六本木の俳優座劇場で「セチュアンの善人」を観劇した、14時開演、17時終演、シニア料金5,000円、観客の平均年齢は高かった、ここは300人くらい入る劇場だが満員であった
俳優座は、文学座・劇団民藝と並び日本を代表する新劇団の一つ。1944年(昭和19年)2月に青山杉作・小沢栄太郎・岸輝子・千田是也・東野英治郎・東山千栄子・村瀬幸子ら10人によって創立された。初代の劇団代表は千田是也(せんだ これや)。2000年から浜田寅彦、大塚道子と続き、現在の代表は岩崎加根子。
昨年6月に、六本木の俳優座劇場が2025年4月末で閉館することがわかったというニュースがあった(こちら参照)、「劇場の老朽化と収支の悪化」が理由としている、この劇場では東野英治郎、東山千栄子、仲代達矢、加藤剛、市原悦子、栗原小巻ら数多くの名優が舞台に立ってきた
「セチュアンの善人」(神様のおつくりになったこの世は難しすぎます)
原作:ベルトルト・ブレヒト(1898-1956)
脚色・上演台本・演出:田中壮太郎
ものがたり
- 3人の神様は世の中の乱れを聞かされて、確かめに地上に降りてくるとと、善人は全然いなかった
- 唯一、セチュアンの男娼のシェン・テのみが神様たちに一夜の宿を提供する善人であったが、生活苦であった
- そこで神様はお礼にシェン・テに大金を渡し、善人であり続けるよう言って消え去る、シェン・テはそのお金でコーヒー屋を始めるが、金を目当てに親類縁者・隣近所の人間が押しかけ、その大金は使われそうにる
- シェン・テは時々冷酷な資本家の従弟のシュイ・タに変装し、シェン・テの利益を確保し、コーヒー屋の事業を効率的に進める
- シェン・テはパイロット志望の恋人ヤン・スンがいるが、だらしないので愛想をつかした、ところがシュイ・タはヤン・スンをコーヒー事業の管理職にすると能力を発揮して、住民をこき使い、効率を上げ、業績を拡大させたが事故で死亡
- シュイ・タのやり方は資本主義の貪欲さ丸出し、人をこき使い、怪しい原料を使った商品を売るなど問題が多いが、事業を拡大し、地域住民に雇用と安定した生活をもたらし、善人のシェン・テを悩ませる、善人では幸せになれないのかと
- 神が再び現れると、善人だと思っていたシェン・テと資本家のシュイ・タが同一人物であったことがわかり嘆く、どうしたら良いかとのシェン・テの質問に神は答えられず、最後は勝手にしろと匙を投げる
今日の公演ではめずらしく公演プログラムを購入した、500円。それを読むとこの演劇の概要、問題設定などが少しわかる、いつくか参考になる部分を書くと
- 俳優座がこの演目を上演するのは38年ぶり
- この演目は社会主義の応援歌、資本主義下では善人は人間らしい生活はできず、社会主義に変革しなければならないという思想がこの演劇の根底にある
- 原作者のブレヒトはファシズムに反対して労働運動に関わり、共産党の立場から教育劇などを作るようになった
- 神様という存在、善人や善が、作者により皮肉られている
- 対照的な二つの性格が一人の人間に仮託されている、善人の男娼シェン・テと、社員を搾取する男性経営者のシュイ・タ
- 本来女性が演じるシェン・テを、男性俳優の森山智寛が演じた
観劇した感想を述べたい
- 原作は資本主義を批判し、社会主義礼賛のようだが、今時その結論では劇は成り立たず、資本主義の批判をパロディーにした演劇だと思った、それはうまくいったと思う、神や善に対する強烈な皮肉が効いている
- 舞台演出が良かった、第1幕と2幕の冒頭、舞台の床には相撲の土俵のような丸い輪が設置してあり、水売りのワンがその周りをぐるぐる歩く、その時点では客席の照明はまだ落ちていない、劇の開始時の客席のざわつきを静める効果を狙ったものかと思ったが、それはそれでうまいやり方だと思った
- その土俵のような丸い輪が、演劇が進んでいくと、途中で垂直に立ち上がり、繁盛しているコーヒー屋の名前の文字が輝くゲートのようなものになるところなど、面白かったし、舞台右横ではいろんな道具を使ってちょっとした音を出して劇に味付けしていたのも良い工夫だと思った
- 舞台背面には電気の照明により飛行機が飛ぶ姿などが映し出され、効果的な演出だと思ったし、最後の方では歌を歌う場面などもあり、飽きない工夫が凝らされていた
- 出演者では、シェン・テ/シュイ・タの森山智寛は頑張っていた、特にシュイ・タの演技が良かった、ヤン・スンの八柳豪も憎らしい役をうまく演じていた、パイロットになろうとじゅうたん屋の夫婦から金を出させようとするところなど、本当にパイロットになろうとしているのか、金をだまし取ろうとしている悪党のかよくわからないほど、いい加減さをうまく演じていた、その後、コーヒー屋の管理職になるとそれもピッタリとはまった演技だった
- 床屋の加藤頼も個性が強い役を、いや、加藤個人の個性が強いのかわからないが、よく演じていた、普通の人物か悪人かよくわからなかった、また、女家主の坪井木の実の演技も良かった
- 若手で最高に良かったのは水売りの渡辺咲和であろう、大きな声で歌を歌ったり、懸命の演技をした、途中、床屋に手をケガさせられるが、その後、水売りの商売がうまくいき、意気揚々と自慢するなど、意外と才能ある女をうまく演じていた
- 神様の三人も面白かった、最後のシェン・テから「どうしたら良いのですか」と問いかけられた時の困った表情などは笑えた、水売りの渡辺咲和も神様の今野まいもピンチヒッターであるにも関わらず最後まで頑張れたのは立派だと思う
楽しめました