「俺、誰とデートしてもその日に抱いちゃうから。断る」
哀愁を帯びた顔で彼が言った。
お気楽にデートを申し込んだ私は、一瞬何を言われたかわからない。
「要は私が嫌なんだ」とシオシオと帰った。あまりマトモに断られたので傷つく事もなかった。
彼に関する悪い噂は飛んでいた。
「女にだらしないから気をつけろ」
というのだ。
多分、どうしようもない悪い生き物を飼ってるんだろうな。
「それにしてもよほど私って魅力ないのかね」とわが身を見回した。
悪い男は何故かモテるのだ。
そう捉えると、若い日の彼は遠い人となっていった。
月日があっという間に流れ、おっさんの彼とおばさんの私が再会した。
彼の飼う悪い生き物は健在らしい。
バーで飲み屋で、彼がしでかした悪さを、マダムの様子で察してしまった。
ドラ息子を甘やかす母親の気持ちになった。
変に可愛いのだ。
それは憧憬の対象ではもうなかった。
忘れていた肉親に会った様な愛しさが湧いてしまったのである。
その場を別れると浮かぶのは、高校生の彼なのである。
彼はひどく寂しげに海を見ている。
きっと恋してはならない人に失恋したんだろうな。
風が髪を揺らし、制服の裾をはらませる。
こんな妄想がひょっとしたら真実かも知れない。
この学生服を着た心も懐も寒そうな彼が心の中から消えるには、もう少し時間がかかるだろう。
^_^
エッセイから創作にして、騙したみたいですみません。
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