
薬師岳(2,926m)・北ノ俣岳(2,662m)・黒部五郎岳(2,840m)・三俣蓮華岳(2,841m)・鷲羽岳(2,924m)・双六岳(2,860m) (つづき)
三俣峠へと急坂を下ります。斜面はものすごいお花畑になっていました。
見上げると、三俣蓮華岳の山頂は灰色の岩肌が露出していました。
三俣山荘は鷲羽岳と三俣蓮華岳の間に建つ小屋です。この山荘からは、それぞれの山へ向かう道に加え、黒部川の源流を経て雲ノ平へ向かう道も出ています。
また、昭和31年に開通した、湯俣温泉への伊藤新道もありましたが、現在は吊り橋が流されるなどして湯俣温泉まで下ることは困難だといいます。このルートを切り拓いた伊藤正一氏の『定本 黒部の山賊-アルプスの怪-』(山と渓谷社)には、伊藤新道や三俣山荘を建設する最中の、迫力ある何枚かのモノクロ写真がおさめられています。そこでは、湯俣に森林鉄道が通じていた様子(その写真には「昭和32年」とありました。)も分かります。
「このコースの途中に展望台と名付けた素晴らしい場所がある。そこは眼前に赤岳~硫黄岳の赤色の稜線が見え、その向こうに槍・北鎌の黒い尾根が見え、眼下には硫黄を含んだ乳白色の水が流れ込んでいるのが見える。ここならではの絶景である。」
(『定本 黒部の山賊-アルプスの怪-』 伊藤正一・著(山と渓谷社))
あの迫力ある(しかも、登山道の通じていない)赤岳を、標高のより低い場所から眺めることができるのはすごいと思います。ぜひ一度行ってみたいと思いました。
◆三俣山荘事務所のホームページ:「伊藤新道の歴史と現在」が興味深かったです。→HPはこちら
朝は、三俣山荘の食堂でサイフォン式コーヒーとケーキのセットをいただきました。窓からは硫黄尾根を従えた槍ヶ岳が見え、とてもぜいたくな時間でした。その後鷲羽岳へ往復してからここまで戻り、昼食は絶品のカレーライスでした。
ここは北アルプスで最もグルメな山小屋だと思います。
2年後の2014年、初めて宿泊しました。やはり折立から新穂高に抜けるルートで、
※折立→薬師沢小屋(泊)→雲ノ平山荘(泊)→水晶岳→三俣山荘(泊)→新穂高温泉
と歩きましたが、2日目からはずっと雨で稜線は風も強く、厳しい4日間を過ごしました。
最後に泊まった三俣山荘では、寒さに震えながら小屋の扉を開けようとしたときに一瞬だけ鷲羽岳が見えたこと、着いた時は(小屋が混んでいるので)布団は2人で1枚だったのが、「(思ったより少なかったので)1人1枚に変わりました~」と小屋の方が部屋にやって来て、みんなの歓声が上がったことを覚えています。
夕食は「ジビエシチュー」・鹿肉のシチューでした。これはとても美味しかったです。ほろほろの鹿肉はやや苦みがあってワインと合いました。まるで貴族の食卓のような雰囲気でした。
さて、この鹿は駆除されたものということでした。害獣として駆除された鹿の肉は、しかし全体の1割ほどしか食用とされず、残りは地面に埋めて終わりなのだそうです。これは哀れだと思います。
ニホンジカをどうするべきなのか、何が正しいのかすぐには分かりませんが、少なくとも考えるきっかけになりました。
登山の間は普段の生活のことは考えない、ましてや仕事のことなど思い出したくもない、頭の中は山のことだけでいっぱいにしたいものなのです。三俣山荘は、山のことをよく考えさせてくれる印象に残る山小屋でした。
「~ どんな生きものでも「獲ったら食え」といいたい。それが獲った者の獲れた生き物に対する礼儀だろう。 ~」
(『全日本食えば食える図鑑』椎名誠・著(新潮文庫))
(登頂:2012年7月下旬) (つづく)