歌舞伎座で四月大歌舞伎昼の部を観てきた。座席はいつもの3階A席、6,000円、リーズナブルな値段で楽しめる良い席だ、新国立劇場の4階席より舞台がずっと近く見えるので毎月に観に行く人はこの席が一番良いと思う。ただ、オペラグラスは持って行った方がよいでしょう。今日の3階席はななり空きが目立った、7割くらいの入りか。11時開演、15時30分終演。
双蝶々曲輪日記(引窓)(1時間13分)
出演
濡髪長五郎(尾上松緑)
母お幸(中村東蔵)
南与兵衛後に南方十次兵衛(中村梅玉)
女房お早(中村扇雀)
平岡丹平( 松江)
三原伝造(坂東亀蔵)
義太夫狂言の名作である、「双蝶々(ふたつちょうちょう)」と言う題名の由来であるが、濡髪長五郎と放駒長吉(「引窓」には出てこない)という、二人の「長」の字を名にもった角力取りを主人公にしていることに由来し、喧嘩早い角力取りの達引(たてひき、義理や意気地を立て通すこと)を中心とした話、「曲輪(くるわ)」とは、山崎屋与五郎と遊女・吾妻(両方とも「引窓」には出てこない)、与兵衛と遊女・都(後に身請けされ、お早となる)という二組のカップルの大阪新町の廓での色模様を描いたことから名づけられた。
母お幸のところに、幼い頃に養子に出し相撲取りになっていた実の息子濡髪長五郎が戻ってくるが何か浮かない顔、再婚して義理の息子与兵衛がいる、浪人であったが郷代官に任ぜられ、初仕事が人を殺めた長五郎の捕縛、家に帰ってくると長五郎がいることを知り、とらえて手柄をあげるか見逃すかで悩む。
「引窓」とは屋根に空けた採光用の空間、滑車と紐が付いていて、紐を引いて窓を閉じ、紐を離すと窓が開く。窓が開いて部屋が明るかったとき、手水鉢の水に二階にいた長五郎の姿が映って二階にいることがバレる。
見所としては、母親と実の息子、義理の息子とその妻(扇雀)のそれぞれが相手を思いやるばかりに、それぞれが義理と人情の板挟みになり葛藤する、そして郷代官に任ぜられた義理の息子がすべてを悟り、誰の顔も立つ捌きをする、というところ。
中秋の名月の前日、満月の出た夜、翌日に石清水八幡宮の放生会(ほうじょうえ、捕らえられた生き物を解き放つ)を控え、引窓から入る満月の月明かりと放生会が物語の「鍵」となるよく考えぬかれた筋書きである。
出演者が少ない演目なのでじっくり演技を見られた、東蔵、松緑、梅玉、扇雀がそれぞれいい持ち味を出していた。
七福神(18分)
出演
恵比寿(中村歌昇)
弁財天(坂東新悟)
毘沙門(中村隼人)
布袋(中村鷹之資)
福禄寿(虎之介)
大黒天(尾上右近)
寿老人(萬太郎)
福をもたらす賑やかな舞踊である、若手の踊りで目を楽しませてくれた。
夏祭浪花鑑(並木千柳 作、三好松洛 作)
(序幕住吉鳥居前の場、二幕目難波三婦内の場、大詰長町裏の場)(2時間)
団七九郎兵衛/徳兵衛女房お辰(片岡愛之助)
団七女房お梶(中村米吉)
伜市松(秀乃介)
三河屋義平次(嵐橘三郎)
一寸徳兵衛(尾上菊之助)
玉島磯之丞(中村種之助)
傾城琴浦(中村莟玉)
釣船三婦(中村歌六)
おつぎ(中村歌女之丞)
下剃三吉(坂東巳之助)
大鳥佐賀右衛門(片岡松之助)
大坂で実際に起こった事件をもとに、浪花の俠客、魚屋の団七の生き様が描かれる義太夫狂言
- 喧嘩沙汰から牢に入れられていた団七、女房お梶と息子市松は、釣船三婦とともに出牢を許された団七を住吉神社の鳥居前で迎える。団七夫婦は、大恩人の息子である玉島家の跡取りの放蕩息子磯之丞と身請けした琴浦の面倒をみているが、磯之丞は奉公先の番頭の伝八を殺めてしまい窮地に陥る(住吉鳥居前の場)
- 義理と人情に厚い団七は、大恩人の息子である磯之丞と琴浦の危難を救うため、釣船三婦や義兄弟の一寸徳兵衛、徳兵衛女房お辰らと奔走し、磯之丞をしばらく大阪から離れさせることにした(難波三婦内の場)
- そこに強欲な舅の義平次が琴浦を大鳥佐賀右衛門に渡して金をもらおうとするので、団七はついに大阪の高津神社のお祭りの日に義平次と諍いになり、ついに・・・(大詰長町裏の場)
この演目は昨年、博多座の公演のテレビ録画で観た、その時の団七、舅の義平次、釣船三婦は今回を同じメンバーだった(その時のブログはこちら)。もう慣れたものだろう。
自分がよかったと思う見所は、
- 住吉鳥居前の場では、団七の女房のお梶を演じた中村米吉の演技である、若手女方では一番好きだ、女の色気を感じるし、声も通って聞きやすいし、身のこなしもうまいと思う、ただ、そんなに出番は多くなかったのが残念だ
- 難波三婦内の場では、徳兵衛女房お辰(愛之助)が磯之丞の玉島への帰還に同行してほしいと釣船三婦の妻おつぎから言われて了解した後、三婦から美人であるお辰が同行して間違えがあってはいけないと反対される、するとそばにあった火鉢で自分の顔の一部を焼き、そんな間違えなど起きないので同行すると言う場面
- 大詰長町裏の場(泥場)は、もうこの場全体がこの演目の最大の見所であろう、団七は琴浦を金儲けに利用しようと連れ去ろうとした義父を止めたが、言い争いになる、団七は昔義父に助けられた恩がある、そして親でもある、しかし義父の義平次は金に汚くどうしようもない人物、恩着せがましいことを言われ、団七は苦し紛れに30両持っているのでそれで勘弁してくれと言うが、その嘘がバレて更にののしられるとついに刃傷沙汰に、義父を切りつけ泥沼に落とし、自分も泥だらけになる、表通りには祭りの竿灯傘が提灯のあかりを綺麗につけて通り過ぎる、修羅場とまつりの灯りのコントラストが素晴らしい
今回、愛之助は団七と徳兵衛女房お辰の二役を演じた八面六臂の活躍だった、最後の泥場では実際の水をかぶるなど迫力ある演技を見せてくれた。もうすでにこの演目を十八番にしているようだ。また、団七の義父義平次を演じた嵐橘三郎(1944、伊丹屋)もこの演目と得意としているのではないだろうか、実にうまく憎まれ役を演じていた。2時間という長い演目だが、3場に別れており、変化もあり見所も多く言い演目だと思った。
さて、観劇の際のいつものお楽しみ、幕間の昼食だが、いつもの通り開場前に銀座三越のデパ地下に行き、今月は地雷也の天むす(花てまり、1,080円)にした。現役の頃、名古屋出張の帰りによく買って、新幹線の中で食べたものだ。甘味は仙太郎の柏餅にした。
よい1日でした