読書の森

殺したい人 その5



その後も、英美は世間知らずな美人妻と言う看板を捨てなかった。
浪費癖のある反面、頗る気のいい所があり、久人の部下が遊びに来た時、国産のビーフステーキをご馳走した。

「課長、お幸せですね。
あんな綺麗で優しくて、料理の上手な 奥様を持たれて」

そう、久人はやっと総務課長に昇進したのだ。
「そうでもないがね」
久人はまんざらでもない顔を見せた。

その顔は年の割にしわが深く刻まれ、苦労人に見えた。
彼の苦労は仕事の苦労より、家の経済の苦労の方が多かった。


毎月の住宅ローンと贅沢な妻を抱えて膨らむ生活費、老後の蓄えなど殆どない。

たまらなくなって英美に言った事がある。

「お前も偶には老後の人生の事考えろよ」

英美は鼻で笑った。

「へっ、老後!私まだ若いのよ。
この前学生さんですかって言われたのよ。
どんな事があっても、老後は国が面倒見てくれるわよ」

そう嘯いて、久人の顔を見上げ、
「あなた、この頃老けたわね。
クヨクヨ考える人って出世しないと言うけど当たってる」

と声をあげて笑った。

その時、久人は痛感した。
(この女がこの世からいなくなったら楽になれるだろうなあ)
その思いはどす黒い雲のように久人の心の中で湧き出した。

読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「創作」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事