だ、ただ、それ以外の部分はひたすらしゃべっていてアリアが一つもないのが特徴、本当にオペラと言っていいのか、モーツアルトのレティタティーボのパロディではないか、しかし美しいオペラだ、と述べている。

確かに公演時間は全部で3時間以上あり、冗長な感じがするのでBGMで聴いているときは良いが、公演を観に行ったときは退屈気味になるでしょう、そこは私も改善する必要があると思う。オペラも3時間が限度でしょう

さて、この公演を観た感想を少し述べてみたい

  • 阪の指揮は大変良かった、彼の指揮は東京芸術劇場での「こうもり」の公演で初めて聴いたが抑揚の聴いたいい指揮だったが、今回もよかった
  • 中村の演出も彼が語る通りのオーソドックスなもので、このオペラに抱くイメージ通りの舞台設定であったと言える、奇をてらわないこういう演出が好きだ
  • 主演の森谷真理はこの演目の元帥夫人やフィガロの伯爵夫人、先日の「こうもり」のロザリンデなど、中年のよろめく貴族のご婦人を演じさせたら右に出るものがいない存在だろう。
  • オックスの妻屋秀和も役柄ピッタリの配役だと思った、いやらしさが十分出ていた、ただ、カツラはつけないといけないのか、つけてない「ばらの騎士」の演出もあると思うが
  • オクタヴィアンの八木 寿子もよかった、第1幕では元帥夫人と並ぶとちょっと身長が高くて体格も良いので元帥夫人と堂々と渡り合うようなイメージも持ったが、第2幕でゾフィーと会う場面では男性として十分な存在感を感じて、これで良いと思った。原作では17才という設定だからまだ中学生くらいの少年というイメージであるべき、という思い込みはある
  • ゾフィー役の石橋栄実も大活躍だった、親の言いなりにならない気丈な娘役をうまく演じていた
  • ファーニナルの青山貴もその役柄にピッタリはまっていたと思った。俄か貴族の成金で娘の縁談と家の繁栄を同じこととして考える当時の社会常識を体現するような存在感を存分に出していた、ただ、そのような社会常識が愛のための結婚という現代の価値に代わる過渡期だったため、最後はオックスとの婚約破談を認めるところもうまく表情に出して演じていたと思う

楽しめました

なお、初演のドレスデン州立歌劇場(ゼンパー・オーパー、Semperoper)は旅行で訪問したことがある、数年前、チェコのプラハから急行電車で2時間かけてドレスデンに日帰り観光に行った時だ、時間的にオペラ公演は観られなかったが、劇場内を見学するツアーに参加した、なおドレスデンは旧東ドイツである