ゆっくり行きましょう

気ままに生活してるシニアの残日録

「アレクセイ・リュビモフ ピアノ・リサイタル」を聴く

2023年03月31日 | クラシック音楽

BS放送の表題の公演の模様を録画して観た。2019年9月の公演。

アレクセイ・リュビモフは1944年、モスクワ生まれの79才、1960年の「全ロシア若手ピアニストコンクール」の優勝者、その後もいくつかのコンクールで受賞を果たす。ピアノ、チェンバロ、フォルテ・ピアノの奏者、シェーンベルグ、リゲティなどの現代作品のソ連公演の初演を行った、同時代の西側の音楽に関わったことはソ連当局から厳重な非難を招き、数年間、国外に出ることを妨害された。その間に古楽器への取り組みに専念した。2018年には第1回の「ピリオド楽器のためのショパン国際コンクール」の審査委員も務めた、また、モスクワ・バロック四重奏団を結成しモスクワ室内楽アカデミーを創立している。

また、2022年4月、ロシアのウクライナ侵略の最中にウクライナの作曲家であるシルヴェストロフの作品を含むコンサートを開催。ロシア警察は「爆破予告が出ている」という口実でコンサートを強制的に中止させたが、警察官に取り囲まれる中、演奏中であったシューベルトの即興曲 作品90-2を最後まで弾き続けた、という骨のある音楽家だ。

演目は、

「幻想曲 ニ短調 K.397」・・・・未完の作品
「ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545」
「幻想曲 ハ短調 K.396」・・・・未完の作品
「ピアノ・ソナタ ハ短調 K.457」

番組のインタビューでリュビモフは、モーツアルトの音楽は最初は様式が大事だと思っていたが、今は彼がどういう人かを理解することが大事だと言っていた。それが音楽に出るからだと。その通りだと思う。彼はフォルテ・ピアノでモーツアルトのピアノソナタの全曲録音を行っなっている。今回の公演はモダン・ピアノで演奏した。

ピアノ・ソナタハ長調は聴けば誰でも知っている曲で、初心者用として作曲されたそうだが、モーツアルトらしい曲で聴いていて楽しい、とかくモーツアルトのピアノなんて初心者向きの単純なものだと見下す向きも一部にはあるが、とんでもない、簡単なメロディーの中にも陰影を含むところがあり、そこにリュビモフが指摘するところのモーツアルトの音楽の多様性があるのだ。

ピアノ・ソナタハ短調はモーツアルトのピアノ作品では数少ないハ短調の作品だが聴いていてあまり短調の曲とは思えない趣きがあった。モーツアルトのピアノ作品ではどうしてもピアノ協奏曲に好きな曲が多いのでそちらを聴いてしまうが、ピアノ・ソナタにも良い作品が多いと思う。

ソ連生まれのリュビモフは見たところ好々爺という感じのベテランピアニストであるが、おそらくかの国生まれと育ちでさぞかし苦労も多かっただろうが、それを感じさせないところがさすがだ。いつまでも元気で頑張ってほしい。


「桜の宮ゴルフ倶楽部」で花見ゴルフ

2023年03月30日 | クラシック音楽

茨城県笠間市の「桜の宮ゴルフ倶楽部」でゴルフをした。このコースは名前の通り桜で有名なコース、毎年、満開の時期を狙って予約し、花見を兼ねたゴルフをしている。今年も狙いどおり満開であったが、天気が曇りで、時々雨がぱらついたり日がさしたりであった。

倶楽部ハウスが一番高いところにあるが、そこから練習グリーン周りやスタートホール、最終ホールに植わっている満開の桜が凄い、コース内も満開の桜が多くあり目を楽しませてくれる。ネットで誰でも予約できる最近のコースにしては手入れが良く、ディボットも目土で埋めてあるし、グリーンは9.0ftで早めに仕上げてあり、ワングリーンで、二段グリーンもいくつかあり面白い、ティーグラウンドも手入れ良く、クラブハウスも清潔にしているし食事もおいしかった。客層が良いのではないかと思う。距離が少し短めなので若者があまり来ないことも影響しているのであろう、コース内もなんとなく落ち着いている。

