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読書の森

生きていて

戦国の世にひっそりと建つ小さな山城、その名を浮田城と言う。
盆地であるが、作物の豊かな土地の為五代目目城主忠経の下、領民は穏やかな日々を送っていた。
前方に険しい岩山が聳えて、戦の目につきにくく、城主も戦いを好まず書に親しむ質故に平穏を保っていた。


ところが突然、忠経は肺の病に倒れてしまった。
妻子も同じ胸の病で次々とこの世を去った。
そして城主の弟忠之が後を継いだ。

今度の城主は享楽を好み、領民から搾り取った税で遊び呆けた。
国は荒れ、家臣の心は離れた。
噂が領外に伝わり、隙ありと見て、隣国が攻めてきた。
強大で兵士の数が多く浮田勢の3倍はいる。
とても敵わぬ相手である。

しかし、落城の羽目に陥っても浮田の血を絶やしてはならぬと家老職が談議した末、捨身の策を考えた。
影武者を立てて城主の身代わりにする事である。


この影武者に選ばれたのが、佐崎一之進である。
彼は忠之と背格好が似ているだけではない。
先の城主に拾われた、天涯孤独の孤児であったからだ。
彼が犠牲になれば敵と奮戦する間に、浮田城主の命を救えると思った。
皆、顔を見合わせて、満足げに頷いた。

佐崎は蹌踉と渡り廊下を歩いていた。
端正な彼の横顔は屈辱に歪んでいた。
この国は亡ぼしたくないが、あの男、道楽者の忠之の身代わりになるのは御免被りたい。

その時、細いがよく通る声に呼び止められた。
「佐崎様、お待ちください」
腰元の美余である。

美余は音も無く佐崎に近寄って細い紙片を渡した。
その和紙に
「本日子の刻に古井戸の木陰でお待ちいたします」
という文が薄墨でしたためられていた。

以前作った作品を添削して載せます^_^



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