この久人の暗い思いはバブルの崩壊と反比例して膨らんだ。
土地神話は崩れ、折角手に入れた持ち家の価格が半値以下に落ちた。
給料は全く上がらず、仕事の効率が悪いと課長といえども肩叩きに遭う時代となった。
勿論毎月返済する住宅ローンは重い。
久人は気が狂いそうな日々を送っている。
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21世紀に入る前は、何か全てが変化してくれる様な甘い予想があった。
しかし、久人の生活は以前以上に苦しい。
英美は相変わらず能天気である。
馬鹿ではないらしく、以前の様に大量浪費はしないが、相変わらず無駄な物を買って久人をハラハラさせた。
久人の身体を気遣ったり、結構優しいところはあるが、気まぐれですぐダダをこねる。
会った頃のピチピチした彼女ではなく、使い慣れた雑巾の様な彼女を見ると、「自分の顔を見てから甘えろ」
と言いたい。
50を過ぎた久人は、女に可愛さよりも頼れる強さを求める様になった。
もっとも浮気相手は可愛い女の子がいいと思う。
小心者の久人は、せいぜい街の女と付き合う位である。それも恐る恐る。
妻も自分一人を守っているのだと思い込んでいた。
ところが、ある日英美の携帯を盗み見た彼は驚愕した。
「浩太さん、この前は楽しかったわ!
又会いたい。 エミ」
送信メールの画面にそのメールは踊っていた。