今年60周年記念で、27ホール中の西と南コースから9ホール選んで、東コースの9ホールと併せて18ホールのコースにして、この1年間を運営するとのこと。めずらしい取組みで評価できる。来年以降はまた元の27ホールの運営に戻すかもしれないとのこと。使っていない9ホールも手入れしてたのはそのせいか。

今日の進行は詰まることなくスイスイ回れて、前半も後半も2時間程度でラウンドできた。きっと客層が地元のベテランコルファー中心だからだろう、費用は夫婦2人で21,000円だった。

さて、早い時間に終わったので、帰路の途中で雨引観音に寄ってみた。以前、1回行ったことがあるが、桜もきれいだとのこと、再度行ってみることにした。思ったほど桜はなかったが、天気も晴れてきて、小高い山の上にあるため景色も良く、放し飼いのクジャクが歩いていたりして面白かった。

1日お疲れ様でした。


東京春祭「シューベルトの室内楽」

2023年03月29日 | クラシック音楽

東京春音楽祭の「シューベルトの室内楽」を聴きに行ってきた。場所は東京文化会館小ホール。A席、4,500円。東京春音楽祭は有名な大企業が多く協賛しているので、客の中には協賛企業の社員等が切符を買わされて聴きに来ているという感じの人もかなり混じっていたように感じた。また、サラリーマンだから忙しいのだろう、第1曲目の第1楽章が終わった後、なかなか第2楽章に入らないなと思ったら、10人くらいの人たちが客席に入ってきた。普通は途中休憩まで入れないのだろうが、特例で認めているのだろう。

曲目、演者は

シューベルト(マーラー編):弦楽四重奏曲第14番 ニ短調 D810「死と乙女」(弦楽合奏版)
シューベルト: 弦楽五重奏曲 ハ長調 Op.163 D956(弦楽合奏版)

ヴァイオリン:加藤知子、小林美恵、佐份利恭子、景澤恵子、松野弘明、石川未央、岡祐佳里、城所素雅、重岡菜穂子、山内眞紀
ヴィオラ:篠﨑友美、千原正裕、森野開、山本周
チェロ:木越洋、宮坂拡志、大江慧、堀沙也香
コントラバス:石川滋

小ホールでの公演にしては出演者が多く、弦楽器奏者が19人で弦楽四重奏曲と五重奏曲をこの編成で演奏したもので、舞台が狭そうだった。四重奏曲、五重奏曲を19人で演奏するのは初めて見た。

演奏は皆さん頑張って良く弾けているように思った。拍手も多かった。

さて、若干のコメントを

  • 19人もの出演者が舞台に上がると半分オーケストラのような感じだが指揮者はいない。コンサートマスターが演者をコントロールしているのだろうが、楽譜の解釈などはどうするのだろうか。みんなで相談しながらチームとしての解釈を決めているのか、コンマスの解釈が優先されるのか、私は知らない。オーケストラの場合も、楽譜の解釈は楽団としての解釈というのもあって良いように思うがいかがだろうか、そうなると指揮者はいらない、そういう演奏もあって良いと思うのだが。
  • チケットを見せて会場に入り、今日のプログラム(1枚)をもらって見ると、曲の解説がない、不親切だなと思ってよく見ると、QRコードがあり、「曲目解説はコチラ!」となっていた。考えたものだ。
  • 700円で詳細なプログラムを売っていたが、そこにはもっと詳しい解説があるのだろう。この本格プログラムはネットで事前に買えるようになったら予習ができて良いと思うのだが。紙でなくても良い。
  • 先週来たとき、演奏終了後の写真撮影をしている人がいて気になったが、今日、会場内を良く確認してみると、演奏終了時にのみ撮影可能です、表示してあった。どうも東京春音楽祭だけの取扱のようだ。1カ所に小さく立て看板で表示してあるだけなので気づかない人も多いのではないだろうか。


