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読書の森

はるかなる恋の道

ご存知のように、封建社会は身分や家族制度を超えた恋に非常に厳しい目を向けていました。
戦前迄、人妻の恋は刑事罰は課せられました。
著名な詩人北原白秋も不幸な人妻に同情して恋に落ち、その為二人とも縄をかけられて囚人服を着せられたそうです。示談が成立して実刑になりませんでしたが、一途な恋をするのも命がけだった時代です。

幻想的な作品を描いて有名な作家泉鏡花も許されぬ恋をしたのです。
しかし、この場合は不倫とか道徳に外れたとか、という話ではないです。
男女とも独身の大人であります。
何故許されないかと言うと、「身分が違う」という理由です。

大反対したのが、文豪尾崎紅葉で泉鏡花は彼の弟子、書生として育ててもらった恩義がありました。

若い時の泉鏡花の写真を見ると、整った顔立ちの好青年です。生まれは加賀国の古都、金沢で代々続く職人の家、早くに実母を亡くしてから運命が変転しました。
母の名はすず、同名の神楽坂芸者伊藤すずに強く惹かれていきます。すずは士族の生まれですが落ちぶれて芸者に売られました。すずも鏡花を恋して、相思相愛の仲になり共棲みを始めますが、紅葉先生の激怒を買うのです。

鏡花の才能を買っていた紅葉は、いずれしかるべき家の娘を娶せようと心づもりしていたのですね。自分には何一つ報告もなく、芸者ふぜい(妓籍が抜けてない)と世帯を持つなど許せない、と考えました。

そこで紅葉は、すずに手切れ金を渡して鏡花と別れる事を強要したのです。

後年泉鏡花はこの一件を基に小説『婦系図』を書いてますが、悲劇に終わった物語とは全然異なり、この恋はHappy end になりました。
というのは、泣く泣く別れたのが4月で同年10月紅葉が病死、二人は晴れて結ばれたのです。

その紅葉先生の代表作『金色夜叉』も悲恋であります。

若き学生貫一とお宮は周囲も認める恋仲だったが、お宮の美貌に惹かれた金満家の強引なプロポーズにお宮は応じてしまう。
おそらく当時非常に高価だったダイヤの指輪と豪奢な生活が出来る魅力に負けてしまったのだろう。
一途な恋の純情を踏みにじられた貫一は怒り狂って復讐を誓う。そして自ら強欲な金貸しと変身するのである。
お宮が惹かれた金の力をもって復讐しようとする。

『金色夜叉』の中で「ダイヤモンドに目が眩み身を売った」と貫一は宮を罵るのですが、この話の方が今日的であります。


以上昔の恋の物語でしたが、コロナ禍の中でも、身動き出来ぬ恋に苦しむ若い人(若くない人)はいたのかも知れません。

思うに(別に自分が独身だからでなく)、身分による制約のない今日でも、お互いに一途である程恋の道のりは困難がある気がします。
多分周囲が見えなくなって、冷静に判断できなくなるからでしょう。

金も地位もライバルも、恋する二人の障害になりやすい世の中であります。
小説のような恋の道は遥かでございます。


読んでいただき心から感謝いたします。

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