北岳(3,193m)・間ノ岳(3,190m) (つづき)
「~ そこからの素晴らしい眺望について述べるとなると、本州の最も幅広い地域にある、すべての主な山脈及び高峰群を挙げることになろう。古いなじみの、数多くの山々が、私の来たことをあちこちから歓迎してくれた。しかし、最も歓迎してくれたのは、甲斐ヶ根の南にある間ノ岳である。その山ははやくこちらに来いと大声で招いていた。 ~」
(ウォルター・ウェストン著・水野勉訳『日本アルプス再訪』(平凡社ライブラリー))
ウェストンが間ノ岳へ登ったのは1904年(明治37年)で、同年鳳凰山へも登り、あの地蔵岳のオベリスクへ初登頂を果たしたのです。その後、北岳、間ノ岳、仙丈ヶ岳へと続いていきます。
オベリスクへの登攀が大変なものであったことは、『日本アルプス再訪』の第7章に詳しく書かれており、これは南アルプスの好きなすべての人にとって興味深くなるものに違いありません。無事に終わった後、同行者の
「~ ヤスジロウは心から安堵したらしい。葬式を出す必要がなくなり、祝いの食事の用意をするだけになったからである。 ~」
という一節など、読んでいる自分まで安心してしまうくらいで、誠にさもありなんと思います。
また、甲斐駒へは前年に登り、ウェストンにとって「古いなじみの」山の一つになっていました。
昨日の北岳は一面ガスだったので間ノ岳は見えませんでしたが、北岳山荘からここまで登って、間ノ岳は北岳と同じか、それ以上に大きな山だと思いました。
南アルプスの山々は、北アルプスほど山同士の連なりを感じず、どの山も個性を前面に出している感じがします。
山頂からは360度の眺望が広がり、大きなカールを抱えた仙丈、美しいピラミッドの甲斐駒。
南には長く裾野を引いて頂上に兜をかぶった塩見岳。この山の姿は特異で、奥穂からのジャンダルムにも匹敵するでしょう。
それらの山々に比べれば、北岳と間ノ岳は地味な方です。山容は地味だし、名前はさらに地味です。しかし、同じ「じみ」でも滋味深さがあり、何よりも山の大きさが立派で素晴らしいのです。農鳥岳は、3,026mの高さがあるのに、間ノ岳からだと小さく見えてしまうほどでした。
南アルプスの冠たる存在は北岳とここ間ノ岳です。二つの山の距離は、3km少ししか離れていません。ほとんど同じ場所に、ほとんど同じ高さの山が2つ聳えているのは日本の地理の奇跡です。
富士山も素晴らしいです。劇的な眺望が広がります。
北岳山荘へ戻り、登山口の広河原へ戻ります。ここからは、ほとんど写真がありません。予報通り、天気が悪くなっていったからです。1時間もしないうちに大きな雲が迫り、山荘へ着いた頃には辺りは真っ白になっていました。
小屋の方に、「少しでも早く広河原へ帰る方がよい。まだしばらく雨にはならないでしょう。北岳の山頂に寄らず、八本歯のコルから大樺沢を下る方がよいでしょう。」と薦められ、そのアドバイスに従いました。何より、脚がヘトヘトで、昨日登った北岳にもう一度登ろうとはとても思えませんでした。
広河原に着く午後4時半まで、一度も雨が降ってこなかったのは幸いでした。
同じコースを登山者がどんどん登ってきます。歩く人の数は、昨日より全然多いです。明日は土曜日、静かだった北岳山荘は一気に賑わいを取り戻すことでしょう。
最後にもう一度富士山。
「今日はもう2度と見えないよ」という声が聞こえてきそうでした。
(登頂:2017年9月下旬)