吉祥寺「ベーカリー、カフェ Linde」でドイツパンを買う

2023年03月28日 | グルメ

吉祥寺にLindeというドイツパン屋がある、たまに寄って買って帰る。今日も時間があったので久しぶりに寄ってみた。2階にカフェもあり、1階のパン売場でパンを買って、それを2階に持って行き、そこで食べれる。コーヒーその他の飲み物も売っている。このカフェは比較的空いていることが多く、落ち着いた雰囲気でもあり、穴場だ。

この店ではドイツパンの詰め合わせセットを売っているので、それがお買い得と思い、最近ではそれを買って帰ることにしている。770円で結構入っている。ブレッツエルも入っている。詰め合わせはビニール袋毎に異なる種類の組み合わせになっているのでどれを選ぶか迷う。二つ選べば1,200円とさらにお得になっている。

夫婦2人でとても一回では食べきれない量なので2日に分けて朝食で食べたが、それでもちょっと多めだった。やはりかなりお得感がある。食べてたら大変おいしかった。

ごちそう様でした。


名曲喫茶「バロック」でゆっくり過ごす

2023年03月27日 | カフェ・喫茶店

吉祥寺で用事を済ませた後、井の頭公園の満開の桜には見向きもせず、名曲喫茶「バロック」に行ってきた。ここは本当に居心地が良い喫茶店だ。800円のコーヒー代は音楽鑑賞代も含むとされている。これは安い、というべきだ。

今日は前回来たときよりも空いていて、満席近くになるほどの混み具合ではなかった。入口から入ったところに雑誌が置いてあるので、そのうちの1冊をとって座席に座った。その本は名曲喫茶を特集した月刊誌で当店もでていた。その部分を読んでみると、当店はクラシック音楽を鑑賞することを目的とする店なので私語禁止はもちろんのこと、スマホを見ながら聞いたりすることも避けてほしい、特に自分がリクエストした曲が流れているときにスマホを見たり本を読んでいると注意するときもある、などと書かれていた。なるほどその通りだな、と思った。ただ、雑誌は置いてあるし、本を見ながら鑑賞というのは良いようにも思うがどうだろう。しかし、店主の思いはきっと、演奏家がそこにいて演奏しているつもりで聴いてほしい、というものだろう、そういう時は、スマホや本は見ないだろ、ということだと思う。

今日もゆったりと2時間くらい過ごした、贅沢な時間だった。


吉祥寺「いせや総本店」で焼き鳥を買って、焼き鳥丼を作る

2023年03月26日 | グルメ

吉祥寺に行ったついでに晩ご飯のおかずと思い、いつもは肉のさとうでメンチカツとか串カツなど買うか、みんみんの生餃子を買って帰るのだが、少し飽きてきたので、今日は南口の「いせや総本店」で焼き鳥を何本か買って家で焼き鳥丼を作ってみようと考えた。

いせやでは持ち帰りが可能で店横のカウンターで伝票に品目と数量を書き、お金を払い、焼けるのを待つ、7本か8本買って1,000円だった。安いものだ。密閉した紙袋に入れてくれるが、今日はタレをたのんだため、帰りの電車で少し匂った。

家に帰り、どんぶりにご飯をよそり、刻みのりをその上にかけ、さらにその上に鶏そぼろをかける、そしてレンジで温めた焼き鳥を串から外し、適当に乗せる、焼き鳥を入れた紙袋にたまったタレをかけ、これで完成だ。

食べてみれば、まあまあ合格点だ。ねきを買うのを忘れたので今度買うときはネギを忘れずに買おう。

ごちそう様でした。


[東京春祭] 「歌曲 タレク・ナズミ(バス)&ゲロルト・フーバー(ピアノ)」を聴きに行く

2023年03月26日 | クラシック音楽

東京文化会館で開催された東京・春・音楽祭「歌曲シリーズNo.36 タレク・ナズミ(バス)&ゲロルト・フーバー(ピアノ)」公演を聴きに行った。今日はA席6,500円、客層はシニア中心で若い人が若干という感じ、50%位の埋まり具合か。

