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園山は毅より10歳年下の爽やかで俊敏な印象の男だった。
幼い時に両親を亡くし独身という。
素直で仕事の呑み込みが早いところを毅は気に入ったらしい。
境遇が似ているのも親近感を呼び、彼は度々部下を家に招いた。
言われた通りに、佳代は家庭料理でもてなした。
園山の旺盛な食欲はかっての夫を彷彿とさせた。
夫と異なるのは、彼がいかにも健康な青年だという事だった。
時々眩しげに佳代を見る目付きも、何かの拍子に手が触れて赤くなるところも、新鮮な感じだった。
彼が佳代に憧れに似た気持ちを抱いている事はありありと分かった。
ある日突然彼の訪問は途絶えた。
「ねえ、あなたこの頃園山さん来ないけど、どうして?」
佳代はさりげなく夫に尋ねた。
毅は意味ありげな目付きをした。
「お前の心に聞いてみろよ」
「あなた何を言ってるの!私はあなたがお気に入りの部下だから、親切にしただけですよ」
「本当にそうかな?」
毅は冷たい狡猾な表情を見せた。
初めて見る夫の一面だった。
佳代にはひどく醜いものに見えた。
この人は全然私を信じていない、と佳代は感じた。
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その瞬間、結婚生活において佳代を支えていたものが崩れた。
彼女に、確かに良い生活をしたいという打算はあった。
それよりも、深い心の傷を持つ夫を癒せるのは自分一人だという自負があった。
夫も全面的信頼を裏切りたくないという意地があった。
成熟した女として、体の奥にくすぶる火を誰でもいいから消して欲しい、と思わなかったと言えば嘘になる。
それでも我慢し続けたのは、同志愛の様なものであったのに。
この人はただの男だ。
それも疑い深い女を愛せない哀れな男なのだ。
「別れて下さい!」
佳代は口走った。
毅の顔色がさっと変わった。