読書の森

『惜春鳥』



1960年後半、未だ番組制作費が今程潤沢でない時代、テレビ番組で往年の名画を観る事が出来た。

中には、現実の思い出以上に懐かしく蘇る映画がある。
1959年の木下恵介作品、『惜春鳥』もその一つだ。
それは半世紀近く経った今も忘れ難い。


ストーリー自体は、青春ドラマと言って良い。
特別ドラマチックでも無いし、心を抉るロマンスがある訳でもない。

ただ舞台になった会津若松のいかにも日本的な風物が、胸が痛くなる様な郷愁を呼ぶのだ。
早春の汚れてない白梅、武家屋敷の白壁など、本当に貴重になったと思う。

木下恵介作品には、どれも穏やかで優しい人情と美しい自然があるが、この作品はそのエッセンスが含まれていると言って良い。

最初は白虎隊を模した高校生の剣舞の様子が出ている。
それぞれ凛々しい姿をした高校の同級生である。

皆、堅い友情で結ばれている。
しかし、時は容赦なく流れる。
卒業して、それぞれの道を進んで大人になっていくのが諚である。
大人へ成長していく道で、汚れを知り、傷つき、無垢な昔を懐かしむものだ。

若い頃の十朱幸代や津川雅彦など名優揃いで、時代を懐かしむだけでも興味ある映画である。




お金で何もかも買える世の中だ。
心にしてもお金で満足出来ると言える。
しかし、買えないものが青春と個々の思い出、そして豊かな自然だろう。


この映画が忘れられないのは、お金以上に価値のある思い出を描いているからだろう。
歳を重ねて、最早忘れてしまわざるを得ない青臭い感情を、映画観賞する事で再度体験出来る。

若い人(どの程度まで言うか分かりませんが)でこの映画を観て感動した人も多いらしい。
ネットで褒め言葉のレビューが幾つか出ている。
青春の思い出はいつの時代でも人を惹きつけるのだろうか。



それだけでない、震災以降壊され続けた美しい長閑かな風景も人を惹きつける。
又、日本的な人情、心の通い合いも細やかに描かれて嬉しい。

大切な思い出は青春時代に限らないのかも知れない。

ノスタルジックな風景や人情を、決して棄て去らずに、大切に残しておきたいと心から思う。

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