土塊も襤褸も空へ昇り行く:北村虻曳

随想・定型短詩(短歌・俳句・川柳)・写真
2013/11/11開設

秋刃 <村上一郎と三島由紀夫>

2018-10-14 | 随想
<村上一郎と三島由紀夫> 公務員宿舎に暮らしていた1970年、隣の奥さんが「大変、大変」と言って飛び込んできた。「三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊に飛び込んでテレビで何か喋っている」とのことである。御存知の通り、事件は彼の切腹と森田必勝による介錯まで進んだ。なかなか首が落とせなかったようである。
自分が驚いたのはそれだけではない。その朝に見た夢を思い出したのである。夢では私は誰かの首に刃物を当てて、一生懸命押し切ろうとしていたのである。「お前はしょっちゅうそんな夢を見るんだろう」とおっしゃってもそんな記憶は他にまったく無かった。事件がなければ記憶に残らなかっただろうし、あるいは事件に触発されて夢の記憶を作り上げたのかもしれない。でもこれはある種の正夢として驚愕し、深い記憶に残ったのである。
その年には負けじとよど号ハイジャック事件も生起した。そうしたことが始終身辺の話題に登場した。しかし当時私は、そうしたことより生家のことで精一杯であった。三島の熱心な読者でもなかった。ただ煙のような短編「仲間」にはとても感銘を受けていたが。
三島の事件を承けたと思われるおおむね次のような美しい歌が記憶にある。
「柄黒き刃を背なに立たしめて花繁き野に死ぬべかりしを」
用字などに少し誤りがあるかもしれない。私の憶えでは村上一郎の作である。だが後日「無名鬼」や彼の全集などをていねいに調べたが見当たらなかった。これもまた幻であろうか。後に彼もまた日本刀で自害して果てた。  豈60号(2017年11月発行)一部改

ここに云う「村上一郎の短歌」については、どこにも記述を発見できない。「豈」に書き、諸兄にも問い合わせているが、定かな出典を未だ突き止めることができない。いずれにせよ、私に捏造できる短歌ではない。なにかご存知のことがあればご教示お願いいたします。

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2 コメント

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2019-10-21 20:53:22
上掲短歌に関する出典確証をまだ見ないが、次のような記述を見つけた。
「水漬く屍と死ぬべかりしを生きつぎて穢汚の裡に在るが宜しも」
村上一郎『撃攘』(1971年)
(染野太朗「日々のクオリア」 https://sunagoya.com/tanka/?p=12115 )
この歌集未見であるが「死ぬべかりしを」は共通である。それ以外の部分に沈み屈折した思いが現れている。現実を離れ耽美性に終止してしまうことを「宜し」とせず改作したものではないだろうか。

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引用短歌の訂正 ()
2022-08-22 14:01:07
上のコメントの「撃攘」を入手して、短歌の正しい形を確かめることができた。
https://blog.goo.ne.jp/abunobu/e/45ecd90e6571725ded297a4cb4262122
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