心が満ちる山歩き

美しい自然と、山に登れる健康な身体に感謝。2019年に日本百名山を完登しました。登山・街歩き・温泉・クラシック音楽‥‥

1920年代の録音が甦る カペー四重奏団のラヴェル:弦楽四重奏曲

2019年11月24日 | 名演奏を聴いて思ったこと


 山登りを始めて9年目になっても、山小屋では熟睡できない方です。眠れない夜は、時間が過ぎるのがすごく遅く感じるものです。時計を見ると夜の12時前、まだ日付も変わっていないのか!と思ったりします。全然眠れない時には音楽を聴きますが、壮大な音楽は聴けないので、室内楽を聴くことが多いです。普段はどちらかと言えば聴くことの少ない室内楽を、山で聴くのはいいものです。
 ミュージシャンのパラダイス山元氏は、
 「ANA機が離着陸する際、機内で流れる例の曲は、つくづく名曲だと思います。一応、私、本業はミュージシャンですから、そこいらへんの感覚は、鈍くありません。って自分で言うのもなんなのですが、弦の調べには昂る感情の鎮静効果があり、着陸後の安心感を増幅させる効果も高いでしょう。 ~」(パラダイス山元著『パラダイス山元の飛行機の乗り方』(新潮社))
 と記していますが、山の上・山小屋の中も気圧が低いことでは飛行機の機内と同じなので、機内で聴くのと山小屋で聴くのとで音楽の効用も似てくるのではないでしょうか?

 (ラヴェル:弦楽四重奏曲)◆カペー弦楽四重奏団(Opus蔵・OPK2057)


 奥さんが渋谷の音楽喫茶「ライオン」で聴いたハイドンの弦楽四重奏曲「ひばり」が、カペー四重奏団の演奏でとてもよかったと話していました。ぜひ聴いてみようというついでに、カペーはフランス人なので、フランスの作曲家の作品が入ったCDも買ってみました。
 第一楽章の冒頭からとてもいい音がしているのに驚きます。何となく、昔ながらの古き良き時代の感じがするからいいのではなく、本当にいい音がしているのです。
 録音されたのは1928年です。ヴァイオリニストのカペーはこの年に亡くなりました。
 (1:37)「ラ」の音の繰り返しには、音の滴がしたたり落ちるような趣きがあり、(1:46)~のヴァイオリンの音には不思議な浮遊感があります。
 第二楽章は、弦楽四重奏のピッチカートの極意はここにありというような名演だと思います。演奏は縦の線がぴったし合っているとは言えないし、(録音技術のせいかもしれませんが)(0:14)のトリルなど音程が揺れているように聞こえますが、そんなことはお構いなしに感動的です。
 また、リズム感のある場面が過ぎて長い休符の後、(1:46)でチェロが出てくるところの静けさが何とも言えません。たった4人で目の前の雰囲気を激変させられるところがすごいです。
 ちなみに、同じCDにはドビュッシーの弦楽四重奏曲もおさめられており、第二楽章では同じようにピッチカートが登場しますが、これもラヴェルと同じくらい感動的な逸品です。
 第三楽章は冒頭からとても深くて苦く、ラヴェルがこれほど孤独な心情を見せる作曲家だったのかという思いです。同じラヴェルのピアノ協奏曲、第二楽章のピアノ独奏がさらに突き詰められて深化した世界です。そんな中、(1:27)からのヴァイオリンのメロディーにほっとします。
 最後の第四楽章は、ラヴェルの残した最も斬新な音楽の一つだと思いますが、カペーの演奏は斬新な音が懐かしさを伴って出てくるところがユニークです。五拍子のメロディーが連続するところなど、本当にいい音がしています。
 この曲には当然新しい録音もあります。カペーを聴く前に買っていた◆カルミナ四重奏団(DENON COCO-70518)は名演だと思いますが、鮮やか過ぎて自分にはきつい感じがしていました。
 それが、カペーを聴いた後でカルミナのCDをプレイヤーにかけると、カルミナの完璧なアンサンブルが、カペーの懐かしい音の残像と一緒に聞こえて来るような気がしたのです。辛口だと思った第四楽章の五拍子も、耳の中に、心の中にどんどん入ってきます。
 カペー四重奏団の演奏を聴いて、ラヴェルの弦楽四重奏曲が心からよく分かるようになりました。
 これは現代から百年近く前の感動が現代に伝わる、素晴らしい復刻です。



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