その後も、英美は世間知らずな美人妻と言う看板を捨てなかった。
浪費癖のある反面、頗る気のいい所があり、久人の部下が遊びに来た時、国産のビーフステーキをご馳走した。
「課長、お幸せですね。
あんな綺麗で優しくて、料理の上手な 奥様を持たれて」
そう、久人はやっと総務課長に昇進したのだ。
「そうでもないがね」
久人はまんざらでもない顔を見せた。
その顔は年の割にしわが深く刻まれ、苦労人に見えた。
彼の苦労は仕事の苦労より、家の経済の苦労の方が多かった。
毎月の住宅ローンと贅沢な妻を抱えて膨らむ生活費、老後の蓄えなど殆どない。
たまらなくなって英美に言った事がある。
「お前も偶には老後の人生の事考えろよ」
英美は鼻で笑った。
「へっ、老後!私まだ若いのよ。
この前学生さんですかって言われたのよ。
どんな事があっても、老後は国が面倒見てくれるわよ」
そう嘯いて、久人の顔を見上げ、
「あなた、この頃老けたわね。
クヨクヨ考える人って出世しないと言うけど当たってる」
と声をあげて笑った。
その時、久人は痛感した。
(この女がこの世からいなくなったら楽になれるだろうなあ)
その思いはどす黒い雲のように久人の心の中で湧き出した。
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