読書の森

殺したい人 その4



絵梨は身重の体で、友人と繁華街にショッピングに出かけ、道の窪みに躓いて転倒した。
そして不幸な事に流産してしまった。

さらに不幸な事に、その後の子どもに恵まれない身体になってしまったのである。

二人の間に隙間風が吹き出したのはこの頃からだ。

英美の浪費癖は直らなかった。
浪費と言っても、それほど高くない品物を連日買うのである。


ちょっと贅沢な食べ物、洋服、小物、ちゃちな宝石。
購入した日に、英美は得意そうに夫に見せた。
それが久人には鬱陶しい。
それらは合計するとたいそうな金額になった。

彼が小言を言っても、妻は柳に風と聞き流す。



平成と元号が改まった年、久人は決心してマイホームを購入する事にした。
土地の値段はうなぎ上りに上がっている。
駅前のスーパー以外に買い物施設のない住宅地、妻の浪費は減り、財産は残るだろう。
近県の住宅地で都心には遠くなるが、空気の澄んだ閑静な所である。
彼は、二階建てのオモチャの様な建て売り住宅を求めた。

いかにも英美好みの外観である。
白い壁と青い屋根、二階の窓にレースがはためき、エプロン姿の絵梨がせっせと部屋を磨く。
これは久人の夢想である。

しかし、手付けを打った後、家を見た英美の感想は、久人の夢をズタズタにした。

「ちゃちな家ね。それにこんな田舎、私嫌よ」

「一軒家を買って欲しいと言ったのはお前だよ」

「私ダメよ、こんな田舎は暮らせない。あなた解約して!」

お金の事に無知な妻は全てあなた任せである。
久人は眉根を寄せ、顔を顰めた。

読んでいただき心から感謝いたします。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「創作」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事