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定年後、母の世話をして細々と暮らす奈美江には、どっさりストレスが溜まっている。
子にべったり依存する母の干渉を振り切れず、家計簿と睨めっこの潤いのない日々である。
日常生活は生活との戦いなのに、母は昔の夢ばかり追って別世界に居る。
パソコンで大学時代の友人とおしゃべりしても、家庭に踏み込んではいけないと心で制約を作る。
心を許し切って、昔みたいに付き合えない。
その点小夜子は限りなく制約がない。
なにせ二人は10の時からの仲良しである。
小夜子は、いかにも庶民的な家庭の主婦である。
温もりのある性格が好きだった。
パソコンをいじって二十日大根を検索したとか、それだけでパソコンに向かうのを止めてしまった。
知能指数が物凄く高いそうだと自身で自慢してたが、それならあんまり使わず退化しちゃたのではないかと奈美江は思う。
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「それで、やりくりのストレスは溜まるし、母は経済観念が無くてお荷物になるばかりなの。どこそこのお刺身が食べたいと、魚を焼いてる時に言うのよ。もう、昔の彼とも会えないし」
今までふんふんと奈美江の話を聞いていた小夜子は、急に邪険な調子になった。
「誰だってね悩みは持ってるの。年寄りはいずれ痴呆になるの。あなた一人が悩んでるんじゃないの」
何を言い出すのか。
奈美江はカッとなった。今までこちらばかり喋らせて、なんて言い草だ。
「あなただって色々有るんだろうさ。
それならそれを言ってくれれば良いのに。私は理解しようとするわよ。もう良い。ちっとも思いやりがない人なんて。さようなら」
ガチャンと切った。
切った途端に切なくなった。
奈美江と小夜子が小学生の時、よく二人で遊んだ。
学校帰りに遊び呆けて、夕日の沈む頃別れる。
「又ね。明日ね」
角を回って又引き返す。
「本当にさよなら」
さようならという言葉が重みを帯びて
奈美江の胸に入ってきた。
(続く)