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読書の森

生きていて (続き)

美余はキラキラ光る眼が美しい娘である。
昨年の盆、蛍狩に川辺を歩くところをならず者が襲い難儀してたところを一之進が救った。
以来、顔を合わす度に美余の顔がポーッと美しく染まるのを一之進は意識している。

美余は幼い頃に肉親を流行病で亡くした。
そして、武家の養女として貰われた。
上品な面立ちとキビキビと働く点を買われて、城勤めになったのである。

一之進も美余も天涯孤独の身である。
お互いに惹かれ合うが、哀しい事に城詰の腰元と武士の恋は禁じられていた。

二人は想いを必至に抑え、成就せぬ恋に身を焼いた。

「自分の影武者役の決行の日を前に何を話すのであろう。もはや命も消えるのだ、未練を持たすな」
美世の文を細かく裂いて処分後、重いものを心に感じながら、一之進は約束の木陰に寄った。

淡い月明かりで見る美余の顔は死人のように無表情であった。
そして、恐ろしいほど凄艶なものがあった。
「お召し物をお着替えくださいませ」
まるで怒ったような表情でサッと一之進の袴を脱ぐように勧め、作男の衣装を肩にかける。
戸惑った彼が否やを口にしたら、美余は即気が狂いそうなキツイ目の色をしていた。

その光の凄さに、一之進は声を失った。
美余はさらに無言で、一之進の背に路銀と握り飯、水筒の包みを負わせた。
そして数歩先にある空井戸の底を指さした。
「こころして中に跳んで下さりませ」
押し殺したよう声であった。

有無を言わさず命令する響きがあった。

深く暗い井戸の淵に手を置いて一之進は一気に中に飛びこんだ。
そして、したたかに腰を打ったが、井戸の底に地面はフッカリ柔らかく、壁に横道がくり抜いてあるのが見えた。
隠れ道は一つでは無かったのだ。

彼は美余の作った握り飯を食べながら進んだ。
必死の顔が脳裏をよぎり美余の身が心配になるが最早引き返す事は出来ない
一之進は唇を噛み締めてひたすら歩き続けた。
そして翌日の夜明け前にようやく光が指して上方をよじ登ると一条の山道が開けていた。


その前夜、城主の煌びやかな衣装を身に纏った美余は後ろから袈裟がけに切られた。
息を引き取る彼女の目に一瞬一之進の笑顔がよぎった。









読んでいただき心から感謝です。ポツンと押してもらえばもっと感謝です❣️

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