曲目は、シューベルト:歌曲集『冬の旅』 Op.89 D911

出演は
バス:タレク・ナズミ(50、独)
ピアノ:ゲロルト・フーバー(54、独)

タレク・ナズミは、バス歌手。数々のオペラに歌手として出演している。リート歌手としては、最近ではゲロルト・フーバーとともに、ホーエネムスのシューベルティアーデ、ミュンヘン、ケルン、ロンドンのウィグモア・ホール等に出演している。

ゲロルト・フーバーは、ゲロルト・フーバーは、リートの伴奏者として引く手あまたなだけでなく、深遠さ、表現力、見事な技術を持った素晴らしいピアニストでもある、批評家たちにも常に熱狂的にリート伴奏者として評価されている。世界的に著名な歌手とも数多く共演している。

歌曲集「冬の旅」は、恋に破れ、一人で冬の荒野を旅する若者の心の風景を描いた作品、 全部で24曲からなる。この作品は詩人ヴィルヘルム・ミューラーの詩にシューベルトが音楽をつけたもので、ミューラーは後期ロマン派の詩人、ちなみにシューベルトのもう一つの代表的な連作歌曲集である「美しき水車小屋の娘」もミューラーの詩によるものだ。

春になったこの時期と冬の歌とは少しタイミングがずれたが、これは仕方ないだろう。音楽と季節のイメージを重ねて聴くのは一つの楽しみだ、ベートーベンの第9を年末に聴きたいのは日本では一般化しているが、12月になるとバッハの「クリスマスオラトリオ」を聴きたくなるし、春になるとベートーベンの「田園」を、夏には「英雄」のような曲を、秋にはモーツアルトの「クラリネット五重奏曲」などを聴きたくなる。そして冬の曇って寒い日には「冬の旅」だ。人によってそれぞれイメージする曲があるだろう。

ナズミのバスの歌声は深みがあり、曲のイメージにぴったりの感じがした。スリムで背が高く、時に体をねじったりしながら曲に感情移入して歌っている感じが伝わった。ピアノも緩急自在でナズミの歌とぴったり合っていた。1時間20分休憩なしでの演奏、結構大変だったと思うが、来て良かった。

今日は原語と日本語対比の歌詞が配られたのは有難い、演奏中、この対訳の歌詞を見ながら演奏を聴いている人が何人かいたが、自分はドイツ語がわからないのでそれはできなかったし、それをするには客席が暗すぎた。日本語の字幕を出してくれると有難いのだが、この小ホールにはその設備がないのだろう。

さて、この日の公演で演奏終了後、2人が拍手を浴びている時、スマホで写真を撮っている人が何人かいたが特段注意を受けていなかった、演奏終了後の写真はOKになったのだろうか、それならもっと積極的にアナウンスしてほしい。公演開始直前に、くどいように2回も撮影は禁止だ、音が鳴らないようにせよなどとアナウンスしておいて、このことに触れないのは不親切ではないか。


映画「チャーチル」を観る

2023年03月25日 | 映画

映画「ウィストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(2017年、英、ジョー・ライト監督)を観た。これは第2次大戦でドイツがベルギーやフランス、オランダに侵攻し陥落寸前になり、イギリス軍も大陸で追い詰められた時、チェンバレンに代わってチャーチルが首相に選ばれ、その後のイギリスの決断とその過程を描いた映画だ。

チャーチルは軍部からフランスのイギリス軍は陥落寸前で対処のしようが無いことを報告され、外務大臣のハリファックス卿からはイタリアから和平交渉の仲介をするとの提案を受けているので交渉のテーブルに着くべきだ、これ以上の犠牲は出すべきでないと迫られた。これに対し、チャーチルは最後まで戦うべきだ、カレーの4000人の部隊がドイツの注意を引きつけ、その間にダンケルクの30万人のイギリス兵を救出すべきだと説く。国王もチャーチルの今までの失敗ばかりしている実績やチャーチルの性格を好きになれず、和平案を支持するが・・・・

