読書の森

恐怖の逃避行 その3


「マズイ!」その場の感情に任せて打った意見は相当の政権批判になってしまう。稀衣は急いでその投稿を削除しようとした。しかし、画面は何故か急にフリーズしてしまった。
そのSNSから抜け出そうにも終了出来ない。
強制的にシャットダウンしてから彼女はゾッとしてきた。
仕事柄、社会問題に関心を持って、いわゆる急進的知識人と相互フォローしている彼女のあの意見に反対派が手酷い反撃をするのは目に見えている。

「分からず屋の店長と権力者をつい重ね合わせて感情的意見を出してしまった」と言う言い訳は効かないだろう。

取り敢えずしばらくSNSと遠ざかって、退職後の暮らしを考える必要がある。
と彼女は気を取り直した。



批判や愚痴は暮らしの役に全くならない。
「思想ではなくて自分の思いを小説形式にして収入を得たい。それを生計を支える手段にする道はないか」
稀衣は唇を噛み締めて再度パソコンに向かった。

稀衣は今、ある新興宗教の崩壊をテーマの創作をWordに残していた。
教養も地位もある会社員が、理想的社会を作るという謳い文句に惹かれて、ある宗教団体に入会、のめり込んでしまうプロセス、それによって家族崩壊に至る悲劇を描きたかった。実は彼女の家庭は狂信的な父親によって崩壊してしまったのである。
借金が嵩み家を売りに出して、両親は離婚、彼女は母方に付いたがその母は心労が重なって5年前病死したのだった。


極力実際の宗教をモデルにする事を避けたかった。
彼女は架空の宗教団体の闇を描いて、購読してる文芸誌の新人賞に応募するつもりだった。かなりいい線迄描いたと自負している。

稀衣はいそいそとワードの画面に移って、続きを書こうとした。
しかし、そこで稀衣は金縛りにあった様に、文字が打てなくなった。

なぜなら、今まで打ってきたWordの
画面には、得体の知れない英数字ばかりが出現したからだ。
AA123abc、いくら努力しても日本語変換が出来ない。

「私のパソコン、乗っ取られた!」
稀衣は真っ青な顔になり、全てのプログラムをシャットダウンして、暗い画面を睨んだ。


読んでいただき心から感謝いたします。

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