BS放送の表題の公演の模様を録画して観た。2019年9月の公演。
アレクセイ・リュビモフは1944年、モスクワ生まれの79才、1960年の「全ロシア若手ピアニストコンクール」の優勝者、その後もいくつかのコンクールで受賞を果たす。ピアノ、チェンバロ、フォルテ・ピアノの奏者、シェーンベルグ、リゲティなどの現代作品のソ連公演の初演を行った、同時代の西側の音楽に関わったことはソ連当局から厳重な非難を招き、数年間、国外に出ることを妨害された。その間に古楽器への取り組みに専念した。2018年には第1回の「ピリオド楽器のためのショパン国際コンクール」の審査委員も務めた、また、モスクワ・バロック四重奏団を結成しモスクワ室内楽アカデミーを創立している。
また、2022年4月、ロシアのウクライナ侵略の最中にウクライナの作曲家であるシルヴェストロフの作品を含むコンサートを開催。ロシア警察は「爆破予告が出ている」という口実でコンサートを強制的に中止させたが、警察官に取り囲まれる中、演奏中であったシューベルトの即興曲 作品90-2を最後まで弾き続けた、という骨のある音楽家だ。
演目は、
「幻想曲 ニ短調 K.397」・・・・未完の作品
「ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545」
「幻想曲 ハ短調 K.396」・・・・未完の作品
「ピアノ・ソナタ ハ短調 K.457」
番組のインタビューでリュビモフは、モーツアルトの音楽は最初は様式が大事だと思っていたが、今は彼がどういう人かを理解することが大事だと言っていた。それが音楽に出るからだと。その通りだと思う。彼はフォルテ・ピアノでモーツアルトのピアノソナタの全曲録音を行っなっている。今回の公演はモダン・ピアノで演奏した。
ピアノ・ソナタハ長調は聴けば誰でも知っている曲で、初心者用として作曲されたそうだが、モーツアルトらしい曲で聴いていて楽しい、とかくモーツアルトのピアノなんて初心者向きの単純なものだと見下す向きも一部にはあるが、とんでもない、簡単なメロディーの中にも陰影を含むところがあり、そこにリュビモフが指摘するところのモーツアルトの音楽の多様性があるのだ。
ピアノ・ソナタハ短調はモーツアルトのピアノ作品では数少ないハ短調の作品だが聴いていてあまり短調の曲とは思えない趣きがあった。モーツアルトのピアノ作品ではどうしてもピアノ協奏曲に好きな曲が多いのでそちらを聴いてしまうが、ピアノ・ソナタにも良い作品が多いと思う。
ソ連生まれのリュビモフは見たところ好々爺という感じのベテランピアニストであるが、おそらくかの国生まれと育ちでさぞかし苦労も多かっただろうが、それを感じさせないところがさすがだ。いつまでも元気で頑張ってほしい。