この映画は先日見たばかりの「ダンケルク」をイギリス側から見た映画と言える。いろいろ考えさせられるとこがあった。

  • チャーチルは最後まで戦い抜くことを主張し、自国が不利な状況での和平ではヒットラーの傀儡国家、奴隷国家になるだけだ、そのような国家は再建不可能だ、戦闘に負けたけど最後まで戦った国家の再建は可能だ、と映画の中で言った。これを実証したのが日米戦争における日本ではないだろうか。今のウクライナもそういう考えで戦っているのだろう。しかし、実際問題、難しい判断であろう。例えば、大陸でのドイツの侵攻によりフランスは降伏してパリは陥落した、最後まで戦う、という感じではなかったのではないか(この点は不勉強で知らないが)
  • ダンケルクの30万人を救うためにカレーの4000人部隊が犠牲になる、と言うチャーチルの考えにハリファックス卿らは無駄な犠牲だと反対するが、このような冷酷とも言える考えができる人が非常時には必要なのだろう

この映画ではチャーチルの「最後まで戦う」と言うことが美談のように扱われているが、これに対してハリファックス卿とは別の観点からチャーチルを批判しているのが中西輝政教授の「大英帝国衰亡史」だ、教授は最後まで戦い抜くという無謀な決断の結果、戦後は莫大な債務を抱え、戦争で多大な死傷者を出し、植民地はすべて失い、中東からは撤退し、友人だと思っていたアメリカからは支援を打ち切られるなどの冷たい対応をされ、大英帝国の衰亡とアメリカへの覇権移動を決定的にしたと分析している。映画でも最後にテロップで「戦後、チャーチルは選挙で負けて退陣した」と流れているのは、この点を暗示しているのかもしれない。だとしたら、監督はたいした者だ。では、どういう対応をすべきだったのか、それは教授の本をご覧頂こう。

 


「元祖森名物 いかめし」を食べる

2023年03月25日 | グルメ

イトーヨーカドーで北海道の「元祖森名物いかめし」を売っていたので買った。阿部商店のものだ、ここは明治36年創業で昭和16年いかめし誕生、北海道函館本線森駅の名物駅弁となった。全国駅弁人気ランキングで上位の常連だ。値段は800円くらいだったか。

何回か食べたことがあるが今回は久しぶり、弁当箱は小ぶりで、若者は二つ食べないと満腹にならないと思うが、シニアーはこれで十分だ。イカの中に生米(うるち米ともち米の混合)を詰め、爪楊枝でとめ、火力の強い”3連ガスバーナー”を使用しボイルする、それを”秘伝のたれ”に入れて味付けして完成するそうだ(同社HPより)。

食べてみるとおいしい、もち米が入っているのでもっちりとした感じがして、秘伝のタレと煮イカの味がご飯にしみこみおいしいし、噛み応えも十分だ。定期的に食べたくなる味だ、人気ランキング常連というのも理解できる。

ごちそう様でした。


奥山景布子「元の黙阿弥」を読む

2023年03月25日 | 読書

先日の紀尾井ホール以来、黙阿弥づいているが、より黙阿弥を理解するためにこの本を読んだ。新聞の書評に載っていたのを偶然見つけた。黙阿弥はご存知、歌舞伎台本作者であるが、作者をテーマにした小説は今までなかったと思う。第11代團十郎をモデルにした小説に宮尾登美子の「きのね」がある、文庫本で上下2巻の小説だが、歌舞伎入門などの本よりよほど歌舞伎のことがわかる。

今回のこの本も350ページ近くの力作で歌舞伎台本作者の目を通じてみた梨園の事情が良く理解できて面白かった、もちろん、フィクションはあるだろうが歌舞伎ファンにとっては貴重な小説である。

