読書の森

その先の道 (続く)



その後、加耶は何度か卓二と逢った。
逢う度に卓二に抱かれた。
だからと言って、二人の位置が変わった訳でない。

卓二は正規の職場に就く様子もなく、加耶は単調な勤務に明け暮れていた。

得意先の合田からプロポーズされたのは、そんな時期である。
合田は加耶の控えめさに惹かれたと言う。
「きっといい嫁さんになってくれるだろう」と思ってと、合田は磊落に笑う。

やり手の営業マンである合田の能天気さに引きずられるような気がする。
客だと思うから、親切にしていたのを好意と解する男。
複雑怪奇な卓二に比べて、さぞややり易いだろう。

そのにわか雨の朝、加耶は卓二に合田のプロポーズを有りのまま打ち明けた。
「それで?」
「それでって?」
「つまり別れようって事じゃない。
稼ぎのない俺よりも、ずっと頼りになる男ってわけだ」

加耶はそんな言葉を待ってたわけでない。
「いくな」
その卓二の一言が欲しかった。
抱かれたいから、抱かれたのじゃない。
卓二が満ちた顔になるのが見たかっただけだ。

しかし、加耶は何も言えなかった。
寂れた駅前で別れを受け入れただけだ。


又、3年経った。
合田加耶は大きなお腹を抱えて新聞を読んでいた。
「大型新人現る。骨太の作品」
筆名よりも前に、以前に増してブスッとした卓二の顔写真が目を射た。

加耶はぼんやり見つめていた。
梅雨の終わりの雨がひとしきり音を立てている。

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