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絵梨は身重の体で、友人と繁華街にショッピングに出かけ、道の窪みに躓いて転倒した。
そして不幸な事に流産してしまった。
さらに不幸な事に、その後の子どもに恵まれない身体になってしまったのである。
二人の間に隙間風が吹き出したのはこの頃からだ。
英美の浪費癖は直らなかった。
浪費と言っても、それほど高くない品物を連日買うのである。
ちょっと贅沢な食べ物、洋服、小物、ちゃちな宝石。
購入した日に、英美は得意そうに夫に見せた。
それが久人には鬱陶しい。
それらは合計するとたいそうな金額になった。
彼が小言を言っても、妻は柳に風と聞き流す。
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平成と元号が改まった年、久人は決心してマイホームを購入する事にした。
土地の値段はうなぎ上りに上がっている。
駅前のスーパー以外に買い物施設のない住宅地、妻の浪費は減り、財産は残るだろう。
近県の住宅地で都心には遠くなるが、空気の澄んだ閑静な所である。
彼は、二階建てのオモチャの様な建て売り住宅を求めた。
いかにも英美好みの外観である。
白い壁と青い屋根、二階の窓にレースがはためき、エプロン姿の絵梨がせっせと部屋を磨く。
これは久人の夢想である。
しかし、手付けを打った後、家を見た英美の感想は、久人の夢をズタズタにした。
「ちゃちな家ね。それにこんな田舎、私嫌よ」
「一軒家を買って欲しいと言ったのはお前だよ」
「私ダメよ、こんな田舎は暮らせない。あなた解約して!」
お金の事に無知な妻は全てあなた任せである。
久人は眉根を寄せ、顔を顰めた。