読後の感想や印象に残ったところを書いてみよう

  • 市川團十郎は、新之助⇒海老蔵⇒團十郎と名前を変えていくものと思っていたが、この物語の時代は團十郎⇒海老蔵となっている、例えば七代目團十郎を経て、五代目海老蔵に、という具合
  • 歌舞伎役者はせりふを覚えるのが大変で、初日から最初の頃は、役者の後ろに黒衣に身を包んだ狂言方が道具の陰に潜み間合、いをうまく計ってせりふをささやいて教える、こんなこと今でもやっているのだろうか、もちろん客から気づかれないようにしているのであろうが
  • 黙阿弥がまだ働き始めたばかりのこと、部屋首席の中村十助から「座元や役者との付き合い方には気をつけろ、ちょと隔てがあるくらいがちょうど良いんだ」と助言を受けた、これは「座元は儲けることしか考えていない、役者は自分の出番のことしか考えていない、で、両方とも何かあった場合の責任は全部、おれたち作者に負わそうとするんだ、客入りが良いときは役者の手柄、座元の儲け、悪けりゃ全部、台本が悪い、散々そっちの都合で書き直しをさせたことなど忘れている」、「世界の決め方、役の割り振り、せりふに曲付け、振り付け、どこでもよい、少しでも作者の意地の張りどころをの残しておかないと、ぼろ雑巾にされる」
  • 黙阿弥は若手のころ、当時の海老蔵から「おまえさんの望みは何だ」と聞かれ、「役者の名だけではなく、作者の名でも客が来る、そんな書き手になること」と答えたとある
  • 黒船来航後、奉行所からお達しがあり「近年、世話狂言人情に穿ちすぎ、万事濃くなく、色気なども薄くするように」と、黙阿弥は、人情を穿たないでどうやって芝居を仕組むんだと言って怒る、役人は芝居のことなど全然わかっていないと彦三郎と感嘆する、また、「狂言仕組み、並びに役者ども、猥りに素人へ立ち交じらわぬよう、今後、陣笠なしに外を歩いたら捕まえる」、こんな時代だったんだ
  • 維新後、幕府からでていたお触れは、一度ご破算になった、しかし、新政府は「親子一緒に見て身の教えになるような筋にせよ、勧善懲悪を旨となすべきはもちろん、爾後全く狂言綺語を廃すべし、すべて事実に反すべからず」となり黙阿弥はこれを聞いて耳を疑った、それで芝居が成り立つのか、新政府は徳川幕府よりずっと厄介なものかもしれないと感じた
  • 座元はトラブルをおそれ、事前に官吏や学者にいちいち教えを乞い、お伺いを立てねばならぬようになった、しかし、そのような経過を経てできた芝居は面白くなく、客が入らない、黙阿弥は「俗書の作者、根も無きことを偽作して、学問もなく理義に暗きにより、児戯にひとしき芝居なり」などと新聞で批判された、為政者を悪役として書くと子孫に当たるものから名誉毀損として訴えると言われた、依田学海、西洋帰りの福地桜痴などが史実にこだわって添削した、演劇改良運動という黙阿弥に対する罵倒だった
  • 黙阿弥は「わかる人にはわかる」というような作品にして抵抗したと言うか己を納得させた、黙して語らず、わかる人にはわかる、それが隠居名の黙阿弥にも込められている、黙阿弥を支援したのは坪内逍遙、読売新聞の饗場篁村だった、桜痴はその後、歌舞伎座を作ったが人気が出ず、最後には黙阿弥に頭を下げ、作品を書いてくれと頼みに来る
  • 芝居の台本で日本で一番最初に著作権が登録されたのは黙阿弥だ、ただ、黙阿弥自身は乗り気ではなかった、それは芝居の世界では能や狂言、落語などたの筋を借用して歌舞伎に合うように手直ししたものがよく作られていたから、その時には著作権などの概念はなかった、例えば歌舞伎の「勧進帳」は能の「安宅」から作ったものだ
  • 女方はいかに芸が良かろうと人気があろうと、座頭にはなれない、筋立てでも女方が芯になる狂言は限られる
  • 役者を当てはめながら書く、作者のもっとも大事な決まり事

良い本であった。