読書の森

雨の新幹線



「私たち終わりね」
評判の寿司屋で沙也加は席を立つなり、言った。
仕事帰りの一人が目を丸くした。
「どうした。急に?」
沙也加は出来る限り冷たく言い放つ。

「いくら遠距離恋愛だからって、忙しいからって、私だけが大阪に来るのって不公平すぎる」
「だから、土日も仕事が入るんだよ。
悪いと思ってる。心から君に」

沙也加は、その気持ちをご馳走や高価な土産物で誤魔化すなんてたまらないと思う。
いくら、会社で重要な地位に居たとしても、生身の女をどう思ってるんだと言いたい。

初めて会った時、あんなに激しい目で見てくれた一人は何処に行ったのか。取り澄ました穏やかさが気に食わない。
ただの女友達にすぎないのなら、もう会わない。

「じゃ、さよなら。お元気でね。もう来ないから」
一人はうな垂れた。

音を立てて、コンコースを歩く。
東京までの自由席を自販機で買って、ホームに出る。

激しく雨が降っている。
滑り込むように新幹線が入ってきた。
気負いたった気持ちが沈み、キリキリと後悔が襲った。
二度と会わないなんて何故言ったのか。

ぽっかり穴の空いた沙也加の肩が叩かれた。
一人の笑顔がある。
「俺も帰るよ」
「帰るって何処に? 大阪本店に異動して、もうあなたの家はないじゃない」
「有るよ。好きな女の家だ。ダメかい」

降りしきる雨を行く新幹線の中、沙也加はこのままどこまでも止まらない事を祈ってる。怖いのだ。

傍らの一人は狸寝入りをしているようだ。

読んでいただき心から感謝します。 宜しければポツンと押して下さいませ❣️

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